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2012/1/18 10:00 · ニュース解説, 技術解説

さて、雨後の筍・・・とかいうと失礼なのかもしれませんが、携帯電話事業者が今年相次いでLTEを開始すると発表。しかも、ずいぶん前から用意していたドコモ・KDDIはともかく、LTE開始を発表して間もないソフトバンク・イーモバイルがすごい速さでLTEをサービスインすることについて、なぜそんなことになっているかの考察。

いや、これはもう古い携帯電話システムをある程度知っている人なら、そんなに「ちょっとやってみる」みたいに始められるようなものじゃないはずだ携帯電話システムというのは、と思うはずなんですよね。とにかく携帯電話システムは鈍重で融通が利かないものが多いんです。

たとえば、LTE未満の携帯電話システム、WCDMAやCDMA2000では、まず、携帯電話基地局と基地局制御装置が別の位置においてあることが一般的。別の位置になくても、その間には、各方式に独自のインターフェースが一つ切ってあります。それぞれのインタフェースがこれまた独自の性能要求を持っていたりします(たとえばきっちり1ミリ秒グリッドで動作しなきゃならないとか)。ということは、その独自インタフェースに対応したハードウェアとミドルウェアとOSが必要になります。つまり、ほぼ0からハードもOSもソフトも設計・開発しなきゃならない。これが、制御装置とかだけじゃなくゲートウェイとか認証装置とかもろもろに同じように面倒な事情が乗っかっています。

しかも、インフラベンダごとにその作り方は独自なので、あるベンダから買うものをほかのハードで流用できないわけで、ほとんどの場合、インフラベンダの言い値でハードを買わされる羽目になります。何しろ、インフラベンダが「売ってあげない」と言ったらお手上げなわけで、事業者は良いカモです。

もちろん、インターフェースがすべてぶつ切りなので、その階層ごとにそれぞれ独立した一つのネットワークを維持管理しなければなりません。しかもそれらすべてがこれまた異なる性能・品質を求めるようなものを、です。

こうなると当然値段も保守費も大幅に上がってしまうため、一つのシステムを持ったらもう一つ別のものを持つというのは、よほど体力がない限り難しい。業界3位とはいえ決算書ベースではKDDIをすでに凌駕した2位であるソフトバンクでさえ、複数システムの維持はあまりに重い課題で、ちょっと前まではLTEに手を出しあぐねていたというところがあります。

にもかかわらず、言ってみれば零細事業者であるイーモバイルでさえあっという間にLTEを始めますみたいな話になっているのはどういうことか、ということなんですが、要するに、上で書いた問題点がすっきり片付きつつあるんですよね、最近。

LTEインフラのもっとも大きな特徴の一つが、「IPフルフラットネットワーク」です。つまり、一つの大きなIP網の中に、加入者管理サーバも移動管理サーバも接続ゲートウェイもそしてすべての基地局さえもが対等に参加するというシステム。IPであるが故の「遅延揺らぎ」「パケロス」などを許容できる設計。これは究極的には「IP」というたった一つのインターフェースにすべての装置が相乗りできるということを意味します。

当然、従来はいろんな独自インターフェースを事業者が自分で定義しなきゃならなかった「運用・監視系ネットワーク」も同じIP網に乗せることができます(VPNくらいは切るでしょうけど)。要するに、「とりあえず全国カバーできるIP網いっこ」を用意して、あとは必要に応じて装置を買ってきてぶら下げればとりあえずはLTEが動いちゃう。

また、LTEになってから、インターフェースのベースがすべてIPであるため、汎用のサーバ装置、汎用のOSがそのまま使えるようになる傾向が強いようです。なので、ハードとしては一般的なハードを一括で買い、その上に乗せるソフトウェアだけでLTEの各ノードを実現する、そういうやり方が通用するようになっているようです。極論すれば、基地局でさえ半分はこの方法で作れなくもありません(もう半分は無線出力を担う部分=RRH)。

こうなるとソフトウェア技術の強い会社が基地局の無線部分以外について汎用サーバに乗せられるような「LTEノードアプリ」としてガシガシと作って提供できるようになります。自然競争も激しくなり、かなり安く「ノード」を入手できるようになります。そのため、零細(失礼)のイーモバイルでさえ、とりあえず現在のWCDMAネットワークのコアあたりに使っているIP網上にVPN一つ切ってLTE各ノードを何も考えずにぶら下げるだけでLTEがサービス開始できちゃったりするわけです。

また、一番面倒な無線部(RRH)に関しても、最近のものはマルチテクノロジ対応が一般的です。つまり、同じRRHでWCDMAもLTEも出力できる、というものです。意識せずにマルチテクノロジ対応のRRHをすでに展開済みであれば、その根元にLTE基地局(の半分を実現するソフトウェア入りサーバ=BBU)を追加で置くだけで何となくLTEっぽいものができちゃう。これが、LTEのすごいところなんですね。

ソフトバンク(というかWCP)のLTEもほぼこの発想で、PHS用IP網に汎用LTEノードをガシガシぶら下げただけだと思われます。加えて、アンテナはPHS共用(もともとXGP対応のため1.9G/2.5Gデュアル化済み)。だから、あとは併設できる小さな基地局装置を買ってきてばらまけば完了です。

という感じで、LTEは、ネットワーク事業者に非常に優しいシステムになっているわけで、そのあたりが、最近すごい速度で新事業者がサービスインできている理由かなぁ、と思います。いや、究極的には、LTEの全ノードを一台のサーバの中にソフトウェアだけで仮想的に実現する、なんてこともできるようになるかもしれず、そうなったらいよいよ事業者の負担は軽くなります。既存事業者がレガシーネットワークとの連携をする限りこれは絵に描いた餅ですが、今後、周波数さえある程度手当できれば、こういった究極的な集中管理ネットワークによる超閉域LTE事業者、なんてものも出てくるようになるかもしれません。

ということで、LTE整備が楽になってきてるっぽいよ、という考察でした。

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