今日はHSDPAについて。HSDPAと言う言葉は既に「W-CDMA」の代わりに使われているくらいですが、実際はW-CDMAの中のオプションの一つとしての「高速パケットアクセス」技術なわけですが、それって具体的になんなの、と言うお話。
そもそもHSDPAというのは、W-CDMAの方式の基づいて、帯域(電力)を爆発的に使うことで高速通信を実現しようと言う方式です。W-CDMAでは、符号(コード)でチャンネルを分離していますが、その変調速度を最大にしたところ(あるいは「拡散率」を一番小さく(=16)したところ)が、従来のW-CDMAでの最大速度となります。たとえば、従来は384kbpsと言うところが現実的な最大値とされていました。
しかし、HSDPAでは、まず、変調方式を従来のBPSKから、QPSKや16QAMなどを使い、同じ変調速度での通信速度を2~4倍に高め、信号強度が弱くなる分は代わりに強力なエラー訂正(HARQ)を効かせることにしました。またさらに、一度に5つ以上のコードを同時に使うことで、たくさんのチャンネルを束ねてさらなる高速通信を可能にします。一度に15個のコードを使い、16QAM送信をすることで最大約14Mbpsと言われています。
ただし、端末自身にはこれを受信する能力が必要になります。CDMA系というのは元々符号分割された信号が他の信号の中に埋まっているのを掘り起こす、と言うことを常にやっているので、莫大な演算パワーを必要とします。これを、5本以上も同時に行うと言うのですから、処理量は大変なものになります。なので、当初からHSDPAでは、それほど処理能力の無い端末のために、コードの同時使用数を5個に抑えたり、受信タイミングのうち3回に1回だけ受信して、残りの時間を処理に費やす、と言うような「緩和機能」を組み込みました。この緩和の仕方を分類したのがいわゆる「カテゴリ」というものです。
例えば、カテゴリ5ないし6の端末では、3.6Mbpsを受信可能で、カテゴリ7ないし8の端末では7.2Mbps受信が可能です。
ただし一方で、この最大通信速度は、基本的には基地局にはさほどインパクトを与えない、と言うこと。そもそも基地局は、常に何十ものコードを連続して多重送信している化け物です。そのうち5個を同時に受信できる端末がいるから、その端末に5個を割り当ててあげる、あるいは10個可能な端末には10個を割り当ててあげる、と言う、ただそれだけの処理なんですね。基地局としては、元々何十ものコードを同時に扱えるし、処理速度としては少なくとも拡散率最小のチャンネルを15個同時に送信できるようになっているわけで、後は、消費電力や処理能力の限られた端末がどれだけの処理能力を出せるか、と言うだけの問題なんですね。
そういうわけで、基本的には、基地局インフラにはさほど手を加える必要なく、HSDPAは実現可能です。問題があるとすれば、地上系、つまりバックホール(基地局から制御局への線)で、ここを十分な太さに拡張しないとHSDPAへの対応は難しいと言えます。ソフトバンクの田舎でのHSDPA対応が遅いのは、基地局の対応問題よりも、このバックホール容量の問題が大きいのでは、と考えられます。
ついでに、HSDPAの拡張のHSPA+も触れておきますと、あれは、変調方式を64QAMに拡張したもの。16QAMの1.5倍のビット密度になるので、速度も約14Mbpsから21Mbpsへと1.5倍になっています。QAM系の処理チップって最近は最初から16QAM以上のQAM方式一式にざっくりと対応してあったりするものなので、「HSDPA用の基地局ボード作ったけど、これに載ってるチップって64QAMも可能なんだよなぁ、よし、規格つくっちゃえ」って感じで作られたもの、と思ってもあながち間違いではありません。基本的にはHSDPAの単純な密度アップ方式です。
さて最後に。HSDPAの「容量」について。HSDPAでは、先ほど書いたとおり「最大15個」のコードを束ねて14Mbpsあるいは21Mbpsを得られます。ではこの「最大15個」を理論上いくつ収容できるのでしょうか。これは、最初にちらっと書いた「拡散率」が関係してきます。拡散率はデータ通信速度に対してどのくらい「無駄に帯域を広げたか」の値です。逆に、これを「逆拡散」するときに、邪魔になる干渉波を相対的に拡散率分だけ小さく見せることが出来ます。たとえば、拡散率100だと、邪魔な干渉波は100分の1に軽減されることになります。
では、HSDPAの拡散率16で考えて見ましょう。このとき、あるコードの信号を取り出すために逆拡散をするとします。この取り出した信号の強さを便宜上「1」とします。一方、最大15個が重ね合わせられるので、残り14個はすべて干渉波です。この干渉波の強さは何もしなければ「14」です。しかし、拡散率16による逆拡散で、これが16分の1に弱められます。とすると、干渉波の強さは「14/16」になります。%で言うと信号に対して87.5%もの干渉波が存在することになってしまいます。もし「もう少し頑張ってみようかな」なんつって後2コードほど別セル扱いで追加すれば、干渉率100%、つまり通信が成立しなくなってしまいます。
そうでなくても、隣の基地局から送信されている電力は結構な強さで浸透しますので、余裕度「12.5%」のほとんどを食いつぶしてしまうでしょう。つまり、HSDPAにおいては、そもそも「束ねるコード数15」が現実的には最大であり容量上もこれ以上はありえない、と言うことです。
そんなわけで、次に出てきたのはDC-HSDPA、つまり、帯域そのものを倍使っちゃおう、と言う方式になるわけですが、これまでは仮に二つの周波数のセルがあったとしても、固定的に二つの周波数のどちらかを選んでいたようなものを、束ねて使ってダイナミックに振り分けるようにした、と言うことに相当するもので、要するにばらばらに使っていたコードをまとめて使えるようにしたHSDPA化と発想は同じですね。
最近はQC-HSDPAやDB-DC-HSDPAなんていう話も聞こえてきますが、この辺の技術についてはまた稿を改めたいと思います。それでは。
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