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2012/5/7 10:00 · ひとりごと, 技術動向

こんなサイトをやっているので、基本的には「無線大好き」と思われているかもしれません。究極的にはすべての通信を無線でカバーできればみんな幸せ、みたいな技術思想を持っていると思われているかもしれません。しかし、実は、私は有線通信こそ本当に通信を支えることができるものだと思っています。

確かに、機能を見れば、すでに無線通信で有線通信の需要をカバーできるだけの面やスペックがそろいつつあります。LTEで75Mbps、これがすべての面で使えるわけではないとはいえ、それでも、家庭用の光回線の一般的なスペック「100Mbps」とほとんど変わらないスペックです。さらに無線は発展し、高速化技術が次々と取り入れられていきますから、1Gbpsという通信速度もさほど遠くない未来に実現することは間違いありません。

もちろん、無線特有のリスクである盗聴に関しても、最近の通信方式は非常に強力な暗号方式を採用しているため、通常の手段で破ることはまず不可能です。WCDMAが始まる前後のころですが、WCDMAに採用する暗号方式があまりに強力過ぎて各国の輸出規制に引っかかってしまい、国際取引に面倒な躓きを生じさせる原因になってしまったほどです(もちろん今は問題は解消されています)。

ということで、「つながる」「速い」「安全」という基本的な機能を有線と同様に備え、なおかつ、設置位置のフレキシビリティやモビリティを備える無線通信は、すべての有線通信を置き換えるかもしれない、という論調があっても全く驚きません。それが実現する可能性がゼロだと言うつもりもありません。

しかし、「有線通信が無線通信に置き換わる」という様に考えず、まずすべては無線通信である、というところから考え始めると、これが案外答えが変わってくるんです。なにしろ、通信(コミュニケーション)の源流は、身振り(光)と声(音)、どちらも無線通信ですからね。

まずもっとも原始的な無線通信を考えてみます。それは、点のアンテナから出た電波を受信者が捕捉してデータを読み取る、というもの。点の送信アンテナと点の受信アンテナをつなぐわけですが、点から出た電波は全方向に球形に広がっていきます。そうなると、送信アンテナから出た電波は、受信アンテナの実効受信面積で拾われる分以外はすべて無駄に捨てられることになります。送信電力の99.99…%を無駄にするわけです。

そこで、一つの案としては、ほかの方向に飛んで行った電波をほかの人にも拾ってもらおう、と考えます。ある時刻にあるデータが乗せられた電波が球形に広がって複数(非常に多数)の受信者に届く、という状況なら、無駄にする電波はかなり少なくて済みます。これがご存知「放送」です。しかし、通信は放送だけではありません。すべての人が異なる相手と異なる内容のコミュニケーションをしたいわけです。そうなると、たとえばこの時間はAさんのデータ、この時間はBさん向け、と区切って送ってあげるようにするわけですが、どんな区切り方をしたとしても、やっぱり、ある時刻にあるデータを乗せた電力が球形に広がっていくと、その受取先のアンテナに拾われた以外の大半の電力は無駄に捨てることになります。

要するに、無線通信は大半の電力を無駄にする、というところがスタート地点です。実は、携帯電話技術(LTEも!)のほとんどは、基本的に電波の大半を無駄にしています。同時に使う人が増えれば増えるほど速度が遅くなったりするのは、それぞれ個別の相手に送る電波(を一定の法則で区切った一部分)をほかの人が使えないために空間中に捨ててしまうことが原因です。電波が空間中を自然に広がってしまう現象である限り、これは原理原則であり避けられない損失です。

とはいえ、やっぱり出来るだけ無駄にしたくないですよね。そこで、アンテナに工夫をし始めます。ここまでの話では、電波はある場所で発生すると球形に広がっていく、ということになっていました。しかし、一般的に地上に住んでいる限りは、横方向に届けばよくて、宇宙や地面に向かって飛んでいく電波はどっちにしろ誰も拾うはずがない電波です。これを飛ばさないようにできないかしら。

出来るんですね。アンテナの形をうまく工夫すると、上下に飛ばずに横方向にだけ飛ぶようにすることができます。単純放射なら上下に飛んじゃってた分を、全部なしにしてその分横方向に上乗せする、ということができます。そうなれば、同じ横方向でもより遠くに飛ばせ、同じ距離でもより多いデータを送信することができます。

さらに言えば、相手がいない方向に送信する電力も無駄です。だったら、同じようにアンテナを工夫して片方にしか電波が出ないようにできないか。もちろんできます。そうすれば、電力の利用効率はさらに倍です。その代わり後ろ方向には電波が飛ばないので、そちらにいる人には別の送信アンテナを使うなどして通信を提供してあげる必要があります。

