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2011/3/3 10:00 · 技術解説

以前にアクセス方式としてひとくくりに解説してしまいましたが、改めて、CDMAという物について解説してみたいと思います。

CDMAとは、符号分割多重アクセスと言う言葉の頭文字。普通に、この言葉面だけを見て、CDMAがどんなものなのかを正確に類推するのは難しいと思います。と言うのは、CDMAにはその前提となる重要な技術があるからです。

それが、「周波数拡散」と言う技術です。これまた難しい概念なのですが、以前、搬送波に関する解説でも書いたように、無線周波数をいじくると、その搬送波は「周波数方向の幅」を持つようになります。そしてこの幅は、おおよそ「載せるデータの通信速度」に比例します。このためかどうなのか、データの通信速度のことを「帯域幅」と呼ぶことが通信の世界では慣例になっているくらいです。

周波数拡散とは、この「幅」を大きく広げること。しかしなぜ広げるのか?と言うのは、これはそもそもの原理の話になってしまうのですが、たとえばある幅を持った搬送波を大きく拡散させることが出来るとします。これをそのまま受信して読み取るのであれば、単に拡散させただけ無駄な処理です。しかし、ここでもし「拡散したものを元に戻せる処理」と言うものが存在するとなると、話が違ってきます。

拡散された搬送波を元に戻す処理を施すことを「逆拡散」と言います。もう小難しいことを抜きにすると、この周波数領域の搬送波の幅を元に戻す、と言う処理をすると、事前に拡散の処理を受けていなかった他の信号は逆に「さらに拡散されてしまう」と言う不思議なことが起こってしまいます。と言うのが実は拡散と逆拡散は符号が逆なだけで同じ処理だったりするからです。

この不思議な性質、面白いことに使えそうです。ある信号をある処理で拡散します。これを他の人が読み取ろうと思って逆拡散をしようと思っても、最初に施された拡散処理を知らない場合、てきとーな逆拡散処理を施してしまってはさらに信号が拡散されて雲散霧消してしまうだけです。これだけで、拡散処理が一種の暗号として機能していることが分かるかと思います。

元々こういうように強力な暗号として拡散処理は目を付けられ、実は今でも拡散技術には厳しい輸出規制が課せられているというような代物です。

さてそこに加えて、たとえば、ある人(送信者1)が「ある信号」を「ある拡散手順」で拡散して送信します。同じ周波数で別の人(送信者2)も別の拡散手順で送信したとします。これがたまたま同じ受信者のところに同時に届いてしまった。この場合どうなるでしょう。普通、これは混信(干渉)を起こして、データの大部分が壊れてしまいます。

しかし、受信者がここで、送信者1がどのような拡散手順で拡散していたかを知っていたとしましょう。そのため、それに対する逆拡散手順も知っています。そこで、この同時に届いてごっちゃ混ぜになった信号に、この逆拡散手順を施すと、送信者1からのデータは逆拡散され、もともとのデータの乗った狭い搬送波に戻ります。一方、送信者2のデータはさらに拡散され、雲散霧消してしまいます。「拡散手順」が事前に分かっていれば、特定の相手からのデータを復元し、要らないデータを消してしまうことが出来てしまいました。同じようにすれば、同じ周波数に何人分もの信号を同時に送信し、それを受信側が混信せずに拾い上げることができるようになります。これこそが「符号分割多重」です。ここで言う「符号」と言うのが、今までの話の中での「拡散手順」に相当します。

「符号」と言うのはありていに言えば「合言葉」。送信する人と受信する人があらかじめ同じ合言葉(拡散手順)を共有しておけば、混信を防ぎ盗聴のリスクも減らして通信が出来る、と言うのが「符号分割多重」の意味と言うことになります。

実際には、スキームとしての拡散方式には二種類しかなく、一つが「直接拡散」、もう一つが「周波数ホッピング拡散」と呼ばれています。それぞれの拡散方式はそれ自身の中にさらに細かく「合言葉」を変える仕組みを持っていて、それは合言葉さえ変えれば拡散手順を変えるのと同じ、つまり「目的信号を取り出しつつ不要な信号を薄めて消しちゃう」と言うことができるため、同じ方式で合言葉を変えるだけでよく、つまり合言葉=符号を変えることでアクセスを多重化しちゃおう、と言うことから、符号分割多重アクセス=CDMAと呼ばれるようになったわけです。

こうなると、通常、同じ周波数、同じ時間帯に同時にデータを送信するということは混信の元でしかなかったものが、別の意味を持ってきます。何しろ、「符号」さえ変えておけば、同時に複数のデータを送っても、受信側できちんと取り出してくれるからです。そこで、受信する人それぞれに別々の符号を与えておいて、それぞれの符号を使って拡散したデータをごっそりと足し合わせて送っちゃえ、と言うことをやります。これが多重化。

