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2012/5/14 10:00 · 技術解説

先日PHSが災害に強いという話を書いたところ、「ページャ(ポケベル)も非常に強いという話を聞くけど、どういう理屈?」というご質問をいただきました。久々のページャネタ。

災害への対応、ということを考えた場合、それには二つの側面があると思います。一つは、通話・通信が急増してネットワークが混雑してしまうことへの対応、もう一つは、災害により装置が破損・故障してしまうことへの対応、です。

PHSに関しては、前者、混雑への対応について非常に優れた特性がある、という話を書きましたが、一方、災害による直接被害には弱いということを書きました。それでは、ページャはどうなのでしょうか。

先に、PHSが苦手とする直接被害への耐性を考えてみます。

ページャは、比較的低い周波数、非常に高い基地局鉄塔と送信電力、という組み合わせで、一つの送信アンテナから広大なエリアをカバーすることが特徴です。つまり、携帯電話やPHSに比べると、送信局(基地局)の数が非常に少ない。複雑な地形のないところなら、送信局ひとつだけで一つの県をカバーできてしまうくらいです。もちろん、低い周波数であるため屋内にもよく浸透し、屋内対策のために低所アンテナを併用しなければならないような都合もほとんど発生することがありません。

つまり、災害から守らなければならない拠点が非常に少なくて済むということです。となれば、一局へ投じることのできるコストも大きくでき、その送信局を堅牢に作ることができます。というか、比較的にかなり巨大な構造物なので、普通に耐震基準を満たすように作ってしまえば少々の災害ではびくともしません。

また加えて、一番被害を受けやすいバックホール(有線区間)伝送路が少なくて済みます。少なくて済むというのは、制御局から送信局までの伝送路の数自体もそうですが、ページャの低い伝送レートのために、伝送路の帯域幅も小さくできるということです。感覚論で申し訳ないですが、たとえば、同じコスト(線のグレード、電力、労力、etc)であれば、伝送帯域幅が低ければ低いほど信頼性を高くできると言えます。ただでさえ数が少なくて一本の線によりコスト的に注力できるうえ、その伝送帯域幅も低ければさらに信頼性を増すことができます。※「線」と書きましたが、無線伝送路を使う場合も同様です。

もちろん、建っている場所も重要で、より高さを稼ぐために丘陵地が選ばれることが多いように思います。災害の被害の起きやすい川・谷や埋立地などの低地・軟弱地盤から遠いということも、災害の直接被害を受けにくくしていると言えそうです。

こんなわけで、そもそも壊れにくいものを壊れにくい場所に少数だけ置くので少々の災害では壊れない、というのが、ページャの耐災害性の一つ。

ただし、停電時に止まってしまったという話はあるようです。電源ばかりはどうしても限りがあるし、ページャ事業者は会社規模も小さいためあまり大規模な予備電源を備え付けるほどの余裕もないし、そういう面ではしょうがないかもしれません。ページャが再び盛り上がってページャ事業者が潤うようなことになればまた別ですが、どうもページャ(ほか加入型片通信サービス)というものは、事業収益が上がりにくい構造になりやすく、単体で収益を上げていくのは難しそうです。いっそ、携帯電話会社と組んでしまう(あるいは傘下入りする)のが良いと思うんですけど、ねぇ。

ではもう一つ、「混雑」についてはどうでしょうか。

となると、ここでそもそものページャのコンセプトの違いがポイントになります。すなわち、ページャは片方向システムということ。ネットワークから端末に向けて呼び出し信号を放送的にエリア送信するだけで、端末からの応答やあるいは端末からのリクエストは一切ないというシステムです。

つまり、混雑時に問題になる「つながらない」という問題はそもそも起こりません。つながらないのが正しいシステムだからです。ページャは、通信機というよりは、テレビやラジオの受信機に近いものと言った方が正しいもの。となると、「大災害が起きてラジオがつながらなくなっちゃった!」ってのはあまり想像しにくいですよね(ラジオ放送局が災害で壊滅したとかでもない限り)。

