前回:フィクション連載「震災の日」~ある携帯電話事業者社員のつぶやき [14]
会議室は8階で一番広い会議室みたいだけど、半数以上は立ち見。でっかいスクリーン。
スクリーンに「震災対応臨時基地局説明会」ってある。新型っていうか臨時局ってことね。
説明始まった。
衛星を使った基地局。衛星は海外のインターネット用の衛星らしい。インターネット経由でVPNを張って基地局とセンターの間をつなぐっていう計画らしい。
当然、衛星の遅延とインターネットの揺らぎやパケロスがあるので品質は相当悪いらしいよ。
げっ。基地局ってフェムト局かよ。まぢで。
元々フェムトはIP通信ベースで使う様に作られているので、インターネット衛星経由で使うのにちょうどいいらしい。逆に、それ以外のタイプの基地局はすべてイーサ直結とかじゃないと使えないんだってさ。
「新型基地局」の全体図面がお目見え。鉄製?のフレームをガチャガチャと組んで、片側の端っこにちょっと高いポールとその上の防水ケース入りフェムト局、もう一端に衛星アンテナ、その下に防水ケースに入れた衛星モデム。
真ん中に鎮座するのはディーゼル発動発電機。
避難所とかの必要とされている場所にピンポイントで置いて行って通信を確保するとのこと。可能であれば社員が常駐してサポート、足りない部分は定期的に巡回してチェックと燃料補給、って感じで行くらしい。
資材リストと簡単な組み方、接続図が配られる。まぁそんなに難しくない作業だけど、衛星の方向調整が難しそう。衛星の設置に関しては衛星事業者が配ってる設置マニュアルの丸コピー。
質疑応答。って言っても、まぁどっちにしろわかんないことだらけだからねぇ。とりあえず現地に行ってから考える、とのこと。
資材の手配についての質問。今日時点でフェムトは準備できてるけど衛星アンテナが足りないので、とりあえずフェムトだけ運搬、衛星アンテナはある分は届けるけどそれ以外は第二便以降で追って送るとのこと。
説明会終了。担当者の電話番号とアドレスをゲット。この人、過労で倒れちゃわないよね。徹夜で臨時局の検討してたみたいだよ。
運用センターに舞い戻ってまいりました。
着くや否や急いでビル裏の専用駐車場へ行けとのこと。長旅の準備もして、と。あ、もう戻ってこれないのね。
下着やらなんやらは現地調達するとして、じゃぁ財布とケータイ持ってれば大丈夫かな。トイレいっとこ。
すでに準備中。乗っていく社用車はいわゆるミニバン。後ろの席を全部倒して運搬用フレームを押し込んでいるところ。ちょっと手伝おう。
フレームと、持っていく荷物の押し込み完了。
荷物は、電源線たくさんと同軸線たくさんと光ファイバたくさんと鉛バッテリーいくつか、それと飲み物と食べ物たくさん。そうか、向こうじゃこういうのも手に入らないのか。
そしてケータイ充電器たくさん。避難所からの要望品、さっき思い出したので運用ルームのパントリーにあるやつをありったけかき集めてきた。
いろいろチェック完了。いくらチェックしても何が足りないのかもわからないけど。行ってみるしかない。
ん?あれ、偉い人・・・あぁ、社長だ。
「突然で大変だとは思いますが、今東北で困っている人たちに通信を届けられるのはあなただけです。会社のためでなく、被災者の皆さんのために頑張ってきてください。
「出来ることがあったら承認一切不要、私が責任を持つので思いつくままにやってください。どんな些細なことでも言ってください。私が全力で用意します。
と言ってもらったのが社長のケータイ番号とアドレス。名刺に書かれているのとは別だそうで。
なんかちょっと目頭が熱い(笑)。
全員への個別の社長激励が終了。いよいよ出発します。
出発。東京に帰って来られる日は未定。だけど、ちょっとだけ、東北で頑張ってきます。では、いってきまーす。
【フィクション連載「震災の日」~ある携帯電話事業者社員のつぶやき】はここでひとまず完結とさせていただきます。震災から間もなく一年。あの日、こんな感じで頑張ってくれた携帯電話屋さんがきっといたんだろうな、ということを思い返していただければ幸いです。それではまた。

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