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2011/3/10 10:00 · 技術解説

今回はビームフォーミングとその実用例について。

ビームフォーミングとは、ビーム(梁)をフォーム(形作る)ということです。まぁ、ビームは原義の「梁」よりは、SFアニメなどで出てくる「ビーム砲」のほうを思い浮かべたほうが良いでしょうね。「電波をビーム状に発射する」技術です。

電波を細く絞って飛ばすことにより特定の端末だけを狙い撃ちにする、と言うのがビームフォーミングの目的で、と言うことは要するに「空間多重(SDMA)」をする為の技術、と言ってしまえます。

しかし、実際には、端末があっち方向にいるからあっち方向に細いビームを撃てー、みたいなものではありません。何もない自由空間ならともかく、現実には地形や建物(究極的には基地局自身躯体による伝播への影響)があるので、あっち方向にまっすぐなビームを作る、みたいなことはできません。

もちろん、反射を考慮してビームを作って特定端末を狙う、と言うアイデアも理解できますが、現実の環境で鏡のような反射が起こることはまずありえません。反射が起こった場所でビームはばらばらに拡散してしまうのがオチです。

ではどうするのか。結局やることは、「端末のアンテナがある場所でさまざまな経路を通った電波がちょうど強めあい、それ以外の場所では打ち消しあうように電波の出し方を調整する」と言うことです。基地局が複数のアンテナを持つことで端末に異なるいろんな経路の電波が届くようにし、それぞれのアンテナから同じ信号を出すけれども、その強さや位相(時間的ズレ)を微妙にコントロールすることで、理想的には下図のように、端末のアンテナがある一点でのみ電波が強めあい、それ以外ではすべて打ち消しあうようにすること。

電波は、どんなに絞ってもある程度の幅を持ちます。であるからには、下手に絞ってわけの分からない反射で拡散してしまうよりは、とりあえず全方向に放射してしまえ、と言うのがスタート地点です。その全方向に放射した電波は、一本の線となる最小要素まで数学的に分離することが出来ます。その数学的最小要素が端末のある一点ですべて重なり合い、他の場所で逆符号になって打ち消しあう、と言うのが理想的な空間分離です。

しかし、実際には、下図のように、それ以外の場所にも強めあう場所が出てきてまだら状になるのが普通です。その理由は、数学的最小要素よりも現実の電波のほうが極めて大きいから。数学的最小要素の大きさはゼロですが、現実の電波は波長と同程度の広がりを持ちます(一般的な携帯電話で10cm~30cm程度)。このため下図の様に絞りきれなかったまだら状のポイントでも電波は強め合ってしまうので、完全な空間多重はできません。また、「ビーム状」になるのではなく、周囲にある程度散らばってしまうので、「方向で完全に分離する」と言うこともできません。できるのは「端末のある場所で強めあい、それ以外の場所は『なるべく』打ち消しあうようにする」です。

これをやるのに一番良いのは、端末から発射した電波を基地局の複数のアンテナで観測すること。端末からの受信情報を丸ごと符号をひっくり返して送信側に持っていけば、電波伝播の対称性から、同じ周波数であれば必ず「送信のピーク」と同じ場所に「受信のピーク」が生じます。つまり端末のあるその場所を他の方法で推定することなく、自動的にビームフォーミングが出来ちゃう感じ。

この一番シンプルなビームフォーミングができる条件が、「TDDであること」だったりします。端末が送信する周波数と基地局が送信する周波数が同じ、と言う条件から、これが出来るのはTDDに限られてしまうわけです。むしろ、TDDであれば、こういうことが容易にできる、だからこそ、ウィルコムがPHSと言うシンプルな方式で10年も前に空間多重(の要素技術であるアダプティブアレイアンテナ)を実現できていたわけです。

では、他の方式ではどうするのか。TD-LTEなどのTDDシステムなら当然できることは想像できますが、問題は、FDDのシステム。なぜFDDでこれが難しいのか、と言うと、上で書いたような端末の発射電波を観測するだけでお手軽ビームフォーミング、と言うのができないから。下りの周波数と上りの周波数が異なるため、伝播経路がまったく別物になってしまうのが最大の原因。

ではどうするのかと言うと、基地局から端末に飛ばした電波がどういう経路を通っているっぽいかを端末にレポートしてもらいます。端末はこれを各アンテナごとに逐一上り(UL)チャネルでレポートし、基地局は受け取ったレポートにあわせて各アンテナからの発射特性を変化させていきます。下りの電波の経路を直接レポートしてもらうので、(時間追従性はやや下がりますが)確かに正しい経路推定ができます。このような仕組みが、最近の方式、WiMAXやLTEには組み込まれています。

実は、このアンテナポートごとの経路推定情報のフィードバック、元々はMIMOの効率を向上させる為に導入されたもの。しかし、この情報を使って基地局側の全アンテナから同じデータを送れば、ビームフォーミングをしちゃうこともできる、と言う副産物的なものだったりします。

この情報ってそんなに大きなものじゃないし、最近は特に周波数帯域が広がって情報量に余裕が出てきたので、こういった情報を気軽にフィードバックできるようになって来ているように思います。むしろ、こういう情報をフィードバックすることで、ULを多少消費するけれどもその分DLの品質やスループットを向上させることが出来る、という意味で、積極的にUL情報量をDL情報量に変換するための方策と言う言い方もできそうです。

と言うことで双子のようなMIMOとビームフォーミング、同じ情報をフィードバックするので、原理的には、究極の容量効率は同じになるんじゃないかと思っています。MIMOでピーク速度を上げて時分割数を増やすのと、ビームフォーミングでピーク速度そのままで空間分割を行う、この効率は究極的には一致するはず、と。なので、結局はどっちをどう使うか、と言うのは、キャリアの判断になるのではないかと思います。

たとえば、大きなセルでは「まだら」の出現確率が上がってしまうためビームフォーミングではなくMIMOを使いつつ時分割によりしっかりと分離し、小さなセルでは同時収容者数と「まだら」の出現確率が小さいだろうからビームフォーミングで分離して時分割することによる非効率化を防ぐ、と言うような使いわけができるのではないかと思います。

以上、ビームフォーミングとその使い方についてでした。

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2011/3/10 10:00 · 技術解説 · (No comments)
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