電波とアンテナについて、少しわかりやすいかもしれない説明の仕方を思いついちゃったので、今日はこのネタで。かえってわかりにくかったらゴメン。
さて、この図をご覧ください。
ねこが魚を捕っています。このねこは賢いけどちょっと抜けてるので、トリモチで魚を捕るようです。魚は左からふよふよとまっすぐに泳いできて、トリモチに自然にくっついたものがねこさんの取り分です。さて、このねこ、もっと魚をたくさん取りたいと思ったので、こんな風にしてみました。
トリモチを魚の来る方向に垂直に広く延ばしてそれを魚の群れの中に放り込んでおくと、今までよりもたくさんの魚が捕れるわけです。賢いですね。
まず、受信アンテナの仕組みを考えた時には、この魚とりの話が最も簡単な描写になります。泳いでくる魚は、ランダムで同じ密度。おっきなトリモチを広げて捕ればたくさん捕れる、ただそれだけです。このトリモチをアンテナで置き換えれば、「大きなアンテナほどたくさん電波を拾える」ということになります。
さて、今までは、「魚は左側のどこからともなく偏りなく均等に泳いでくる」というお話でした。しかし、魚が宇宙の果てから均等に泳いでくるなんてことはありませんね。どこかから湧いてきているのではないかと思われます。
そこで、先ほどの図をぐっとズームアウトしてみてみましょう。
実は、魚は、「魚の穴」からどんどん湧き出ていたみたいです。このねこは、その魚の穴から少し離れた場所で魚とりをしていたみたいです。
この「魚の穴」が、電波でいえば送信アンテナです。魚の穴=送信アンテナから出てきた魚=電波は、特に遮るものがなければそれぞれが好き好きの方向に向かって泳ぎ広がっていきます。それを、遠くでトリモチで捕っていたのが先ほどのねこさんだったのです。
ですから、上の図のように、同じくらいの場所でトリモチを大きく延ばして捕れる量を増やしてもいいのですが(左のねこ)、そんな面倒なことをしなくても、トリモチはそのままで魚の穴により近い場所に移動するだけでたくさんの魚を捕ることができます。電波が、送信場所に近いほど品質が良くなるのはまさにこういう理由です。
だけど、このねこのおうちは魚の穴から少し遠いので、毎日魚の穴の目の前まで行くのはめんどくさいと思っていたとしましょう。つまり、より遠くから効率的に魚をたくさん捕りたい、と。もちろん、平べったいトリモチなんてイヤ。そこでこのねこさんは一計を案じました。
魚の穴の左側に出られないように壁を作っちゃいました。魚は穴から同じように湧き出てくるのですが、左側に泳いでいけないため、仕方なく右側に向かって泳ぎ始めます。左側の壁の大きさは魚の穴の周囲の三分の二の大きさで作ったので、魚が泳ぎ出られる範囲は三分の一だけ。つまり、右側に今までの三倍の密度で魚が泳ぎ始めました。
ということは、同じ場所で同じトリモチを使っても、今までの三倍の魚が捕れることになります。トリモチも加工してない、近づいたわけでもないのに、一気に漁獲量三倍です。これはおいしすぎる。
余りにおいしすぎるので、左側六分の五を覆うような壁を作ってしまいました。魚が泳げる方向は六分の一だけ。なので、密度六倍、漁獲量も六倍です。
電波もこれと同じように、同じ出力の無線機を使った場合でも、飛び出す方向を限定することで、より遠くまで高品質の電波を届けることができます。飛び出す方向を細く絞れば絞るほど、より遠くにたくさんの電波を届けられます。その代わり、電波を細く絞ると、それを受けられる範囲が狭くなっていますよね。あまりに細くすると、それを受けられる範囲(方角)から少しずれただけで電波をとらえられなくなります。
よく、「アンテナの感度をよくする」というような表現を使うことがありますが、アンテナの感度を変えるということは、この話でいうところの「トリモチ/穴の形を変える」ということです。トリモチの絶対量、あるいは穴のそもそもの魚の吹き出し量を変えることは出来ない、というのがアンテナの原則です。
トリモチの絶対量は変わらないので、あとはその形を工夫するだけです。平べったくすれば、その平面と垂直な方向からの魚はたくさん捕れますが、それ以外の方向から来た魚は捕れなくなります。真ん丸にすればどの方向からもそれなりに魚が捕れます。「トリモチ節約のために魚が通れないギリギリのドーナツにする」なんていうアイデアもありますが、そうすると小さな魚はすり抜けてしまいます。ものすごく広く薄っぺらくしようとすると大きな魚は突き破って逃げてしまいます。魚の大きさによって捕れるような形を工夫することはできますが、やっぱり何か別のものを犠牲にする、というのがトリモチ(アンテナ)の基本的な原則です。
魚の穴の形も、トリモチと同じように、どんなに工夫しても、結局湧き出す魚の数は同じなので、どこかにたくさんの魚を集めればほかから魚がいなくなるわけです。
すると、真ん丸なトリモチからは全方向に均等に魚が飛び出していきます。
その一部を拡大してみるとこんな感じです。表面の小さな単位面から魚がしみだしています。ではこの魚のしみだすトリモチを平べったくするとどうなるでしょうか。
平べったい表面が一方向を向いているので、そちら方向に出ていく魚が増えています。
すると、結果としてこのように平らにしたのと垂直な方向に細く絞った形で魚が飛び出していくように見えます。魚の穴に遮る板をつける描写ではなく、「魚がしみだすトリモチの形を変える」でも、同じように魚の飛び出す方向を絞ることができるわけです。
この、魚の穴とトリモチの説明は、実をいうとぜんっぜん正しくないのですが、特定の方向に受信しようとするとそれ以外からの受かりが悪くなるということ、どんなに頑張っても、送信元からの魚の飛び出し方に偏向性があれば場所によっては魚は捕れないこと、というあたりが何となくイメージ出来ればなぁ、と思います。要するに一昔流行った、「携帯電話のアンテナをすっごい長いアンテナに変えれば待ち受けがよくなる」、あれは完全に嘘ってことです。アンテナの利得アップ(トリモチの形の変更)と、アンテナの向きの調整(トリモチの向きの調整)は必ずワンセットなので、でかいアンテナつけても基地局の方向にアンテナの受信感度のピークをちゃんと向けてあげないと、逆に電波の受かりは悪くなるんですね。
ということで、電波とアンテナについてのにゃんこ的解説でした。
[…] しかし、出た電波と言うのは、もわーっと広がるように飛びます。池に石を投げ込んだ時の波と同じような広がり方です。アンテナの形を工夫すれば方向をある程度絞ることはできますが、完全に一点に絞り込むということはできません。と言うことは、もしその飛んでいく先にもう一個のアンテナ、アンテナ3があったらどうなるでしょうか。アンテナ3の人は、図らずもアンテナ1とアンテナ2の間の通信内容を受信できてしまいますね。放送ならこれでいいんですが、1対1が基本の通信では、これはよろしくありません。 […]