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2011/4/4 10:00 · 技術解説

ソフトウェア無線について、そしてなぜなかなか実用化しないのかについて。

ソフトウェア無線、略字でSDR(Software-Defined Radio)とも書かれることもある技術ですが、結構古い時代から概念は存在し、そしていきなりこの記事の命題とは逆行しますが、かなり古くから一部で実用化されていたりしました。

具体的に何をするのか、と言う点については、実はソフトウェア無線の「程度」によってまちまちだったりします。どこまでをソフトウェアで実現するか、によって、ソフトウェア無線がやることが違ってくるんです。この辺が、ソフトウェア無線について対話をしてもかみ合わなかったりする原因とも言えそうです。

究極的なソフトウェア無線は、デジタルプロセッサの入力端子にA/D変換器、出力端子にD/A変換器がついていて、それぞれの変換器の反対側にアンテナがくっついている、と言うもの。「何でも出来るソフトウェア無線機」のイメージは、この究極形から話がスタートします。

何をしているかと言うと、無線の物理的な波形を直接デジタル値にして、それを直接デジタル処理するということ。音にたとえると分かり易いですが、音を録音するとき、マイクから入った音を高速サンプリングして、波形データに変える、PCMみたいな感じで、瞬間瞬間の電波の波形の「形」をプロットしていくようなやり方です。そのようにしてデジタル化してしまえば、どんな処理でもやり放題です。

おそらくこれが最後に目指すところなのですが、これ、ちょっと考えてみると死ぬほど大変。いや、FMラジオくらいなら何とかなるんですよ、この程度でも。しかし、いろんな方式にソフトを変えるだけで対応できる、と言うソフトウェア無線が求められているのは、当然、携帯電話などの高速通信機器。こういうシステムは、数百MHzから数GHzと言う高い周波数を使います。電波の「波」が一秒間に数億~数十億あるということ。

その「波」の形をきれいに取得すると考えると、それより多いサンプリングが必要になることが分かると思います。一般に標本化定理として「周波数の倍のサンプリングが必要」とされていますが、元スペクトルが超短周期で変動する複数システム同居や超広帯域システムなどに対応するには、もっと多いサンプリング数がないと正しく復元できないはずです。サンプリング周波数は数GHz以上になってしまうことは避けられません。

それだけの超高速のA/D変換器があるかと言うとこれがまた非常に微妙で、そして加えて各サンプリング値が数ビットの大きさを持つので、A/Dからデジタルプロセッサ間に単純に数十Gbpsのバスが必要になります。もちろんデジタルプロセッサはこれだけのビット列を処理し、それだけでなくそれらをフィルタリングし検波復調し云々と大変な処理が待っています。これを、数GHzのオーダーでこなせるプロセッサ(しかもプログラマブル)はまだ携帯電話に入るような価格では手に入らないはずです。

そして、今さらりと書いちゃいましたが、問題は「フィルタ」なんですよね。これがそうそう簡単にはいかない。受信はともかく、送信に関しては、D/A変換でノイズの出ないきれいな波形を作るためにはそれだけきれいな波形データを作ってあげなきゃいけない。たとえば、変調時にある値から別の値に遷移するとき、普通にジャンプしたのでは、そこに大量の帯域外周波数を含んじゃう。アナログフィルタでは、そこを受動的に滑らかにすることで帯域外周波数をカットできるのですが、デジタルでその「滑らかさ」をエミュレートしてあげなきゃならない。でないと、大量の帯域外発射をアンテナから出してしまうことになり、当然各国の電波法規定に引っかかってアウトです。

これがどの程度滑らかにしてあげなきゃならないかは寡聞にして知らないのですが、もう先ほどの周波数の話の10倍とか100倍とかのデジタル値を与えてあげなきゃならない、そういうレベルなんじゃないかと思うんです。たとえば中心周波数1GHzに対して1MHz以遠にノイズを乗せちゃダメと言うフィルタなら、精度で1000分の1ですから、ジャンプ部分ではこの精度に近いサンプリング数が必要となり、つまり瞬間的に1000倍のサンプリング数(すなわち1000GHz)が必要ではないかと考えられます。アナログ受動素子を使わないとデジタル的にこれだけの手当てが必要と言うわけです。

受信ならその辺はごまかせるけど、送信では絶対にごまかしちゃいけないので、この「フィルターのエミュレーション」が出来ない以上、帯域も方式も自由自在、と言う究極のソフトウェア無線はいつまでたっても実用化できないんですね。

逆に、受信側はこの辺がいくらでもごまかしが聞くので、と言うか先ほども書いたとおり標本定理的には倍の動作速度があればよく、1GHz搬送波なら2GHzの動作速度のデジタル素子があれば何とかなります。実はこの辺、ダイレクトコンバージョン方式受信機と言う形でいくつかの方式で実用化もされています。受信波をシフトしてフィルタをかけて、と言う作業をする代わりに受信波をダイレクトにサンプリングし、そのデータを直接デジタル処理で取り出すため、たとえば複数搬送波を同時に取り出してそれぞれに載せられたシンボルを取得するなんてことも出来ます(ただし連続したある程度狭い帯域に複数搬送波が集中している場合に限る)。

とはいえ、やはり送信側はきわめてハードルが高く、まだまだ当分はアナログ受動素子に頼ったフィルタリングが必要で、と言うことは、送信方式・送信バンドごとに別々のアナログ素子を搭載するしかありません。いくつかの方式同士は同じバンドを共用し帯域外発射規定も似たようなものなので、同一アナログフィルタで同じアナログ発振子を使いその前段までは共通のデジタルチップで内部だけ異なる処理、と言うところまではできていますが、方式ごとに異なる発射規定であったりバンドがそもそも違っていたりと言う場合にはまだそれぞれに専用のアナログ回路が必要とされています。いくら受信が自在になっても、ごく一部の例外を除き無線通信は送受信が両立して初めて成り立つものですから、「ソフトウェア無線があればソフト書き換えでどんな方式も自在に搭載できる!」と言う時代はまだ程遠いといえそうです。

こんな感じで、実は受信技術としてはソフトウェア無線は割と普及レベルになっていて、送信側の対応が難しいために「何でも出来る究極のソフトウェア無線」が実現出来ていない、と言うのが実情かと思われます。もちろん割と簡単な受信側のソフトウェア化だけでも恩恵は大きいため、実用技術としては活用され研鑽されていくことが期待できます。

と言うことでソフトウェア無線についての解説でした。でわ。

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2011/4/4 10:00 · 技術解説 · (No comments)
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