前と後ろの2つに分割できるなら、当然3つに分割することもできます。アンテナの工夫で相手のいる方向を含む全方位の1/3に電波の飛ぶ方向を絞ることができます。これは、アンテナさえ増やせばいくらでも数を増やすことができます。

そうやってどんどん分割する、というのは、究極的には、送信アンテナから出た電波が受信アンテナに入るまでの間に周囲に漏れる電力をゼロに近づけようとする努力です。とにかく周囲に漏れにくくすれば漏れなかった分の電波は受信アンテナに届いて、通信の能力・品質の向上に役に立つわけです。たとえばパラボラアンテナなんていうのは、飛ぶ方向を完全に一本の線にしようとする試みの一つです。パラボラ(放物線)に、焦点から電波を放出するとそれらはすべて一方向に反射します。

ただし、パラボラでも、反射面以外の部分に飛んでしまうとそれは「漏れ」です。もれないようにするには、パラボラの反射面をどんどん伸ばしていく必要があります。放物線なので、その伸びていく方向は、送信方向に一致します。パラボラ型の細い筒が相手に向けてどんどん伸びていくイメージ。最終的に、受信アンテナもパラボラにしてそれを伸ばした筒と、送信アンテナが伸びた筒がぴったりとくっつくところまで行くと、理屈上は漏れがゼロです。これが「究極完璧な無線通信」です。

送信側から伸びた細い筒と受信側から伸びた細い筒がくっついてるって、これなんでしょう。はい、有線通信です。実際はその筒から漏れないように工夫してあれば、放物線である必要もないし空洞である必要もなくなります。筒の側面で反射しながら目的地まで漏れずに伝わるのなら一直線である必要もなくなります。ついでに、時には電波じゃなくて純粋な電圧波動にしちゃっても結構。光ファイバというのは、細い筒の中を電磁波が反射しながら目的地まで伝わるという電波を筒に閉じ込めただけのモノだし、銅線による通信も電波がちょっと純粋電圧波動になっちゃっただけのモノです(電磁界の波動も伴うけどそれは周囲にもやもやと漏れてるだけ)。

言ってみれば、有線通信というのは、無線通信の特殊解の一つ、ということなんですよ。無線通信には数々の解(ソリューション)があり、たとえば面をカバーしモビリティを出すために効率を犠牲にしたものやモビリティを犠牲にして遠距離通信に特化したものなどなどがある中に、「特別効率を重視しコストやモビリティを完全無視した特殊解」として有線通信がある、というのが私の有線通信に対するイメージなんです。

この特殊解は、通信の効率(すなわち品質と性能)に関してはずば抜けて優秀であるため、この特殊解をあえて他の解で置き換えていく必要はないはず、と思うんです。もちろん、コストなどの問題もあるんですけど、現時点ではまだまだ拡張可能で応用可能な優秀な筒(光ファイバ)が、結構安いコストでかなりのエリアで使えるわけで、まずそれが使える場所ではそれを使うのが当然です。

何より、無線周波数が空間ドメインでも周波数ドメインでも有限の資源である、ということ。一般解ともいえる通常の「解放空間での無線」は、その有限の資源をドカ食いしますが、特殊解である有線通信は、特にその空間ドメインでの資源浪費が非常に小さい、「筒」の中の空間でだけしか浪費しない、という意味で、有限資源の効率的利用という意味では最重要な解なんです。資源は、枯渇に近づけばよりコストの高い資源採掘の解が採用されていくわけですが、最もコストが高いながらも最も小さな空間内から資源を掘り起こせるのが「有線通信」です。枯渇を待たずとも、コスト的にバランスが取れる場合(「筒」が短くて済む場合)に関しては積極的に有線を使うことで資源の浪費を防ぐことができるわけですよ。

そんなわけで、「筒」が短くて済む場合(低コスト)の有線通信と、解放空間をぜいたくに使う無線通信が、市場原理に従ってコスト的にバランスの取れるところで公平に競争することが最も望ましい。というのが私の考え方。コスト度外視して全部有線を採用しろとか全部無線にしてコスト最低を目指せとかいう極論はあまり好みません。上述の思考実験から言えばどちらも極論すれば「無線通信の一種」であるわけで、「有線 v.s. 無線」という二極構図ではなく、完全開放無線と完全閉じ込め無線の間の(統計的に)なめらかなパラメータ変化に対して、いつ、どこ、どんな用途、に合わせて適切なパラメータを選ぶだけの問題だと思うわけです。

ということで、「すべては無線になるべきか」に対する私の考え方のご紹介でした。でわ。

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