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2011/9/16 10:00 · 事業考察, 海外動向 · (No comments)

直接通信のネタではないんだけど、通信とのコラボが期待されつつもなかなか普及しないシステム、電子カルテについて考えます。

電子カルテは、単に各病院でカルテを電子化する、と言う話ではなく、それをオンラインに置き、複数の病院が同じカルテを共有できるシステムのことを特に指すことが多いように思いますが、日本ではそういったタイプの電子カルテが全く普及しません。

電子カルテが実現すれば、病院を移るたびに診療情報提供書を抱えて右往左往する必要もないし、他の病院での治療・処方がすぐに参照できるので、それにあわせた治療計画を立てることが出来ます。しかし現状は、別々の病院で別々の治療をする場合、特にどちらかが全身性疾患の治療である場合は、処置や投薬のたびに患者自身が診療情報提供書を持って何往復もするハメになります。

マルチクリニック電子カルテが実現することによる恩恵は明らか過ぎるほどに明確なのに、なぜこれがいつまでたっても普及しないのか。考えるに、「有力な旗振り役がいない」と言うことに尽きるような気がします。

最近読んだある医療関係の記事によると、アメリカでは数百万~一千万人規模の病院間電子カルテシステムがいくつも稼動しているようです。もちろんそれぞれのシステム間での連携はまだ出来ないでしょうが、各病院の患者数とこの規模を考え合わせれば、数十から数百以上の病院で同じカルテが参照できるシステムがいくつも動いていることになります。

こういうことが日本でどうしても遅れているのはなぜか、と言うことを考えると、そこにはアメリカ独特の事情と日本の事情の違いがあることに気がつきます。アメリカは国民皆保険ではなく、個人個人が好きな健康保険会社を選んで加入する仕組み、と言うところがポイントのような気がします。

アメリカの健康保険会社は、財務上の要請と競争上の要請から、医療費を抑えるモチベーションが強く働きます。そのとき最も有効なのは、できるだけたくさんの治療記録を集めてコストが低く効果の大きい治療を見つけ出し、その治療に対する配分を大きくする、と言う戦略。もちろん、加入者の身体状況に対する保険料率の決定においても、できるだけたくさんの記録を持つことが重要になります。

となると、そういった治療や身体状況の記録が一まとめになっている情報源としては、病院のカルテこそが最も適したソースになりうるわけです。であるからこそ、多少の費用をかけても、加入者がかかるであろう病院に自社の電子カルテシステムを押し込んで、患者の電子カルテを一元管理しようと言うモチベーションに繋がるわけです。

これを日本で考えると、そういったモチベーションを起こすところがありません。保険料率はいろいろなしがらみでほぼ一律、対象治療と診療報酬は監督官庁が臨床試験に基づき決定し、負担額は横一線で競争要素はゼロ。これでは、わざわざコストをかけて健康管理に精を出そうという健康保険会社は現れません。

だから日本では監督官庁(つまり厚生労働省)こそが、電子カルテシステムを導入して保険負担を減らす「経営努力」をしなければならないはずが、返さなければならない借金も無く競争相手もいないと言うぬるま湯にいるためにそういった有用なシステムの導入に意識が向かない、と言うことになります。

で、なんだかだで通信事業者や電子カルテシステム屋さんなどが率先して電子カルテシステムの試運用をしていたりするのが昨今の日本の状況。といって、たとえば通信事業者などが旗振り役になりうるか、と言うと、やっぱりなりえません。

通信事業者は、そういったシステムから通信料収入と言う上がりがあることを期待しています。それを払うのは誰?ということ。現状問題なく運用できている病院がわざわざそれを支払う必要は全くありません。むしろ、「システム移行を嫌がる病院に無理やり電子カルテを押し付けてくれる旗振り役」が必要なはずなんです。当然その場合、旗振り役が最終的には通信料やシステム導入費などの一部または全部を負担することになるわけです。これを通信事業者自身がやることはありえないですよね。自分がもらう通信料を自分が払うってことですから。

