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2011/3/25 10:00 · ニュース解説, 事業考察

携帯電話事業者も今回の震災では大変な被害を受けていて、さらに生活インフラの一つとしての「通信」を被災の中で提供するという奮迅の活躍を見せてくれたわけですが、被災がどういう状況かとか対策や復興がどのように行われるのかを簡単に考察してみたいと思います。

今回の大震災で携帯電話ネットワークが被った被害のうち、私が知る限り最大のものは「停電」です。小耳に挟んだお話によると、8割から9割は停電による停波が原因となった障害。であるので、電源回復に合わせて勝手に復旧しているものも多いようです。

停電の場合、通常は無停電電源装置によるバックアップが効くのですが、今回は停電時間があまりに長く、ほとんど役に立ちませんでした。また、そのような長時間の停電を想定していなかった一部事業者では実際に停電で倒れた基地局数の把握もうまくいっていなかったのではないかと考えられます(停波エリアに対して発表停波局数が少なすぎる事業者とか)。実際その某事業者は某所(一応3/19時点魚拓)では復旧が最も遅れていて、これは「倒れていることが把握できていない」ためにリスタートをかけることも出来ない状態が続いているからなのかもしれません。

実際、停電した局は電源が回復しただけでは即座に回復は出来ず、復旧したというセットアップ信号に対して何らかのネットワーク側からの応答コマンドとそれによるネットワークへの参加が必須です。であるため、「勝手に復旧する」とはいえ、この復旧には大変な労力がかかり、電源が回復している地域でも完全な復旧には時間がかかる場合があるといえます。

しかし電源断による障害は軽いほうであるといえます。それ以外の障害については、「ゆれ・津波による設備故障(倒壊・内部ケーブル断など)」「ゆれ・津波によるバックホール断」が考えられます。いずれもかなりインパクトの大きな障害です。

前者である場合、実際に現地に立ち入っての作業が必要となります。また当然ながら、修理機材の持ち込みも必須です。このため、故障箇所によってはかなり大きな工事用車両が現場に入れなければならないことがほとんどでしょう。ゆれや津波で大規模な破壊が起きた場所では当然交通も被害を受けており、なおかつ、被災者への物資輸送が最優先されなければならないため、このような状況で被災した基地局の復興はかなり遅れることが見込まれます。陸前高田市や釜石市など被害の大きかった地域では、かなりの長期間にわたって、近隣基地局によるカバーと移動基地局車による対応が続く可能性が高いといえます。

さらに厄介なのが後者。バックホールが何らかの形で断たれてしまった場合、特にそれが有線ケーブルによるバックホールであれば、その断地点を特定し、地面をほじくり返すような工事が必要です。こういったバックホールは路線沿いに埋設されているのが一般的であるため、道路を長期間占有しての工事になります。これは先ほどと同じ理由でさほど優先度を上げられる工事ではないため、復旧はさらに遅くなるでしょう。

もちろん、無線バックホールであれば簡単そうに思えますが、無線バックホールが損なわれているという場合、それを中継するアンテナが障害を受けている可能性が高いといえます。そして、そのような中継アンテナは得てして被害を受けたビルの屋上に取り付けてあったりするものです。ビルの被害の回復が最優先ですし、被害状況によってはビル自体が取り壊しとなるでしょうから、有線バックホールと同じく復旧は困難を極めるでしょう。また壊れているのがピンポイントではなく広範囲にわたっている場合もありえますし、再設置となれば無線回路の再設計ですから、これもまた復旧を遅らせる面倒な手順です。

また、ウワサレベルですが、コア中継網がいくつか断たれているという話も聞こえてきます。たとえばKDDIやNCOMの海底ケーブルの陸揚げ局が被災して米国向け回線が狭くなっているというニュースがありましたが、おそらく同じ陸揚げ局に国内コア網の海底ケーブルも接続されていたはずです。もちろん国内網は二重三重の冗長がかけられているので通信途絶にまでは至っていないようですが、冗長回復を急がなければ単純な設備障害で通信に影響が出るという綱渡り状態を脱せないわけで、これも各社急務と言えます。