ってことで、ページャでは「つながらない」が起こらない、つまり、混雑に対してもページャは最強!!・・・と言いたいところですが、一つ問題があります。

ページャはラジオと同じようなシステムと言いましたが、では、ラジオで次のような状況を想像してみましょう。

あるラジオ番組で、リスナーからのリクエストに応じて曲を流す、ということをやっているとしましょう。このラジオ番組はちょっとすごくて、すべてのリクエストを即座にすべて流す、ということをやります。と言っても普段は誰も聞いていないようなつまらない(失礼)番組なので、リスナーからのリクエストがあればすぐにその曲が流れていました。

ある日、こんなすごい番組がある、ということが、雑誌で紹介されてしまいました。その雑誌を見た人が試しにやってみると確かに好きな曲をすぐにかけてくれる。話題を呼び、我も我もとリクエストを出すようになります。すると、最初はリクエストをすればすぐに曲が流れていたのが、前の曲が終わるまで待たされるようになり、その間に入ったリクエストも順番待ちに入ってしまうため、リクエストをしても曲が流れるのが30分遅れるようになり1時間遅れるようになり10時間待っても流れないようになり、ということが起こり始めました。せっかくの番組もこれでは台無しですね。

実は、ページャもこれと同じことが起こります。ここで、「リスナーからのリクエスト」は「加入者電話からの呼び出し」、「リクエスト曲」が「宛先ページャの呼出番号」、「曲が流れること」が「ページャ端末に呼び出し信号が届くこと」です。ページャは、一般の電話から電話番号で呼び出しを行い、その電話番号がさしているページャ端末を鳴動させるシステム。そのため、放送している電波内を時間で区切って、「今のこのメッセージはこの番号のページャ端末向けですよ」という様に順々に送ります(送信信号の中にページャを指定する識別子が入っていて、端末は、飛んでいる信号の中に自分の識別子が入っていたら鳴動する)。つまり、一度に一つのページャ端末向けの信号しか送信できません。ラジオで、ある時間はある曲しか流せずほかの曲は待っててもらうしかないのといっしょです。

ページャの方式は、伝送速度でいうと1kbpsから6.4kbpsと非常に遅い速度なので、いくら呼び出し一つのサイズが小さくても、多数が殺到すれば「呼び出し待ち」が生じてしまいます。たとえば大災害で、いろんな人がいろんなページャ端末を呼び出そうと一斉に呼び出しを掛けるようになると、さしものページャであっても、待ち行列が発生して、呼び出しが遅れてしまう様になります。この、「呼び出しが遅れる」というのがページャにおける混雑、輻輳状態です。また、交換装置のメモリ的な意味で呼び出し待ち数バッファを超えてしまうとそもそも呼び出しさえできなくなる可能性もあります。

ということで、ページャといえども、一応混雑による呼び出しの遅れ、ということは起こります。起こりはするんですけど、やはりユーザの少なさに助けられて輻輳が起こる可能性はかなり低いのではないかと考えられます。ページャの加入者がそれこそ何千万とかであれば、その呼び出し数も莫大になるので盛大に輻輳するかもしれませんが、今現在では本当に数えるほどのユーザしかいないですから、そういう意味では、ページャそれ自身のシステム上のボトルネックが原因でページャが通じなくなる、ということは起こらなさそうです。たとえば東京テレメッセージでは、先の大震災でも遅延発生は翌未明のわずか30分の間だけだったようで。

以上、直接被災への耐性、輻輳への耐性、という面で見てきましたが、いずれも、携帯電話やPHSとは比べ物にならないくらいの耐性を持っています。特性としてはラジオに近く、一方、ラジオと違って明確に確実に個人向けメッセージを送ることができるという面では携帯電話に近い利便性も持ち合わせているわけで、緊急時・災害時向けの通信手段として自治体や病院で導入している事例が多いようです。基本料もさほど高くないので、個人でも一つくらい持っててもいいんじゃね、とか思うわけですが、みんながそうやって持っちゃうと今度は輻輳するっていう話になるんでしょうね(苦笑)。

そんな感じで、今回はページャの耐災害性について考えてみました。

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2012/5/14 10:00 · 技術解説 · (No comments)
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