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2012/4/4 10:00 · 技術解説

LTEに関して、次のような質問をいただきました。「セルラーシステムでは繰り返し数を用いて、複数周波数を繰り返し利用するのが常套手段と言いますが、LTEに割り当てられた周波数では繰り返しに必要な最低限の数「3」を実現できないように見えます。どのようにして周波数繰り返しを実現するのでしょうか。」

実は私もWiMAX/LTE/他OFDMを勉強し始めのころは、この辺を疑問に思っていました。で、それに対する一般的な回答に対しても懐疑的にならざるを得ず、なかなか答えにたどり着けなかったものです。ということで、その辺の流れを追うようなお話になりますので、詳しい方には退屈な話になるかも。

そもそもの無線システムでは、同じ周波数を同じ時間同じ場所で使っちゃダメ、という前提があり、セルラーシステムでは、それを解決するために、隣り合った基地局同士は違う周波数にする、という人為的な設計をすることになっています。これがいわゆる周波数繰り返しです。基地局の電波到達範囲(セル)を円形と考え、さらにこれを6角形で近似した場合、作図してみればわかりますが、最低限三つの周波数があれば隣り合った周波数が同じにならない面を無限に構成できます。

その後、CDMAという方式が出てきます。CDMAでは、同じ周波数同じ時間であっても、「拡散符号」が異なっていればそれを雑音扱いして除去できるという便利な技術。特に、拡散率が高ければそれに比例して除去できる雑音レベルも高くなります。誤解覚悟で簡単に言えば、拡散率100倍なら、所望信号の100倍の強さの雑音さえ除去できる、ということになります。

こうなると、隣り合った基地局で違う周波数を使う必要はなくなります。隣から来る信号は全部雑音扱いして除去できちゃうからです。このため、CDMA系の方式では、「単一周波数ネットワーク」が主流となりました。もちろん、それでも強すぎる干渉波は隣接セルの容量減という形で害悪となるため、アンテナチルトや電力の設計は必要でしたが、周波数繰り返しのためだけに周波数帯域を自ら無駄にすることは無くなります(全割り当て周波数を全エリアで一斉に利用可能)。

で、LTEです。LTEはOFDMを使います。OFDMでは、古い方式と同じく、同じ周波数・同じ時間・同じ場所で使うことでお互いが電波をつぶしあうという方式に戻ります。となれば、当然ながら、周波数繰り返しによるセル間干渉の防止が必ず必要になってくる、ということです。

OFDMセルラーシステムの教科書ではこのことに触れ、「・・・であるから、OFDMの周波数領域をいくつか(三つ)に分割し、セルの端っこ(境界)近辺ではその分割した中の一つしか使わないようにして疑似的に周波数繰り返しを実現しつつ、セルの中心付近では全周波数を使ったフルスペックの通信が可能なのである。」と説明しています。簡単に言えば中心近くにいる端末向け(弱電力送信)と端っこ近くにいる端末向け(強電力送信)で、周波数をフルに使えるか2/3をマスクするかを制御することで端っこの干渉を避けるのである、みたいなことをいうわけです。

一度は納得しかけたのですが、現実にはこれは不可能だとすぐにわかります。なぜって、セル形状はきれいな円形じゃないからです。建物のない大平原でもない限り、ほとんどの場合、セル形状はいびつになります。特に都会では複数のセルの電波が迷彩模様のようにひしめいていることも多くなります。そんなところで、「セル端は2/3をマスクすれば干渉しません」なんていわれても、ちょっと信じられません。分割する周波数領域の数をもっと増やして、綿密なシミュレーションと測定の上に割り当てポリシーを決めて、干渉の可能性のある伝播距離(電力)に関して厳密にマスクしていく、なんてことをやる必要が出てくるはずですし、そんなことをやっていると、おそらくはフルスペック(全帯域)を使えるエリアは基地局の直下の数十メートルだけ、ほかはフルスペックの10分の1が関の山です、なんていうことになることは容易に想像がつきます。

しかし、LTE業界(笑)ではどうも、そういう周波数領域の分割での疑似繰り返しなんぞを使わずに、しかも単一周波数でべったりとカバーできる、という前提でいろんな物事が進んでいます。なんかおかしい、と思ったわけで。

ってことでそろそろ答。LTEでは、マルチアンテナの実装が「必須技術」とされているんですね。また、MIMOのためのストリームのコード化も必須。となると、この「コード」と「マルチアンテナ」を使うことで、結構低いSNRでもちゃんと復号できちゃうみたいなんです。-3dB~-6dBとかいう低いSNR(実質、所望波が干渉波の半分以下)でも、なんだかほどほどに通信できちゃうみたいなんですよ。

で、結局、隣同士の干渉に関しては、そのマルチアンテナとコード化による耐雑音性能をあてにして、「ちょっとくらいかぶってもいいや」ってことで、単一周波数ネットワーク化しているみたいです。おおざっぱな話として。

また、もう一つ重要なお話として、LTEでは、周波数領域と時間領域、両方で非常に細かい単位でのリソースのスケジューリングができます。セルの端っこで、隣のセルからの干渉を受けてちょっと品質悪いんですけど、とレポートしてきた端末に対して、周波数領域をちょっとずらして、これでどうっすか、みたいなことができるんです。つまり、閉ループでの周波数ホッピングもどき。同じことをを隣のセルでもやるので、結果として、お互いが違う周波数領域を選ぶことになる、これが、同じ周波数を使いながらも、実質の割り当て領域がかぶらないで済む、一つの仕組みになります。

また、こういうことをやっているさなかも、どんどん壊れたビットが端末に送られていくわけですが、この壊れたビットもHARQによって最大限活用され、かぶったから全部だめになりました、という状況を避けます。壊れたビットの数と再送の数で自動的に最適なSNRとビットレートのバランスを取る、というHARQの特徴があるので、あまり気にせずに「かぶったらかぶればー」という投げやりなやり方が成り立っちゃうんです。

いずれにしても、デジタル処理技術が異常なほど向上したことが、かなりおおざっぱなやり口での単一周波数ネットワークの実現に寄与しています。生粋の無線屋から見ればかなり悔しい状況(笑)なはずですが、無線上の細やかな工夫よりもデジタルでの力技の方が今のところは優勢、ってことですね。

ということで、LTEでは単一周波数ネットワークが可能であるため複数周波数による繰り返しは不要、なぜそれが可能かっていうと、なんだかいろいろなデジタルチートをやって同じ周波数で隣同士になってもなぜかうまく行っちゃうから、みたいなのがお答えとなります。怪しいけど、どうもうまくいくらしいんですよね。

以上、LTEが単一の周波数でも面的カバーできるのはなぜの巻でした。

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2012/4/4 10:00 · 技術解説 · 1 comment
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1 Comment to “LTEと周波数繰り返し”

  1. yuki

    遅くなりまして、申し訳ありません。
    納得致しました。感謝しています♪
    これからも頑張ってください( ´ ▽ ` )ノ。
    応援していますっ!!

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