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2011/7/11 10:00 · 事業考察

通信インフラを作る、と言うとき、それを作るための最も大きなネックは一体なんなのでしょうか、と言う話。と言うのは過去に何度か書いてきたのを改めてまとめてみる意味で。

通信インフラを作ることをイメージしてみると、たとえば、携帯電話基地局であれば、鉄塔を立てて装置を持ってきてネジ止めしてケーブルを接続して、なんてことが思いつきます。では、そんなインフラを作れるかどうかを決める「ボトルネック」つまり「コスト」は、その作業の工賃でしょうか、あるいは装置の代金でしょうか、運賃でしょうか、あるいは鉄塔建設費用でしょうか、と言うことになると思うのですが、個人的には、通信インフラを作るうえで一番のネックは別のところにあると考えています。

それは、「地権者との交渉」です。通信インフラ、特に個人向けの通信インフラは、非常に細かく張り巡らせる必要がありますので、その線を通したり、電波のアクセスポイントを設置するために、とにかくたくさんの場所を必要とします。その場所をどのように確保するのか、と言うのが、実は通信インフラ建設における最大のネックになっている、と言うお話です。

間違ったイメージの一つとして、通信インフラ事業者はみんなあちこちにインフラ設備設置用の不動産を持っていて、その土地に設備を設置している、と言うものがあります。もしこのようなイメージどおりに通信インフラが構築されているのだとすると、新しく設備を置こうと思ったとき、まず起きたい場所を決め、その土地の所有者を探し、所有者に土地を売ってくれと頼み、移転登記をして、などなど大変な手間がかかります。もちろん、その土地自体が必要最小限の広さとは限りません。周囲の不必要な土地まで取得せざるを得なくなれば、それは丸々無駄な投資です。

と言うことで一般的には、通信インフラ装置を設置する場合、99%は賃借で済ませています。自前で大量の不動産を持っているのはNTT東西くらいで、ドコモやKDDIと言った大事業者でも、自前の不動産はなるべく持たないようにして、NTT東西の局舎を間借りし、鉄塔用地も賃借で、と言うことをしています。

しかしこうだとしても、やはり、設置場所の確保は大変な問題です。なぜなら、相手がすべて別々の人間だからです。あなたの家に突然スーツ男がやってきて、「月1万円あげるので屋根の上にうんこっぽい飾りを付けさせてください」とか言ってきたら、まずは「えぇ~!?」となりますよね。うんこっぽさを我慢できるにしても、じゃぁ取り付けで開いた穴はどうするのかとか、その重さで構造が痛むことはあるのかないのか調べなきゃとか、台風や地震で構造物落ちたら近所への補償はとか、電気をとるときメータは一緒なのか別なのか、なんて心配も次々に出てくるはずです。そういった疑問や心配を一つ一つ納得させてもらって、それに見合う金額も折り合って、ようやくあなたの家の上にうんこが付くわけです。

普通は、1000箇所の場所がほしければ1000人の地権者とこれと同じ交渉をしなきゃならない。交渉と言っても、末端の交渉窓口社員がその場で回答したり何らかの補償を約束したりなんてことは出来ないので、疑問や要望を受けるたびに会社との間を往復することになるわけですから、ひとりを納得させるのにおそらく1ヶ月かそこらは通わなければならないはずです。同時に何人も相手にするにしても、通信事業者がこの交渉のために大部隊を用意して当たらなければならないことは容易に想像がつきます。

NTT東西のように良い感じの場所にたくさんの局舎を持っている相手なら話は早くて、「全部の局舎に1ラックずつ場所を借りたいんすけど」で済むわけですが、携帯電話の基地局を建てるとかだと、まずは「エリア設計」ありきで、それにあう場所を後付で選んでいくわけですから、そういう恵まれた相手に一括でぶち当たるなんてまずありえない、建てた数だけ相手がいる、ということになります。

さらに厄介なのが、建てた後でもその相手がてんでばらばらに個別の事情を抱えているってことです。外壁が老朽化してきたのでリフォームしたい、で足場を組もうとしたら携帯の基地局が邪魔だ、あの時は置いて良いよって言ったけど、ちょっとどかしてもらえない?とマンションのオーナーが言ってきたら。そりゃ、どかすしかないんです。借りてる身分だし。そうすると、そのマンションに置いた基地局がカバーしている範囲を損なわないような条件の不動産を近隣で探さなきゃならない。最初にそのマンションに置いたのは、当然そのマンションがベストな条件だったからで、それ以外を探すとなると必ず条件は悪化します。何とか見つけても、またその大家さんとめんどくさい交渉です。

