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2013/5/24 10:00 · 技術解説

何回か似たようなことを書いたことがあるので繰り返しになるかもしれないのですが、「ビームフォーミング」と言う言葉(あるいは技術)にはあまり意味がない、と言うお話。

ビームフォーミングは、アンテナでの位相制御などにより、ダイナミックに電波の「ビーム」を形成し、必要なところへはしっかりと届け、不要なところにはきっちりカットする、そういうことを指している技術です。

ただ、この「ビーム」っていう言葉が独り歩きしていて、本職の技術者でさえビームフォーミングの本当のところを理解していない人を結構見ることもあるので、この辺をまとめてみたいと思います。

とりあえず、ビームフォーミングの概念と恩恵はこちら。

beamforming1

複数のアンテナアレイを使って電波の飛ぶ方向に指向性を作り、「あっちの角度」と「こっちの角度」の間の相関を小さくする、と言うのが技術の概要。すると、特定の端末のいる方向だけは強く送受信できるので品質アップするし、そうじゃない方向には送信しないので、たとえば隣の別の基地局と通信している端末に対して干渉を与えることが無く、もちろん、その隣の端末の発する電波も除去できるので干渉を受けることもない、そういうことを目的としています。

割と本職に近い人でも実はここまでの理解で止まっていることが多いんですよね。と言うのも、「あ、要するに端末のいる方位角に合わせてビームを向けるだけでいいんですね」とか言う人がいるんです。

この理解で話を進めちゃうと話が変になってくるんです。もちろん本来のビームフォーミングの神髄は端末の居場所によってダイナミックに制御することなんですが、「まてよ、あらかじめ端末分布の濃淡に合わせて方向の重みづけしとけばいいじゃん!」とか考えちゃうと大変なことになります。たとえば、駅があるからあっちにビーム向けて、複数局のビームが重ならないように角度調整しちゃえーとやっちゃうわけですが。

もちろん障害物も何もないようなところなら、きれいに分かれてくれます。ところが実際には障害物があり、それぞれが固有の動きをするんですよ。ビルの壁はそれぞれのビルで固有の反射の仕方とかをするので、どんなに高性能なシミュレータでも予測できないような思いもよらないところに電波が飛んでいくんです。

beamforming2

こんなイメージ。左のビルに反射した電波と右のビルに反射した電波が真ん中でぶつかってる、こうなるとここは高干渉地帯になってしまいます。真ん中の干渉を減らしつつ必要な端末は狙う、と言うのが目的のはずが、真ん中にスポット的な干渉地帯を作っちゃってるわけです。実際にはこんなにシンプルじゃなく、ビルの壁の質やら窓の位置・数なんやらでいろんな反射の仕方をするし、それこそ路駐の車程度でも変わってきます。もちろん到達時の位相によっては強めあうだけでなく打ち消し合って電波がほとんど取れないということもあります。電波を一つ出すといろんな種類の反射があらゆる場所で置き、ある場所に到達した電波は数えきれないほどの反射波が重なり合った結果となります。このため、電波の波長くらいのオーダーで電波の強さがゴロゴロ変わるようなことが、特に障害物の多い都市中心部では起こりやすくなります。

実際に都心みたいなところでは、電波強度を厳密に計測して地図に落とすと、きれいな円形と言うことはまずあり得なくて、よくて足を広げたタコみたいな形、ほとんどはもっとひどくてヒョウ柄みたいなまだら模様になっているはずです。なので、ビームフォーミングと言う言葉から想像するような「地理的にビームを細めて狙う」と言うコンセプトは全く意味がないんです。

実際は、ある端末に到達する大量のマルチパスが重なり合った結果が端末のある場所で最良の結果を出すように位相制御をする、マルチパスを一つの軸としたパス空間上の仮想的な「ビーム」を作ることが、ビームフォーミングの神髄です。

beamforming3

たとえば端末が移動したとき、ビームフォーミングによる追跡と言うと左の図をイメージしてしまいますが、これは間違い。右の図のように、元々まだら模様に届く(という前提の)電波のスポットを、新しい位置でも良好な強度となるように調整する、と言うことが実際に必要なことで、その結果地理的なビームの主軸がどちらを向いているかどうかと言うことにはあまり意味がありません。もちろん、障害物によるマルチパスがそれほど強くないところでは左のようなイメージが現出する可能性は高いですが、それをビームフォーミングだと思ってしまうのは本当の意味でのビームフォーミングの威力の半分も見えていないことになります。

この考え方、PHSで早くから実現していたアダプティブアレイと考え方はおんなじなんですよね。これは上下同じ周波数を使うTDDだから早い時期から実現できていたという事情もあります。どっちの方向に向ける、と言うよりは、特定の端末からの受信波が一番良好となる位相パターンを送信に適用する、と言う形です。なので、もちろんきれいに物理的なビーム状になることもありますが、実際はヒョウ柄に近くて1mずれただけでも電界強度が急激に落ち込んでしまう、と言う可能性もあるわけです。

実は、新しい方式やメーカ独自方式などで「ビームフォーミング」と言われるものの中には単純な地理的な方位角ビームでしかないものもあったりします。一方、端末からの詳細なレポートをもとに高速で位相制御を行うマルチパスヒョウ柄模様プロファイルにも対応できるようなものもあります。このへん、どちらのビームフォーミングなのかってのはなかなか文脈からだけではわからないので、何となく「すごいビームフォーミング」と「大したことないビームフォーミング」がある、くらいに思っていればいいかなー、と言う感じです。

いずれにせよ、強いマルチパス環境では端末からのレポートに基づく高速でダイナミックな制御が必要になります。たとえば端末の移動はせいぜい40km/hで伝播距離も100mはあるだろうから角度の追従性はこんなもんでいいだろ、じゃぁダメなんですね、40km/hで走っているなら、たとえば2GHzなら波長15cmなので、15cm / 40km/h = 13.5ミリ秒後には全く別の位相プロファイルになっていることを覚悟する必要があるんですよ。

と言うような話はあまり教科書的な本でも見たことが無いので、何度か書いてきましたが、改めて、と言うことで。

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2013/5/24 10:00 · 技術解説 · (No comments)
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