だから、通信事業者や電子カルテシステム屋さん以外で、電子カルテを導入することで非常に大きな見込み利益が期待できる「旗振り役」が必要で、それが日本には存在しない、と言うのが、日本で電子カルテが普及しない最大の理由であると考えます。今後、病院単位でカルテをクラウド化するモチベーションは徐々に起こるでしょうが、「他の病院と共通にする」モチベーションは絶対に起こりません。自病院の過去のカルテとの後方互換のほうがはるかに重要ですから。あらゆる病院のあらゆる種類のカルテを包含できる電子カルテシステムなんてものを作れるとしても、そのあまりのインターフェースの複雑さにやはり誰も導入しないということになるでしょう。

ってことで、一般の通信市場が飽和しつつあり、M2Mと合わせて次のフロンティアかもしれないといわれることもある「医療」ですが、電子カルテの普及と言うのはなかなか進まないかもなぁ、と思いますのお話でした。

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2011/9/16 10:00 · 事業考察, 海外動向 · (No comments)
2011/9/7 10:00 · 技術動向, 海外動向 · 2 comments

さて、モバイル事業の行く末の問題として必ず出てくるキーワード、M2Mですが、今回はなんとなくぼんやりとM2Mがらみのお話を筋も無く並べてみます。

以前、ARPU向上と人間リソースの話を書きましたが、まず人間の数に限りがあるので頭数で稼げない以上、ARPUを上げていくしかない、と言う結論に達した前提では、その人間そのものが1日に24時間しかリソースを持っていないというところが、収益向上の壁となることを書きました。

そのことはサービスプロバイダも重々承知している話。で、結構前から出てきているキーワードが「M2M」となりますが、一応書き下しておくと、これは「Machine to Machine」の略、つまり、(人間ではない)機械と機械の間での通信サービスのことです。

M2Mの正確な定義となると逆に難しいのですが、「機械が自律的に発したトリガーを契機に通信をするタイプの送受信者のみからなる通信」と言う感じになるでしょうか。たとえば、インターネットをノートPCで使う場合、確かにノートPCも「機械」でインターネット(のサーバ)も「機械」ですが、そのノートPCが人間による通信を企図した操作を契機として通信を行っているので、これはM2Mにはなりません。

と言っても、じゃぁその契機をプログラミングしたのは人間じゃないか、なんてことになるので、この定義にはあまり踏み込みません(笑)。ただ、M2Mが持つ通信の特徴としていくつかが挙げられています。たとえば、「大量の機械が一斉に通信開始すること」「一回当たりのデータ量が少ないこと」「セッションが短く頻度が高いこと」などなどです。こういった特徴を持つことが、M2Mかどうかを考える一つの指標とすることも出来ます。

さて、このM2Mがなぜ脚光ワードになっているか、と言うと、もうお分かりのとおり、「人間の頭数にもリソースにも限りがある」と言う前提から、これ以上さらに成長を続けるのであれば、限りのある市場から別の市場に事業を拡大していかなければならないから、となります。で、その対象が「機械」。人間一人が生きていくには一人当たり何十台と言う機械に頼っていかなければならないわけで、と言うことは、潜在的に今の何十倍の市場が見込める、と言うのが、M2Mに脚光を当てている人たちの皮算用。

そんなわけで、いろんな分野のM2Mを活性化しようとしています。たとえば身近なところでは自販機。電子マネー対応とか身分確認対応で携帯電話システムが使われたのは有名な話。また、カーナビが自動で地図を更新したり、バス停にバス近接情報が出たり、気象観測ポストが自動でデータをサーバに送信する、と言うのもM2Mです。とにかく身の回り、M2Mのネタは腐るほど転がっています。

しかし一方、それが本当にコスト低減やサービス向上に繋がるのかとはまた別、従来どおり人間が一つ一つ対応するほうが速くて安い、なんてことも多々あります。たとえば電気の検針、あれを全部モバイル端末にしてしまえば省力効果は抜群ですが、一方、従来どおり人手でやっても家が密集している都会なら1件5分ほどで回れてしまいます。しかも必要なのは1ヶ月に1回。その1ヶ月につき5分(時給1000円換算なら80円程度?)を節約するために、基本料通信量端末代その他管理費のかかるモバイル端末にするのか、というと、これはちょっとありえないですよね。

