概念的な説明に終始したOFDMの技術解説、今回は、FAQ形式でOFDMの技術について解説してみたいと思います。
Q. OFDMはたくさんのサブキャリアを並べると聞きますが、それだけたくさんの搬送波を作る無線機は大変ではないですか?
A. OFDMのサブキャリアは、実際にその周波数で発振する搬送波が存在するわけではありません。純粋に数学的な処理であたかもそういった搬送波があるように見せかける技術です。たくさんの搬送波の元を数学的に作っておいて、それを逆フーリエ変換(IFFT)と言う処理を通すことで、たくさんの搬送波が隙間無くびっちりと並んだような単独の無線波を作ることが出来ます。
Q. フーリエ変換ってなんですか?
A. 高校あたりの教科書をご覧下さい。ごめんなさいうそです。一つの波形があって、その中にどんな成分の周波数が入っているかなー、ってのを調べるのに便利な数学的変換手法の一つです。よく、「時間ドメインのデータを周波数ドメインのデータに変換する」などと表現されます。FFTでは、各成分ごとにその成分の「特性」を得ることが出来るので、その「特性」からデータを復元できます。成分同士が影響を及ぼさない関係がOFDMで言うところの「直交したサブキャリア」です。実際にそういうキャリアがあるのではなく、FFT処理上便宜的に分割した成分のことをサブキャリアと呼びます。逆フーリエ変換はこの逆で、各成分にデータを乗せた「特性」を与え、それを集めて一つの波形にするときに使われます。
Q. ガードインターバル(GI)ってなんですか?
A. GIは、OFDMのシンボルごとに挿入されるもので、あるシンボルと次のシンボルが、マルチパス(反射などにより違う経路を通る電波)の伝播遅延などで重なってしまい潰しあってしまうことを防ぐためにあります。送信するときは逆フーリエ変換をした後に、一旦シンボル位置で波形をぶった切って、そこに自身のシンボルを延長するように(後端を頭にくっつける=サイクリックプレフィックス)挿入します。
Q. ガードインターバルってどう働くんですか?
A. GIを含んだ波形を受信した無線機では、このGIに相当する分をシンボルの先頭(あるいは後端)から単純に削り取ります。すると、一つ前の(あるいは一つ後の)シンボルと(マルチパスなどで)重なってしまっていた部分がきれいにそぎ落とされます。このそぎ落とした信号について、GI部分を詰め詰めに詰めなおしてからフーリエ変換(FFT)することで、重なった部分のないきれいな信号部分を取り出すことが出来ます。GI削りでそぎ落とせないくらい深く重なってしまっている場合は、GIが想定するよりもマルチパス遅延が大きすぎる、つまり、セル半径を大きくしすぎ、と言うことになります。つまり、無線が届く範囲を大きくしたければGIを大きくすれば良い、と言うことになります。
Q. でも、シンボル同士の干渉は、前後の別シンボルだけじゃなく、自分自身と潰しあうことも起こるんじゃないの?
A. ここで、サブキャリアが純粋に数学的な存在だということが活きてきます。確かに、位相のずれたマルチパス同士は自身のシンボルでも潰しあいますが、それを純粋な数学的な存在であるサブキャリアに戻す(フーリエ変換する)と、時間的なずれはきえて周波数特性(=データ)だけが見えるようになります。
Q. じゃぁOFDM以外でもGIを導入すれば良いのに。
A. OFDMでは、非常に狭いサブキャリアをたくさん並べる、と表現しますが、「搬送波占有帯域が狭い」ということは、「シンボルレートが遅い」と言うことです。シンボルレートが遅いということは、1シンボルがとても長いということです。GIを使ってシンボル干渉をなくす方法は、シンボルレートが相当に長くないと使えません。OFDMではたとえば1シンボルは数十マイクロ秒に及びますが、たとえば占有帯域5MHzの非OFDMな信号であればシンボルレートは0.2マイクロ秒です。もし、これに、シンボルと同じ長さ(0.2マイクロ秒)のGIを付与(つまり速度を半減させる)したとしても、それがカバーできる伝送遅延はわずか60メートル分です。シンボルレートが遅いOFDM以外ではあまりに効率が悪いためGIは用いられないのです。
Q. ずれずれの信号がぐちゃぐちゃに合成されているのに、どうやって「シンボルの開始位置」とかを検出するの?
A. OFDMを使った方式では、ほぼ例外なく「パイロットシンボル」とか「リファレンスシグナル」などと言う名前で、「既知のパターンを持ったシンボル」をOFDM信号のどこかに挿入します。受信した信号の中から、この「既知のパターン」がある場所をサーチしてそこにぴったり合わせこめば、タイミングが合うようになっているわけです。
Q. OFDMとOFDMAが違う文脈で出てくることがあるんだけど、どういう違い?
A. OFDMを使って、複数の通信を収容することを目的にした多重化を行うことをOFDMAと言います。OFDMには(数学的に)たくさんのサブキャリアがありますが、そのサブキャリアについて、どのサブキャリアをどの通信相手に割り当てるか、と言う感じで複数の人の通信を一つのシンボル期間の波形に乗せてしまうことがOFDMAです。実際には、TDMA(時間分割)を併用することが多いですし、多くの方式ではさらに進んだSDMA/PDMA(空間/パス分割、MU-MIMOなどとも呼ばれる)を併用した技術の開発も進んでいます。大抵は、時間xサブキャリアの平面状で、四角く切り取った要素ごとにユーザに割り当てるようにして多重アクセスを実現します。
Q. OFDMAで、別々の場所の複数のユーザが好き勝手に送信すると、受信したアクセスポイントではシンボル干渉が大きくなりすぎるような気がするけど?
A. そのとおりです。アクセスポイントへの到着時刻のズレは、OFDMAでは致命的な問題です。この問題を解決するために、「Timing Advanced」と言う仕組みが使われます。これは、アクセスポイントと端末の間で交換される情報で、アクセスポイントが複数の端末からのアクセス時間を計測し、早すぎる端末には「もう少しタイミングを遅らせろ」と命令し、遅すぎる端末には「もう少し早く」と指示する、そのための仕組みです。端末は、アクセスポイントに指示されたTiming Advanced値に従って、受信と送信のタイミングをわざとずらすことで、アクセスポイント到着時にすべての端末の信号のタイミングが一致するように出来ます。
あーもう質問が思いつかない。他にも質問がありましたらぜひお寄せください。勉強して分かる限りで、回答したいと思います。それでは。