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 ロシアが近々、インターネットを完全に遮断するというニュースがありました。そんなこと本当に可能なんでしょうか。

 結論から言うと、理屈上は可能です。が、条件付きで抜け穴は作れます。

 インターネットが相互に通信できている核となっている技術は、ルートDNSサーバの存在と、経路広報の仕組みです。

 ルートDNSは世界に13個ぐらいしかない、最大の権威を持つDNSサーバで、事実上すべてのドメイン名の解決の「根っこ」になっています。近隣の権威サーバでたいていは事足りますが、国をまたぐようなドメイン名の解決ではまれにこのルートDNSが解決の役を果たすことになります。逆に言うと、最後の最後にはルートDNSが大岡裁きをしてくれることがインターネット上の他のDNSサーバの権威を支えているということです。

 ではロシアはそのルートDNSへのアクセスまでも遮断してしまって通信は成り立つのか? という疑問については、成り立ちます、と答えます。なぜなら、ルートDNSへのアクセスは遮断されているので、ロシア国内の権威DNSがルートDNSと同等の権威をもつことになるからです。どれだけ好き勝手な名前解決をしても上から怒られないんだから、やり放題です。google.co.jpというアドレスをロシア国内のてきとーなサーバのアドレスに読み替えるくらいのことをしてもいいですし、なんなら、トップレベルドメインが.ru以外のドメインは全部特定のアドレスに割り当てちゃえばいいんです。そのサーバにアクセスすると、「残念、それはプーチンのおいなりさんだ」とでも表示するようにしておけば。逆引き? 何それおいしいの? 逆引きが必要なのは(ユーザ・サーバ間の公平な)セキュリティを確保したいときくらいです。政府に都合のいい似非セキュリティを確保するためにインターネット切り離すっつてんだからセキュリティなんて確保するわけねーじゃん。

もういっこ、大切なのは、経路広報です。アドレスを解決しても、そのアドレスにパケットが飛んでいかなきゃならない、その時、大まかにこのアドレス帯はこのルータのこっちのポートの先にあるっぽいよ、とお互いに教えあっているのが、経路広報の役割です。この情報をもとに、パケットを受け取ったルータはバケツリレーでパケットを運びます。通常は、そのアドレスを持っている団体なりなんなりが自分の責任で「このアドレス帯域はここだよ」と隣のルータに広報しています。それを受け取った隣のルータが、必要なら他のアドレス帯域と併せてさらに隣のルータに伝達するわけです。

 じゃあやっぱりインターネットを遮断したらその広報情報も届かないからダメじゃん、ってなりますが、別にいいんです。だってそれやりたいんだもん。ロシア国内のルータのロシア国内からロシア国外に通じるすべてのポートをシャットダウンして、代わりに、そのポートで受け取っていた経路広報情報をあたかもロシア国内の別の場所にあるかのように偽装して広報すれば完了です。こうすることで、DNSを使わずにIPアドレスでアクセスしようとした人を、ロシア国内のてきとーなサーバに誘導することができます。そのサーバにアクセスすると、「残念、それはプーチンのおいなりさんだ」とでも表示するようにしておけば。

 という感じのことをやるんだと思いますし、実際に2019年末にそれらしい演習をやったらしいですね。詳しくはわかりませんが。演習の成果を出せる、とウキウキしている技術者がいっぱいいそうです。

 しかし。これは、ロシア国境を超える通信がIPである場合の話。非IP通信の場合は、そう簡単にはいきません。いや、インターネットっつってんだから非IP通信なんてありえないだろ、と思うことなかれ。

 一番強力で対処方法がないのは、イリジウムです。そう、あの衛星携帯電話の。あれ自体は、独自の伝送方式でポイントツーポイントで結んだトンネルの中にIPを通しているだけです。さらに重要なのが、イリジウムは衛星間通信を使って地球局がない場所から地球局がある場所へと伝送路をつなぐことができます。イリジウムが南極でも使えるのはそのためです。話題のStarlinkは、その方式がありません。あくまで、地球局から直接見える衛星を経由してユーザ端末との間でデータリンクを張る方式。なので、ロシア国内でStarlinkを使うためにはロシア国内にStarlinkの地球局を置くしかなく、その地球局が当局に抑えられたら終わりです。

