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2011/7/25 10:00 · 技術解説

携帯電話端末の評価と言うと、たとえばカメラとかワンセグとかおサイフとかそういった付加機能面で比較されることが多いのですが、それに対して基本機能で比較される項目と言うのは驚くほど少ないのが常です。

携帯電話と言う通信機器の基本機能の比較というと、通信速度の比較などが分かり易い例になりますが、そんな中でよく比較されるネタが「バッテリーの持ち」、つまり、連続通話時間や連続待ち受け時間だったりします。このバッテリの持ち、基本的にはバッテリの容量や通信方式で大体決まってしまうものですが、それに最も大きく影響を与えているのは何なのか、と言う点を考えてみましょう。

待ち受け時間、連続通話時間、と言う数字を比べてみると、待ちうけは数百時間なのに対して、連続通話は百数十分と言うのが相場。同じバッテリーにも関わらずこれだけ違うということは、「連続通話」と言うのは大変な電力消費であるということが想像できると思います。と言うことは、「通話中」と言う状態で動いている何かが、大変な電力食いであるということです。

通話中に動いているものは、無線機、スピーカ、マイク、ソフトウェア、時々液晶画面、そんな感じです。この中で誰が犯人なのでしょうか。めんどくさいので推理仕立てはヤメ。答えはもちろん「無線機」です。無線機はとにかく莫大な電力を食べます。

もちろん、スマートフォンでデュアルコアCPUをフル稼働させるアプリを全力で動かしている、なんていう状況と比べればまた別ですが、基本的に携帯電話の中では、CPUやメモリなどの情報処理だけのデバイスに比べれば無線機の消費電力の大きさは非常に大きな比率になっています。特に、CPUやメモリや液晶画面などはOSやアプリの制御でいくらでも使用を節約できますが、無線機は通信しようとすれば否応無く電力を消費しますし、連続通信していなくても結構大きな電力を食います。

そしてもう一つ重要なのが、無線機は送信だけでなく受信でもかなり大きな電力を消費するということです。

たとえば、一般的な携帯電話の基地局、送信電力はせいぜい20Wとか30Wとかです。これを、数km離れたところで受信します。このワット数は、ありていに言って電球とかのワット数と同じエネルギー単位。なので、たとえば5km先に置いた30W電球の光をみているようなもの(実際には電球は可視光以外のエネルギーも出しているのでもう少し大きな電球相当ですが)。5km先のトイレの電球くらいの明かりを見る視力を、電気回路で再現する、と考えると、それが相当大変な仕組みになりそうなことは想像がつきます。

この非常に小さな光を、細心の注意を払って、何とかデータを取り出せる大きさに増幅し、余計な信号を削り、と言う工程を実現するためには、何度もアナログ回路を通さなければなりません。そういったアナログ素子はデジタル素子と比べればとにかく電力を食うので、携帯電話の電力を考えたときは、「受信回路がONになっているだけ」でも相当大きな消費電力になっていると考えたほうが良いでしょう。

さて、先日、圏外についての解説を書いたときに、「圏外でバッテリの減りが早いのはぎりぎりのところをうろついて無駄な送信が増えてしまうからでしょうか」と言う質問を頂いています。また、「高速移動するとバッテリの減りが早いと言われているのはなぜでしょうか」と言う質問もありました。この辺は、この「受信の消費電力食い」を考慮すると答えが見えてきます。

携帯電話技術開発当初から、アナログ回路が駆動されている受信中は電力消費が大きい、と言うのは指摘されていた話で、当然ながら、各種の携帯電話的移動無線システムには、これをいかに小さく押さえるか、と言うのは大きな課題でした。基本的に、移動無線システムでは、自分から情報を送信するだけでなく、随時受信をチェックすることも必要とされているからです。そのために受信回路を常にONにして受信をチェックしていてはバッテリが全く持ちません。

