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2011/12/14 10:00 · 技術解説

よく聞かれる話なのですが、「電柱に電線がぶら下がって町中を覆っているさまはいかにも汚らしい、すべて埋めてしまえばいいのに」という観点があり、事実、こういった意見を取り入れて一区画を丸ごと埋設化してしまうような自治体も結構あるようです。

ということで、今日は、「線」が空中を通っているタイプの配線方式、つまり「架空線」と、地面の中に埋め込んだ方式「埋設線」について考えてみたいと思います。

大方の読者がこの時点で、どうせ保守派の無線にゃんが架空線を推す流れなんだろ、と予想をつけていると思いますが、えーと、その通りなので、まぁとりあえずは聞いてやってください(笑)。

まずはそれぞれを簡単に説明、というか定義づけ。架空線は、基本的にはよく見る「電柱に線をひっかけて引っ張りまわしたもの」ですが、加えて、高圧鉄塔などにぶら下がっている高圧送電線や、鉄道の高架橋の下にぶら下がって引っ張りまわされている通信線や電線も架空線と言うことができます。要するに要所要所で吊り、あとは自由にぶら下がっているような線。

埋設線は読んで字のごとく地面に埋まった線。ただこれも幅は広く、東京都心で整備が進んでいる超大規模な共同溝の中を這いまわっている線もあれば、本当に直径十数cmの配管だけが道路脇に埋められていてその中を通っている線など、規模にバリエーションがあります。もちろん、大部分は後者の小規模な埋設管による配線です。人が入れるレベルの共同溝というのはどちらかというとレアケースだったりします。定義としては、土壌・地盤と一体化した中空配管内に設置された線、という感じです。

さてこういうものなのですが、なぜ架空線が多用されるのか、というと、やはりその整備の簡単さです。

ある場所から別の場所に向けて架空で線を通すのであれば、その間の電柱のポイントごとに線をひっかけて後は張力をかけてぶら下げればそれで完成、というのは、とにかく工期が短く済みます。それに対して、埋設の場合は、少なくともどこか一か所を掘る、あるいはいつでも入れる穴をあけておく必要がありますし、また、通常は電力も通信も地上の施設に収容されているので、まずはそこで地中に入る、という手間があります。また、埋設管の中を通す、というのは、線の端を入れてそれを繰り出す、という面倒で時間のかかる工事となるため、早期にインフラを整備するという観点では明らかに不利だったりします。

そしてもう一つ、設備容量という面でも、差が出てきます。埋設管の場合、設備容量が「中空管の内径」によって制限されてしまいます。実際、管が狭いために新たに光ファイバを引けず、FTTHに加入できなかった、という人の話も聞いたことがあります。その容量を増やす場合、管が埋まっている全沿線を掘り返して埋めなおす必要がありますし、その場合はすでに管内を通っているすべての通信線・電力線をいったん停止せざるを得ません。あるいは、新たに管を埋めなおす必要がありますが、いずれにしても沿線すべて掘り返しです。

それに対して、架空線の場合は、架空線それ自身が自身の張力で線路を維持するものなので、たとえば重さで張力に限界がくる、ということがなく、容量に制限がありません。唯一容量制限となるポイントである「電柱の耐荷重」、しかし、この容量が足りなくなった場合は、電柱一本の単位で建て替えれば済みますから、万一の容量不足に対しても速やかに対応できます。実は私の家の近所でも、容量増加のために2本の電柱だけの建て替えを先日行っていました。

インフラの整備期では、こういった工期の短さ、容量増の容易さ、といった面から架空線が有利なのはわかるかと思います。一方、こういったインフラ整備期における架空線の優位を認めたうえで「日本のインフラは間もなく成熟期に入るのだから徐々に埋設に移すべき」という意見もあります。

実は、架空線には埋設線にないもう一つの、非常に重要な特質があります。それは、「地震災害に非常に強い」ということです。おそらく関東大震災からこちらの復興でも架空線が主力となったのも、この地震災害に対する架空線の強さが影響しているのではないかと思います。

地震災害の通信線への影響として、架空線に対しては「架柱・架塔の崩壊」「線の引っ張り断」の二つといえます。一方、埋設線に対しては、「断層」「地割れ」「地すべり」「液状化」という、コントロールしにくい面倒な現象がその相手です。

架空線にとっては、まずはともかくその支えている柱さえ倒れなければ大丈夫です。何より重要なのは、その柱と接している部分以外は「自由」ということ、つまり、線自体にはせん断・曲げ・ねじりが発生しないため(注:曲率無限大の近似で)、構造工学上もっともシンプルな破壊モードである「引っ張り」だけしか発生しないわけで、破壊の起こる可能性がきわめて低くなります。もちろん大きすぎる揺れで線の張力限界を超えたり別の建物の崩壊で線の途中がちぎられることもありますが、そういった場合でも、柱さえ無事なら線の張り替えは速やかに行われます。なので、耐震の対策を柱に注力することができます。

一方、埋設線の場合、管の強度をいくら増しても、断層や地すべりという現象に対しては完全に無力です。何しろ地震という圧倒的に強力なエネルギーに対して、人間の作る鉄管やコンクリート溝などがそれを支えることなど完全に不可能で、長い管路のどこかでこういったことが起これば一発でアウト。もちろん再生するためには大規模な土木工事が必要で復旧も遅くなります。

先の大震災でも、東北との通信線の断裂は、ほぼすべてが埋設された線に起きていて、空中を通っている基幹線(送電線併設基幹線や新幹線高架下設置の基幹線)は逆にほぼ無事だったようです。電力鉄塔や新幹線高架などは阪神大震災の反省から耐震性を非常に高く作っているため、震度6、7程度の揺れで崩壊することはなく、そのためにそれにぶら下がっただけの基幹網も無事だった、ということなんですね。一方、断層や地すべりという莫大なエネルギーの集中する現象に対して地面そのものを強化するということは現代の技術ではまだ不可能なわけで、地震災害への耐性という面では、自由軸方向に揺れを逃がす、という架空線の思想が優位だと思うわけです。

ということで、新たなインフラへの即応、という面での優位が認められることの多い架空線ですが、災害に対する強さでも架空線の優位がある、ということをここに主張させていただくわけです。えーと、予想通りの結論で申し訳ないですが、そういうことで、景観重視で安易に全埋設化、ということをする都市の多い中で、あえて架空線主力で耐災害性の強い都市を目指してみるものいいですよ、と、えーと、自治体の皆さんへ(話がでかくなってきた)。

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2011/12/14 10:00 · 技術解説 · (No comments)
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