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2011/1/5 10:00 · 技術解説

さてちょっと前にNTT東西が実質回線交換全廃の方向と言うニュースもありましたが、実質、一般利用者向けには回線交換サービスは64~128kbps程度を最大速度として提供されている程度で、サービスへのインパクトはたいしたことが無いと言えるかも知れないのですが、今回は回線交換ならではの利点を考えつつ、そういったお話を進めてみたいと思います。

回線交換ではない交換方式、要するにパケット交換になると思うのですが、このパケット交換と回線交換というのは何が違うのか、というと、たとえば無線通信においては無線リソースの使い方が違うというだけではないんですよ。ネットワークが根本的に違います。パケット交換というのは、パケット単位でネットワーク内の交換機が行き先案内をしてあげるシステムですが、回線交換というのは、利用者同士をパイプでつないでそのパイプの中を無遅延でデータが流れます。

これはバケツリレーと水道管にたとえることが出来ます。バケツリレーはとにかくたくさんの人で次々にバケツを受け渡して水を送り届けますが、水道管は届け先まであらかじめ水道管を設置して、後は送信元がデータを押し込めば勝手に送信先にデータが届く仕組み。これだけ書くとそりゃ水道管の方がいいのに、今のネットワーク技術の主流はバケツリレー。なぜかというと、バケツリレーは簡単に帯域(速度と容量)を増やせるんです。バケツリレーの担い手をたくさん並べれば一度にたくさんのバケツを処理できるので容量を増やせますし、そうやって作ったバケツリレーネットワークの要所要所にスーパーマッチョマンを配置することでさらに高速に出来ます。この特徴があるので、バケツリレーネットワークは低コストに高速通信が出来る、ということで、もてはやされているんですね。

一方、水道管で帯域を増やそうと思ったら、まず水道管自体を太くしなければなりません。しかも、送り元から送り先まで全部いっせいに太い管に置き換える必要があります。さらに水道管ネットワークに参加する人数がN人だとすると、最大でNの二乗の数の水道管をいっせいに太い管に置き換えなきゃなりません。帯域を増やすために莫大な投資が必要になるのが水道管タイプ。なので、よほどの要求がない限りこちらは高速化するという方向のインフラ革新は行われにくいということになります。昨今の超高速通信への要求に対して回線交換の更改では間に合わなくなったことから、回線交換の全廃の方向に世の中が向かっているということでしょう。

しかしながら、企業ではいまだに64k回線交換の需要があります。ISDNやWCDMA、PHSの128kbps/64kbps回線交換は、まだまだ結構な引き合いがあります。それはなぜなのか、ということを一言で表すと、「回線交換の遅延プロファイルが極めて優れているから」ということになります。

それではここからパケットネットワークの遅延プロファイルのお勉強。パケットネットワークをものすごく単純にモデル化し、複数の出入り口に対して、間で処理するノードはひとつしかない、とします。

このときの遅延時間をX+Aと表します。Xというのは「単一パケットがノードを通過するのに必要な時間」で、普通は単に伝送路の伝送速度とデータの大きさだけで決まる数。要するに、ある通信速度の伝送路の上をデータが流れるのにかかる時間です。毎秒5バイトの伝送速度を持つ伝送路に100バイトのデータを流せば、20秒かかりますが、このとき、X=20秒です。一方のAは、ノードで処理してもらうのを待っている時間。複数の利用者がいっせいにノードを利用するので、ノードはそのデータを順番に処理します。当然誰がどのタイミングでデータを送るのかわからないので、順番待ちが生じます。その待ち時間がA。もちろん、パケットが一つだけと言う条件なら、このAはゼロです。

さてここで、待ち行列理論。今回のモデルをM/M/1行列と仮定すると、実はそのAの値は統計的に予想できます。ここで、通信処理の利用率pを定義します。これは、簡単に言い直すと、ネットワークの混み具合です。全体で100Mbpsの容量のあるネットワークに常に60Mbpsのデータが流れているとすると、この場合のpは60Mbps / 100Mbpsで0.6(60%)ということになります。

このときの平均待ち時間Aは、A = X ( p / (1 – p) )という式で表されます。これにはいろんな仮定が前提としておかれているのですが、とりあえず、現実のパケットネットワークは大体その仮定を満たしていると思ってください。この式を見てもわかるとおり、処理待ち遅延Aは、利用率pの増加に対して単調に増加します。しかも、増加の傾きはpが100%に近づくにつれて大きくなり、pが100%では、処理待ち遅延は無限大になる、という恐るべき結果が出ます。実際のパケットネットワークでは、この理論では考慮されていない「パケットの破棄」ということが行われるので、処理待ち時間無限大(データがまったく流れない)ということは利用率100%でも起こりませんが、パケット網が混雑すると遅延時間が加速度的に増大するということが重要です。

また、このAはあくまで平均値で、この値は個々の処理において広い範囲でランダムに変動することが知られています。実はその変動の幅も理論化されていて、簡単な式で求めることが出来ます。テキストで書くのがちょっとめんどくさい式なので、あえて割愛しますが、興味のある方は行列理論の解説サイトなどを見てみてください。ただ、端的に言うと、このランダム幅もやはり利用率pが増加すると単純に広がります。

