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2026/1/9 16:59 · 技術解説

5GのTDDってやつ、真面目に追いかけ始めると「なんじゃこりゃ」ってなる人が多いと思うんですよね。スペック上はすごくフレキシブルだって聞いてたのに、いざ実運用の話になると「あれもダメ、これも制約」って話ばっかり聞こえてきて。というかそもそも、仕様書のボリュームがすごすぎて、どこから手を付ければいいのか分からないというか。今日はそんな、5GのTDDはなぜこんなにややこしいのか、というお話です 。

まずはちょっと昔の話、LTEのTDDを思い出してみますね。あちらの時間構造は、今思うとかなり素直だったんですよ。D(下り)、U(上り)、そしてその間に必ず挟まる「S(スペシャルサブフレーム)」というやつ。この「S」の中身は DwPTS、GP、UpPTS って決め打ちで詰め込まれていて、DからUへの切り替えは必ずここで吸収する、と仕様がはっきり主張していました 。LTEではフレーム構成が0番から6番までの7パターンしかなくて、切り替え点もその中の数パターンから選ぶしかなかった。つまり「決められた時間割」をみんなで守る、かなり型にはまった世界だったわけです。


ところが5GのNRになると、まずこの「スペシャル」という言葉が消えちゃいました 。代わりに「Mixed(ミックス)」とか「Flexible(フレキシブル)」なんて言葉が出てきます。切り替えのための特別な場所があるんじゃなくて、下りにも上りにもなり得る「余白」をあらかじめ作っておいて、そこをどう使うかは後で決めよう、という発想に変わったんですね 。で、その中のどこかを、上下のガードに使っちゃおう、と。実質的にやり放題。やり放題すると自分の首を絞めるわけですが。

ここでちょっとマニアックな中身を覗いてみますけど、NRのTDDって実は四層構造みたいな制御になっているんですよ 。まずSIB1というセル共通の情報で「絶対に守らなきゃいけない外枠」を決めます。周期の先頭から何スロットを下り専用(DL)にして、後ろから何スロットを上り専用(UL)にするか。これはもう好きな数字を入れていいことになっています。両脇から、DLの数とULの数を決めて。で、そのどっちでもない余り物が「Mixed」として残されるんです 。

で、その余り物の中身を実際にどう使うかを決めるのが、DCIという動的な制御です。SFI(スロットフォーマットインジケータ)を使って、スロットごとに、その中の各シンボルそれぞれが「ここは下り、ここは上り」と方向を指定できちゃう。わかりますか、シンボル単位ですよ? 無線送信の最小単位で、上り下りを制御できちゃう。これをあらかじめ(と言っても直前の下り制御信号ですが)送っておくことで、このシンボルは唐突に上りに使っていいですよ、なんてことが出来るようになります。UEはそれを見て、その瞬間だけ無線機を送信に切り替えてデータを送れるわけです。超低遅延とか言っている意味が、ちょっと見えてきますね。

さらにミニスロットという仕組みを使えば、スロットの境界を待たずに好きな場所からその「スロットごとの内容」を上書きできちゃう。は、なんじゃそりゃ、なんですが、とにかく、事前の予約なかったんですけどここ、急に別用途で使いますね、こんなシンボルの構成になっちゃいますんで、みたいに上書きできちゃう(厳密には違いますが)。じゃあその時他のUE、特に、今データ送信したいんですけど、と思っていたUEとかはどうするのかっていうと、「知らん」が答え。一応Preemptionとかいう仕組みで一瞬時間を押さえるとか出来るんですが、もうそこはぶつかってもしゃーない、くらいの割り切りをしています。まさにやりたい放題というか、仕様の上ではほとんど何でもできる自由を手に入れたわけです 。

じゃあ何でもできるかというと、現実の大人の事情がそうはさせてくれないんですよね 。特に日本みたいな環境だと、同じ周波数の隣の帯域に別の事業者がいたり、そもそも同じセル内にLTEが混ざっていたりします。もし自分だけ勝手に上りと下りのタイミングを歪めてしまうと、隣の事業者に致命的な干渉をぶちまけることになってしまう。これがクロスリンク干渉ってやつですね 。

ちょっと考えてみてください。TDDって、言ってみれば、一本しかない車線を、行きの車と帰りの車が共有している状態です。あれですね、工事中の片側一車線の道路。信号がついてて、あっち行きとこっち行きのタイミングを制御している状態です。車線一本だけでその中を猛スピードで車が走るわけですから、なかなか怖い。ところが、そんな片側一車線が、隣にぴったりくっついてもう一つ置いてあったらどうでしょう。こっちがあっちに向かってビュンと走ってる時に、正面から猛スピードで車来たら、めっちゃ怖いですよね。実際には車線が分かれてるからぶつかるわけないと分かっていても、めっちゃ怖い。そんなわけで、隣り合ったTDD同士は、正面衝突するようなタイミングで信号を青にするのやめましょう、ってことになってるんです。ほんとにぶつかる可能性はかなり低いにしても、そのリスクはやだよね、ってことで。なので、隣り合った周波数を持っている事業者は、お互いに、TDDのDLとULのタイミングをある程度合わせることにしています。加えて、LTEの遺産がまだゴロゴロしてる。

だから日本の商用網でよく見かける DDDSU(15kHz)とか DDDDDDDSUU(30kHz)なんて構成は、NRが一番やりたい形というよりは、LTEのスペシャルサブフレームの位置を避けつつ事業者間でも干渉しないように、なんとか衝突しないように調整に調整を重ねた結果の産物だったりします 。本当は自由に踊りたいのに、周りのLTEという基準に合わせて盆踊りを踊らされているような、そんな切ない状況なんです。

そうなると、5Gの目玉である超低遅延(URLLC)も、商用網ではなかなか本領を発揮しづらくなります。URLLCの本質は「必要な瞬間にだけ時間を歪める」ことなのに、隣の事業者と時間構造を完全に共有しなきゃいけない環境では、その歪み自体が他者への迷惑になっちゃう。事前調整なしの割り込みなんて、隣近所と仲良くやっている環境ではまず無理、という話になっちゃうわけです。

そこで俄然注目されているのが「ローカル5G」だったりします。自分たちだけの独立した周波数を持てるなら、他事業者に気兼ねすることなく、時間割を用途に合わせて最適に設計できる。DL直後に即座にULを配置するような、NR本来の柔軟性をフルに使い倒せるわけです 。ローカル5Gが注目されているのは、単に閉域だからというだけじゃなく、この「時間を誰にも邪魔されずに支配できる」という構造的なメリットがあるからなんですよね。

もちろん、これはまだ通過点にすぎません。6Gに向けては、事前に時間構造を固定するんじゃなくて、リアルタイムにもっと知的に協調して時間を分け合うような仕組みも検討されていつっぽいです 。無線システムの進化って、単なるスピードアップだけじゃなく、この「時間の支配権」をいかに制約から解放していくかの歴史なのかもしれません。

なのでね、現場で「Sスロット」と呼び続けている人がいても、それはそれでいいと思うんです。感覚はLTEから地続きですから。でも、その中身はもう昔とは全然違う。5Gの本当の凄さは、決められた枠の中でいかに「必要なときだけ、局所的に時間を削り出すか」という、階層的で緻密な設計思想にあるんですよね。そんな隙間に息づく柔軟性に思いを馳せると、少しはこのややこしい仕様書も愛せるようになるかもしれません。私は無理ですけど。

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2026/1/9 16:59 · 技術解説 · (No comments)
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