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2016/2/16 10:00 · 技術解説

DECTで事業所構内電話を構築しようとしても接続できなかったり切れたりということが多発して困っています、というお便りをいただきました。今日はそんな話。

お便りによりますと、DECTを事業所用電話機として導入したところ、全くつながらない、切れる、ということが多発していて、メーカーに聞いたところ、「家庭用を想定しているので事業所では使わないでください」とにべも無くあしらわれたとのこと。これはいったいどんなわけなのでしょうか、というご質問。

以前から私は「ぜんぶDECTでいいじゃん」的なことを言っています。それは、DECTがPHSとよく似た特性を持ち、なおかつ、世界的に普及した規格だからです。ただ、全てにおいてDECTが勝っているのかというと、そうではない場合も出てきます。

簡単におさらいしておきますと、PHSの特徴は、300kHzのキャリア、4つのスロット、それぞれキャリアセンスをしてからチャネル選択、と言うもの。一方のDECTは、約1.8MHzのキャリア、6または12のスロット、同じくキャリアセンスが必須。帯域幅当たりで見ると、12CHのDECTはPHSよりもやや少ないと言えます。ただ、その分、高速通信ができるようにもなっています。

さて、帯域幅当たり、と言ってしまいましたが、実際にエリアを構築することを考えると、これはそんなに簡単な話ではありません。

実際には、内線通信用に割り当てられた周波数では、DECTはわずか5キャリアしか確保できません。この5キャリアを分け合って制御用と通話用のチャネルを自律的に設定していくことになります。単純計算で、5×12=60通話チャネル。

DECTはPHSと同様、通話などでチャネルを確保するときには、キャリアセンスを行うわけですが、このとき、そのチャネルを誰かが使っていると使えません。一方、当然ながら内線用DECTはお互いに同期なんてしていませんから、あるスロットタイミングで誰かが通信していると、その前後1スロットに干渉を与える可能性があります。少なくとも、前か後ろの1スロットに干渉を出しますから、実際にある場所にDECT装置が集まっている場合、わずか30チャネルしか通話チャネルを確保できないわけです。

これに対してPHSは屋内用に42キャリアが利用可能で、それぞれが4チャネルを持っていますから、168チャネルが利用可能。非同期のことを考えても84チャネルと、DECTの倍以上の容量です。

さらにDECT特有の問題は、キャリアセンスの要求が厳しいこと。屋内PHS用の制御キャリアと干渉する位置の三つのDECTキャリアは非常に厳しいキャリアセンス要求が課されているため、無線LAN並みにゆるい共用ができるのはわずか2キャリア。残り3キャリアは厳しい共用制限がかけられているため、例えば事業所などで上下フロアに置いただけでまずアウトです。2キャリアでは繰り返し収容も相当に難しいでしょう。

想像してみて下さい。100メートル届く電波。無線LANよりもはるかに飛びやすいので、上下2フロアくらいに届きます。その電波の周波数のうち三つは「全く重なれない」、二つだけが重なっても利用できるもの。しかも、どの親機がどの周波数を使っているのかは専用の器具を使わないと分かりません。また、通話している子機も同じ電波を出すので、「届いてはいけない範囲」は実質この倍で考えなければなりません。と言いつつ、親機の電波は半分までしか届かないのでエリアは半分だけ。この条件で「構内を面的にカバーしつつ干渉しない条件」、探し出せるでしょうか。私には無理です(笑)。

ですので、メーカーが言う「事業所での使用は想定外です」は正しいんですね。少なくとも、PHSと同じ程度に楽に使えるかというと絶対にそんなことはありません。相当な熟練の設計屋さんがフロアごとのチャネル設計をしてようやく使い物になるレベル。その周波数設計を一元的に管理する親機の親機みたいなものも必要です。事業所には事業所用のDECT内線システムを使わないとやっぱりダメってことです。

DECTは思ったよりも使いにくいものだし、PHSは入手性的な意味でもっと使いにくいし、2.4Gなんてゴミクズ無線LAN乱立で綾瀬川よりも汚くて使い物にならないし。なんてことを考えると、実は日本の構内コードレス電話システムは結構危機的な状況にあるといえそうです。昔のPHSがやらかしたマイナー規格乱立対立騒動さえ無ければなあ、なんて思うんですけどね。当時は国際的に競争力のある規格を作ろうっていう視点が決定的に欠如していましたから。

ということで、事業所用の構内電話、という観点だと、実は家庭用のDECTとか2.4Gコードレスとかよりは、公衆システム(LTEやPHS)を使うほうが筋がいいんじゃないか、なんて思ったりします。維持コストは多少かかりますけど、システムとしては使いやすいPHSの調達コストを考えれば、十分安いと言えるレベルだと思うんですよね。

ていうかそもそも公衆PHSがまるまる公衆DECTになったりすればいいのになあ。

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2016/2/16 10:00 · 技術解説 · (No comments)
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