と言うことで、M2Mは宝の山ではあるんですが、実は適用可能なものはそんなに多くない、むしろそこをしっかり見極めてサービス化しないととんでもない大ゴケが待っていると言えます。で、適用可能な案件の条件を集めてみると、やっぱり「大量で」「データ量が少なくて」「セッションが短く」「頻度が高い」と言う条件のものが、M2Mに向いている、と言うことになってくるんですね。

で、注目を集めつつあるのが、スマートグリッド。このコンセプトは話す人によってころころと変わるので私もここで「これが正しい定義だ」と断定は出来ないんですが、究極の目標は電力の最適な生産、消費、備蓄を自動で行うシステム、と考えます。

生産する機器(発電所、工場、家庭の発電機など)の情報と、消費する機器(工場の機械や各家庭の電気機器)の情報、備蓄する機器(揚水発電所や工場・通信局・家庭などの蓄電池)の情報を集め、消費に合わせて生産の増減と備蓄の取り崩しを調整し、燃料を使う生産を最小化したり出力調整の難しい生産機器への負荷を一定化したり、と言うことを行うのが目的と考えます。

こうなると、各家庭のすべての電力消費機器にこういった通信デバイスが必要になってきます。現実的にはブレーカあたりに統計予測機能のついた端末をつけるくらいがまず手始めになるでしょうが、こういった目的だと、10分に1回ごとに数バイトの情報を送る、と言うような非常に細かい通信が人の手を煩わせずに行われなければなりません。こういった目的にはM2Mな通信システムが不可欠で、今、携帯電話業界は主にスマートグリッドをターゲットとしたM2M通信システムの開発を行っているようです。

さて最後に、世界的動向。こういったM2Mへの興味のシフトは世界的動きです。どこの国でも人口に対する携帯電話の普及率はかなり高いところまで達しており、それ以上をのぞむにはM2Mしかないと考えているようです。標準規格開発でもM2Mは最重要課題で、たとえば、短時間での接続・切断を繰り返すことに対応するためにメッセージオーバヘッドを大幅に削った接続シーケンスを検討したり、一斉アクセスに対応するために無線機能としてアクセス時間を乱数化する機能を考えたり、と言うことが行われているようで、3GPPや3GPP2やWiMAXなど通信規格の垣根を越えた新しいM2Mのための標準化団体、「M2MPP」の設立まで考えられている、と言うのが世界的な状況です。

ということで、M2Mに関係しそうな話をつれづれなるままに書き付けてみました。でわ。

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2011/9/7 10:00 · 技術動向, 海外動向 · 2 comments

AppleがTD-LTEを採用するかもと言うニュースについてコメントをくださいというリクエストをいただきましたので、簡単にコメント。

何度か書きましたが、TD-LTEはLTEのサブセットに過ぎないものなので、将来的にはほとんどのベースバンドチップがTD-LTEをサポートするようになると私は考えています。残りは、RF回路の問題ですが、これも要するに「900MHzバンドと2GHzバンドをサポートする」と言う端末に対して「じゃぁ1.9GHzもサポートしてみる?」と言うのと同じくらいのインパクトしかないと考えます。そんなに遠くない将来にマルチバンドサポートをするのと同じくらい気軽にTD-LTE対応は出来るようになると考えます。

なので、現行の3G iPhoneで「北米に加えて欧州もサポートしましょう」とやっているのと同じくらいの感覚で、サポート可能といえるわけで、そのくらいであればAppleが最大市場である中国のシステムをサポートするのは必然的な流れかなぁ、と。

