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衛星についていろいろ書いていたら、衛星についての質問をいくつか頂いたので、今日は衛星のお話。と言っても、専門家ではないので、いろいろ間違っていたらご容赦を。

まず、具体的にどんな方式を使っているのか?と言うお話。これはもちろん衛星によっていろんな方式があり、もうほとんど「1衛星システムに1方式」と言ってもいいくらいに、みんな方式が違っています。もちろんそもそも衛星システムに乗り出せるほどの事業者となると相当限られるわけで、世界的に使われている衛星通信システムはそれほど多くはありません。

で、具体的な方式については、ほとんどは非開示なんですが、基本としてほとんどの衛星システムでは伝送重畳方式としてTDMを使っているようです。やはり、衛星システムと言うのはほとんどの場合非常に少数同士を結ぶもので、ぶっちゃけほとんどのシステムは1対1であることが多く、衛星は通信を中継するだけ、つまり「空にでかい鏡が置いてある」と言うくらい単純化されていて、ほとんどの制御を交換局が主導して行います。この中で、衛星として複数のリンクに対応している場合でも、それは、端末側に複数リンク、交換局側に複数リンク、それぞれをFDMとTDMで重畳している、と言う感じです。

で、そのTDMを実現する方式には大きく二つの方式があるように思われます。それは、「地上の有線通信方式の拡張」と「地上の無線方式の拡張」によるものです。

まず、有線通信方式の拡張。たとえば、伝送部分は独自TDMでも、SONET/SDHやSTM、普及しているATMのフレーム/セルをアドレッシング用カプセルとして使います。都市間の大規模ネットワークを結ぶ目的で用いられることが多いATMやSDHなどは、長距離を結び複数リンクを重畳、と言うことで、小さなヘッダとシンプルなアドレスによる小さなパケットを使うことで、長距離伝送時のパケットロスの被害最小化やスイッチでの処理負荷低減などが考えられていますが、これらはそのまま衛星通信でも求められるプロファイルです。と言っても、地上ではせいぜい数百kmのところ、静止衛星なら3万6千kmですからまさに桁違い。そのために、いろいろな工夫や拡張を施していることが多いようです。

またもう一つの、地上の無線方式を拡張するやり方。GSMやCDMA2000(のEVDO)を衛星通信向けに拡張した方式と言うのがあります(今のところ商用になっているのはGSMの拡張だけ)。この場合、元々が無線上での衝突を避けるように作られた方式であるので制御の仕組み上はそのまま使えて便利なのですが、一方、そういった方式は地上での短い距離(せいぜい数kmから十数km程度)の伝送しか想定していませんので、伝送プロファイルを大きく変更しなければなりません。もちろん、衛星通信ではまず不要なはずのハンドオーバや位置登録など無駄な制御もたくさん持っていますし、低遅延を前提とした無線区間での訂正や再送、少数の固定リンクが基本の衛星には不要な可変ペイロードなど、有効なペイロードを減らす無駄なオーバーヘッドが多いため、そういった機能のために用意されたさまざまな無駄な情報を削っていく方向での「拡張」も必要です。一般的なイメージの「衛星通信」ではこのタイプが用いられることはありません。持ち歩きができるタイプの「衛星ケータイ」がこのタイプのインターフェースを採用するようです。

あとハイブリッドとも言うべき方式もあり、有名なインマルサットなどは、伝送部分は独自のTDM、制御方式(メッセージ定義など)はUMTSを使う、と言うようなことをやっているようです。

さてこういった方式なのですが、では具体的にどのくらいの速度が出たりするのか、と言うことになると、これもまた衛星システムにより多種多様です。大雑把に言って、同じ時代の地上の携帯電話システムと比べると、周波数ビット効率が10分の1になるくらい、と言うのが私のイメージ。WCDMAで5MHz占有で2Mbps程度と言われている時代なら、衛星なら5MHzで200kbpsくらいかなぁ、と言う感じ。LTEで10MHzで100Mbpsと言う時代なら衛星で10MHzで10Mbpsとか。「遠さ」と「遅延の補償」が、その効率低下の原因といえます。

もう少し具体的な話で言うと、たとえば、いくつかの衛星インターネットサービスでは、128kbpsから上は数Mbpsくらいまでのサービスメニューがあるようです。昔は16kbpsの衛星回線でも「はやーい!」と言われるくらいだったので、衛星も相当進歩したようです。もちろん、衛星なのでダイナミック割当は苦手、ほとんどの場合は固定速度メニューとなっています(長周期でのダイナミックな割当幅増減を行うようなシステムはあるようです)。また、IPベースで多重化した完全なベストエフォートと言うパターンもあるようです(この場合は別々のIP宛パケットを含んだ同一ビームを全端末で受信しているっぽい)。

