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2011/7/14 10:00 · 技術解説

無線通信、というかその他の有線通信でもよく使われる言葉に「リンクバジェット」というのがあります。今回はこの話。あ、例によって、定義上正確な話ではなく、あくまで概念的に理解し易いようにデフォルメしていますのでご了承ください。

リンクバジェットを一言で言ってしまうと、「通信の送信者と受信者の間にどれだけ『つなぐパワー』があるかを単純比較できる指標」です。つなぐパワーは、お互いに接続した無線機がぴったりくっつけておいてあったとき、その繋がっている状態に「どの程度の余裕があるか」を意味します。ここから無線機同士を徐々に引き離していくということは間に損失が挿入される、すなわち「リンクバジェットを消費する」と言うことを意味するので、リンクバジェットの数字はそのままつなげられる距離、つまり、ある技術とサービスがどのくらいのエリアで使えるのかを見積もることに使うことが出来るものです。

たとえば、PHSで基地局送信がピーク2Wで送信アンテナ利得16dBi、端末は受信アンテナ利得0dBi、周波数は1.9Gで、というのと、WCDMAで送信ピーク20Wで利得20dBi、受信利得は0dB、周波数は2Gで、といわれて、単純にどちらがより遠くまでつながるかを比較するのは難しいですよね。何しろ、根本の方式が違うので、単純比較できないのです。

ここでリンクバジェットという指標を持ってきます。このリンクバジェットでは、方式や技術が持っている「つなげるためのパワー」をすべて「dB」に換算してしまいます。たとえば、送信電力は単純に40dBmで送信しているなら「40dB」とか、送信利得もそのままで。逆にそれらと単位をあわせるために、受信側では受信感度をやはり同じく○○dBmの単位で出してそのままリンクバジェットに足す。こういう具合に、送り側と受け側の単位に気をつけながら、単純に「送る力」「受ける力」をdBに換算していきます。あとは簡単。全部足し算しちゃう。

WCDMAとかは拡散利得とか隣接セル干渉許容量とかいろいろとめんどくさいことがあるので式は非常に複雑になるのですが、そこさえクリアしてしまえば、あとはどんな方式だろうがまったく同じ単位で比較可能になります。たとえばある方式である電力で運用したときはリンクバジェットは150dBでした、別の方式である電力で運用したら140dBでした、となれば、前者の方式を使ったほうがエリアは10dB分広いんだな、と簡単に推測できます。あるいはある方式で下り(基地局→端末)が120dBで上り(端末→基地局)が115dB、と言う結果が出たら、上りが5dB足りないから、ちょっといいデバイスを持ってきて基地局の受信感度を5dBアップするとちょうどいいバランスですよ、なんていう検討にも使えるわけです。

さらにこの考え方の利点は、一端算出したリンクバジェットに、個別の技術を付けたり取ったりするのが簡単ということ。たとえば、違う周波数にまったく同じデータを送り、受信側で二つのデータを合成して誤りを減らす、という技術があるとすると、単純に二倍した分の利得(3dB)と周波数を変えていることによるわずかな利得を足して大体4dBくらいの利得が取れる、なんていわれます。すると、リンクバジェットに単に4dBを足せばよいことになります。どんな方式であっても。

逆に、従来QPSKで通信していたのを、速度を向上させたいので16QAMにしました、となると、信号のノイズ耐性は16QAMはQPSKの約半分ですから、ノイズが3dB上がったと考えて再計算する代わりに、3dB分のリンクバジェットを失う、と考えると楽です。つまり、最初のベースのリンクバジェットが得られれば、そこにいろんな技術を足したり引いたりしたときのエリア半径を見積もるのにちょうどいい指標ということです。

もっとすごいのは、たとえば、本当にデジタルデータの上だけの話として、パケットにエラーがあった場合に再送する、というプロトコルを定義したとしても、これを理論計算やシミュレーションでリンクバジェットに換算出来ちゃう、ということ。再送プロトコルがある分、データ自体に強度があるから、無線区間はもう少しだけエラーが多くなってもかまわない、という風に強引に換算しちゃう。たとえば、エラーが倍になっても通信できるような補償プロトコルを導入した場合、無線区間でエラーが倍になることに相当する信号劣化分(あるいはノイズの増分)に相当するdB値を、そのままリンクバジェットに足しちゃう。すると、「この再送プロトコルがあれば、エリアが3dB分よくなったことと考えることが出来る」と言う無茶な計算も成り立っちゃう。

いや、実際の無線回路設計のときにはこんなの考慮に入れちゃダメですよ(>本職の方)。でも、もう少し大雑把に、無線方式とかサービスとかに対して「これってどのくらい実用エリアを広げられそうかな?(限定されちゃいそうかな?)」ということを考えるとき、こういった再送方式とかも強引にリンクバジェットに換算しちゃうと、最終的なユーザへの見え方を考慮するときにとても便利、と言う話です。

さっきみたいに、QPSKだったのを16QAMにしてスピードアップ、というのもそうですし、それにたとえば「変調クラスをチャンネル埋め込みにして高速変調すると」なんていう効果もdBに換算しちゃったり、さらにコーディング(エラーが起きてもデータ復元が一定確率で出来るように処理をすること)を入れることで速度は30%落ちるけど利得が5dBとれるぜ、とか言うことを同じ土俵で議論できるようになります。

最初にも書いたとおり、リンクバジェットの数字はほぼ直接的にサービスエリアに変換できますから、いろんな技術を応用したサービスがあった場合、サービスごとにリンクバジェットへの影響を算出さえ出来れば、そのサービスの提供エリアを直接見積もることもでき、そうすれば、エリアシミュレータなどにその数字をぶち込むことで、一発でサービス提供エリアマップが作れてしまう、と言うわけです。

というような、広い意味でのリンクバジェットの数字を使うと、いろいろと便利なわけで、結構いろんなところでこういう使われ方をしているようです。今後、新しい技術が出てきたら、こういう「無理やり換算」をやってエリア見積もりとかをやってみるのも面白そうですね。

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2011/7/14 10:00 · 技術解説 · (No comments)
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