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2011/6/17 10:00 · 技術解説

先日ドコモ発信規制の話に関連して、「規制」と「優先電話」について、規制中にも優先される仕組みなどを教えて欲しいというメールを頂いています。と言うことで本日は優先電話と規制のお話。

ところで先日、ついついLTEの規制について書いてしまったのですが、主流のWCDMAの話もしておくと、WCDMAの場合は各端末に割り当てられた「アクセスクラス」があり、これが0~9の数字なのですが、ネットワーク側からそれぞれのクラス毎に「アクセスしていいよ」「ダメですよ」と通知することで規制を実施しています。で、WCDMAの場合は「端末が内部でさいころを振る」と言う仕組みではなく、ネットワーク側がその「いいよ」「ダメですよ」をランダムに変えることで公平な規制を実現する仕組み。

と言う前置きをしておいてから本題。「優先電話」と言うものが、存在します。これは、災害などでアクセスの規制をしなければならなくなったときでも、その規制の影響を受けずに通話ができる電話が欲しい、という、主に公共の要請から設定される専用の電話回線です。

さてこの「規制」「優先電話」ですが、もちろん、通信方式によって実現方法はさまざまです。が、ここはあえて3GPP系での実装について紹介して、他も大体似たような方式なんですよとお茶を濁させていただきたいと思います。

WCDMAやLTEでは、端末(と言うか契約したUSIM)に、その契約者の「アクセスクラス」が書き込まれています(はいようやく戻ってきました)。これは細かい話を抜きにすれば、加入者全体で均等になるように0~9までにランダムに割り振られているようなものです。その契約者が携帯電話網に対して何らかのアクセスをしたい場合は、その「アクセスクラス」が契約者の「権限を示すクラス」になります。

通常の0~9のアクセスクラスについては、知る限りでは特にその権限に差が設けられている事はありません(事業者の実装で権限差を設けることは理屈上は可能)。であるので、この0~9のクラスの人は規制などの影響を等しく受けることになります。

しかし、実はアクセスクラスは10以上も用意されています。アクセスクラスはあくまで「アクセスの権限」ですので、0~9の「一般クラス」とは別に、10以上の特別なクラスが用意されているわけです。

その中でもとりわけ特別なのが、クラス10、緊急通報。これは特に明示的にアクセスを禁止しない限りは規制されない特別なクラス。なおかつ、すべての端末が緊急通報である場合は自由に使ってよいクラス(もちろんインチキ利用はダメだけど)。このクラスはあらゆるクラスに優先して処理されることがさまざまなインターフェースで保証されています。

で、それに加えて、11~15と言うクラスが用意されていたりします。このうちのいくつか(あるいは全部)が、「優先電話」として使われることのあるクラスです。この11~15も、クラス10ほどの優先制御はされないものの、0~9とは別の制御を「することが可能」と言うクラスとして定義されています。

さてここまでで一旦立ち戻ります。ネットワークにおいて何らかの規制や優先制御をする場合、その規制によって「何を守りたいのか」によって規制する方法やタイミングが異なってきます。一番あらゆる負荷を低減できるのが無線アクセスの規制で、ただしそれは利用者への影響範囲も非常に大きく、それ以外のサービスへのアクセスの規制やユーザごとのアクセス拒否などは影響範囲を小さくするために用いられます。

無線アクセス規制の仕組みは次のとおり。無線上では、常時送信している報知情報の中に、各アクセスクラスが規制されているかどうかと言う情報を載せる領域があります。もしそこに、自分が持っているアクセスクラスと今アクセスする目的のサービスのアクセスクラスすべてが規制中です、と書かれていたら、その端末は(最低限決められた一定時間の間は)無線上の接続の試行をすべてやめなければなりません。

この場合、端末から無線網へのアクセスを申請する信号自体が自粛されるため、無線網への負荷は生じませんし、当然それ以降のサービス開始のためのメッセージのやり取りも無くなるためアクセスネットワークの処理負荷も低減されます。

