前回:フィクション連載「震災の日」~ある携帯電話事業者社員のつぶやき [04]
とりあえず会議での説明が一段落。災害対応マニュアルだけでは全く歯が立たないので、ベンダから直接障害切り分け情報をもらいながら作業をするための打ち合わせとのこと。
顔を合わせたことの無いベンダ同士もいるし、当然ながらお互いに秘密保持契約を結んでいないベンダ同士もいるけど、残念ながら今はそんなことをいっている暇は無く。とりあえず口頭で後日NDAを遡上で結ぶことを約束してからのお話。
状況説明。500くらいの基地局が「行方不明」、7棟の収容局が同じく「行方不明」、停波は最低で1500局ほどらしい。東北センターとの間の通信がようやく安定したため、携帯電話の本格的な原因調査と復旧を試みるとのこと。
NDD東日本の局舎消失情報もあり。少なくとも5局が「消失」。光・銅線の総延長少なくとも200kmくらいが行方不明。
メモ。D社交換機はスイッチボードとMPUボードそれぞれに30個、11個のプロシージャで回復試行と調査を行う。E社IPルータとスイッチは42個のプロシージャで。
以上のプロシージャをすべて試して、それでもダメなら、収容局舎が「物理的に」か「電気的に」消失していると判断。復旧手順は24個。
メモ続き。A社基地局に関しては31個のプロシージャで回復・原因調査、B社基地局に関しては75個のプロシージャ。A社の制御局は115個のプロシージャ。B社制御局は77個。C社CSスイッチは12個のプロシージャ。
以上のプロシージャをすべて試して、それでもダメなら、基地局が「物理的に」か「電気的に」消失していると判断する。
伝送路についてメモ。光区間に関してはメディアコンバータが保守IPでアクセス可能なので、各メディアコンバータの稼働状況を3つのプロシージャで確認。マイクロ区間に関しては、他社携帯電話回線を使った監視端末が付属しているので専用端末でコールを試みる。
銅線系は伝送路手前端のモデムから線路抵抗情報を取得して全断判定。だけどここはNDD東に調査を依頼するので、実際にやることは、調査依頼票をひたすら発行すること。同じく、当社設備をコロケしているNDD東局舎すべてに対して調査依頼を発行して状況把握。
以上。分かっちゃいたけど、これをあれだけの行方不明局すべてに対してやっていくって、無茶もいいとこ。でも誰かがやんなきゃならないんだよなぁ。
とりあえずベンダ担当者はサポート要員として落ち着くまで常駐。当社社員にて手分けして作業を行うことに。まずはリストの450番台から10局が自分の割当。
1局目。収容交換局について、最初の手順がまず通らない。保守IPが見つからない。分かっちゃいたけど。
同収容交換局の交換機全ボードに到達不能。ルータも到達不能。収容局全落ち確定。収容伝送路コードから該当光回線のメディアコンバータにアクセス、手前側は生きてる。この交換局は光回線の断か完全な停電と判断。
同交換局に対する復旧手順24個の試行を開始。
最終手段、他社携帯電話を使った保守回線復旧にも失敗。圏外で到達不能。他社ネットワークもめちゃくちゃにやられているみたい。判定は「局舎全断」。現地復旧が必要なリストに放り込む。
2局目。1局目と同じ収容交換局なので確認手段スキップ、1局目と同じ扱いへ。3局目も。いずれも行方不明になったのは18時頃らしいので、局舎のバッテリ切れかなぁ。
4局目はちょっと違う地域っぽい。交換局が見える。生きてる。ひゃっほい。しかし、そこから先、基地局の保守インターフェースに入れない。
地震発生頃からの当該基地局に関するログリストを表示。普通は便利なフィルタツールとかがあるから楽に見られるんだけど、今は生で見るしかないので、300行くらい出てくる。やんなっちゃう。
とりあえず地震が起きた時刻は生きていたことは確認。その後、いくつかの音声呼とデータ呼をさばいていることも確認。でも15時30分頃にパタリとログが途絶えている。
手順に従ってバッテリアラームの有無やアンテナVSWRアラームの有無とかを確認するけどそういうのはなし。他いくつかの条件を確認して、判定結果は「通信線破断」。
地震が起きて40分後に通信線がプッツリって・・・ちょっと背筋が寒くなる。本当に津波がこんな局の線をちぎるようなところまで駆け上がったの?データ見ると一応海岸線から1kmくらいのところの5階建てマンションなんだけど。架空・地下の線がちぎられたにしても、結構内陸なんだけど・・・。
5局目。局舎が見えませーん。
5局目も判定は「局舎全断」。
あれ、もう11時だ。そういえばNHKも見ていないから何がどうなっているのかさっぱり分からないや。原発はどうなったんだろう。津波はどうだったんだろう。
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