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2011/8/31 10:00 · サービス解説, 技術解説

無線LANを使った負荷分散(トラフィックオフロード)が盛んに語られるようになり、携帯電話各社とも、Wi-Fi AP数を大幅に増やす方針を発表しているわけですが、一方、各社が勝手にどんどんAPを増やしていくことでいずれ起こる問題が、「Wi-Fiの干渉」の問題です。と言うことで今日はこの話。

まず、Wi-Fiの基本的な話。Wi-Fiは、2.4GHzの「ISMバンド」と言う特殊な周波数を使ったシステムです。この周波数は、電力やマスクなど簡単な規定さえ守った機器であれば、どんな場所でどんな風に電波を発射してもOK、と言う、電波を使ったシステムとしては楽園のような周波数帯。なので、Wi-Fiだけでなく、Bluetoothや無線マウスや簡易トランシーバやコードレスフォンなど、ありとあらゆる「簡易的な無線システム」向けに使われています。

で、とりあえず他のシステムは無視してWi-Fiだけに限っても、どこに置いちゃダメとか誰に干渉を与えちゃダメと言う決まりはなく、そのために、どこにでも好き勝手に置く事が出来るというメリットがあります。

ただし、「誰に干渉を与えちゃダメ」と言う規定がないということは、誰から干渉を受けても文句を言っちゃダメ、と言う意味でもあります。そのため、Wi-Fi(802.11シリーズ)は、そういった干渉を受けることを前提としたシステムとして設計されています。

つまり、Wi-Fi同士であれば狭義での「干渉」(送ったはずの電波信号が潰されてしまうこと)は理屈上は起こらないように作ってあるんですよね。一方、広い意味での干渉、つまり、他のWi-Fi機器があることによりパフォーマンスが落ちること、に関しては、それが起こることを防止できないという原則があることになります。

さてそれを支えるWi-Fiの仕組みについて、ちょっとだけ踏み込みます。一般的な携帯電話方式であれば、無線リソースをいろいろな方向(たとえば時間、周波数、コード・電力、などなど)で区切り、それぞれの区切りを必要な人に占有させることで端末の通信同士が干渉しないようにしています。これを「多重化方式」と言うわけですが、Wi-Fiでは、すべての通信を一つの制御装置がコントロールできるわけではない、という前提のもと、実際の時空間において「その場所は誰も使っていないこと」を逐一確認し、誰かが使っていたら自発的に我慢する、と言う方法で複数機器が干渉しないようにします。これをCSMA/CAと言います。

具体的には、たとえば802.11b系では、パケットを送信する前に(通常)50マイクロ秒だけ空受信を行います。その時間内で、一定以上の「無線電力」を検出したら、送信取りやめ。この「無線電力」はWi-Fiに限りません。Bluetoothでもコードレス電話でも、なんなら電子レンジが発射元でも、とにかく「使おうと思っている周波数帯で一定以上の電力が飛んでいたら」になります。

もちろん送信を取りやめっぱなしになってはいけません。取りやめたパケットは、乱数で決まる一定時間後に再度送信しようと試みます。もちろんこのときも再度50マイクロ秒の無線チェック。ここでその時間内、無線電力が規定以下だったら、送信を始めます。

ただし、単に自分が見ただけじゃいまいち信用できない。実際にアクセスポイント(AP)に届いたときに、自分からはよく見えない人が別の電波を出しているかもしれない。ってことで、Wi-Fiの一般的手順では、送信する前にAPに対して「ほんとにここ空いてるよね?」と確認する信号を出します。で、APが「うん、マジ空いてる」と返事をよこします。この確認と応答は本当に一瞬、数マイクロ秒です。これが済んだらいよいよデータ本体の送信です。※この手順を省略する場合もあります。

通常、パケットの長さは、1ミリ秒から数ミリ秒くらいです。この間、端末は単に無線上でこのパケットを放り出すだけ。一方この端末がこういうようにデータを放り出すと、他の端末からもその電波を検知できるようになります。他の端末がもし送信したいパケットを持っていても、最初の50マイクロ秒のテストでこの端末が送信していることを検知するので、この端末の送信が終わるまで待ってくれることになります。

と言うことを全部の端末が自発的に行うことで、自分の送信するデータが他人のデータによって潰されないような仕組みになっています。この「他人」は、先ほども書いたとおり、Bluetoothもコードレス電話も電子レンジも、そしてもちろん他のWi-Fi APに関係する通信も含みます。

さて、Wi-Fiの仕組みはここまで。次に、周波数の話。Wi-Fiの使える周波数、2.4GHz帯は、Wi-Fi的には全部で14のチャネルに分割されています(日本では)。一方、Wi-Fiの電波は一度に5チャネル分の帯域を汚染します。すなわち自分と両側2チャネル。つまり、第1チャネルの電波は、全部で[-1、0、1、2、3]のチャネルに「電力」をばら撒いてしまうわけです(もちろん-1、0と言うチャネルは便宜上のものでそこを選択することはできない)。

と言うことは、もし第1チャネルを使い、それと全く干渉しないチャネルを確保したかったら、最低でも第6チャネル([4、5、6、7、8]チャネルを占有)以上を選ばなければなりません。この流れで行くと、実はお互いに電波が届く場所に置くWi-Fi APが干渉なしで選べるチャネルのパターンでは、最大三つのAPしか置けないことが分かります([1、6、11]や、[2、7、12]、[3、8、13]、[4、9、14](日本のみ)のパターンしかありえない)。

