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2011/7/21 10:00 · 事業考察, 技術動向

災害に強い携帯電話網と言うフレーズをTVで聞きましたが、技術的に面白い話題にはならないでしょうか?と言うお便りをいただきました。と言うことで今日は携帯電話網の耐災害性について。

災害が起こったとき、携帯電話網のどこが具体的に被害を受けるのか、と言う点を考えていけば、災害に強い携帯電話網とはどんなものかが見えてきそうですね。と言うことで、まずは災害による被災ポイントを挙げていきましょう。

まずは、携帯電話基地局や交換局の装置や躯体が、地震や浸水で直接破壊されるようなケースが考えられます。装置が壊れてしまえば電波は出せなくなりますし、躯体が損傷してアンテナの角度が変わってしまったりした場合もエリアに大きな影響が出ます。ただ、こういった直接的な破壊と言うケースはめったに起こらないと思います。先の大津波のように設置したビルごと流されたというケースはありますが、揺れ程度で壊れるような装置はまず使わないはずです。

次に、電源断。いくら装置が無事でも電源が切れてしまっては電波を出すことが出来ません。電源が落ちる条件は、まず第一に電力網が停電してしまうこと、そして、交換局や基地局に付帯しているバックアップ電源が落ちることです。これもそうそう簡単には起こらないだろうと言われてはいても、やはり先の大震災では想定をはるかに越える長時間停電でこの事態に陥るケースが多かったようです。

そして最後に、バックホール・バックボーンの破壊。バックホールとは基地局と交換局あるいは交換局とコアネットワークを結ぶ通信線、バックボーンはコアネットワークを構成する通信線のこと。どちらかが寸断すると、携帯電話の発着信のための信号が制御センターまで届かなくなるため、仮に電波が出ていても通信が出来なくなります。また、制御できない状態で電波を出し続けることは場合によっては電波法にも抵触することとなるため、制御センターと通信できなくなった段階で基地局は電波を停めるという動作をすることが多いようです。

大体携帯電話網が不通になるのは、この三つのケース、ハードウェア破壊、電源喪失、信号線途絶です。言ってみれば、ハードとソフトと電源の三つが必須と言う意味で、システム全体として一般的な情報機器と同じようなものだということも出来そうです。

さてでは、実際に災害に強い網にするにはどうすればよいのか。

ハードウェアに関しては、場所が決まっているならとにかく頑丈に作り丈夫な装置を使うしか解決策はありません。もちろん、災害で壊れにくい建物や土地を選ぶということも重要ですが、携帯電話の場合はエリア設計のために余り土地の選り好みを出来ないという事情もあります。ただ、別の強固な地盤の土地に躯体を建て、指向性の強いアンテナを使って遠くにセルを構成する、と言うやり方も考えられます。被害を受けにくい場所から遠くを狙い打ちにするという考え方。またこれをメインにするのではなくメインは従来どおり保守し易くカバーもしやすい場所を選び、遠くからのカバーをバックアップとできるようにしておく、つまり、「サイトダイバシティ」、同じ場所を複数の場所の別のハードウェアによりカバー出来る設計にしておくという考え方もできます。

電源は、やはり長時間のバックアップ電源を確保するしかやり方はないですね。これも同じく電源の途絶しにくい土地を選ぶということも考えられますが、線が切れるかどうかはなかなか分からないもの。あるいは、基地局自身が太陽光など尽きにくいエネルギーである程度動けるようになるということも解決策の一つになりうるかもしれません。天候関係なく昼夜無しに太陽光があたる場所なんてのがあれば太陽光だけで動かせるわけです。もちろん宇宙空間でもない限り超微力な太陽光発電だけで動く基地局なんてありえないわけですけど。その他、いずれにせよ電力会社に全依存するのではなく、自社通信線路に自社局舎からの電源線を通しておくとか自家発電装置を備えておくとか、さまざまな方法での対策を重ねがけしておくのが最善の対策といえます。

そして通信線。こちらは、一見、電源と同じ条件に思えますが、弱い破壊でも通信途絶が起こりやすく重要なノードも集中し易いという弱点があり、一方で、通信を維持するだけなら無線で構成することが出来ると言う利点もあります。つまり、物理的破壊に比較的強いものを選ぶことが可能といえます。もちろん無線では容量が足りないので、通常は光ファイバなどを使わなければなりませんが、この場合も、経路の異なる二つの線で目的装置同士を結ぶだけで飛躍的に耐災害性を向上できます。一番良いのは、二重化した有線を通常時は充てて高速通信を賄い、一方でバックアップ用の無線リンクも用意しておく。そして災害で有線が切れたときに無線リンクにより最低限の通話やメールだけを救済する、と言うやり方。コストはかかりますが、耐災害性は有線を二重化するだけよりもさらにさらに向上するはずです。

とか何とか言いつつ、要するに、衛星使え衛星、ってことです(笑)。私は昔から衛星通信が一押しで、むしろ衛星通信やりたくて宇宙工学の修士出て無線屋業界に入ったのに気がついたらケータイ業界にどっぷりと言うアレでして、とにかく、衛星通信こそが最後の砦であり最後のフロンティアだと思うんです。地上の災害で破壊されることはありえないし、電源も事実上無尽蔵。地上局のダイバシティも何千kmと言う距離でとれますから通信線が途絶える可能性も低くなります。地上で災害が起こり、北海道と九州に置いた地上局が同時に停止する可能性、地上の災害と同時に衛星ハードウェアが偶然破壊されるあるいは偶然動作障害を起こす可能性、いずれも非常に小さな確率。耐災害用バックアップとしては衛星が最終解といえるはずです。

先日の大震災でも、被災地の通信復旧の初動は衛星を使ったものでした。ドコモはワイドスター、KDDIとSBMはタイのIP中継衛星を使って簡易基地局を設置し、復旧につなげています。ここ数年、日本は通信衛星を非常に軽視しており(ので衛星出来ますといって入社した私がなぜかケータイ屋に)、こういった大災害に際して外国の衛星を利用せざるを得なかったのは非常に残念なことですが、この災害で少しは見直されても良いのではないかと考えています。「日本みたいにぎっしりと有線無線網が張り巡らされた国で衛星なんてナンセンス」と言うのが震災前までの識者諸氏の共通した認識だったわけですが、これからはまた変わっていくかもですね。

衛星に限らず、特に災害に対して弱いバックホールなどの通信路に関しては、特性の異なる複数のメディアをミックスして使うことが重要だと私は考えます。ファイバ、銅線、電力線、固定マイクロ無線、移動無線、宇宙無線、小電力マルチホップ無線、etc.etc.というさまざまなメディアを利用したバックアップの可能性を持つこと、そして当然それらが平常時にも自由な競争をしながら互いを淘汰し尽くすことなく共存できること、そういったことが可能な社会であることが重要だと考えるわけです。国策で全個宅を光化して銅線全廃なんてもってのほか。仮にも国内主要通信事業者の一角がそんなことを言い出すなんてとんでもない話だと思ったものです。

と言うことで、「災害に強い携帯電話網」と言うのを一言で表すと、それは「最初から丈夫に作る」のではなく、「壊れたときも継続できるいこと」が重要で、さらにそのためには、土地も電力も通信メディアも「多様性」を持たせることが重要だ、と言うことです。コスト削減の視点とは逆行しますが、そういった一見無駄なコストこそが通信事業者の信頼性を支えている、と言うこと。

以上災害に強い携帯電話網についてでした。

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2011/7/21 10:00 · 事業考察, 技術動向 · (No comments)
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