 また、アナログな方法ですが、国際電話でモデム通信をする、という方法で逃れることもできます。電話は単なる音声ですから、IP遮断の対象ではありません。じゃあ電話も全部禁止ー、というところまで踏み込めるかっていうと、そこまではやり切れない気がします。フィンランド国境とかならアマチュア無線でIP交換やってる猛者もいるかもですね。

 実のところ、これに似た非IP的手法でいろんな通信をロシア国内外でやり取りしている会社は結構あると思います。衛星とか光ファイバとかで非IPの信号をやり取りしているパターンですね。今我先にとロシアから逃げ出している会社はまさにそういった会社なんじゃないですかね。拠点にロシア兵が踏み込んでくるかも、って状況では営業どころじゃないですからね。特に、データセンターを持ってる会社はやばいので、とっとと電源落としてディスク叩き割ってるんじゃないかな。

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2022/2/17 18:36 · ひとりごと · 1 comment

 技術の進歩というのがなんなのか、というね、今更な話をするわけですけど、いや、最近久々に続きを見たいなと思う大河ドラマが始まって、その中の出来事を見てて思ったんですけどね。

 技術の進歩って、ものすごく大雑把に言うと、たいていのことは「世界を狭くする/時間を減らす」ことなんですよね。隣村に行くのに半日かかっていたのが、車があれば五分だし、アメリカに手紙を届けるのに一か月かかっていたのが、スマホがあれば一秒だし、お願いしてから何日も待たなきゃならなかった包丁がいつでも百円ショップの店頭に在庫があるし。そうやって世界が狭くなって、かけなきゃならない時間が不要になっていくと、その空いた時間を別のことに割り当てることができるわけですよね。つまり、明確に生産性が上がっているわけです。だから、一人の人が生み出すことのできる価値の総量が指数関数的に増えていく。それが技術の力なんですよね。

 その中でも、通信ってまさに世界を狭くすることに最大に寄与しているわけです。例えばですよ、東欧の某国が、その隣国から攻められそうになってる。いや、ほんとに攻めてくるかわからないけど、国境に兵隊がたくさん並んでる。もし、通信という概念がない世界だったら、目の前の事実だけをもとに判断するしかないじゃないですか。あ、攻めてきそう、やられるまえにやったろ、じゃないですか。そうじゃなきゃ自分が殺されるかもしれないんだもん。じゃあ、通信という概念を導入してみましょう。首都が国境から200km程西にあって、飛脚が手紙を運ぶとしましょう。頑張れば三日くらいで着くのかな? そんなもんだとしましょう。やべ、なんか攻められそう、と手紙を出します。手紙を受け取った偉い人が、まて、戦争になるから手を出すな、という手紙を送り返します。六日。たぶんその間にもう衝突始まってますよね。だって、やらなきゃやられるんだもん。まあ、あらかじめ手を出されるまで絶対手を出すな、なんてことを言い含めてあったとしましょう。じゃあ、首都の偉い人が、今度は相手国の首都に向けて「国境の兵隊、めっちゃこわいんですけど、あれ何?」って手紙を出しましょう。国境から相手の首都までも同じくらいの距離だとすると、片道六日。即日返事を出しても合計十二日。で、国境までの往復六日を足して、半月以上です。目の前で銃構えてる兵隊見ながら半月も過ごせますかね。先に手を出すか逃げ出すか、まあ私なら確実に逃げます(笑)。戦争って大体こうやって始まりますよね。