そう考えると、ソフトバンクがウィルコム救済で16万ヶ所のロケーションを手に入れたことが、大変な価値のあることだとわかりますよね。実際、ウィルコムロケーションを入手した翌年ですからね、常識はずれのスピードでの基地局大量建設を敢行したのは。通信インフラの建設スピードはとにもかくにも「ロケーションの確保」が最大のネックだということがこの一件からも良く分かります。また、あんな小さな身なりで16万ものロケーションを確保・維持していたウィルコムと言う会社は、そういったロケーション確保のノウハウでは国内でも飛びぬけた存在だといえるかもしれません。

閑話休題。そんなわけで、「鉄塔を建てる」とか「装置を買う」とか「工事をする」なんてのは、カネさえ出せばなんとでもなる世界。しかし、それぞれに個別の事情を抱えた(多くは)個人を相手にする「ロケーションの確保」だけは、おいそれとは解決できない、通信インフラ最大のネックだと考えるわけです。

携帯電話の基地局の話ばかりになってしまいましたが、固定通信でも大体同じ。むしろ、局舎と言う「アクセスポイント」のロケーションを確保した上で、そこから各個宅までの間を有線でつながなければならず、つまり、その線を通すために一本の線で連続した空間の利用権が必要となる、と言う意味では、本来的には無線通信よりも条件は厳しいものとなります。

幸い、日本ではNTT東西が各地に持つ交換局舎と市内に張り巡らせた電話柱網、電力会社が各地に持つ変電所と市内に張り巡らせた電力柱網、ガス・水道などの共同溝などがかなり格安で利用でき、またそれぞれが大体ほとんどの個宅をカバーできているためいずれか一社と交渉すれば済むという非常に恵まれた条件であるため、アクセスポイントそのものを設置してまわらなければならない無線基地局よりもロケーション利用交渉の難度は下がっています。

と言うことで、インフラ建設は何を置いても「ロケーションの確保のための交渉」が一番のネックです。たとえば、KDDIなんぞが10万局のWiFiを1年以内に、なんて言っていますが、私はあれ、無理だと思います。いくらWiFi装置が小さくて安く話がとんとん拍子に進んだとしても、訪問して説明して質問疑問の解決をして契約書作ってハンコ押して、って言う事業者と地権者の間の往復だけで1ヶ月2ヶ月かかりますもん。WiFiだから安いし工事も小一時間で済むしだったら10万くらい余裕だよね、ってのは間違い。一番時間がかかる工程は「地権者交渉」である以上、10万のWiFi APを置くのは、10万の携帯電話基地局を置くのと同じくらいの覚悟でかからなきゃならないはずなんですよね。大丈夫ですかね、アレ。妙なプライド張ってウィルコム救済蹴って一番おいしいところをソフトバンクに持ってかれて苦労してるんじゃ世話ないですね(笑)。

以上、インフラ建設にはロケーションが大事、のお話でした。でわ~。

[追記]KDDIのWiFiはWiMAXを使ってるんですよ!(だから設置スピードは速いんですよ!)と言う趣旨のツッコミを頂いたんですが、こういうご意見が一般的と言うことから、やっぱり「ロケーションの重要さ」は余り知られていないのかなぁと実感しました。バックホール回線なんてのは、せいぜいNTTかUQか、どっちでも良いけど、1社か2社が相手。交渉の手間なんてゼロに等しいんですよね。でも、場所の交渉、つまり、「この装置を置ける棚ありますか?」「壁掛けならここに穴あけちゃっていいですか?」「ここのコンセント1口使っちゃって大丈夫ですか?」「店内からアンテナ見えちゃいますけど困りますか?」、こういう交渉が一番面倒で時間がかかる、ってことが知られていないってことです。仮にコーヒーチェーン店丸ごと「全店に置かせてください」「オッケー」で設置交渉がまとまったとしても、やっぱり各店舗ごとに店長を交えて上のような交渉はしなくちゃならない。ロケーションの確保ってのは、こういう非常に瑣末なことだけどそれを抜きにしては最終的に装置を置いて電源を入れることが出来ないっていう重要なことなんですよ。なめちゃだめ、ってこと。

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2011/7/11 10:00 · 事業考察 · (No comments)
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