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2012/4/18 10:00 · 事業考察

最近のMNPキャッシュバックの多額化にはあきれるものがありますが、「ああいったキャッシュバックの資金はどこから出ているのでしょうか、1000円に満たない基本料からペイするとは思えません」というご質問をいただいています。今日はそのキャッシュバック(=販売奨励金=インセンティブ)の話を、昔も書いたような気がするけど改めて。

まずは誰でも知ってる話をあえて書くという実験から。インセンティブとは、新規加入回線を獲得することで、キャリアが販売店に支払うお金のこと。1回線獲得でいくら、という単純なもの以外に、その回線の○ヶ月の平均利用料が○円以上だったらいくらとかオプションをいくつつけたらいくらとか10か月後まで回線売上がある限りいくらとか、とにかくいろんなやり方でインセンティブが支払われています。

販売店は、そういったインセンティブがもらえることをあてにして、端末を値引きすることになります。昔なら単に端末の値引きでよかったんですが、最近は、キャリア自身が分割払い頭金ゼロ、みたいな売り方を主流にしてきてちょっと様子が変わっています。端末を値引きできなくなっちゃったんですね。とはいえ、他店に差をつけてたくさん売りたい販売店は、じゃぁ値引きできないならいっそキャッシュバックしちゃおうぜ、ってことになるわけです。と言ってもインセンティブの額は横並びなので、結局どこの販売店でも同額のキャッシュバックが、ってことになります。

インセンティブを出すキャリアは、他のキャリアとの獲得競争という視点から、販売店に支払う額を決めます。上のように店舗間の競争があるので、たくさんインセンティブを積めば自動的にたくさんキャッシュバックなりで実質値引きをしてくれるわけで、キャリアが単純に獲得数競合に勝とうと思えば少しでもたくさんインセンティブを積もうとするわけです。

また、インセンティブ額によって獲得数そのものを調整している、という話もあるようで。他キャリアがインセンティブを大量に積んで獲得攻勢に出ているときは、むしろその週は捨てて別の週に重心をずらす、みたいなこともやることで、コストを押さえながら最大限の獲得数を得る、ということをやります。

さらには、単純な純増数競争よりもMNP移動数が(宣伝効果的に)注目されることも増えたため、特にMNPに多量のインセンティブを積むことも増えています。特に今はauがMNPを重要指標としてMNP獲得にめちゃくちゃすごいインセンティブを積んでいるようです。近所のケータイショップでも、auへのMNPで6万円キャッシュバックとか書いてあって腰を抜かしました。

さて、こういう様に、獲得、そしてその結果としての加入者数、純増数やMNPトランスファー数を稼ぐために行われているインセンティブですが、その原資は、となると、まぁなんつーか、ぶっちゃければ「会社の口座にお金があるから」ってことなんですよね。回線そのものの収支とかは特に気にしていない、ってこと。その口座のお金はそもそもは既存ユーザが払った通信料ですから、あえて言うなら、ほかの人が払った料金がインセンティブの原資です、ってことになりますが。

前にもちょっと書きましたが、回線一つ単位の収支を気にするような個別最適をやるのは、競争環境に身を置く会社の施策としては下の下。戦争に例えると、新たに占領地を得た時、その占領地から得られる収益のみでその占領地の守備隊とその隣への攻撃隊を維持しようとするようなもの。そうじゃなくて、普通は、全領土から得られる収益を攻撃すべきところ、守備すべきところに適正に配分するものです。それと同じ。お金に色がついてるわけでもないし名前が書いてあるわけでもないんだから、全収益の中からどこに注力するか、という全体最適でものを考えない会社は確実に落ちぶれます(落ちぶれた会社の例・・・旧ウィルコム;苦笑)。

実は、ちょっと前、ほんの数年前までは、全部のキャリアが、回線単位の収支に固執していたんですよね。ARPUがこのくらいで、○円のインセを出したとき解約率が○%だから○ヶ月で回収後○円のプラスにまで持って行ける、みたいな考え方をしていたっぽいんです。それを盛大にぶち壊したのがソフトバンク。

ホワイトプランが出た時、「そんな金額で収支がプラスになるわけがない」とソフトバンク以外のすべてのキャリアが考えていました。どうせ自滅するからほっとけ、と。しかもインセンティブを大量に乗せて獲得攻勢する姿を笑ってさえいたそうです。

結果を見れば明らかなとおり、ソフトバンクはそうやって獲得した赤字覚悟の回線からなる顧客基盤の上に、いろいろな施策を打って見事に全キャリア中トップの収益成長率、利益率を実現しました。回線ごとの収支なんていう個別最適に固執する考えを打破し、「顧客基盤を確立するフェーズ」「ブランドを確立するフェーズ」「収益を拡大するフェーズ」などなどと時節に適した全体施策を打って成功を収めたわけです。笑われるべきは、本当の競争における戦い方を知らないどころか笑い飛ばしさえした古臭いキャリアたちです。

今でこそ、回線ごと収支を無視して、「今ある会社のお金をどこに入れるか」、という考え方が広がりつつあるようですが、それでもソフトバンクほど割り切っている会社はほかにはなさそうです。それはもちろん、オーナー社長会社かサラリーマン社長会社か、という違いもあるとは思います。株主の手前、「今年は顧客基盤の大幅拡大のため戦略的に赤字を出します」とは言えないですが、株主が自分であればそういうことも可能なわけで。一時期、ソフトバンク資金ショートで潰れそうみたいな騒動もありましたが、そういったことも孫先生は戦略的に行っていたことが今になればわかるわけで、まぁありていに言って経営の天才なんだよなぁ、ってことなんですけど。

話がずいぶんずれてしまいましたが、そんなわけで、そもそも「1回線ごときに関係するインセンティブ(キャッシュバック)の出元は気にしない、即解約による大赤はもとより長期的にも1回線という単位でペイする必要さえない」というのが答えになりそうです。要するに会社の口座にお金さえあればいい、ってこと。そういうことをさせるとオーナー社長で天才の孫先生率いるソフトバンクは非常に強いですが、まぁ最近ようやくドコモもKDDIも目が覚めてきたのかなぁ、って感じです。まぁそれでも株主が衆愚化している限りは思い切った施策は取れないんでしょうけどね。以上、インセンティブから考えるキャリア戦略の話でした(そうなの!?)。

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2012/4/18 10:00 · 事業考察 · 1 comment
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1 Comment to “奨励金の源流は”

  1. ty2096

    (試金石となる財産を多数保有して)部門採算性を取ってたSonyと、会社全体単位で収益を計算していたApple(MacintoshとNewtonしかなかったのかな?Jobs再就任当時は)。その結果が今にきっちり現れてますね。

    勿論それだけでないことは確かですが、そういう時代なのでしょうね。時が経てばまた新たな手法が必要になるかもしれません。

    SoftbankとAppleの違いは、誇大宣言なのがBank。本当にその通りなのがAppleだと思ってます。Appleもいくつか問題要素を抱えてるということは、なんとなーく把握してますが。

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