 ってことで、通信を含む技術が発達することにより生み出される時間ってのは、とてつもなく価値があるものなんですよ、っていうことなんですよ。

 東京に職場がある会社に出勤するとき、手段が徒歩だけだったら、まあ23区内くらいにしか住めませんよね。それ以上遠くになると通勤はかなり厳しい。でも、自転車や自動車や電車が発明されたおかげで、隣県くらいまでは一時間で行き来できるようになりました。逆に言えば、価値を生み出す可能性のある社員が隣県にいたとしても、その人の価値数時間分を毎日生み出しているわけです、電車とかは。それがたった数百円で乗れるなんてすごい。

 例の疫病のおかげで、テレワーク的な物が急に普及しましたよね。実はそれ以前からも可能だったことなんだけど、変化に抵抗して導入できなかったものが、うっかり導入せざるを得なくなった。なんていう後ろ向きな理由だとしても、急速に普及したのは確かです。職場に出勤しなければできない仕事もあるでしょうが、そうでなくてもできる仕事もある。そうでなくてもできる仕事については、テレワークの恩恵はとてつもなく大きいんです。何しろ、通勤2~3時間がゼロになるんですから。新たに毎日数時間分の価値を生み出すことができるようになっているわけです。

 それでも、古い価値にしがみつく人たちは、テレワークの欠点をあれこれと指摘しては抵抗します。この大きなチャンスを逃がそうとしています。もちろん、テレワークに欠点があることは否定しませんけど、欠点が問題になる仕事はふつーに出勤すりゃええやん。それよりも、テレワークで生まれた新たな価値時間をどんなふうに使えるか? そちらに知恵を絞ったほうがよほど有益だと思うんですけどね。それが、さらに通信技術の発達を誘発するし、いくつかの欠点も払しょくに向かうはずなんです。

 いや、なんでこんな話をいきなり書いてるかというと、いわゆる「アフターコロナ」に向けた議論をどこの会社でもしてると思うんですけど、私の勤める会社では、なんかテレワークは全廃しようぜみたいな頭の悪いことをいうおじいちゃんがたくさんいてですね。ほんともったいない。せっかく生まれた価値の使い方を考えようぜ。技術ってのは、そのためにあるんだから。

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2022/2/17 18:36 · ひとりごと · 1 comment
2020/7/29 17:38 · 技術解説 · 3 comments

久々に易しい電波のお話。今日は電波の干渉について。

さていきなりですが、土星を見ています。

いやー、いい望遠鏡使ってますね。とか言う話は置いといて。この土星、ちゃんとわっかの縞々までしっかり見えています。じゃあ、どうなったら、これが見えなくなるでしょう。目をつむるとか無し。

隣に太陽置いてみました。目が、目がぁ~。まぶしくて土星が見えなくなりましたね。
電波の干渉で通信ができなくなるっていうのはおおよそこういうことでいいです。
見たいものよりもまぶしいものが目に飛び込んできて見えなくなる。そんな感じです。

終わり。

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終わりません。

さすがにそばに太陽置いたら見えなくなるのは当たり前すぎます。実際の電波を使った通信でここまで強烈な干渉源(ここで言う太陽本体)があることはありません。では、うっかり隣に木星が見えたらどうなるでしょう。

こんなやつを隣に置きます。

土星も木星も、夜空で光っていますので、その周囲に光彩ができています。電波で言うとこういうのを「サイドローブ」とか言ったりして厳密には違う現象なんですが、まあ大体そういうところは電波も可視光も似たようなもんなので、同じということにしておきます。
で、よく見ると、木星の光彩が土星にかぶってしまっていますね。そのために、土星の環のディテイルが潰されてしまっているのが分かるかと思います。縞々が白飛びして見えない感じ。
これが、同じくらいの電波発射源でも隣同士に並んでいたら干渉してしまう理屈です。

