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2012/4/6 10:00 · 技術動向

ご質問をいただいていて、「基地局の装置をそのままにモジュールを交換するだけでLTEに換装できる的な話をよく聞きますが、そんなことは本当に可能なのでしょうか」というものに関して、何となく、実はあまり詳しくないんだけど、基地局の話をしてみたいと思います。

携帯電話の基地局の機能は、おおざっぱに三つくらい。「制御局とお話しする」、「無線ベースバンド処理をする」「RF(無線周波数)送受信をする」、という感じでしょうか。これに関して、ちょっと踏み込んでみます。

制御局とのお話は、光ファイバか何かの物理インターフェースと、制御局と話すための上位プロトコルからなります。制御局からもらったメッセージによる内部的なイベントを、ベースバンドモジュールに教えて、あるいは、ベースバンドモジュールから制御局にこういうことを伝えなさい、ともらったメッセージを送る、そういうことをやります。これは、ベースバンドと一体化されているのが一般的な気がします。

次にベースバンド。移動機との間の制御を行うためのメッセージを自分で作ったり制御局からもらった情報に基づいて作ったり、あるいは、より上位のデータペイロードを無線プロトコルのデータコンテナに押し込んで送信できるように成形する、というような役割を負います。制御や入出力を制御局との会話にかなり依存するので、上の機能と一体化されていることが多いようです。

最後にRF。RFは、ベースバンドのデジタル的な信号を、アンテナから放出される電波の信号に変換します。最近はインテリジェントなRFモジュールも増えていていろんな制御ができるようですが、基本的には、相手はベースバンドモジュールとアンテナだけで、単に高周波の無線周波数と低周波のベースバンドをお互いに変換するだけの機能です。

これら以外に、筐体の電源制御やバス制御や共通通信モデム(ONUとか)などを切り出して小さな共通モジュールとして持っているようなこともあります。

さて、大体こういう感じ、という前提で、次にそれぞれのモジュールの形を考えてみます。

ベースバンドモジュールと制御局インターフェースを一体とすると、光インターフェース(につながるインターフェース)と、RFにつながるインターフェースが必要になります。RFモジュールには、ベースバンドにつながるコネクタと、アンテナにつながる無線同軸線などがあることになります。また、それらに通信線と電源を供給するための電源装置あるいはそれを一体化した筐体(自作PCの電源付きケースみたいなイメージ)がおまけとしてくっついているような感じ。たとえばこの筐体に通信モデムも備え、筐体の中は別の一般的な高速方式(たとえばイーサネット)に変換してしまう、とすれば、ベースバンドモジュールが持つインターフェースはイーサネットだけでよくなります(イーサネット上に制御局相手のパケットもRFモジュール相手の信号も乗せちゃう)。さすがに無線制御用の信号線にイーサネットはありえませんけど。実際にはもっと信頼性が高いRF用に標準化された方式を使います。でも、どちらにせよ、標準的なインターフェースが二つと電源だけ、ということ(極論すれば)。

さてこうなると、何となく、ベースバンドモジュールを取り換えてみたくなります。自作PCで例えれば、マザーボードごとOSを取り換えちゃう感じ。マザーボードを取り換えても、USBやモニターなどのコネクタが共通なら、たいていはそのまま起動するわけで、外観上はケースはそのままなのに別のOSが動いちゃった、ということができます。要するに、基地局もそういうもの、ってことです。

ベースバンド処理に関しては、ほぼ100%デジタル処理の塊です。ってことは、昨今のデジタル技術の発達の恩恵をそのまま得られます(それに対してアナログだらけのRFモジュールはさほど変化がない)。WCDMAではこの大きさのボード上にWCDMAモデム機能を持つのが精いっぱいだったんだけど、今となっては、LTEモデム機能に加えてLTE特有の分散制御機能(制御局不要で自律動作する基地局)さえこのボードの上に乗せられちゃうぜ、ということになっているわけです。

で、電源はもちろん変わりようがないですし、RFもたいていは5MHzが10MHzになったくらいでは平気なモジュールです。対応する幅という意味では、たとえば2GHz帯なら20MHz幅に対応しますし、搬送波帯域幅もWCDMAの5MHzよりも広い10MHzになるとはいえ、標準化されたベースバンド-RF間伝送方式が十分な帯域幅があるので、それに合わせて(サボらずに)作ってあるRFモジュールならまず対応可能。というか、たとえば、5MHzのWCDMAの搬送波を最大4つ同時にさばけますので増設時にRFモジュールを再利用できますよ、みたいな売りのモジュールもあるわけなので、そういうRFなら仮に10MHz幅のLTEを食わせても問題ないわけです(もちろんそうじゃないヘボRFだったら5MHzLTEであきらめるしかないけど)。

さすがに実物はここまで単純ではないでしょうが、もともと大手基地局ベンダの作っているものは、最初から将来の帯域幅拡張や方式変更に備えて、こういう形で作っています。というか、少なくともWCDMAサービス開始の2000年ごろにはすでにその次のLTE的なものは見えていたわけで、「具体的にどんな方式になるかはわかってないけど、だったら高速処理・高速伝送が可能なように外部インターフェースと内部バスに余裕を持たせておいてモデムボードだけ変えればOKって作りにしておこう」と考えます。なぜなら、その基地局をキャリアに売っておけば、次の方式に行くときに、キャリアはコスト低減のためにボード入れ替えだけで済む同じベンダから新方式を調達することになるからです。ほかのベンダを選んだら筐体ごと買い替えなわけですからキャリアも得。ベンダコンペに参加せず労せずして新方式のハード/サポート契約をゲットできてベンダも得。というわけで。※なので、インターフェースをわざと少しだけ標準から逸脱させておくなんてことをするベンダもあったりするようです(笑)。

ってことで、まぁ、本当にRFまで一体化した小型局とかだと丸ごと置き換えの方が早いでしょうが、そうでもないものだと、同じ筐体やRFやアンテナを使いつつベースバンドモジュールを入れ替えるだけでLTEにできる例は多く、加えて、もう少し拡張性に幅があるものになると、複数のベースバンドモジュールを入れて同時にサービスしたり、両方式のモジュールを入れておいて片方はOFFにしておき、遠隔でON/OFFを入れ替えることで一斉にWCDMAエリアをLTEエリアにしちゃう、なんてこともできたりします。世界のいろんなキャリアを相手にするベンダは、ラクしたいので、いろんな運用形態に対応できるように汎用的に作っていることが多い、ってことです。

ってことで、最初の質問に関しては「最初からそういう風に作ってあれば可能」「WCDMAが出始めたころから拡張されることは確実だったので囲い込みの意味も込みでそういう風に作ってあるベンダは多い」というのがお答えになるのかなぁ、という感じ。

以上携帯電話基地局の話でした。

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2012/4/6 10:00 · 技術動向 · (No comments)
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