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2011/10/24 10:00 · ニュース解説, 技術動向

先日、ドコモが災害対策用の大ゾーン局を展開するというニュースに関して、ご質問を頂いています。

曰く「基地局→端末の電波は届いても、端末→基地局の電波が届かなくなったりしないのか」「セルエリア内に大量の端末が含まれることになるがそれだけの同時接続に耐えられる技術があるのか、もしあるならそれを普通の基地局に適用できないのか」。

まず第一の問題、電波が届くのかどうか。これは、前に技術解説でも書いたリンクバジェットの考え方が必要です。つまり、「無線回路設計」です。

無線回路設計では下りのリンクバジェットと上りのリンクバジェットを計算し、それがきっちり平衡するようにします。下りのリンクバジェットが大きすぎれば基地局のパワーを落としたりして調整するなんてことをします。その前提で、この大セルが出来るということは、きちんと上りと下りのリンクバジェットがバランスできる条件になっているといえそうです。

通常、狭いセルの下にいる端末は、規定で定められた最大パワーを使うことはほとんどありません。相当な余力があるのが普通です。なので、まずは単純に、WCDMA規格の中の電力制御だけで上り下りの不均衡の大部分を是正することが出来ます。

また、もう一つリンクバジェットで重要なのは「受信感度」です。受信感度と一言で言ってもその中にはいろんな要素があり、無線デバイスの本当の受信感度にくわえて、ダイバシティ受信などの受信技術で受信感度を積み増しすることも出来ます。

受信感度の最大の敵は、自己干渉。機器自身が出すさまざまな電磁ノイズが受信機に回り込んで受信感度を下げること。これを防ぐことは実は簡単で、そういった回り込みを避ける非常に高級な設計にすれば良いわけです。もちろんこれは大変なコストになりますが、この大ゾーン局採用の部品は災害用専用設計の特注品で単品コスト度外視で作っちゃおう、と割り切るだけでOK。要するに災害用大セルでは非常に高価なデバイスと非常に高価な設計を使うことで受信感度を極限まで高めて、上りリンクバジェットの不足を補っていることが想像できます。

と言うことで、要するに、非常に高性能の電磁気回路を使うことで、端末→基地局の電波の通りが悪くなる可能性は防げます。元々、基地局って結構たくさん使うものなので、受信感度はある程度妥協してコスト低減するものですが、コストさえかければ受信感度はいくらでも上げられるわけで、この大ゾーン局のような実質一品もの(と言っても全国100台ほどありますけど)は相当お高いものを使ってもコストインパクトはさほど大きくありません。

次に、セル内にたくさんの端末がいることによる問題。残念ながら、こればかりは解決法はありません。いくら基地局の処理能力を高めても、信号干渉比とエラー率の関係は崩せません。信号干渉比、つまりSIRは、ある端末の信号が、他の端末の信号の合計に対してどの程度の強さか、と言う値。つまり、端末の数が増えれば、単純にこの比率は落ちていきます。

SIRは、理想的な電力制御が出来ていて、10台いれば1/10、100台いれば1/100です。一方、エラー率とは、無線上のビットが劣化・干渉などの原因でどの程度潰れて読めなくなるかと言う比率。単純比例ではありませんが、SIRが増えればエラー率も増えるという単調な関係がありますし、情報理論上の限界値も明らかになっていて、それ以上の通信品質は物理的に絶対に得られません。

つまり、どんな技術を使っても、宇宙の法則を崩せないのと同じ理由で、究極的に同時に通信できる端末の数を増やすことは出来ません。もちろん通常はその前に基地局の装置処理能力の限界のほうが先に来ちゃうわけですが、東京みたいな超密集地であれだけの大セルを動かせば、物理的な限界が先に来る可能性も十分にあります。

現実には、やはり「緊急じゃない通信にはご遠慮いただく」と言う原則で運用するんじゃないかなぁ、と思います。緊急通報と優先端末以外にはかなりきつい発信制限をかけるという感じで。WCDMAなのでサイコロ方式ではなく循環方式、利用者からみれば、一定時間ごとに一定の確率で発信できるチャンスをもらえる、と言うことになります。

元々、携帯電話のシステムって、セル(基地局)一個で10kmとか30kmとかをカバーする前提で作ってあるんですよね。その前提は最新の仕様の諸所にも痕跡を残しています。現実には、デジタルデバイスが極端に値下がりしたため、安い無線デバイスを使った安い基地局で小さなセルを多数並べたほうがコスト的にも容量的にもお得という状況になったので、1セルが1~2km以下と言うのが一般的になっています。別にドコモの超大ゾーン局、無線方式的にはイレギュラーでもなんでもなく、むしろクラシカルでオーソドックスな使い方なわけで、容量以外に関しては無線技術的には難しいところはありません。

まぁそうは言っても、日本のような過密都市ではビル陰などの不感地帯が多発するため大ゾーンセルは通常サービスには向きません。あくまで緊急用として、こういった超大ゾーン局ですっぽりと覆っておくというのは一周回って面白いアイデアだと思います。

ってことで、ドコモが大ゾーン災害対策セル展開についての解説でした。

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