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2011/9/16 10:00 · 事業考察, 海外動向

直接通信のネタではないんだけど、通信とのコラボが期待されつつもなかなか普及しないシステム、電子カルテについて考えます。

電子カルテは、単に各病院でカルテを電子化する、と言う話ではなく、それをオンラインに置き、複数の病院が同じカルテを共有できるシステムのことを特に指すことが多いように思いますが、日本ではそういったタイプの電子カルテが全く普及しません。

電子カルテが実現すれば、病院を移るたびに診療情報提供書を抱えて右往左往する必要もないし、他の病院での治療・処方がすぐに参照できるので、それにあわせた治療計画を立てることが出来ます。しかし現状は、別々の病院で別々の治療をする場合、特にどちらかが全身性疾患の治療である場合は、処置や投薬のたびに患者自身が診療情報提供書を持って何往復もするハメになります。

マルチクリニック電子カルテが実現することによる恩恵は明らか過ぎるほどに明確なのに、なぜこれがいつまでたっても普及しないのか。考えるに、「有力な旗振り役がいない」と言うことに尽きるような気がします。

最近読んだある医療関係の記事によると、アメリカでは数百万~一千万人規模の病院間電子カルテシステムがいくつも稼動しているようです。もちろんそれぞれのシステム間での連携はまだ出来ないでしょうが、各病院の患者数とこの規模を考え合わせれば、数十から数百以上の病院で同じカルテが参照できるシステムがいくつも動いていることになります。

こういうことが日本でどうしても遅れているのはなぜか、と言うことを考えると、そこにはアメリカ独特の事情と日本の事情の違いがあることに気がつきます。アメリカは国民皆保険ではなく、個人個人が好きな健康保険会社を選んで加入する仕組み、と言うところがポイントのような気がします。

アメリカの健康保険会社は、財務上の要請と競争上の要請から、医療費を抑えるモチベーションが強く働きます。そのとき最も有効なのは、できるだけたくさんの治療記録を集めてコストが低く効果の大きい治療を見つけ出し、その治療に対する配分を大きくする、と言う戦略。もちろん、加入者の身体状況に対する保険料率の決定においても、できるだけたくさんの記録を持つことが重要になります。

となると、そういった治療や身体状況の記録が一まとめになっている情報源としては、病院のカルテこそが最も適したソースになりうるわけです。であるからこそ、多少の費用をかけても、加入者がかかるであろう病院に自社の電子カルテシステムを押し込んで、患者の電子カルテを一元管理しようと言うモチベーションに繋がるわけです。

これを日本で考えると、そういったモチベーションを起こすところがありません。保険料率はいろいろなしがらみでほぼ一律、対象治療と診療報酬は監督官庁が臨床試験に基づき決定し、負担額は横一線で競争要素はゼロ。これでは、わざわざコストをかけて健康管理に精を出そうという健康保険会社は現れません。

だから日本では監督官庁(つまり厚生労働省)こそが、電子カルテシステムを導入して保険負担を減らす「経営努力」をしなければならないはずが、返さなければならない借金も無く競争相手もいないと言うぬるま湯にいるためにそういった有用なシステムの導入に意識が向かない、と言うことになります。

で、なんだかだで通信事業者や電子カルテシステム屋さんなどが率先して電子カルテシステムの試運用をしていたりするのが昨今の日本の状況。といって、たとえば通信事業者などが旗振り役になりうるか、と言うと、やっぱりなりえません。

通信事業者は、そういったシステムから通信料収入と言う上がりがあることを期待しています。それを払うのは誰?ということ。現状問題なく運用できている病院がわざわざそれを支払う必要は全くありません。むしろ、「システム移行を嫌がる病院に無理やり電子カルテを押し付けてくれる旗振り役」が必要なはずなんです。当然その場合、旗振り役が最終的には通信料やシステム導入費などの一部または全部を負担することになるわけです。これを通信事業者自身がやることはありえないですよね。自分がもらう通信料を自分が払うってことですから。

だから、通信事業者や電子カルテシステム屋さん以外で、電子カルテを導入することで非常に大きな見込み利益が期待できる「旗振り役」が必要で、それが日本には存在しない、と言うのが、日本で電子カルテが普及しない最大の理由であると考えます。今後、病院単位でカルテをクラウド化するモチベーションは徐々に起こるでしょうが、「他の病院と共通にする」モチベーションは絶対に起こりません。自病院の過去のカルテとの後方互換のほうがはるかに重要ですから。あらゆる病院のあらゆる種類のカルテを包含できる電子カルテシステムなんてものを作れるとしても、そのあまりのインターフェースの複雑さにやはり誰も導入しないということになるでしょう。

ってことで、一般の通信市場が飽和しつつあり、M2Mと合わせて次のフロンティアかもしれないといわれることもある「医療」ですが、電子カルテの普及と言うのはなかなか進まないかもなぁ、と思いますのお話でした。

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2011/9/16 10:00 · 事業考察, 海外動向 · (No comments)
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