また一方、一旦無線網(基地局)へのアクセスは出来るけどその先で弾かれるというパターンも存在します。これは、アクセスネットワークの管理装置の負荷が高い場合などに行われます。このときは、管理装置自身が通知されてきたアクセスクラスを見て、こいつは弾く、こいつは弾かない、と言う判定を行うこともありますし、輻輳状態で管理装置がそれどころじゃないって時には、「今輻輳中なのでちょっとアクセス減らして」と無線網(基地局/制御局)にお願いし、無線網側で要求の一部を間引く、と言う対応も行うことができます。

さてここで、優先電話の話をしましょう。優先電話は、11~15のアクセスクラス番号でアクセスできる権限を持っている端末です。どのように持っているかと言うと、USIMの中に直接書きこまれています。なので、事業者が優先電話契約を作るときは、優先アクセスクラス番号を書き込んだUSIMを用意する、と言うのが一般の契約との差分になるわけです。ちなみにこれらの番号は無線仕様上は「0~9以外の権限を持たせたいとき用」と大雑把に区分けされていますが、別のガイドラインで12~14が優先電話で、12は公共安全用(警察・消防・政府など)、13は公共事業者用(電気・ガス・その他インフラ)、14はその他の緊急サービス用、と言うような感じで決まっています。

仮にある端末がアクセスクラス12を持っているとしましょう。

この端末、基地局が「0~9のアクセスクラスは黙ってね」と言っている場合でも、「じゃアクセスクラス12の自分はOKね」と言ってアクセスを開始することが出来ます。あるいは、アクセス網の管理装置が輻輳状態に陥り、それを知った基地局が0~9のアクセスクラスの連中については3回に2回は要求を破棄しているという状況でも、「あ、12をお持ちですか、ではどうぞどうぞ」と通してくれます。あるいは、回線がパンパンの状態で、12番がアクセスしたいと言ってきた場合、優先度の低い通信(13~14番、あるいは0~9番の通信)を強制的にぶった切って12番をつなげてあげる、と言うこともできます。これが優先電話が規制中や輻輳中にも優先される仕組み。

もちろん「12~14番の優先電話なら何でもOKにしなきゃならん」なんていうことは無くて、アクセスクラスごとの規制の中にはちゃんと「12番を規制する」と書くことも出来ます。もしこうなったら、12番であろうとも黙らなければなりません。たとえば音声網に致命的な障害が発生し、どうしても1回線しか確保できない、そんなときに復旧作業に当たる通信事業者の担当者を優先したい場合、これは12番でも規制します。一方、事業者担当者には「アクセスクラス11番」の端末を持たせるわけです(ガイドライン上は11番は携帯電話事業者用で優先順位は最高)。

と言うのが、大体3GPP系での規制の仕方と優先の仕方。他の方式でも大枠はこれと似た感じで、優先用に何らかのコードだのビットだのを用意してあるのと、規制するときには規制対象に優先も含めるかどうかを識別できる方法を用意してある、と言う感じです。

と言う、規制がかかっているときでも優先的に使えるようにしてある優先電話。お役所関係ではこの優先電話を、複数事業者分用意してあることが多いようです。いくら優先とはいえ、通信網自体が壊れてしまっては優先も何もないですから、ある事業者の通信網全滅なんていう最悪の事態に備え、携帯・PHS事業者に優先電話の提供の協力をお願いしている感じ。さすがに全事業者分準備となると中央省庁の一部に限られるでしょうが、逆に言えば全事業者ともそういった災害時優先通信用の端末は提供できる体制を維持しているわけです。

と言うことで規制と優先の仕組みをゆるめに解説してみました。例によって質問ツッコミ常時お待ちしております。でわ。

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2011/6/17 10:00 · 技術解説 · 1 comment
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1 Comment to “携帯電話の規制と優先”

  1. […] さて、先日、規制と優先の解説で書いたとおり、携帯電話は、緊急通報をするときは、「今自分緊急っすから!」と言う情報をアクセスのときに付け加えます。これを見て、ネットワークは優先的につないであげるなどの処理を行うことが出来ます。 […]

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