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2011/8/24 10:00 · 事業考察

携帯電話各社のインフラ力が一体どの程度なのか、と言うのを、私の独断と偏見で分析してみるという回。一応、2011年8月現在基準で、と断っておきますが。

まぁ、「インフラ力」とか言って、「女子力」並みに基準のはっきりしない言葉を持ってきてしまった時点でグダグダになるのは分かっているんですが、大雑把に言って、「現時点のインフラの広く/厚く充実しているさま」「インフラへのダメージへの耐性の強さ」「将来的な新機能への対応力」と言う辺りが、一応インフラ力の判断基準と思ってください。

まずはドコモ。常々インフラ力最強!!と褒めまくってはいますが、まぁ、実際、強いですよね。FOMAのエリアは非常に充実していて、しかも、実効スループットでも他社を圧倒しています。これは、相当厚くエリアを整備していること、基地局間で細やかに負荷分散できる仕組みを備えていること、大きな余裕度を持つバックホールとコアを持つこと、と言った辺りが、その強さを支えているといえます。

また、無線ネットワークを構成する機器をほぼ全部にわたってその内容を把握し、自ら開発しているというところも、その強みです。くわえて、世界的な技術トレンドを把握し、あるいは先導し、常に数歩先を読んだ技術開発を行っていること、これがドコモのインフラを強くしています。

たとえば、新しい機能をネットワークに取り入れるとき、無線ネットワーク機器のソフトウェアを事実上自社所有しているドコモは、ほぼ完璧に理想の機能を実現できます。これに比べれば、同じ自社開発のKDDIでも完全さには及ばず、基本他社丸投げのソフトバンクでは同じベンダが世界のほかのところで誰か向けに実現済みの機能しか取り入れられない、と言う強い制約が出てきます(緊急地震速報/エリアメールの対応状況などがまさにこれを示しています)。

また、自社で独自に光回線を引き回し、さらには、自社開発の超強力な集中基地局による「無線基地局」と「基地局処理部」の分離により、都心でも非常に細やかなエリア補填を行い、なおかつ、エリア同士の干渉も、集中基地局による自律的な制御によって防いでいける仕組みを持っています。これ一つをとっても、単にありもののマイクロセルをばら撒くソフトバンクとは大きな差があると言えます。この光を使った集中型の基地局と言う考え方は最近になってようやく世界中のベンダ・事業者が注目し始めていますが、これだけ古くからここまで大規模に運用してきた事業者は世界広しといえどドコモだけでしょう。

もちろん郊外や山間でもしっかりと光回線を引き、直接制御可能な基地局を並べることで、干渉なく厚みのあるエリアを実現しています。このため、郊外を含めて、何らかの災害が起こったときにその被害範囲を限定し、他の装置でカバーできるようになっているわけです。それが圧倒的な資本力によるものであろうとも、実際にそれが出来ている、と言うことがドコモのインフラの強さです。

ただ、ドコモに関しては弱い部分も時折見られて、と言うのが、需要の急増に対する弱さが、結構な頻度で見られることがあります。これは、予測していなかった無線区間の需要急増に対して、無線回線の拡充に時間がかかったり、あるいは、有線区間の設備に関して、軽い障害によるせき止め→開放→鉄砲水と言う需要増加に対して容易に設備障害にまで達してしまうこと。ここ最近のドコモの接続困難になるタイプの障害はすべてこのタイプの障害です。特に有線区間の大需要に対しては弱く、「有線区間設備」がドコモにとっての弱点といえそうです。

次にKDDI。実は隠れたインフラ力トップ事業者。携帯電話ネットワークを比べたとき、基地局数では他社よりかなり少なくなっていますが、しかしこれは実は大きな誤解が含まれています。と言うのが、KDDIのCDMA2000ネットワークは、搬送波数で4倍だからです。