そこで、受信回路をONにしている時間をできるだけ小さくするために、端末とネットワークで、「呼び出しがあるときに信号を送るタイミング」を示し合わせすることにしました。5秒に1回とか10秒に1回とかいうタイミングで、たとえば数ミリ秒とか言う短い時間だけ受信回路をONにして信号があるかないかをチェックするだけでよい、と言うような取り決めです。これで、ずっと受信回路をONにしっぱなしに比べて何千分の1と言う消費電力を実現できます。

この状態でじっとしているのが、待ち受けで最もバッテリが持つ状態。カタログスペックどおりの待ち受け時間が実現できるのがこの状態。では、「圏外で消費が多い」「移動すると減りが速い」のはどういうことかと言うと。

まず、圏外。圏外の状態と言うのは、自分が受信できる相手がいません。ので、定期的に相手を探します。この「探す」と言う行為は、簡単に言えば受信回路をONにして、自分が理解できるネットワークの信号があるかどうかをチェックする、と言う状態。しかし、この場合、先ほどのようにネットワークとの間で示し合わせがあるわけではありません。と言うことは、かなり長い時間、受信回路をONにして、何らかの信号がないかを調べなければならないわけです。仮にネットワークが5秒に1回しか情報を送らないのであれば、5秒間は受信回路を開きっぱなしにしておく必要があります。実際にはもう少し短い時間で捕捉可能なのですが、数百ミリ秒(0.数秒)だとしても、ざっと100倍の消費電力。しかも、「圏外状態」はユーザに嫌われる状態です。なので、できるだけ早く「圏内」に復帰したい。だから、結構な頻度でこの受信機ON状態を作ってしまいます。これが圏外で電力消費が非常に多くなる主な原因。「圏外ではサーチのために『電波を出す』ので消費電力が多い」と言うのは基本的には嘘です。電波を出さないはずの圏外で電力が増えるのは感覚的に納得できないことから、「きっとサーチのために電波を出すのだろう」と考え、このような俗説が生まれたのだと思いますが、実際は、「受信回路がONになる時間と頻度が大きくなるため」が答えです。

高速移動のときは、この考え方を一歩進めた感じ。携帯電話の基地局個々はある程度の範囲しかカバーしませんので、その範囲から出ると「受信タイミングの示し合わせ」が一端崩れます。その崩れたとき、端末はやっぱり同じように比較的長い時間受信回路をONにして「新しい基地局」からの電波を探します。だから、高速移動で基地局のカバー範囲を次々に渡り歩いていくと、そのたびに長時間の受信ONが生じるのです。また、もう一つ、これは圏外の解説でも書きましたが、特定のエリア(ページングエリア)をまたぐと、ネットワークへの再登録が必要になるため、そのときは送信回路もONになり(電波を発射する)、さらに大きな電力が消費されています。一瞬とはいえ、この辺も大きな電力増大要因。高速移動でバッテリが減り易くなるのはこの辺が主因です。

と言う感じで、携帯電話は無線機である以上、無線回路を積んでいますし、一定のエネルギーを放出する仕事をする送信機だけでなく、非常に小さなエネルギーを解釈可能なレベルに復元するという仕事をする受信機も非常に大きな電力食いであるため、圏外や高速移動での電力増加が起こる、と言うことになります。

その他、よく言われるのは、実際に操作している最中ではメイン表示パネルのバックライトなどがバッテリの持ちへの影響が大きいといわれます。これも無線回路と同じ、「積極的に外に光と言う形でパワーを放り出す」ことが仕事だからで、理屈上は「電磁波を大量に放出する装置」とまとめてしまえば、その消費電力が大きいことも納得できます(?)。

以上、携帯電話スペックの一つである「バッテリの持ち」を決める無線回路(受信回路)に関しての考察でした。でわ。

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2011/7/25 10:00 · 技術解説 · 1 comment
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1 Comment to “携帯電話の消費電力”

  1. ここは酷い改良型山びこ山ですね…

    それにつけても金のほしさよ やる夫とドラえもんの使えない秘密道具 第三十回 「やまびこやま」 http://snudge.blog38.fc2.com/blog-entry-1176.html たしかに改良型山びこ山は怖いw…

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