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2010/11/25 10:00 · 技術解説

無線通信の基本的な話として、「無線機」と「搬送波」の関係を、改めて、なるべく初心者にも分かりやすく解説してみたい、と言うのが今回のテーマ。

無線機と言うと何を思い浮かべるでしょうか。なんとなくごちゃごちゃとした電子基盤の上に黒いチップがゴロゴロとおいてあるようなところを思い浮かべると思います。それはそれで間違ったイメージではないのですが、実際に無線機の基本的な構成をものすごくシンプルに言ってしまうと、(デジタル変調であれば)ベースバンド信号の入力、搬送波周波数の生成部、それらを掛けあわせる装置、そしてアンプとフィルターです。あ、それとアンテナも。

ベースバンド信号とは、0と1であらわされたデジタル信号で、あとは「空中に飛ばせる形に変換するだけ」と言う最後のデジタル信号です。無線方式に含まれるあらゆるデジタル処理がすべて終わった段階で、もうこれ以上いじることの出来ない最後のデジタル信号で、実際にこのベースバンド信号を直接空中に飛ばしてしまうなんていうとんでもない無線方式も存在したりします。

しかし実際には、ベースバンド信号と言うのは、いろいろと面倒な特徴を持っています。何しろ0と1だけで出来た信号なので、0と1が入れ替わる瞬間に(理論上は)無限大の周波数成分を持ってしまいます。一方、無線通信は許された周波数で許された占有帯域幅で通信しなければなりません。と言うことでここで「搬送波」の出番です。

搬送波は、一般的にはひずみの無いきれいな「サイン波」です。三角関数のあのサイン。周波数成分で言えば、ある成分だけが一つだけぴこっと飛び出ていて、それ以外の成分はきれいにゼロ、と言うのが理想的な搬送波。もちろん完全に理想的な搬送波と言うのはありえないのですが、基本的にはそのようなもの、と考えます。

で、後は、この搬送波と、先ほどのベースバンド信号を掛け合わせます。ただし掛け合わせるといっても単に掛け算をするわけではなく(もちろん単に掛け算をするような方式もあります)、ある種のルールに則ってベースバンド信号に従い搬送波を時間的にずらしたり振幅をいじくったり、と言うことをします。このルールを「変調方式」と言います。「変調」と言うのは、搬送波の「調」子を「変」える、と言う意味合いでこんな呼び方になっているわけです。なので、いくらいじくっても搬送波は搬送波。その中心周波数がずれることはありません。

しかし、いじくったことにより、「ある成分だけが一つだけぴこっと飛び出た」と言う特徴は失われ、いろんな周波数成分を含むようになります。基本的には、中心周波数を中心として周波数方向両側にぼんやりと広がってしまいます。このぼんやりと広がった部分も大切な情報なので、邪魔だからと切り捨ててはいけません。とはいえこれが無限に広がるのも困るので、ある程度、情報が復元できるくらいの幅を残してあとは切り捨てます。この幅を占有帯域幅などと呼び、切り捨てるためのものが「フィルター」と言うわけです(方式によりいろいろなタイプのフィルターが必要になることがあります)。

後はこのぼんやりした信号をアンプで増幅してアンテナに放り出せば、無事、電波は空中に飛び出します。受信はおおむねこれと逆のことをやっていると思えばよいです。このように、無線機では、なんにしても「搬送波」がいちばん重要で、基本的に「一つの無線機」は「一つの搬送波」と対応しています。搬送波が複数の場合は無線機も複数必要と言うことです。

さてここからはいろんな方式を考えたちょっとした追加説明。まずは、CDMAという方式。CDMAは「周波数拡散」と言われますが、拡散とはどのようなことかと言うと、この搬送波が両脇にぼんやりと広がる、その広がり程度を非常に大きくしてしまう、と言う方式です。具体的には、ベースバンド信号に超高速の「チップ」と言うランダムデジタル信号を加えちゃう。これを使って搬送波を変調すると、チップの高速さに応じてかなりぼんやりと拡がってしまいます。

ぼんやりと拡がっているけれども、もともとのベースバンド信号は割とキリッとした信号なので、いってみれば無駄な信号を大量に送っているわけで、しかし実際にはその「無駄な信号」、つまり「チップ」は最初から決まった情報なので後からその分を差っぴいてゼロに出来るため、そこに「余裕度」が生まれます。その「余裕度」の分、別の信号をまぜこぜにできるようになります。こうやって無駄な広がりを作ってたくさんの情報を同時に送れるようにするのがCDMAです。

では次に今をときめくOFDM。OFDMでは、以前に説明したとおり、周波数で分割された小さな部品=サブキャリア(副搬送波)を大量に束ねて通信を行います。ここで、搬送波を大量に束ねるなら、無線機も大量に必要ではないか、とお考えになるのは間違いではありません。しかし、実際には大量の無線機など積めるはずもないですから、ここで何らかの工夫をしてあげなければなりません。

OFDMでは、先ほどの「変調」を2回行うということで、これを実現します。もう少しきちんと書きますと、まず、サブキャリア単位でデータを割り振ってそれぞれ変調を行い、その変調信号(の束)を用意します。これを、一定間隔ごとの直交した周波数ごとに配置する、と言う処理を行います。この処理は実は比較的簡単な信号処理で実現できたりします(キーワード:IFFT, 逆フーリエ変換)。こうすると、これらの信号がそれぞれの副中心周波数に配置された信号を全部足し合わせた合成信号が得られます。

この合成信号に対して、先ほどと同じように搬送波を掛け合わせて、一つの搬送波に乗った信号を作るわけです。つまり、OFDMでも、一つの無線機に一つの搬送波と言う原則は崩れていません。OFDMでは、なんだか束にしたがばっと広い信号を、一つの搬送波にのせて、搬送波の中心周波数の周りにがばっと広い帯域をもった信号を送信する方式、と言うことです。CDMAと違うのは、無駄な信号で意味も無く広げたのではなく、最初からすべて必要な情報をのせていること。これで、CDMAよりも高い利用効率を得ることが出来るわけです。

「たくさんの搬送波が束ねられている」と言うイメージのOFDMも、本当の意味での搬送波は一つ、で、無線機も一つで済んでいる、と言うことです。単純に複数の搬送波を送受信するようなシステムよりもコストも安くサイズも小さくできていいことずくめ、と言うわけで、最近の広帯域システムといえばOFDM、と言うことなんですね。

と言う感じで、無線機と搬送波のイメージを解説してみました。質問など常時受け付けますので、たまったらまた似たようなテーマでお送りしたいと思います。それでは。

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2010/11/25 10:00 · 技術解説 · 2 comments
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2 Comments to “無線機と搬送波”

  1. […] This post was mentioned on Twitter by 山田志門(Shimon Yamada), 無線にゃん. 無線にゃん said: 無線機と搬送波 http://wnyan.jp/150 […]

  2. […] デジタル通信であれば、以前に書いた無線機と搬送波に書いてあることで終わりです。0と1で書かれた最後の信号、後は変調して空中に飛ばすだけ、と言う状態の信号のことを「ベースバンド信号」と呼び習わすのが通例です。 […]

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