また、北米も欧州も、ノンペアバンドのTD-LTE利用への動きが非常に活発です。この1年だけで合計100MHzくらいのノンペアバンドがTD-LTEレディになったんじゃないかな?北米は技術基準が緩やかで、大体の規定さえ満たせばシステムは問わないという仕組みなので、後は3GPPなど標準化機関で対象バンドのバンドクラスを定義してあげればすぐに使えるんですよね。そういった欧米向け新バンドクラスが近頃大量に追加されているみたいです。

と言う感じで、はっきり言って日本以外の先進国はほとんどTD-LTEに積極的です。TD-LTEに及び腰なのは、人口密度が低く少数局で広大なエリアをカバーしなきゃならないという要件のある途上国ばかり。そういった国では確かにTD-LTEの恩恵は活きにくいですし、だったらGSMと同じバンドクラスを再利用できるFDDしか使わないという選択をしてもおかしくないんです。日本だけが、ちょっと変。GSMバンドクラスの再利用なんていう要求も無いし人口密度が高いし細切れ周波数の再利用の需要も高いのに、TD-LTEを無視しまくり。なんなんでしょうね。

まぁとにかく、AppleのTD-LTE採用の方向、単に中国市場を狙うというだけでなく、世界的な趨勢を読んだ上での方針なんじゃないかなぁ、なんて思います。

ちなみに記事中ではTD-SCDMAについても触れられていますが、こっちはぜんぜん難易度の違うもので、TD-LTEをサポートするならTD-SCDMAもいくよね、なんて気軽に言えるほどのものではありません。ありませんが、大手チップベンダはLTEとTD-SCDMAのデュアルモードなんていうチップをラインナップする意思もあるようなので、ありえないとはいえないですね。

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2011/1/26 10:00 · ひとりごと, 海外動向 · 5 comments

仕事柄海外をふらつくことが多く、昨年は数えてみたらビジネスデイの4分の1は海外にいた計算になっていていまさらながらびっくりしているんですが、海外を見る機会が多くなればなるほど、やはり、日本(の通信)は「安易な」グローバル化を唱えるべきではないという思いが強くなるんですよね。

もちろん、グローバルに追随すべきことも、グローバルビジネスを引っ張るべきところもたくさんあると思います。たとえば、無線の周波数バンドなんてのはグローバルに合わせて当たり前だし、そうでない場合はむしろ「他のグローバルバンドよりもはるかに魅力的」なバンドを提案してグローバルを引っ張るくらいの気概が必要だとは思います。端末・デバイスや、無線方式なんてのももちろんそう。

だけど、これはもう完全にインフラと言う視点になってしまうんですが、日本と言う国がインフラ的にいかに特異かと言うのは、海外を見れば見るほど痛感するんです。

まず、異常な都市部集中。いわゆる「都市圏人口」と言う統計を見ると、東京が世界でダントツのトップなんですよね。この統計は「ある住宅から隣の住宅までの距離が一定以下で連続している範囲の人口」で、要するに「実際に人が住んでいる範囲」での人口過密状況をよくあらわすような気がする統計なんですが、二位ニューヨークを4百万人、三位ソウルを9百万人も引き離してのトップなんです。

実際にいろんな国の首都を見ても、大体日本で言えばせいぜい札幌か仙台か、そのくらいの密度。ヨーロッパなんて首都から歩いていける範囲にうっそうとした森があり、森の中に小さな集落が点在する、と言う感じ。アメリカだと、広大な農地が大都市に隣接して広がってる。

で、なんと言っても、みんなまっ平ら。土地が。そっちに見慣れると、関東平野がでこぼこの山地に見えるくらい。こんなにまっ平らで、しかも住居が分散しているので大規模建築もわずかで、そりゃ無線もよく飛ぶよなぁ、と。有線インフラの整備もそりゃ楽ですよ。それに比べたら、日本なんて、もう山そのもの。海の中に山が突き出している、と言う表現そのものの国土です。しかもそんな山地にたくさんの人がしがみついて集落を形成している。だから海外なら人っ子一人いなくて無視しても良いような山奥までインフラが必要になっちゃう。