干渉しない選び方では三つしか置けない。となると、三つ以上のAPが同じ場所にある場合は、少なくとも一組は干渉するAPがあることになります。この場合、その組のなかのAPは、その配下の端末がお互いに干渉を避けあう上の仕組みを共有していることになります(これを、干渉ドメインを共有している、と言うこともあります)。言ってみれば、その組の中のすべてのAPの配下にあるすべての無線LAN端末は、仮想的に一つのAPの下にぶら下がっているように振舞う、と言うことです。

今、駅などの多い場所では10や20くらいのAPが軽く見えます。しかし、それは、AP10個分、20個分の容量があるという意味ではありません。一つの場所(お互いに電波が届く距離内)では、どんなに頑張っても3AP分の容量しか確保できません。それ以上はお互いに干渉して潰しあうわけです。しかも、配下の端末が増えるほど、確保できる容量は減っていきます(お互いのタイミングがずれる確率が上がるため)。

また小さな話ですが、それぞれのAPは、「ビーコン」と言う信号を100ミリ秒に1回送信します。このビーコンにAPのSSIDの情報や通信能力の情報などが乗っていて、これが無いとAPに接続できないのですが、このビーコン、実は長さが1ミリ秒ほどあります。そしてこのビーコンも、先ほどと同じ仕組み、つまり「最初にちょっと調べて誰も送信していなかったら送る」の原則で送られます。ってことは、あるAPがビーコンを送信し、別のAPが同時にビーコンを送信しようと思ってぶつかったらちょっとだけ待つ、と言うことが起こるとその間の時間は確実に無駄時間として潰されていきます。

たとえば、もし同じ無線LANチャネルに10個のAPがあったとしましょう(全無線チャネル合計で言えば同時にAP30個分のSSIDが見えている状態)。10台のAPが100ミリ秒に1回、1ミリ秒の送信を行う状態。と言うことは、単純に合計して10ミリ秒がビーコンの送信に消費されています。もちろんその前後には確率的に利用できなくなってしまう空白域が生じるため、延べればもう少し長い時間が「利用不能時間」です。これは、全帯域に対して1割以上にも及ぶわけです。単にAP数が10台に増えただけで、最大の通信速度が1割落ちる。これが20台になったら、30台になったら、と考えると恐ろしいことです。

と言うことで、無線LANは自由に置けるけれども、好き勝手に置きまくってしまえばお互いに干渉し、配下の端末が増えすぎてまともに通信できなくなることもあれば、ビーコンだけで大切な帯域を食いつぶされてしまうということも起こるわけです。無線LANを口呼吸と表現した人がいましたが、しかし、実はその口呼吸、同じ酸素ボンベをみんなで共有している口呼吸と言うことを忘れてはいけません、と言うことです。

なわけで、結局は通信事業者は、自身が信用され託された帯域、つまり「ライセンスバンド」をしっかりと有効活用しなければならないというのが、やはり原則なんですよね。一つの酸素ボンベを口呼吸で取り合うよりは、きちんと鼻づまりを治して「信託された酸素ボンベ」を鼻呼吸することが通信事業者の義務であり、また快適な通信を実現できる究極の解でもあるわけです。

ということで、むやみに増え続けるWi-Fiスポットの干渉がどのように出るのか、と言うことが少しでもお伝えできていれば幸いです。それでわ。

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6 Comments to “無線LAN同士の干渉を考える”

  1. ここは酷い英スーパーの撤退ですね…

    英スーパーの撤退は日本売りの始まり  :日本経済新聞 http://www.nikkei.com/biz/editorial/article/g=96958A9C93819499E2E3E2E3978DE2E3E2EBE0E2E3E3E2E2E2E2E2E2;p=9694E2E4E3E2E0E2E3E2EBE4E6E4 つうか国内が過当競争だからだし そういう中で競争に敗れていっただけじゃねーの そもそも去年と同じ寝ぼけたことを書いてる日経は鳥頭だな ここは酷い横須賀線武蔵小杉駅……

  2. […] WiFiオフロードはもはや各社喫緊の課題であり、もちろんWiFiスポットそのものの干渉をどうするかと言う問題はあるものの、それとは別に、どうWiFiを使われ易くするか、と言う問題が大きく立ちはだかっているように聞きます。 […]

  3. hirokuma

    そうそう、1つの基地局(親)に子機が沢山くっついたらそれだけ負荷がかかるだけでなく、wifi機器を置けば使える割り当てが減るので…逆に周波数干渉で速度低下の原因になりかねませんね。
    ワンちゃんの会社は中継器をばらまいてますが、中継器自体隣においておいたらwifiの干渉の元になるんですけどね…

  4. […] その理由は言わずもがな、無線LANの干渉問題。少し前に、無線LAN、というかWi-Fi(802.11系)の干渉についての解説を書かせていただきましたが、Wi-Fiは基本的に自律的にタイミングをずらすことで電波が潰れることを防ぐ方式です。ただし、電波がつぶれない代わりに、他のAPや端末が出した電波をよけるために、それを避けるのに必要な時間以上を自発的に止めるということが必要になるため、他のAPや端末が増えれば増えるほど加速的に効率が悪くなる方式です。 […]

  5. […] こことか参考になる http://wnyan.jp/2353 475:SIM無しさん:2012/04/30(月) 22:59:05.94 ID:v0S+eOQL:475 >> […]

  6. 物凄く遅レスですが、11gの場合は帯域幅が18MHzということになっているので4チャンネル空ければ十分ということになります。
    詳しくはここがわかりやすいかと
    http://www.anritsu.com/ja-JP/Downloads/Technical-Notes/Technical-Note/DWL6216.aspx

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