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2023/7/20 11:19 · 技術解説

プラチナバンドを他社から借りて「最強」とうたうキャリアがあったりあします。
ネット上の論調でも、某社のエリアが狭いのはプラチナバンドが無いからだ、とする向きがあります。
下手すると、プラチナバンドが割り当てられれば一気に不調を挽回できるとする論説もあります。
本当ですかね?

というわけで、前にも似たような話を書いたかもしれませんが、改めて。

プラチナバンドは、1GHz以下の「とても飛びやすい」電波、ということになっています。飛びやすい、というのは、距離による電波の弱り方が少ない、障害物に当たったときに通り抜けやすい、そんなことを指しているというわけです。
これはもちろん事実です。同じ場所に数ギガヘルツの高い周波数とギガヘルツ未満の低い周波数の二つの基地局を置けば、もちろん、低い周波数のほうが遠くまでカバーエリアにできます。ただ、これに関しては、「ネット上の論説ほどは効果はないよ」というのを付け加えておきます。

実際、ソフトバンクがプラチナバンドの割り当てを受けた後、その整備に苦労していた話があります。プラチナバンドは確かに飛ぶんですが、「飛びすぎる」問題もあります。携帯電話のエリアを設計するときは、飛ばすことよりも「狙ったところできっちり切り落とす」ことのほうが大変です。ある建物をカバーするために近所からプラチナバンドを浴びせる、確かに建物の中は通りは良くなったけど、建物の周りで電波が飛びすぎて隣のエリアに干渉を起こして大惨事。こんな間抜けなことをするキャリアは一応日本にはありません(今のところ)。どうするかというと、高いところから上下を切った電波を飛ばして、地面に届く距離を一定にする、という工夫で、飛びすぎる電波も狙ったところで切り落とします。

そう、プラチナバンドを使うには、高い鉄塔が必要なんです。もちろん、ど田舎でそういうこと考えずに何なら上向きにぶわーっと電波をばらまく、みたいなことをしてもいいです。でも後々それで割を食うのは自分です。まともなエリア設計技術を持っているキャリアならそんなアホなことはしません。しっかり高い位置から狙った「エリアのフチ」がアンテナの特性で切り落とせる角度をつけて吹き降ろします。この「高い位置の確保」にとてもお金がかかるので、プラチナバンドは整備費用が掛かるんです。

そしてもう一つ、プラチナバンドの弱点があります。「屋内」「地下」です。

いやいや、プラチナバンドは屋内に浸透するっていうたやん、と思うかもしれませんが、程度問題です。いくらプラチナバンドとはいえ外からの吹込みでカバーできる限度というものがあります。木造一戸建てなら問題ありませんが、タワマンは無理です。感覚的に、鉄筋コンクリートビルなら、外からカバーできるのは会議室1~2個分くらいじゃないかな。中心部にエレベーターがあるようなビルなら、エレベーターは間違いなく届きません。

実のところ、ちょっと大きめのビルなどは、個別の屋内基地局を設置するのが普通です。感覚的には、いま日本には、おびただしい数の屋内用基地局が設置されています。都心なら半分くらいは個別に対処されてんじゃね、ってくらい。最近はちょっと大きめのビルの建設時には、最初からキャリアと協力しながら建てるくらいです。J-TOWERとかJMCIAとか、そういうキーワードで出てくるアレ。公共性が高い場所だからみんなで一緒に屋内整備しましょうね、っていうやつです。

で、みんなで屋内整備する、というと、こんなイメージがあったりしませんか?

こんな感じで、各キャリアが基地局をおいて、みたいな。これは間違いです。
実際はこんな感じになっています。

緑色を付けた部分は、共同所有だったりビルのオーナーの所有だったりJMCIA的な共同整備機構の所有だったりします。ビルのオーナー側も携帯基地局のアンテナやケーブルがごちゃごちゃ置かれるのは嫌なので、できるだけみんなのを一つにまとめてほしいんですね。

さらに言うと、この共用設備、たいていはプラチナバンドに対応していません。一つの理由は、プラチナバンドがそもそもバラバラだから。ドコモ・KDDIは隣り合っていますがソフトバンクは少し離れています。全部対応するとそれなりのコストアップになります。もう一つの理由は、そもそもプラチナバンドである必要が皆無だから。屋内なので、飛ぶことよりも大切な要件がたくさんあります。たくさんの容量が取れて対応している端末が多くてどのキャリアも共通で使える。こういう要件を合わせていくと、基本的にBand1 = 2GHz帯にたどりつきます。また、Band3 = 1.7GHz帯が選択されることも多いようです。

ということで、プラチナバンドが手に入っても、都心の屋内はほとんど変わりません。ついでに言うと、プラチナバンドローミングができても、同じ理由で大きなビルなどでは屋内基地局が使えず外からの弱い漏れ込みに期待するしかない状態になっていると思います。逆に、すでにBand3を持ってるはずなのにBand3の共同設備を使った屋内整備ができてないのはどういうことだろな? なんてことを某キャリアに対しては思わないでもないのですが、共同整備のためには膨大な交渉の手間とコストがかかります。そういうところを惜しんでいるだけのことを「プラチナバンドを持ってないから」みたいなごまかし方をするのはあまりよろしくないのではないかと私は思わないでもないのです。

ということで、プラチナバンドのローミングができたり獲得出来たりするだけで”最強”になれるのか、というと、どうだろね、の話でした。

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2023/7/20 11:19 · 技術解説 · 2 comments
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2 Comments to “プラチナバンドは”最強”か?”

  1. 徳長正則

    プラチナバンドが最強なのでは無い。

    楽天モバイルが最強なのだ。

  2. JS

    すみません、ひとつ質問させて下さい。

    最近発表された第4のキャリアの決算説明資料で、「プラチナバンドを得たら、既存基地局にプラチナバンドのアンテナを取り付けて、ソフトウェアアップデートで対応するので、プラチナバンドは低コストで展開が可能」という説明がありました。

    でも、無線にゃんさんのお話を伺うと、電波の干渉の問題から、既存基地局をプラチナバンドで使うのは不可能に思えます。

    たしか、ソフトバンクもプラチナバンドを手に入れたとき、一部を除き、既存基地局を使えなくて、結局、大量にプラチナバンド専用の基地局を作ったと聞いたことがあります。

    第4のキャリアの説明はおかしくないでしょうか?

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