たとえば、FDMAでは、ある搬送波の「幅」と、使える「全帯域幅」で、いくつの通信路を同時に確保できるかと言う上限が決まりました。TDMAでは、時間を細かく分けてそれを何人分で一巡するかと言うことを先に決めてしまう方式です。それぞれ、ある意味最初から「同時に利用可能な人数」は完全に設計できます。ところが、CDMAでは、どうやら違うようです。なぜなら、符号さえ変えれば他の人の信号は見えなくなってしまうのですから、符合をたくさん用意すれば用意しただけたくさんの人を区別できるようになります。符号の作り方なんてのは実はいくらでも融通が利くもので、言ってしまえば実際上は無限の数を分離することさえ可能です。

そして当然ながら、これは嘘です。無線通信は、と言うより「通信」というものは、「一つの周波数上で実現できる容量」に経験則上の限りがあることが知られていて、これはどんな方式を使ってもこれを超えることが出来ないといわれており、実際にそうらしい、と言うことまで分かっています。CDMAを使ったからと言って、この壁を打ち破ることは、残念ながらできません。

ではCDMAでは、一体何が制約となって上限が生まれてくるのか。それは、「受信波の強さ」です。先ほども書いたとおり、CDMAでは同じ周波数に拡散した搬送波をたくさん重畳して送信します。と言うことは、電波の強さそれ自体は単純に足し合わせでかなりの強さになっています。しかし、たくさんのうち、自分が受信したいのはある一つの信号だけです。そこで逆拡散によりその信号を復元し、他の信号を「さらに拡散」して打ち消します。ところが、他の信号一つ一つは弱い信号でも、大量に重なっていると相当な強さです。「さらに拡散」しても打ち消せない強さになってしまうことがあります。こうなると、せっかく逆拡散で強めた自分の目的信号よりも、薄めたはずのゴミ信号が強い、と言う状況が起こってしまうのです。このような状況が起こったときが「CDMA」の多重数の限界。つまり、「拡散する倍率」と同程度の利用者が同時に通信しようとすると、逆拡散効果の限界に達して通信が出来なくなるわけです。このため、拡散する倍率=「拡散率」はCDMA方式における最も重要なパラメータとされます。

たとえば拡散率が1000倍なら、1000人が同時に通信できます。しかし10倍なら10人しか通信できません。これは非常に単純化しているので実際はこれにさらにさまざまな利得が適用されこのとおりにはなりませんが、おおむね、拡散率と同時利用可能人数はこういう関係にあると思って間違いではありません。

こうなるとCDMAも生まれたその日から同時通信数の強い制約を背負ってしまうように思われますが、一般的に使われているWCDMAやCDMA2000ではもう一工夫してこの制約を大きく軽減する仕組みを取り入れています。聞いたこともあるかもしれませんが「電力制御」がそれです。

距離が近い人には弱めの電波、遠い人には強めの電波、こういう風にすれば、先ほどの「重ね合わせた強さ」を最小限にすることが出来ます。そのため、受信した人が逆拡散で目的信号を取り出せなくなる限界を少しだけ伸ばすことが出来ます。これのスグレモノなところは、状況に応じて自動で行われるため、全体としては常に最適解に近いところを維持できる、と言う点です。

また、CDMAでは、自分の通信相手が別の人宛に出した電波だけではなく、第三者同士の通信波(外からの妨害波)も、逆拡散で吹き飛ばすことが出来、第三者同士が近づけばある程度容量を削りながらも「全く通信が出来ない」と言う最悪の状態を自動的に避けてくれる、と言うありがたいご利益があります。これはFDMAやTDMAあるいはOFDMAでは得られない貴重な性質です。

第三者同士が近づくというのは、要するに「携帯電話の基地局同士が近づく」と言うことに相当します。CDMAでは、比較的容易に基地局同士を近づける、と言うことができます。もちろん、それぞれの基地局が出す電波はお互いが妨害波となるので、その場所では通信できる人数が減る(あるいは容量が減る・スループットが下がる)ことになりますが、その代わりにそれぞれの基地局からの電波が届かない範囲はお互いが埋めあう形になるため、きわめて密で連続したエリアを保つことが出来ます。

と言うようなのが、あまり参考書には書いてないけど私がこんなもんだよなぁ、と思っているCDMAです。いや、参考書的なCDMAの原理やらなんやらは本当に星の数ほど解説サイトがあるので、ちょっとこういう変な解説に徹してみました。といったところで、CDMAについてはこの辺で。

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2011/3/3 10:00 · 技術解説 · (No comments)
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