もちろん同じ帯域幅なので搬送波数がいくつだろうと究極的な容量は同じです(逆に分割損があるくらい)。しかし、実際には、それぞれの搬送波が、音声用、データ用、と言うように用途がわかれ、それぞれが別々のアクセスネットワークに収容されている、と言う事実があります。これが、同じ基地局内に異なるドメインが共存し同じ搬送波内に異なるドメインのチャネルが混在するWCDMAと、搬送波の観点から既に別ネットワーク化されている(同じ基地局内にありながら別の基地局装置として独立して稼動している)CDMA2000の大きな違いです。

もし、ある搬送波を担当する基地局装置が壊れた場合、その影響はその搬送波内に閉じます。他の搬送波は元気に動作しているわけです。と言うことは、それだけで、何らかの障害への耐性は大幅に向上します。たとえば同じ5MHzだけで考えると、WCDMAでは1搬送波だけですが、CDMA2000では4搬送波に分割されます。ある1搬送波用装置が壊れた場合、WCDMAではその時点で全滅ですが、CDMA2000では他の3搬送波は生きているので、サービスを続けられます。つまり、「基地局」と言う単位では非常に小さく見えても、その中にはたくさんの「独立した基地局装置」が群れているため、それだけで、耐障害性が高い、といえるわけです。

もちろん方式的な強さだけでなく、KDDIとして「大容量地上網を持つ」と言う強みもあります。その大容量地上網を長らく一社体制で運用してきた実績は、地上網起因の障害をほとんど出さないという点で際立った成績を残しています。また、可能性の問題として、同期ネットワークのノウハウ、衛星運用のノウハウ、海底ケーブル運用のノウハウ、マイクロ波網運用のノウハウ、さらにはFTTHとCATVの市内リーチとハブ局舎も持つ、と、通信事業者としてはほぼパーフェクトな潜在能力を持っています。

近頃に限れば、CDMAの旧800MHz停波→新800MHz整備とLTEの新規整備のために、なかなか新しいエリアの拡大や思い切った拡張が余りなく、インフラ的にも元気がないように言われていますが、それでも潜在能力ではおそらくトップ。LTEエリア整備計画が3社中突出していたことも、こういったKDDIが持つあらゆる通信技術に対するノウハウが裏付けているといえそうです。

ソフトバンクについては、えー、失礼ながら「インフラ力ってなに?おいしいの?」ってレベル(苦笑)。もちろん、ソフトバンクにも美点はあり、「なにがなんでもやる」と言うところ。技術がない、ノウハウがないのなら、金で、数で、解決しよう、と言うのがソフトバンクのインフラ。

基本的にソフトバンクの携帯電話ネットワークは、ほとんどすべてが、ベンダによる設計・工事によるものです。機器の選定や工事業者の選定でさえほとんどベンダに任せているのに近い状態。こうやってソフトバンク自身は全く技術やノウハウを持たず、お抱えベンダに技術やノウハウを蓄積していくというやり方です。

また、品質を気にせず安く済ませられる、数が確保できるなら何でも使うという方針でもあります。工事・運用業者についても自身で選定することなくベンダ丸投げ、もちろんそれで問題が出なければオールOKですが、以前に免許交付前に電波を発射した電波法違反事件のようなことが起こってしまうのは、やはりコンプライアンス的なインフラ工事の品質の低さが原因といえそうです。

また、有線区間の弱さも突出していて、同じソフトバンクグループのYahooBBではリンク速度に対して非常に速度が遅く、なおかつパケット損失率もきわめて高いようで、本来必要なレベル以下にまで有線区間の帯域を絞っている(過剰に集線を行っている)ことがうかがわれます。このような状態なので、一箇所でも障害を起こせば溢れたトラフィックが他のノードに津波となって押し寄せ連鎖的に地域的大規模障害を引き起こすことになるわけで、ソフトバンクでは「○○県で繋がらなくなった」と言うような地域限定で致命的な障害を起こす確率が非常に高いように思われます。

もちろん現実の物理的インフラも非常に脆弱で、たとえばバックホールは数珠繋ぎで一箇所の破断で下位局が全滅するような構成だったり、サイトダイバシティが不完全で局地的な災害に対してエリア全域が不通になったり、と言うことが度々起きているようです。10万以上の基地局をばら撒いても、それを達成した後の満足度調査でも「圏外の少なさ」が圧倒的最下位から抜け出せず、数ばかりで実体がいかに非効率であるかを物語っています。

