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2010/12/9 10:00 · 技術解説

HSDPAやLTEやWiMAXで聞くことの多くなった、Hybrid ARQ、今日はこれを解説してみます。

Hybrid ARQ、今後HARQと略していきますが、最近、この技術がさまざまな無線方式で使われ始めています。ARQと言うものがそもそも「Automatic repeat request」の略で、通信路にエラーが起こったときに自動的に下位レイヤでデータを再送する仕組みの総称です。一般的なARQでは、何らかのひとかたまり(パケット)の受信でエラーが起こったときに、明示的まは暗示的にエラーが起こったことを送信元に通知し、失敗したパケットを再送信してもらう、と言う仕組みです。

このタイプのARQはさまざまなレイヤで技術が提案・実装されていて、身近なところでは、HTTPやFTP通信の下位で使われているTCPが再送機能を備えています。このほか、もっと上のレイヤのアプリケーションで実装されているものもあれば、物理層レベルで実現されるものもあります。

古い通信方式では、TCPに再送機能があることを理由に、伝送方式内にはARQを設けないものも多くありました。これは、古い方式では伝送速度が低く、結果として伝送フレーム内にARQのための席を用意するのが困難だったり、少しでもデータの伝送にビットをとっておきたいという要求が強かったためです。また、伝送方式が標準化された当時はまだチップの処理性能も低かったため、と言うこともあります。

その後、特に無線通信方式では、強力なデジタル処理でプアな伝送路を補償するという考え方が脚光を浴びるようになり、そのうちの一つとして当然のようにARQも取り入れられるようになります。

しかし、ARQには当然いろいろな難点もあり、特に大きいのが、再送により貴重な帯域を浪費してしまうことです。通常、無線通信ではプアな伝送路を補償するために結構強力なデジタル処理を施すため、たとえば冗長データを元データの2倍もくっつけて一つのパケットとします。となると、パケットを再送すると当然この3倍に膨れ上がったパケットも再送することになるため、帯域の浪費度は非常に大きくなります。

そこで考えられたのが、HARQです。先ほども出てきた、デジタル補償方式とARQの考え方を巧妙に組み合わせたもので、冗長データによる膨れ上がりと再送による帯域浪費を同時に抑えることが出来るため、まさに帯域が貴重な無線通信にもってこいの方式となっています。

具体的には、元データをまずデジタル処理(コーディング)します。このとき、何がなんだか分からないビット列が3組生み出されます(1/3コーディングの場合)。1つ目が、それ自身で元データを復元できるビット列で、2つ目、3つ目のビット列が、すべて冗長ビットです。

HARQでは、まず最初にデータを送信する際、1つ目のビット列だけを送信します。実質冗長ビット無しの元データみたいなものですが、それ自身がある程度のコーディングルールを持っているため、データが壊れていたらすぐに分かる、そういうビット列です。

受信側で、この受け取った1つ目のビット列を正常にデコードできたら、それでおしまい。伝送路の状況が良好なら、これ一発で送信は完了です。送信元には極単純なビットで「受信できました」と通知します。大抵の場合はこれで終わることになります。

問題は、この1つ目のビット列が壊れていた場合。ここで受信側は、この壊れたビット列を一旦自身のメモリーに保管し、送信元に対して「壊れていました」と言う情報を送ります。この「壊れていました」を受け取った送信元が行う作業が従来のARQと著しく異なっています。

「壊れていました」と言われた送信元は、その元データを丸ごと再送信しません。その元データから生成された冗長ビット、2つ目と3つ目のビット列を細かく(大抵は8分の1とかに)分割し、分割したうちのどれか一つだけを、受信者に向かって送ります。

受信者から見ると、再送信されてきたのは、元の8分の1の情報しか持たない冗長ビットです。しかし、受信者は最初に送られてきた壊れたビット列の情報も持っています。壊れたビット列とはいえ、通常は壊れているのはごく一部だけです。これを、追送されてきた冗長ビットの一部とつき合わせて処理すると、壊れている部分を特定し、さらに元のデータを復元できることがあります。

また、もし復元できなくても、「まだダメでした」と言う信号を送信元に送ると、送信元は「さっきとは違う冗長ビットの一部」を追送します。受信側はこの追加情報を加えてさらに壊れた元データの復元を試み、うまくいけばわずかな追送(再送)で壊れたパケットを復元できたことになるわけです。

これによって、最初に送るビット列を3倍コーディングしても1倍に抑え、再送も細切れの冗長ビットの再送にすることで非常に少なくすることが出来ます。たとえば、冗長ビットの分割数を8つ、平均1回の再送で処理できたとすると、8ビットを送信するのに9ビット分のリソースを消費するだけで済みます。もしこれが単純なコーディング+再送だとすると、8ビットを送るために48ビット(8ビットの3倍コーディングで24ビット、これが一回再送なのでさらに+24ビット)を消費することになってしまいます。

特に効果的なのが、伝送路の状態がよい場合から悪い状態の間で変動する状況。無線状態がよい場合には、HARQでは無駄なビットを使わずにデータを伝送でき、高いスループットを実現できます。徐々に伝送路の状態が悪くなっていくと、HARQ再送数が少しずつ増えるため、つまりちょっとづつ冗長ビットが増えていくことに相当し、「常に最適なコーディングレートを適用しているのと同じ状態」を自動的・自律的に実現してくれるという優れものです。

と言う感じで、HARQが効果的なのは、伝送路の状態が激しく変動する可能性のある無線通信と言うことです。これも非常に高性能のデジタル処理技術の発達の賜物と言えます。無線帯域の貴重性はこれからも変わらないものですから、今後開発されるあらゆる無線方式にHARQかこれをさらに発展されたものが採用されているものと考えられます。といったところで本日はこれにて。

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2010/12/9 10:00 · 技術解説 · 2 comments
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2 Comments to “Hybrid ARQ”

  1. […] This post was mentioned on Twitter by 睦月, 無線にゃん. 無線にゃん said: Hybrid ARQ http://wnyan.jp/178 […]

  2. […] また、こういうことをやっているさなかも、どんどん壊れたビットが端末に送られていくわけですが、この壊れたビットもHARQによって最大限活用され、かぶったから全部だめになりました、という状況を避けます。壊れたビットの数と再送の数で自動的に最適なSNRとビットレートのバランスを取る、というHARQの特徴があるので、あまり気にせずに「かぶったらかぶればー」という投げやりなやり方が成り立っちゃうんです。 […]

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