電波はさえぎられるし有線は回り道させられるし、と言う状況で、海外のまっ平らな土地でうまく行っているやり方を持ち込んでもうまく行かないのは道理なんですよ。ほら、よく脳みそのシワを伸ばすとテニスコート一面分、なんて比喩があるじゃないですか。同じように、インフラ観点での「経路長」ベースで日本をきれいに伸ばすと、アメリカよりも広いかもしれない。そのくらい日本は異常な地形に異常な数の人間が住んでいるんです。

なので、日本より狭い国とか同じくらいの広さの国でやっているやり方を真似してもまずダメ。日本よりはるかに広い国でエコシステムが成り立っている例を見習わなきゃならないんです。ぶっちゃけ「北アメリカ全部」とか「ヨーロッパ全部」くらいの単位と比べてのインフラ計画を考えたほうがよくて、いや実は、ドコモなんてのはヨーロッパ全部をサービスエリアとしている多国籍キャリアと同じくらいの売り上げがあったりするので、その方が実際にあっているんです。

つまり、「日本をグローバルに合わせる」と言うよりも、「日本そのものを一つのセミグローバルエリアと考える」くらいでやらないといけないんですよ。で、「日本」と、たとえば「欧州全部」を対等のセミグローバルエリアと考えて、対等な協調を考える、そのくらいの気概で臨まないといけないくらい、日本は(線路長的に)広すぎるんですよ。広い範囲にそれほど多くない人数、と考えると、当然一人頭の負担額、つまり「通信料金」は高額になる。でも、日本と言う国の通信インフラ上の困難性を考えると、当然の高額化だと私は思うのです。

もちろん、だからと言って競争を放棄してみんなで値上げしましょう、なんてことをそそのかしているわけではなくて、そういう意味では、それだけ困難な状況にもかかわらず世界水準(一部は以下)の通信料金を実現していることは、ある意味で競争の賜物だと思うわけです。

要は何を言いたいか、と聞かれると、実は特に何が言いたいってわけじゃなくて、まぁなんとなく「日本なんて所詮小さな市場で・・・」「こんなちっぽけな島国でガラパゴス化しても・・・」みたいな、自虐的なグローバル追随視点はなるべくやめようよ、っていう、そういうことを、海外に行くたびに思うんですよね、っていうお話。でわ。

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2011/1/26 10:00 · ひとりごと, 海外動向 · 5 comments
2011/1/11 10:00 · 事業考察, 海外動向 · 6 comments

さて、光の道云々に関して、今回は、あのお方も大好きな「米国では」と言う視点で考えてみたいと思います。

米国では昨年3月に日本の「光の道構想」に相当する「National Broadband Plan」(以下NBP)がFCCにより策定されています。この中でブロードバンド化に必要とされている要件の一つが「安定した競争を促進すること」とされています。これは某ソフトバンクが一生懸命主張していることと真逆です。

たとえば、光・銅線・ケーブルに関わらず競争事業者が多いほどその地域全体の品質が向上しているという調査結果が出ていることから、技術に関わらない競争環境の重要さが指摘されています。この提言全体では、ブロードバンドを実現する方式として、光ファイバーはもちろん、同軸、銅線、そして特に無線を積極的にブロードバンドの実現のために活用すべきであるとしています。

これは、「アクセス線」と言うインフラの有無によってサービス提供が制限されることを出来るだけ抑制するためです。原則としてアクセス線はオープンな環境で公平に、自発的に投資が行われるものであって、しかしブロードバンドサービスはどのアクセス方式によっても公平に全国民が享受できるものでなければならない、と言うのが米国流の考え方です。私もこの考え方に強く賛同します。

この考え方は、利用者の視点からみて「アクセス層」と「サービス層」を分離した考え方で、それぞれの層の中で横方向での競争を促進する効果があります。これに対してソフトバンクの考え方は、利用者視点を無視し、資本的な視点からのみアクセス層とサービス層を分離し、アクセス層を独占支配化して利用者からはアクセス層の選択肢をなくして「サービス層」しか選択できなくし、「安かろう悪かろう」が許されるようになる考え方です。

