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2023/8/29 16:49 · ねこ, 技術解説

猫でも分かるシリーズ(シリーズ?)。今回はGPSです。

なんとなく、GPSについて間違ったイメージが一部に固着している感じがするので、猫でも分かるシリーズにぶち込んでみます。

GPSというと、「GPSモジュールをつけておけば衛星を使ってその位置を追跡できる」みたいに思っている人、意外と多いんですよね。

この理解は正確ではありません。「衛星」「位置」辺りのキーワードはそろっているんですが、そこから飛躍して「衛星がターゲットを追跡する」みたいになっちゃってる例が映画やアニメなどでも散見されます。そのために、完全に誤った理解が広がっている感があります。

これが良く知られている(そして間違っている)イメージ。GPS衛星で対象のGPSモジュールを追跡はできません。

じゃあ実際にGPSってのは何をしているのか? ちょっと詳しい人には大きな間違いに目をつむってもらうこととして、ざっくりのイメージ図を示します。

これがGPSのイメージです。GPS衛星は、大声で「自分は今どこらへんにいますよー」と地上に向けて叫び続けています。それを地上の人が見て、「あの衛星があの辺に見えるってことは、逆に自分はこの辺だな」と計算するわけです。なので、GPSシステムを使ってできることは「自分の位置を知ること」だけです。

仮にGPS衛星と地上の人がしゃべれるとしても、意味がありません。この例では青猫がオレンジ猫の所在をGPS衛星に訪ねていますが、GPS衛星は当然知りません。オレンジ猫が地上にいることさえ知りません。GPSモジュールは「受信専用」だからです。そもそもから言うと、GPS衛星には通信機能がありません。※こまかいこと言うと運用管理用の通信機能はありますが、あくまで衛星の管理のため。

ということで、「GPSモジュール」を手元に持っていると、「自分の位置がわかる」のがGPSです。
では、なぜGPSを使った追跡ができるような気がするのでしょうか?
それは、「通信」と組み合わせているからです。GPSと通信は事実上切っても切れない関係になりつつあります。

誰かに「追跡してもらう」ためには、GPS衛星からの信号で計算した自分の位置を「どこかの仲介者」に伝えておかなければなりません。自分が東京にいるとわかったら、仲介センターに自分の位置を登録するわけです。で、第三者はそのセンターに問い合わせてようやくオレンジ猫の居場所がわかるわけですね。この仲介センターはいろんな形が考えられて、究極的には、オレンジ猫自身が直接回答するセンターの役割を担っても構いません。それでも、青猫とオレンジ猫の間には通信が必要となるのは、なんとなくわかりますね。

で、スマホを持ってると全国どこに行っても自分の位置が分かったり、位置を使ったサービスを使えるような気がするのは、携帯電話のエリアがクソ広いからです。衛星を使ってるからではないんです。衛星はあくまで「目安のための信号源」であって、本当に位置情報を使ったサービスを実現するには携帯電話のエリアが必要です。ついでに言うと、GPS信号を受信しやすくするためにGPS衛星のおおよその位置をあらかじめ教えておいてあげるような仕掛けもあります。これも携帯電話の通信機能を使っています。とにかく、携帯のエリアがないと何もできないのがGPS位置追跡です。

例えば、です。ちょっと漂流してしまいました。GPSを使ったら、どうやら千葉県沖50kmのところにいるようです。助かった。。。

と思ったら、スマホが圏外でした。ここで青猫がオレンジ猫の行方を検索しても、「知らね」で終わってしまいます。実際、沿岸50kmも離れれば確実に携帯電話はエリア外です。あと、電波法的に領海外で使うのがどうとかこうとかもあるので、GPSを持っているだけでは、携帯電話の電波が届かない沖や山奥では、救助は期待できません。

ということで、本気で遭難に備えるには、携帯電話以外の通信方式を使わなければいけません。沿岸にめっちゃ飛ぶ(かつ法的問題をクリアした)無線機を置くとか、衛星通信を使うとか、船舶通信を使うとか、です。山岳遭難に備えたものとしてはイリジウムを使ったGPSトラッカーとかありますね。海上では、GPSこそ使っていないものの救助用ビーコンを複数の船で受信して要救助者の位置を特定するものが良く使われています。めっちゃ飛ぶ無線=LPWAを使ったソリューションもいくつか出てきているようです。今後は、Starlinkみたいな低軌道でアホみたいな数飛んでる衛星を活用することで従来よりも電池が長持ちする衛星通信タイプが出てくるかもしれません。

アニメとかで「よし、GPSを取り付けた、あとは信号を追うだけだ!」なーんてシーンがありますが、「……で、通信は?」なんて突っ込むとキモげふんごふん、かっこいいですよ。以上、GPSはそれ自身では位置追跡はできないよ、のお話でした。

※最後に蛇足。
実際はGPS衛星一個だけでは自分の位置は分かりません。最低3個の衛星が見えないと位置の計算ができないからです。最近はGPSだけでなくほかの国のGPS互換システムがたくさん飛んでいるので、3個見えないというケースは相当減ってきてはいると思います。

図中背景パース地形:出典は「国土地理院」、海域部は海上保安庁海洋情報部の資料を使用して作成

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2023/8/29 16:49 · ねこ, 技術解説 · 1 comment
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1 Comment to “猫でもわかるGPS – GPSで追跡はできないよ”

  1. ぺんぎん

    >最低3個の衛星が見えないと位置の計算ができないからです。

    殆どの受信機は4つ見えないと位置の計算ができませんよ。
    何故なら、GPSから出る信号は衛星軌道情報のような付加情報に加え、衛星搭載の原子時計の正確な時刻信号が含まれています。
    GPS受信機の受信信号は衛星と受信機の伝播時間だけ遅れるので、この遅れが衛星と受信機の距離に逆算できます。
    ただ、GPS受信機には正確な時計が搭載されていないのでどれくらい遅れているか分かりません。
    よって、正確な時刻tと3次元空間の位置情報xyzが未知変数になり、4つの衛星が無ければ位置を特定できないのです。

    ちなみに、GPSの測位高速化方法としてAGPS、高精度化方法としてRTK-GPSや電離層遅延補正などがありますが、通信回線とは切っても切り離せないので沼が深いです

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