こんなわけで、ソフトバンク化した当初2年間ほどは、総務省からきついお叱りを受けるほど大量の障害を頻発させたわけですが、今ではようやくベンダ側に事業者的ノウハウがたまり、そういった障害がさほど頻繁には起こらなくなってきているようですね。ただ、そうやって外のベンダに事業者的ノウハウを丸投げしてしまっている以上、何らかの原因でそのベンダを使えなくなったり、そのベンダが扱えない機器を導入したくなったというような場合に、行き詰まります。ソフトバンクのインフラは、ノウハウの面からも非常に脆弱な基盤の上に成り立っているといえます。

さて、イーモバイル(イーアクセス)。開業時にエリア・無線回路設計の技術者を他社からガンガン引き抜いていたというウワサも聞きましたが、その甲斐(?)あって、実はエリアの設計はそんなに悪くない。基地局数競争なんていう不毛な土俵にも上がらないし、都心で不用意にセルを割って圏外を増やすようなヘマも実はあまりしていない、隠れた優良事業者だったりします。

とはいえ、それはあくまで「無線ブロードバンド事業者」と言う特定の用途にほぼ限定されたものだからですね。なんとなく、欧州の小国でほぼインターネット専業でHSDPAを始めるような独立系事業者とイメージが被っています。遅延プロファイルや耐障害性などをあえてスポイルして安価なIPネットワークで下り偏重のインターネットトラフィックに注力した感じ。また、有線区間はソフトバンクと似た過剰な集線をかけているようです。つまり、地域的なトラフィック集中に弱い傾向。イーアクセスと言う会社としてそういう方針のようで、私も元ACCAのADSLを使っていますが、イーアクセスに買われて半年後から極端に通信速度が低下するようになりました。

そういう意味では、バックボーンは怪しげな冒険をしているけど、無線インフラに関しては、セオリーどおり冒険しない標準的な構築と運用にとどまっているというイメージ。ただ、その「セオリー」を崩さずにしっかりと守っている部分こそが評価できる部分とも言えそう。どこかで失注して大量に余った基地局を1000単位で買い付けて在庫し構築に充てた、と言う話もありましたが、そういうのも、あくまでエリア設計がセオリーどおりだからこそ出来たとも言えそうです。ドコモみたいなキ○ガイじみたエリアではありもの基地局なんて絶対使えません。

ここしばらくエリアへの投資は止まっているようで、ちょうどその止まった前後から、期中の完全子会社化や合併などなどでイーモバイル単体の財務情報が外に出てこなくなっています。タイミング的には当初の資本が尽きる頃で、その先の投資のための調達に苦しんでいる状況かもしれません。経済状況さえ好転すれば、イーモバイルのインフラはまた成長基調に戻るかもしれませんが、当面は、足踏みを続けそうな予感です。

最後にウィルコム。個別技術に関してはアホみたいに高い技術力を持っている反面、全体のインフラ力と言う意味では、やはり力不足を感じざるを得ないのがこの事業者。その最も大きな原因は、なんだかだで資本的な弱さと言うところに帰結するのですが、一方、PHSと言う設計フリーに近いシステムであったことが逆にエリア設計へのノウハウの蓄積を妨げていた面も無きにしも非ず。

と言うより、PHSは携帯電話的なエリア設計が非常にしにくいシステムです。すべてが運任せ。在圏やハンドオーバも、端末がその瞬間にたまたま見えたものを選ぶシステムなので、エリアを打つ側としては予想不可能な挙動も織り込んだ上で、かなり安全側にオーバーラップさせていく方向になります。逆にそういうことが出来る方式だからこそ、電波伝播という自然現象で自動的に重み付けされる方向の(ソフト上の擬似乱数ではなく)本当に偶発的な乱数要素により自然にトラフィックが分散されることになり、トラフィックの急増に対して非常に強いという特性を持つことになります。