米国は広大なので、アクセス網を築くのは大変だから、と言う考え方もありますが、実は日本と言う国は世界でも有数の固定網敷設困難国の一つです。と言うのは、極端な都市集中人口分布にも関わらず一方で極端な山岳地形+多島構成と集落の広域分布があるからです。こういった場所があるからこそ、不採算地域のユニバーサルサービス維持と言う名目でユニバーサルサービス料金を電話番号すべてに課しているわけで、このような完全な不採算地域に都市部と同一のアクセス網を、と言っても、不採算と分かっていて出資する投資家は出てきません。

もちろん純民間の既存事業者でも正常な事業判断をするならこういった不採算地域への投資は行うわけも無く、となると政府方針を実現するためには一部政府出資とならざるを得ず、政府出資(=税金投入)のサービスと競合できる他の民間事業者は生き残れるわけもなく、市場は閉塞へと向かいます。それよりは、そういった地域でも採算の取れる別のアクセス方式を利用したアクセス網への出資を促進し、しかしそのアクセス方式の上でのブロードバンドサービスは同等のものが得られるように、と考えるのが実に自然です。利権構造などに左右されず公平な判断の出来る米国の役所(FCC)は実に優秀であると感じます。

こういったことが実現できるよう、NBPでは、「ケーブルテレビインターネット方式の統一・機器のオープン化」「ライセンス無線周波数の拡大」「アンライセンス無線周波数の拡大」などなどが具体的に提言されています。

私もかねがね活用を主張している衛星回線についても、NBPでは積極活用を促しています。もちろん衛星回線は非常に速度が遅くリソースも馬鹿食いなのですが、極論1基あればすべての世帯をカバーできます。アンテナの信号処理技術もきわめて向上しているためアレイによるセル化も簡単になっているので、順次衛星を増やしてカバレッジを小セル化していけば速度や容量の問題もいずれ解決できます。

また、この提言では「カネ」の問題に関しても事細かに提案しています。具体的には、大方針として「整備ファンドの設立・活用」が提言されていますが、ソフトバンクの主張のように「だれがどのくらいカネを出してどう整備すれば採算がいくら」なんていうくだらない議論はしていません。「カネがほしければ公共ファンドから出資してやる」「どう使おうと知らんが、使い道はオープンにしろ」「採算が取れるかどうかは事業者次第、失敗しても一切関与しない」と言うように、カネと事業はきっちりと区別しています。

整備ファンドとして、既存の固定回線ユニバーサルサービス用ファンドの活用に加えて、CATVを想定したアクセス線用ファンド、無線ブロードバンド用ファンドの新規立ち上げを提言し、さらにそれらからの資金の拠出は、実際にアクセス線を整備した会社の「実績」に基づいて行われるように配慮しようとしています。

そもそも論的には全世帯整備について「カネ」が大問題であることは疑う余地もないのですが、それに対して「こうすればカネを節約できる」と言うような事業計画への口出しは一切ありません。カネは必要なだけ供給し、使い道はすべて事業者の自由裁量。ただ、実績も無くカネばかり要求することの無いよう金を出した事業者の事業内容をオープン化させ、不適格な事業者からは資金を引き上げる、ただそれだけ。事業者の自由意志と事業者間競争を損なわないシステムとしてはかなり優れたやり方だと感じます。

とにかくこの提言書はその他非常に細部にわたって「どうあるべきか」を何百と言う提言にまとめ上げてあり、しかもそれがすべて特定の企業の意見などに左右されない公平な視点での提言であることが日本の光の道構想とは対称的です。これに比べれば、日本の光の道構想などは、一言で言えば「みんな頑張りましょう」、この提言書の序文にも満たない内容無しの構想。ソフトバンクの主張はさらに酷く、「ブロードバンドインターネットアクセスは唯一の技術で唯一の事業者により事実上『専売化』されるべき」と言う主張であり、ブロードバンドの独占化と参入のクローズ化を目指しているとしか言えません。

