前回:フィクション連載「震災の日」~ある携帯電話事業者社員のつぶやき [03]
担当の埼玉南部、呼量の減りが安定してきているように見える。ネットワークへの影響が少ないなら、なるべく顧客インパクトを減らすために早め早めで規制を解除してあげたいところ。
こんな広域の災害は初めてだから、今後どんなパターンになるのかあまり良く分からないけど、各々の判断でやっちゃって良いって言われたよね。このくらいならちょっと規制緩めても大丈夫だよね。大丈夫かな?大丈夫だよね。よし、やっちゃうぞ。ぽちっ。
ぽちっと言っても、専用のGUIなんてインストールしている暇なかったから、コマンドラインで入れるんだけどね。き・せ・い・り・つ、6・0・%・に・ダ・ウ・ン、っと。Enterターンっ。
データの収集は10分に1回しか取れない(それでも平時の数倍のペースだけど)から、結果が出るまでしばしまて。こわいなー。
あー。なんだこれー。
おーおーおー。
先ほどのオペの結果、予想通り呼量は急増、だけど、危ういところで平時のピークアワーを下回るレベルでストップ、一安心。でもレベルの低いアラームが出てる。なんだろ。
大宮辺りの局が2局ほどチャネル使用率80%超えしちゃったのが警告が出てたみたい、でも、完全に溢れたわけじゃないので大丈夫。多分。でもアラーム一覧画面の黄色マークアラームログは恥ずかしいかも。
運用の部長が助っ人エリアに紙束を持ってくる。どうやら先ほど引っ掻き回して見つけた原発事故対応マニュアル。10部ほど印刷してきたから、次の事態に備えて、少しでも手空きのある人はちょっとずつ読んでおいて欲しいとのこと。重いよ。重すぎるよ。逃げたい。
埼玉の呼量は再び落ち着いてきた。
原発マニュアルを読んでみたけど、大雑把に言うと、「関係省庁からの電話口を確保せよ」「事故原発近辺から避難せよ」と言う以外はたいしたことは書いてない。ようするにどうしようもないから逃げろってことか。まぁそうだよね、たかがケータイ屋が出来ることなんてそんなもん。
東北のほうからのアラームが響く回数は再び小康状態になってる。落ちるべき局はほぼ落ち終わったという感じかな。というか、これほど長く停電し続けるなんて全く想定外。一体どこがどう壊れているのやら。
停電断で落ちちゃった局は、5000くらいらしい。停電前に「消えた」基地局は500くらい。会議スペースの机椅子を全部片付けて巨大な紙(B0が4枚分くらい?)に東北のエリアマップが印刷して広げ、リストを見ながら止まった局に印をつけつつ、それにより電波が届いていないであろうエリアを手作業で調べている。
一応、即座にエリア再計算するシステムはあるんだけど、これだけ大規模なさまざまな理由による停波なんて想定していないので、停波局の入力やエリア外になってしまったエリアのマークと理由のマークなんてのは、その準備だけで何日もかかるだろうし、手作業で確認するのが一番速いのかな。
少し前に時間ずれを伴ってバタバタとたくさんの人が入ってきた。ネットワーク装置ベンダの担当者諸氏の模様。どうやら21:00ちょうどから、全ベンダ+当社による運用対策会議を開くということ。
公共交通全滅状態でどうやら歩いてきたらしい。この時間にここに来たってことは、ここに泊り込む覚悟なのかな。
なぜか会議に呼ばれた。担当エリアが落ち着いているなら別のオペも手伝って欲しいからって。行ってくる。
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