つまり、無線に関しては案外楽をしているんですね、ウィルコム。ただ、その楽をした分を、同期システムや動的アレイアンテナ技術などに注ぎ込んでいるため、ヘンテコな個別技術を鍛え上げることが出来たといえるでしょう。なので、実はインフラ全体のインテグレーションと言う意味でのインフラ力は意外と低い、と私は見ています。

と言うことで今の私のイメージを大雑把にまとめて見ました。1年おきくらいに再検証してみたいですね。それでわ。

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2011/8/24 10:00 · 事業考察 · 10 comments
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10 Comments to “携帯電話事業者インフラ力分析白書2011”

  1. […] さて先日のインフラ力分析を受けて、「インフラ最強のドコモとはいうけど、実際に使っていると印象が違うがどういうことだろうか」と言うメールをいただきました。 […]

  2. […] そうだな。本当の勝負は次期iPhoneかな 631:iPhone774G:2011/10/16(日) 23:40:34.16 ID:qjx/fiYF0:631 auからソフトバンクへの移動は押さえられたし、ソフトバンクやドコモから の移動を少なからず獲得できてるんだから失敗はしてないだろ。在庫あまれば ソフトバンクに流せばいいだけだしwiphone売れなかったドコモが一番やばい かもな 634:iPhone774G:2011/10/16(日) 23:51:10.13 ID:K3G6ySPY0:634 >>631 auもSBも在庫余っても回し合いできないよw 644:iPhone774G:2011/10/17(月) 21:37:28.72 ID:0FwA+WpZ0:644 同僚で、禿げからあ〜う〜に乗り換えたやつがいたが、ずいぶんとすっきりした 表情。うちのビルはIあ〜う〜のMCSもあるんだけどね。 これがあちこちのオフィスでおきているとすると、半年後の状況は禿げには 悲惨な状況だろうねぇ 645:iPhone774G:2011/10/17(月) 21:43:29.34 ID:AQrx4dok0:645 >>644 お前はどうなんだよ。 646:iPhone774G:2011/10/18(火) 21:11:03.51 ID:WgDAAbZl0:646 何はともあれドコモに後は無い 647:iPhone774G:2011/10/18(火) 21:45:49.24 ID:p9/w6c8F0:647 >>646 24時間無料の切り札切ったからダダ漏れは治まるんじゃね むしろ一気にお得感が薄れた禿がピンチだろ 652:iPhone774G:2011/10/19(水) 11:10:35.35 ID:beZyCNFOO:652 ソフトバンク欠陥品か?と思うくらい電波悪いからな 当たり前のようにauiPhone 655:キャリア表示について自治スレで議論中:2011/10/20(木) 11:02:28.49 ID:gKybOwOH0:655 >>652 引っ越せよw 658:キャリア表示について自治スレで議論中:2011/10/20(木) 12:31:55.20 ID:yiLXyQUI0:658 >>655 バカか? なんで1キャリアの糞電波のせいで引っ越しって言う選択肢が出てくるんだ? 664:キャリア表示について自治スレで議論中:2011/10/20(木) 15:14:13.40 ID:ejw1rhoJ0:664 まあ、これ読め http://wnyan.jp/2291 […]

  3. […] http://wnyan.jp/2291 313:iPhone774G:2012/03/27(火) 02:39:58.43 ID:Six5qayt0:313 >>303 flashくらいかな […]

  4. […] ソフトバンクのインフラ技術力 http://wnyan.jp/2291 431 10代の思想著者 14/01/18 16:52 0RlNLTAX0 >>1 去年岸和田店に修理に行ったら保険に入っていることを隠されて新しい機種を 買わされた […]

  5. […] ソフトバンクのインフラ技術力 http://wnyan.jp/2291 431 10代の思想著者 14/01/18 16:52 0RlNLTAX0 >>1 去年岸和田店に修理に行ったら保険に入っていることを隠されて新しい機種を 買わされ […]

  6. […] ソフトバンクのインフラ技術力 http://wnyan.jp/2291 19 可愛い奥様@\(^o^)/ 14/04/22 18:53 S9oQd0+H0.net >>1さん乙です。 そろそろヤキが回って来た感じだよねw あの誰得ボッタクリプラン […]

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