さて、猫登場。

これが、猫が土星を見ているところです。

木星を見るときはこう。

で、両方視界に入ってしまうと、こんな感じで干渉して、大切な縞々が潰れてしまうわけです。

では、電波を使った通信では、これをどのように解決しているのでしょうか。
答えはこんな感じ。

木星から光が漏れないように囲ってしまいます。ただし、下の青い猫は木星を見たい猫なので、下の猫のために一方向だけ開けてあげます。こうして、オレンジの猫には見せずに青い猫は木星を見ることができます。電波で言えば、こういうのを「指向性アンテナ」とか「ビーム」とか言ったりします。かっこよく「ビームフォーミング」とか言いだしたりしますがめんどくさいのでほっときます。

で、実際に土星の近くに木星があったとしてもこんな感じで、オレンジの猫は土星だけを見ることができます。
この、木星を囲む壁ってのがまた設計が難しくて、青い猫のすぐ近くに木星を見たくない猫がいるかもしれないので、慎重に方向や開口部分の広さを計算しなくちゃいけないんですね。携帯電話ネットワークを作るときに難しいのはまさにこの辺。やみくもにアンテナを増やしてもダメ。なんです。

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さて、最後にもう一つ、ちょっとトリッキーな干渉対策を紹介します。

まず、縦の縞々模様のフィルターを準備します。

フィルターというのは、画像に濃淡をつけたりするためのものと思ってください。今回の例では、単純に画像の各画素からフィルター画像の明るさを減算するようなものにします。
同じように、横の縞々も。

これが横の縞々。
次に、一つルールを作ります。
土星の中の人は、自分の光を出すときに横の縞々フィルターを使うこと。
木星の中の人は、自分の光を出すときに縦の縞々フィルターを使うこと。

つまりこういうこと。土星は、

で、木星は、

ということです。この二つが一緒に視界に入ってくると、

こんな風に重なって見えます。ここで、土星を見たい人はさっきのルールを思い出します。あ、土星は横縞フィルター使ってるんだっけ、と。
てことは、この画像に、

この横の縞々を「足し算」すれば、土星画像が復元されるかもしれない。

やってみた。何となく、縞々のディテイルが残っている気がします。

左が土星の元画像。真ん中が何もフィルター使わなかったとき。右側が縦横フィルターを使い分けたとき。一部白飛びしそうなところがあるものの、大切な縞々は何とか判別できそうです。
こんな感じで、最初から画像=電波にわざと違う種類の汚れをつけて、その汚れの取り除き方をあらかじめ伝えておく、という方法で、干渉を取り除く方法もあります。なんちゃらMIMOとかそういうのは大体こんな感じです。

ということで、干渉の起きる仕組みと起こさない仕組みのお話でした。

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2020/7/29 17:38 · 技術解説 · 3 comments
2020/7/23 00:43 · ねこ · 3 comments

子にゃんこ保護の続報です。

先日、家族に見守られながら永眠いたしました。
4月に倒れてから三か月、頑張ってくれましたが、最後は静かに眠りました。9歳の誕生日を迎えた直後でした。

実は数年前に尿道結石で入院したときに尿毒症でだいぶ腎臓をやられ、何年も腎臓ケアの食事をしていたのですが、やっぱり徐々に弱っていたようで、何度か腎不全→復活を繰り返したのち、という感じでした。点滴でミネラル上昇だけをなんとか食い止めて腎臓の復活を待っていましたが利尿剤にも応答が無くなり、泣く泣く点滴を外して連れ帰りました。元気ににゃーんとすり寄ってきていたこの子が、その日のうちに逝ってしまいました……。いつも寝ていた寝室に連れて行ったところで力尽きたので、ああ、ここで眠りたかったんだな、と頑張ったこの子をほめてやりました。

今年に入って二匹相次いで急逝で、本当に落ち込みます。あー。

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2020/7/23 00:43 · ねこ · 3 comments
2019/10/1 10:37 · ニュースコメント · 1 comment

