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2011/2/7 10:00 · 技術解説

LTEのネットワークアーキテクチャについて、例によってその技術的思想の解説を主にして取り上げて見ます。

LTEに関して話すとき、ちょくちょく「フラットネットワーク」だの「シンプルなアーキテクチャ」だのと言ってきましたが、具体的になにがについてはかなりほっといてきました。そもそも、何と比べて、という点から。

従来、携帯電話ネットワークは、基本的に集中型ネットワークとなっていました。集中型とは、管理・制御やトラフィックが最終的に一点に集中する方向を指向しているということです。

たとえば、同じ基地局配下の端末同士のリソースの割り振りは基地局がある程度自律制御しますが、しかし多くの判断はひとつ上の制御ノードが行います。隣の基地局へハンドオーバするなどというときも、その制御ノードがまとめて判断します。

制御ノードは多くの基地局を一台で収容し、その制御ノードももっと上のネットワーク管理ノードに収容されて、ポリシーの制御などを受けています。最終的にはどこか一箇所に最大権限のノードがあって、それがすべてを制御します。

このやり方の利点は、運用が楽になることです。どこか一箇所の制御を行うとそれが影響を与える配下が完全に特定できるため、考慮しなければならない影響範囲を絞れますし、一箇所の制御で多くの基地局の割り当てポリシーを変更でき、また、動作ログ的なものも一箇所に集中するため問題が起こったときの調査も簡単になります。

これは制御だけではなくトラフィックも同じで、隣同士くらいの基地局間のトラフィックならすぐ上の交換機だけを通るけど、もっと大きな県間くらいになるともっと上の交換機まで上がり、地方間はさらに上位の交換機がすべてをさばく、みたいになっています。上位交換機の負荷を減らし長距離基線の容量を節約することができます。

そして、このようにすることで、各ノードにかかる負荷が上位であろうと下位であろうと平準化できるという効果もあります。これは、なんとなく負荷分散のためにたくさんの装置を置いて統計効果で負荷分散を図るやり方とは根本的に異なり、物理的に下位にぶら下がる装置をかっちりと設計し制限することができることによる恩恵です。このため、最上位のノードであってもお化けのようなハードを使う必要なく、割と汎用的なハードに機能をインストールできるようになり、ハードの在庫の使い回しが容易になったりなどのご利益があります。

これらのような構成は、確かに利点も多いのですが、なんといってもネットワーク階層が深くなり、それぞれの階層ごとに異なるインターフェースが生じてしまうため、情報がそのたびごとに一旦ストップしてしまうことです。また、インターフェースの違いのために、情報そのものが途中で減ってしまい、本来下位ノードが備えている機能を上位で使いこなせずじまいになってしまう、ということもあります。

それに対して、IPをはじめとする最近のネットワークのトレンドは「フラットネットワーク」です。そのコンセプトは、きわめて大容量のバスとなるネットワークに、各機能を持ったノードを対等に接続し、お互いの機能を必要とする場合はそれぞれが自律的に要求し互いに補うという考え方です。まさにIPネットワークがその代表で、これが可能になった背景は、大容量の広域ネットワークが普及したことやノードに使うハードウェアそのものが極めて高性能化しなおかつ安くなってきたこと、また、多くのリクエストを受け付けるノードのためのクラスタ化と分散の技術も発展してきたことがあります。

そしてこのようなフラットネットワークには多くの利点があり、たとえば、隣接ノード同士の間でユーザデータも制御データも最短距離で交換できるためスピードアップと統計的負荷分散ができること、機能を要求する相手を多くの候補の中から選べるため障害時の復旧も早く設計も容易で済む(設計レス化も可能=大幅な管理コスト低減)こと、多くの機能を末端に分散化できるため、自律的で高速な無線処理が可能なこと(無線NWの場合)、新たなサービスのためにノードを追加することが容易であること、などなどの利点がでてきます。

さて前置きが長くなってしまいましたが、LTEもこのフラットネットワークアーキテクチャを採用しています。LTEの前バージョンともいえるWCDMAでは無線送受信を行う装置はNodeBと呼ばれていますが、LTEではeNodeBと呼んでいます。NodeBがRNCなど他の装置からの制御により動作していたのに対し、このeNodeBは、原則として他の装置からの制御を必要としません。あくまで独立した装置として動作し、機能ごとに他の装置に要求を行うだけです。たとえば、接続してきたユーザが加入者かどうかを問い合わせる、とか、IP接続を要求する、といったことはこのeNodeBがそれぞれ必要に応じて行います(もちろん他の装置がeNodeBに機能を要求する場合もあります。あくまで対等=フラットな関係です)。

ちなみに、eNodeBが一般的な制御メッセージやネットワーク接続やユーザ認証などを問い合わせる相手はMMEと呼ばれる装置で、一方、ユーザデータをインターネット・イントラネットなどに向けてルーチングする相手はSGWと呼ばれていますが、無線ネットワークの主役はあくまでeNodeBで、eNodeBが必要とする機能を持っている相手に要求するというスタイル、という点に注意です。

たとえば、LTEにはeMBMSというマルチキャストサービスがオプションとして標準化されています。もし従来の階層ネットワークであれば、eMBMSサービスを開始するためには、ネットワークのルートから始まりすべてのノードに個別に機能追加をしていく形になるでしょう。しかし、LTEでは、eNodeBに管理機能を提供するMCEとユーザデータを配送するMBMS-GWを追加するだけで機能を実現できます(もちろんeNodeBがeMBMS機能を持っている前提です)。追加する場合、そのインターフェースは標準化されているので、ベンダを問いません。このように、ベンダを問わず必要な機能の装置を集めてくるだけでさまざまなサービスを実現できることがフラットネットワークの強みです(現にインターネットというネットワークはそれを実現していますね)。

ということできわめてざっくりとLTEのネットワークアーキテクチャを紹介していました。より詳しく知りたいときはコメントやメールでどんどんリクエストください。可能な範囲で補遺をしていきたいと思います。それでは。

早速補遺:twitterでコメントいただきましたが、LTEでも、無線ネットワーク(RAN)以外の認証NWやコアNWあたりは結構階層NW風味が残っています。MMEの裏側やSGWの裏側、と言うことです。LTEで「フラット」と言うのはあくまでeNodeBを主役とするRAN部分です。ご指摘ありがとうございます。

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2011/2/7 10:00 · 技術解説 · 1 comment
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1 Comment to “LTE (3.ネットワークアーキテクチャ篇)”

  1. […] This post was mentioned on Twitter by OSAKA, Takeshi, 無線にゃん. 無線にゃん said: [LTE (3.ネットワークアーキテクチャ篇)] http://wnyan.jp/645 ◆LTEのネットワークアーキテクチャについて、例によってその技術的思想の解説を主にして取り上げて見ます。LTEに関して話すとき、ちょくちょく「フラットネッ… […]

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