さて、こういった根本的な復旧に先立ち、各社ともに暫定対応を進めているようです。まず単純なところでは、移動基地局車。衛星回線をバックホールに使った基地局を背中に乗せた車を派遣し、その周辺をエリア化するという対処です。これが最も早かったのは衛星回線の手配がしやすいKDDI、それからドコモ。一週間ほど遅れてソフトバンクも出したようですが、衛星回線なのか中継リピータなのかは不明です。

この対処で当面エリアは回復しますが、「バックホール容量・処理能力が低いため多回線収容が出来ない」「送信電力が限られるためエリアが狭い」と言う弱点があります。やはり車載程度の基地局ではどうしても送信電力を大きく出来ない。正確には、そりゃ送信機で10Wとか20Wくらい吹くのは簡単ですが、それだけを吹いても性能を維持できるアナログ装置群は消費電力と発熱が半端じゃないわけで、車載装置には厳しい。と言うわけで、どうしても車載基地局ではカバーできる範囲に限界があります。

もう一つ、既に各社が始めているのが、周辺基地局によるカバー。周辺の基地局のアンテナチルト(傾き)を調整し、停波している基地局のカバーエリアにまで電波が届くようにしています。これに関しては、大抵の場合はやはり手作業での調整が必要となるのですが、基地局装置の修理とは違い、工員が鉄塔に上ってネジをぐりぐりやれば済むので、大きな作業は必要ないはず。なので、この対策で復旧しているエリアも多いかと思います。遠隔でチルトをにょろにょろ変えられるアンテナもあるとは聞きますが、信頼性を考えると携帯インフラの一番の肝であるアンテナの根元に駆動部を持たせるなんてことを(日本の事業者が)するとは思えないなぁ、と言うのが私の感触。なので大抵は手作業かなぁと思っています。

と言う感じで、当面は移動局と周辺局からのカバーでしのぎ、壊れた局を徐々に再建設していくという形になるでしょうね。ビル自体が壊れちゃったなんていう話もあるはずなので、震災前と同じ状況にまでは戻れないでしょうが、半年くらいあれば何とか近いレベルにまでは復旧するのではないかなぁ、と言う感じです。

と言うことで、震災による携帯電話インフラへのインパクトと復旧についての考察でした。でわ~。

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5 Comments to “携帯電話網への震災被害と復旧について”

  1. pyontiti0303

    >信頼性を考えると携帯インフラの一番の肝であるアン>テナの根元に駆動部を持たせるなんてことを(日本の>事業者が)するとは思えないなぁ、と言うのが私の感>触。なので大抵は手作業かなぁと思っています。

    アンテナの円筒の中にチルト調整機能のための駆動部いれて遠隔制御できるキャリアさん、既に日本にもいます。しかもこれら制御のインタフェースは標準化されていますし(AISG)ここをケチったキャリアは・・・人力です。

    最も今回は電源断(バッテリー切れ)やケーブル断があったので、結局人が近づかなければどうにもならないようです。 で、復旧後に期待されるSON(孫じゃ無いですw)機能の判りやすいご説明期待していますm(__)m

  2. pyontiti0303

    すみません、貴引用をしくじりましたm(__)m

  3. relax

    >遠隔でチルトをにょろにょろ変えられるアンテナもあるとは聞きますが、
    >信頼性を考えると携帯インフラの一番の肝であるアンテナの根元に
    >駆動部を持たせる

    通常の3G基地局アンテナは、位相をずらして論理的にチルト角を変更する電気チルトにより遠隔制御をしています。なので、機械的な駆動により遠隔制御をしているわけではないです。

  4. no_softbank

    今、避難所に配ってる衛星基地局はこれだそうです。
    http://p.twipple.jp/4ZWJZ

    ツイッターで教えてもらいましたが、このサービスを利用してるようです。
    パラボラにあるロゴそのままですわ。
    http://planet-net.jp/ipstartoppage.html

  5. pyontiti0303

    relaxさん>

    ええ、このやり方は某社の特許につき、パテント使用料を払いたくないベンダは、メカで実現されているところもあります。 実際は両方並存ですね。

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