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2011/3/11 10:00 · 技術解説

今回のテーマはパケット通信の休止状態について。マニアックです。

パケット通信と言うのは、回線交換通信との対比で言えば、「いつもチャネルを占有しない」「必要なときだけ必要な手順でデータを送る」「いつ届くかあまり保証されない」と言うような性質のものです。必要なときだけチャネルを使う、と言う部分が重要で、だからこそ無線通信の世界でもパケット通信が主流になっています。

しかし、こと無線通信に関してだけは、パケット通信はそうそう簡単に実現できるものではありません。と言うのは、無線は相手と線がつながっていないため、相手がいるかどうかが分かる唯一の手段は無線送受信によるからです。相手に「自分はまだ通信してるっすよ」と伝えるためには無線チャネルをアクティブにして、何かデータを送信していなければならない=無線容量を消費しなければなりません。

基本的には、多くの無線パケット方式はこれを実際にやっています。データがあるときはそこそこまとまったカタマリのチャネルを(OFDMA/CDMA/TDMA上で)割り当て、そうでないときは、方式がサポートできる最小の無線リソースだけを常時割り当てることで相互に接続を維持しています。この「最小のリソース」は、ユーザデータ用チャネルと言うよりは制御用チャネルに近いことのほうが多いようです。

さて、「最小の割り当て」とは言っても、それが無線容量を消費することには代わりがありません。そしてもっと大きな問題は、端末の消費電力。常に何らかのリンクを維持しているということは、端末の受信機は常時電源ON、送信機も最小限ながらちょくちょく何かを送信している、と言う状態。こんな状態では、端末のバッテリはあっという間に干上がってしまいます。

そんなわけで、「ある程度受信機をOFFにしておける」「送信をほぼゼロに出来る」と言うようなことができないものか、と言うのが、どの方式のパケット通信でも課題として上がり、結果、どの方式も同じ解にたどり着きました。それが「休止状態」の導入です。

これはもう読んで字の如し、無線通信の状態を「休止」してしまうことです。休止を表す英語から「ドーマント」と呼ばれることも多いこの方式、用語こそ多少違っていますが、現役で活躍しているような方式ならまず間違いなく備えていると思って間違いありません。

具体的には、この休止状態になるときには、基地局はその端末宛の一切の信号送信をやめます。同時に、端末は受信機をOFFにし、それに伴って送信の一切をとめます。無線部分だけを見れば、通信を切断して待ち受けに戻ったような状態です。大体、無通信になってから十数秒から1~2分くらいでこの状態になるように設定されています。

そしてここがポイント、大抵の方式では、実際にこの状態、ほぼ待ち受け状態か、それに近い程度の動作しかしません。待ち受け状態とは、その端末が見るべき「ページングチャネル」を間欠受信している状態。同じように、休止状態の端末も、基地局からの信号を間欠受信しているだけで、つまりただほんのりと耳を澄ませているだけの状態です。この間欠受信タイミングは、実際の待ち受けと同程度の数秒の単位。受信機の電源が入っている時間は何万分の1と言うくらいにまで減ります。つまり、休止状態になれば、無線の消費電力は待ち受け状態と同じレベルとなるわけです。

ここから、再度データ通信を再開したいというとき、たとえば、端末の送信バッファに送信したいデータが入ってきたら、端末はそれを契機に基地局に対して「初期接続とほぼ同じ手順」で無線リンクの確立を行います。確立した無線リンク上で、「このリンクはさっき休止状態に入ったリンクですよ、さっきと同じ繋ぎ先を復旧してくださいな」と要求し、即座に通信を再開できます。休止状態では、基地局も端末も、無線の送受信こそ行わないものの、通信を行っていたという状態(コンテクスト)だけは保持しておくことで、休止した通信を即座に再開するわけです。

さて問題はここから。じゃぁ、インターネット、つまりネットワーク側から端末に向けてデータが落ちてきたらどうするの?と言う問題。たとえば、非常に処理に時間のかかるWEBアプリがあり、待ち時間の間に休止状態になっちゃった、その後で、処理が済んだデータが落ちてきたようなとき。基地局はデータが落ちてきたことを知ることが出来ますが、端末の送受信機がONになってくれないことにはそれを送ることが出来ません。

そこで使うのがページング。そう、通常の電話の着信と同じように、間欠受信中にも見えるチャネルに、トリガーをかけてあげるわけです。この場合のページングには「これはパケット通信再開のためのページングですよ」と言うような情報が載っていて、これを受けた端末はすぐにパケット通信チャネルを復旧し、それを受けて基地局は落ちてきたデータを端末に渡す、と言うことで、ネットワーク側からのデータ再開に対応します。

今現役のほとんどの通信方式が大体こういう仕組みでこれを実現しています。WCDMA、CDMA2000、LTEはもちろんそうですし、ウィルコムのPHSもこの方式(ただし昔ドコモがやっていた擬似PHSパケットだけはネットワークからの復旧に未対応でした)。また、WCDMAとLTEには、さらに「半休止状態」とも言える状態を持っていて、この状態ではページングよりもちょっと頻度が高いけど速度は遅い双方向チャネルを使って間欠送受信しながら消費電力を抑える、と言うこともしています(完全休止状態よりは消費電力は多いけど復旧のレスポンスも速い)。

モバイル用ツールとして「休止状態防止ツール」みたいなの(ひたすらUDPデータを送るような)がありますが、こういうのは消費電力を大幅に増すのでご利用は計画的に、と言うことと、最近スマートフォン向けアプリではしょっちゅう無意味なステータス確認を行うようなものがあり、こういうのが休止状態の有効性を台無しにしています。パケットを一発打つだけで十数秒から1~2分と言う時間、無線機はアクティブになってしまうんです。こういう動作を制限できないOS側にも「無線システム端末向けOS」としての自覚が足りないような気がします。

スマートフォン向けアプリ開発に無線通信にはあまり明るくない開発者が数多く入ってきたことがそれに拍車をかけているわけですが、何しろ無線機の消費電力はモバイル用CPUをフル稼働させているのに匹敵するほど大きいんです。軽い気持ちでパケット一発打ったら、それだけでCPUを1分フル稼働させているようなもの。でもそういう意識があんまり無いんですよね。

無線機をお休みさせてあげることはバッテリーの持ちに大変な効果があります。こういった休止状態がなぜ存在しどう有用なのかと言うことをもっと啓蒙すべきだと思ったりするわけです。ついでに、休止状態のパラメータも各事業者が公開したほうがお互いハッピーかも知れないんだけどなー、とか。と言うことで今回は休止状態についてでした。

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2011/3/11 10:00 · 技術解説 · 1 comment
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1 Comment to “休止状態(無線パケット方式)”

  1. […] スマートフォンというのは特にこの辺が面倒で、何らかのIPパケットのやり取りが発生しそうになると、自動的にネットワーク接続を開始(復帰)させようとします。スマートフォンではたいていはIP Always Onなので、IP接続の再起動ということはしないのですが、パケット通信では通信トラフィックがない場合は「休止状態」となっていて、これを「アクティブ状態」に復帰させる必要があります。ゼロスタート程ではないにしろ、この復帰手順でもそこそこの量の制御信号が必要とされます。これを、わずか数パケットを送るために定期的に起動されていては確かに制御信号の量は大変なものになります。 […]

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