九州大学などが地下街無線LAN化に成功と言うニュースについて、何がすごいのかよく分からないので解説して欲しいというご質問をいただきましたので、今日はこのネタです。
ニュースの内容としては、無線LANで地下街をカバーするために必要なケーブル敷設コストなどを大幅に削減したというもので、そこに使われた技術は無線バックホール技術である、としています。
これは簡単に言えば、ある無線LANのスポットからの電波を隣のスポットが利用することでケーブルを使わず、無線LAN同士を数珠繋ぎで地下街をみっちりとカバーできたんですよ、と言うことになるわけですが、これの何がすごいのか、大学まで技術協力するようなことか、と言うのが不思議なところ、と言うところなのですが。
正直に言うと、私も何がすごいのかよく分かりません。が、この技術が、「別にそんなにすごくない」「けど実地実験としてはレアなシステムで貴重なデータを取れる機会である」と捉えればさっくりと謎が解けます。
大学が協力、というのは、要するに、研究室の大学院生たちが新しいメッシュ接続用のアルゴリズムを開発した、それをどこかで実地実験したい、と言うお話だと思うんですよね。で、あちこちに声をかけて地下街カバー計画を立ち上げ、実際にアルゴリズムを適用したアクセスポイントでメッシュネットワークを作ってみました、と。そうすると、アルゴリズムの有用性や問題点などのデータがごっそりと取れます。このデータがあれば学位論文も安泰、めでたしめでたし、と。
さて、大学の協力の話はおいといて、そもそもの技術としての無線LANメッシュネットワークは非常に古い考え方で、とはいえ、フィールドでこれを実現した例はほとんどない、と言うレアなものです。というのも、こういったネットワークが今まであまり必要とされていなかったからなんですよね。ケーブルを引っ張りまわすほうが楽で信頼性も高いし。そういう意味で、大学にとっては貴重な実地検証機会で、ニュースにもなったのかなぁ、と思います。
さて、さっきからメッシュメッシュと言っていますが、これは要するに数珠繋ぎ方式のこと。ただ、単に数珠繋ぎにするのではなく、いくつかの隣接アクセスポイントが見える場合、そのどれとの間でリンクを持つのか、実際のパケットをどれに対して送るのか、などなどをダイナミックに制御できるものをメッシュと特に言うことが多いようです。
たとえば、有線接続されたアクセスポイントAの周りにアクセスポイントB、C、Dを置き、B、Cの隣にE、Fを置く、と言う場合、Eは固定でBに接続し、Bは固定でAに接続する、と言う手動設定であれば、これはもう実に簡単で、個人でも組めるネットワークです(ただし干渉を避けるため周波数の設計はある程度必要)。同じく、Fは固定でCにつなぎ、Cは固定でAに、と言う要領で。
ただ、これがもう少し遠くになり、たとえばアクセスポイントGは、E→B→Aと言うルートとF→C→Aと言うルートどちらも選べる、と言うこともしばしば起こります。ここでもし固定でE側につなぐと、当然ながら中継する中途のE、BはF、Cに比べて負荷が大きくなります。そこで、メッシュネットワークでは、Gは、EとF両方につないでしまい、ランダムあるいは何らかの情報(たとえばACKパケットの遅延量など)に基づいてパケットを送る先を自律選択するようなことを行います。
この利点は、もしBの負荷が一時的にものすごく高くなった場合、それを検知したGが即座にF側の利用度を上げる、などの制御が出来ることです。もちろん、中途のアクセスポイントが落ちた場合も同様。信頼性の低い2.4G無線LANだからこそ、メッシュ的に複数のルートを選択可能にしておくことが、無線をバックホールに使うときに必要になってくる、と言うことです。
おそらく、今回はこういった形でのネットワークが出来た、と言うことではないかと思います。もちろん、ダイナミック制御と言うよりは、一応複数リンクを持っておいて、どちらかをアクティブに設定し、もしアクティブ側がパケットが流れなくなったら自動でスタンバイ側にパケットを送ることで通信が落ちないようにする、と言うような簡単なアクティブスタンバイ方式ではないかと思います。
もちろんこれはすべて推測ですが、現実に無線LANでべったり面的にカバーしようと思ったら、やはりメッシュネットワークの活用と言う選択肢は避けて通れませんから、このタイプの機器が一般に出回り始めたら、広い地下鉄駅や地下街などでの無線LAN環境が劇的に向上するかもしれませんね。
はじめまして、いつろうと申します。
9年ほど前に、少しだけ基地局設計施工踏査などをしていました。
いつもサイトなどを見させていただいております。
このピコ・メッシュですが、WAN側?が独自規格で接続されて動的に制御される….という話を「くりらじ」というPodcastの特番(教授を招いていた)で聞きました。
今探してみたのですが、見当たらないですね~。
九大側には2008.3にインタビュー、と出てました。