HSPAとWiMAXとLTEを技術的に比較してみようというお話、二回目の今回は、主に通信速度のお話。ようやくです。
まず無線通信(というか実は有線通信もだけど)の原則として、「占有帯域幅」を広げれば通信速度も比例して上がる、と言うものがあります。とにかく、たくさんの帯域を消費すれば速度はいくらでも上げられます。基本的に、HSPAもWiMAXもLTEも、まずは帯域幅を広げる、と言うところから速度向上が始まっています。
それぞれが使っている帯域幅拡大技術は、HSPAが「周波数拡散」、WiMAXとLTEが「OFDM」です。実はこの表現にはちょっと語弊があるんですが、帯域幅を拡大するという意味では、これらがそれぞれの技術と言うことになります。
「周波数拡散」は、比較的狭い帯域幅の信号を無理やりに広い帯域幅に広げてしまう技術で、CDMA方式の基礎技術です。これにより、4~512倍(実際に使うのは16~256倍程度)ほどに帯域幅を広げて、5MHzを占有して通信を行うのがHSPAのベースであるW-CDMA方式です。
実際にこの方式で帯域幅を広げただけでは通信速度は上昇しません。しかし、拡散することによりデータの強度が極端に強くなることを活かして、同じ帯域幅の中に別のデータをのせることができます(このへんがCDMA)。この複数のデータ列をそれぞれ拡散したものを一度に使えるようにしたのがHSPAで、結果として帯域幅を広げることが速度向上につながっています。
さて、OFDMはと言うと、繰り返しになってしまって申し訳ありませんが、帯域を非常に小さな「サブキャリア」に分割して、それを何十何百と言う単位で束ねてしまう、と言う方法で広帯域化を実現します。サブキャリアは小さな単位なので、理屈上はかなり細かい単位で帯域幅を増減できますが、システムの簡便性のためにある程度使えるパターンを絞っています。LTEで最大20MHz、WiMAXも同じく最大20MHzが既に定義されていて、それぞれの高度化システムではこれを大きく広げる方向で標準化が進んでいます。
そして、HSPAでは従来は使いにくかった、高次の変調方式を使えるようにいろいろと手を入れることで帯域当たりの通信速度も向上させ、WiMAXやLTEはそれらの変調方式が使えるようになってきてから出てきた方式なので最初からそれらを採用し、帯域当たりの通信速度はかなり極限近くにまで向上させられた状態となっています。
そこからさらに通信速度を挙げる技術として「MIMO」があります。これは、アンテナを複数使うことで仮想的に何倍もの通信が平行に行われている状態を作るもので、また、通信路の推定がしやすくシンボル干渉が無いなどの特徴から(この辺詳細説明は割愛)、OFDMと非常に相性のよいMIMOはWiMAXとLTEの飛躍的な速度向上に役立てられています。
と言うもろもろを加え合わせて、HSPAで21Mbps(合計10MHz使用)、WiMAXで75Mbps(合計20MHz使用)、LTEで300Mbps(合計40MHz使用)と言うのが方式上の最大値で、実際にサービスされているもので言えば、HSPAは21Mbps(合計10MHz使用)、WiMAXが40Mbps(合計10MHz使用)、LTEが75Mbps(合計20MHz使用)が最大速度とされています。
実際のところ、それぞれうたい文句どおりの速度が出ることはまずありえないわけで、ユーザが一人だけと言う理想的な環境でも上記速度が出ることはありません。実際の環境では同じ周波数の中に速度を詰め込む技術が先に劣化していくため、大抵は「周波数幅当たりの速度はおおむね同じ程度になる」と言う方向です。ただし、WiMAXは周波数幅(正確には上下時分割幅)が上下非対称に分配される(下りの比率が大きい)ため、下り速度だけで言えば同じ状況でもHSPAよりも高速になる傾向があります。と言うことで、20MHzを使うLTEが頭一つ抜け出し、WiMAXがHSPAよりもやや早い程度か、と言うのが実際のところになると言えます。
と言うことで速度だけをざっと見てみましたが、また長くなりすぎたので、次回、「将来性」について考えて見ます。それでは。
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