たとえば、利用率pが60%の場合を考えます。この場合、AはXの1.5倍となり、合計した平均遅延時間は伝送時間Xの2.5倍になってしまいます。さらにランダム幅も結構広く、約12%の確率で実際のAの値がXの4倍を超えます。つまり、パケットネットワークでは、キャパシティの6割を超えると、平均遅延時間は2.5倍になり、12%の確率で5倍以上の遅延時間が生じる事がある、ということになります。

では回線交換はどうなのか、というと、これが、実に単純に一言で表せます。すなわち、

回線交換では A = 0 である。

でおしまい。回線交換でも当然中継ノードというものがありますが、ポイントは、「一人に一つのノードが専用で割り当てられる」ということ。正確にはノード装置内の中継エンティティが1対1で完全に独占できるということです(※ノード装置内の中継エンティティの数には限りがありますから、同時に利用できる人数が限られます。すなわち、利用時間に比例したコストがかかるということです)。ノードは自分専用なので「待ち行列」は発生しません。結果、A=0というのが、回線交換の遅延プロファイル。

A=0というのは、二つの大きな意味を含みます。ひとつは、Xに対してそれ以上の遅延が発生しない、という「低遅延性」、もうひとつは、Aに含まれるランダム要素がゼロになることすなわち「遅延安定性」です。

これがあることでどんなことが出来るか、というと、特に、データ通信で言えば「誤り訂正」などでかなり効果的になります。遅延が非常に高精度で一定であることがわかっているので、自分のデータが相手に届く正確な時刻、相手から届いたデータを相手が送り出した正確な時刻、というのがわかるので、誤り訂正のための「余分なデータ」の行き違いが完全になくせます。パケット交換では、伝送路がエラーだらけになると「再送」「再送要求」が何度もお互いに何度も行き違いになりスループットがエラー率以上に落ちてしまうということがありますが、回線交換では、この行き違いが絶対に起こりません。いくつかの同期式のデータ通信方式では、通信開始時にお互いに同期手順で相手との間の遅延を測定し、それを使って誤り訂正の行き違いを完全に防ぐ、という仕組みが入っています。このため、特に伝送路のエラーが急に増えてきたようなときでも回線交換はせいぜいエラー率+α程度のスループット低下ですみますが、パケット交換ではエラー率の何倍ものスループット低下に見舞われてしまいます。

これにパケットネットワークが太刀打ちするには、つまりAをゼロに近づけるにはどうすればいいのか、というと、ネットワークの利用率をゼロにするしかありません。誰一人ネットワークを使っていない状態を作り出して初めて、回線交換と同等の遅延プロファイルが得られます。もちろんこんなことは絶対に不可能で、わずかでもパケットが流れている限り、待ち遅延Aとそのランダム性は必ず発生します。これを少しでもゼロに近づけようというのがQoSで、乱暴に言ってしまえばQoSの戦略は、パケットネットワークを仮想的に分離して、たとえば「優先」と「通常」の二つのネットワークが仮想的に作られ、「優先」にパケットを流せる人を厳しく制限する、ということになります。こうすることで「優先」の利用率を限りなくゼロに近づけ、Aの値をゼロに近づけようとするわけです。しかし、いくら仮想的に分離したとはいえ、「優先」ネットワークもパケット交換ですから、「優先」利用者が増えるにつれAは増大しAのランダム幅も増大していきます。QoSは回線交換の代わりにはなりえないのです。

もちろん、エラーが絶対に起こらないかつ伝送ルートが完全に固定、という需要、つまり、固定電話向けになら、おそらくパケット交換化してもそれほど困ったことは起きないでしょう。問題は移動通信。ルートがころころ変わるわエラー率は高いわで、もしこの移動通信の回線交換サービスのバックボーンを完全にパケット化すると、しかもその利用率が上昇してくると、さまざまな弊害が起こるであろうことは容易に想像できます。

もちろん回線交換の弱点は「リソース」で、先ほどもちらりと書きましたが、処理ノード内の中継エンティティの数に限りがあるため、大量の加入者をさばくのには向いていません。なので、回線交換である音声通話を無条件でかけ放題にするのは難しいわけです(もちろん無線リソースの問題もありますが)。もちろん、すべての中継エンティティに同じリソースが必要、つまり、高速化を考えるときすべてのパイプを一斉に太くしなければならないという拡張性の大弱点もあります。

と言う感じで、回線交換の最大の特徴である低遅延、遅延安定性と、その弱点について考えて見ました。今後、回線交換は完全に消えていくのか、あるいはニッチを獲得するのか、定かではありませんが、個人的には消えて欲しくない技術だと思っています。といったところで本日はこれにて。

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2011/1/5 10:00 · 技術解説 · 4 comments
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4 Comments to “回線交換とパケット交換”

  1. […] This post was mentioned on Twitter by 山田志門(Shimon Yamada), 岡本 聡 and OSAKA, Takeshi, 畔柳 駿一 with Google™. 畔柳 駿一 with Google™ said: ふむふむRT @yuhkun: 大事な話。「低遅延・安定だけど高コスト」vs「不安定だけど大容量・高効率」ってとこかな。適材適所なのです。QT @wnyanjp: 回線交換とパケット交換 http://wnyan.jp/296 […]

  2. […] まず重要なのは、技術解説:回線交換とパケット交換でも書いたとおり、理論上は伝送に伴う遅延ゆらぎがなく、どんな場合でも音声通話チャネルが維持できる電波状態でさえあれば安定した音質の通話を利用できるという点です。 […]

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