本来、「米国では」なんていう引用無しでも、ソフトバンクが目指している光の道がおかしいということは分かってしかるべきなのですが、残念ながら技術やインフラは「あって当たり前」と言うようにリテラシが極めて低く、某社の意見広告やCMで「値段が高いか安いか」なんていうくだらない議論としてこの問題を植え付けられてしまっている日本国民からはこういった視点は出てこないのかなぁ、と残念に思っています。

今のうやむやに済ませてしまった「光の道構想」は一旦ご破算にして、いっそFCCを拝んで日本の戦略を策定してもらったほうがよほどマシなのですが、まぁともかく、今は将来どうあるべきかをもっと真剣に、公平に議論をしていただきたいと思っています。それでは。

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2011/1/11 10:00 · 事業考察, 海外動向 · 6 comments
2010/10/23 10:00 · 技術動向, 海外動向 · (No comments)

奄美大島で被害にあった皆様には心よりお見舞い申し上げます。おそらくまだ現在進行形であろう奄美大島での豪雨被害ですが、被害拡大に拍車をかけているのが、通信手段の途絶と言われています。

特定の地域内では携帯電話は停電のために軒並み停止、固定電話も回線が寸断されている状況とのことで、こうなってしまうと連絡手段がありません。

しかし、タイトルにも書いてありますが、こういうときのために衛星携帯電話があります。ところが、この衛星電話も配備数・配備率が足りなかった模様で、必要な災害対策拠点にないという状態だそうです。

業界的な話になりますが、業界では衛星携帯電話を「既に終わった技術だ」と見ている人と、「これからは衛星だ」と見ている人と、極端に二分されています。そして日本では、圧倒的に前者が多い模様です。

そのため、日本の事業者は衛星電話サービスの拡充にも消極的で、今飛んでいる衛星が落ちたらやめちゃおう、くらいに考えている、と聞いています。

ところが、海外、特にアメリカでは、「衛星はこれからの技術だ」と考えている人や会社が多いようです。多くの会社が衛星携帯電話の技術開発に積極的で、最大手のAT&Tも新たにGSMベースの衛星電話サービスを開始しましたし、二位のVerizonもCDMA2000の衛星版を開発中です。

固定電話は銅線や光ファイバなどの「線」でつなげるもの、と言うことに対して言えば、携帯電話はその大部分を無線に変えたという意味で全く違うサービスです。

しかし、衛星電話は、携帯電話で必要だった「基地局までの線」さえ不要としてしまった、これまた全く新しいカテゴリのサービスです。「地上線」に依存しないサービスとしてはおそらく唯一のシステムです。

つまり、衛星電話は、他の固定や携帯では実現できないサービス性を提供できます。一つは、今回のような災害時に全く影響を受けない、と言うサービスの持続性(コンティニュイティ)です。

いわゆる「ビジネスコンティニュイティ」を考えるとき、固定や携帯はやはり実際に今回のように全滅する可能性はあります。となると、衛星が頼りですし、そういうことに備えて衛星を積極的に利用すべきです。

たとえばイリジウムは、複数の地上局と衛星間のメッシュネットワークで、地上局が災害にあったり衛星が一つ二つ潰れてもサービスは継続されます。それでいて月額5000円で維持できるわけですから、これはきわめてコストパフォーマンスが良いと言えます。

他の静止衛星を使ったタイプのシステムもイリジウムほどではありませんが、災害にはきわめて強い特性を発揮します。たとえば、日本をカバーする衛星電話で地上局は韓国などに置く、と言う方法で地上網+衛星で冗長化ができます。

もっと衛星を見直すべきだと私は思うのですが、なかなか日本ではイリジウム倒産のイメージが根強くて「終わったネタ」としかとらえられていません。私は近い将来かなり大きなビジネスチャンスが来るんじゃないか、なんて思っていますが、さて、イリジウムファンドでも立ち上げてイリジウムのオーナーにでもなろうかなぁ(やりすぎ)。

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2010/10/23 10:00 · 技術動向, 海外動向 · (No comments)