さて通信諸元はこんなところですが、一方、「空を飛んでいるので保守が大変では」「宇宙ゴミで破壊されるリスクが高いのでは」といったコメントも頂いています。

まさにそのとおりで、衛星が高額なのはそういった部分が一番大きいといえます。最近は衛星自体はコンパクトになってきたので、複数を一つのロケットで打ち上げるくらいは出来るのですが、一度打ち上げると手が届きません。なので、基本的に「寿命を延ばす保守」は不可能。設計上の寿命きっかりで衛星は終了です。もちろん、寿命の日になってみたら、意外とまだ姿勢制御用推進剤が残ってた、なんてことになれば、その時点で寿命を延長することも多々あります。ただ、それを最初から勘定に入れて償却費を積むわけには行きませんので、やはり単年で黒字を出していくには、衛星の利用料は高額にならざるを得ません。

また、宇宙への打ち上げは、なんだかだで不安定です。宇宙運送事業がまだ不安定な業界なので、打ち上げ費用は変動しますし、便が少ないので、一時期に集中的に「打ち上げ工事」を行うのも難しく(それをやるともちろん打ち上げ費用は跳ね上がる)、大量の衛星を必要とするシステムだと安定するまでの費用のかかる時期をどうやって乗り切るかと言う資本上の問題も出てきます。

衛星が不慮の事故で失われる可能性もゼロではありません。もちろん、衛星通信事業者はそういった事故に備えて、同じ程度のスペックの衛星を複数使って事業を行うのが普通です。もちろんそれぞれ別のサービスを平時は提供しつつ不慮の事故の際は残った衛星で失われた衛星の仕事を代替する、といった運用が必要です。また、イリジウムのように、あらかじめ事故で失われる分を補充できるように休眠衛星を余分に飛ばしておくということをやる事業者もあったりします。

ただ実際に、宇宙ゴミで衛星が失われる可能性と言うのは、非常に低い確率です。衛星はとにかく小さな標的なので、相当運が悪くないと衛星を破壊するほどのゴミは当たりません。イリジウム衛星がロシアの衛星に衝突したという非常に面白い痛ましい事故が起こった事例もありますが、それこそ何百年に一度くらいのレアな出来事です。

などなどのもろもろを勘定すると衛星システムは確かに高額になります。とはいえ、それは単に「高額」であるだけで、衛星だから特別にリスクが高いということではありません。むしろ、そのリスクさえも結局はコストに換算できている、と言うこと。地上の無線局でも、壊れたものは交換だし、交換のための装置を近くの倉庫にストックしておくというのは、予備の衛星を上げておく、と言うのと同じ。ただ単に、地上のものより「全損」になる確率が高く、予備の輸送料が非常に高額と言うだけで、根本的に何か構造が違うというわけではありません。逆に、1基上げれば非常に広範囲に一斉にサービスを開始できるため、潜在的なサービス加入者当たりのコストで見れば桁が違うほどコストが高いわけでもない、安いことさえあるくらいです。

地上と衛星だからと言って、大きな違いはないということなんですよ。ビルの屋上に置いた基地局、高い鉄柱の上においた基地局、広陵の上に置いた基地局、高い山の上に置いた基地局、成層圏に飛ばした気球においた基地局、宇宙に置いた基地局、これは、単にパフォーマンスと装置価格と輸送費と全損率などなどと言うパラメータが違うだけで、連続したものとして考えることが出来るはずなんですね。地上インフラだって、輸送費も予備費もかかっている(ただ割合が小さく目立たないだけ)わけですから。

と言うわけで、先の大震災で再び通信システムの多重化に感心が集まっている中、おそらく衛星も再び脚光を浴びるのではないか、と期待しているのですが、そこでやはり「衛星は特別!」と思ってほしくなくて、あくまで地上インフラの延長線上として「耐災害性の極端な高さ」と「極端な高コスト」が適度にビジネスベースで比較されると将来の発展にも繋がるので良い塩梅ではないかと思います。と行ったところで本日はこれにて。

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1 Comment to “衛星通信を考える”

  1. ここは酷い読書格差ですね…

    家系格差とか言う前に地域格差のほうがヤバいって – 常夏島日記 http://d.hatena.ne.jp/potato_gnocchi/20110814/p1 生涯所得を数千万円変える“本当の”情報格差/若者よ書を求め街へ出よ? – デマこいてんじゃねえ! http://d.hatena.ne.jp/Rootport/20110813/1313239682 目に見えにくい、子どもの“読書格差” – シロクマの屑籠 http://d.hatena.ne.jp/p_shirokum……

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