ドコモとJR東海、200km/h以上で走行する新幹線との5G無線通信実験に成功
28GHzでここまでやったのは確かに世界初でしょうねえ。いやー、ようやるわ、って感じです(笑)。5Gってフレームの構成はLTEからさほど変わってないんですよね。なので、いろんなフィードバックだとか判断可能なタイミングだとかはせいぜい1ミリ秒のオーダー。一方、200km/h=56m/s、おおよそ60m/sとすると、周波数2GHzなら波長相当の距離を走るのに2.5ミリ秒。フェージングだのなんだのの伝播環境の変化はおおむね波長オーダーの距離変化で起こるので、2.5ミリ秒での変化ならなんとか1ミリ秒のオーダーの制御で成立させられます。しかし、これが28GHzとなると、波長オーダーの通過にかかる時間が0.18ミリ秒です。さすがに一桁違うとほぼ制御不能になると思ってよいと思います。システム的なプロアクティブな制御が難しいとなると、ここはもう、個別要素的なリアクティブな対処を積み上げていくしかないわけです。もちろん一番は、可能な限りアンテナ見通しを確保する基地局配置、それと、多素子アンテナ。実効受信面積を広げて「統計的に受信する」ことで制御限界以下の擾乱を打ち消してしまうわけです。いや、こんな話をしてると思い出すのが、PHSなんですね。後期のPHSは、割と新幹線でも普通に使えるようになっていました。ですが、PHS周波数はほぼ2GHz帯、に対して、PHSの制御オーダーは10ミリ秒です。つまり、2.5ミリ秒オーダーの擾乱に対して制御可能オーダーが一桁ずれてます。2GHzのPHSで新幹線に乗るのと28GHzの5Gで新幹線に乗るのはほぼ同じ関係なんですね。その時PHSでやってたのは、新幹線沿い見通しにアンテナを大量に立てて端末は空間ダイバシティはもちろん時間ダイバシティ、周波数ダイバシティも組み合わせた実質8素子アンテナでの豪華な受信をフルに使っていた状態だったはずです。あれでさえも「うわー変態だー」って思ってたくらいなわけで、今回のドコモ実験にもそこはかとなく変態の香りを感じている今日この頃です(笑)。

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2019/10/1 10:37 · ニュースコメント · 1 comment
NFV
2019/9/4 10:00 · 技術動向, 技術解説 · 1 comment

楽天が携帯電話網構築で導入することで話題になっているNFV。Network Function Virtualizationの略らしいですが、これが一体なんなのか、という点と、私がちょっと疑問に思っている点を軽く紹介。

NFVのキモは、ネットワークの機能を仮想化することです。読んで字のごとし。ではここでいうネットワークの機能とは何でしょうか。

これはNFVのプラットフォームごとにいろんな考え方があるので一概にこれだとは言い切れませんが、スイッチ、ルータといった基礎的なネットワーク要素から、DNS、DHCP、NATといった応用的なネットワーク要素までをおおよそ含んでいるように見えます。

具体的にどのように仮想化するのか、というと、ざっくりというと、物理基盤の上に仮想基盤を動かしてネットワーク機能に特化したバーチャルマシンを作って動かす、という感じ。バーチャルマシン自体も汎用OSだったりするパターンもあったり、バーチャルマシンがネットワーク装置をそのままエミュレートしているようなパターンもあったり、なので、これまた一概に言えませんが、共通しているのは「物理的な計算リソースを仮想化して間接的に使う」ということです。

そんなもん何十年前からあった話や、とツッコミが入りそうですが、いや、実のところ、その通りなんですよ。ネットワークの仮想化自体は、20年前の技術でもちょっとしたノウハウさえあれば素人でもなんとか一つ二つは組み上げることができた程度のものなんです。オープンソースのスイッチ・ルータエミュレータだのDHCPだのDNSだのは仮想基盤の上で動くものができて久しいですし。

じゃあなんで今頃になってNFVが注目されるようになったのか。これは逆説的に、私がNFVを懐疑的に見てしまう理由になってしまうんですが。

単純に、性能です。

計算機の物理的な計算リソースの性能が桁違いに向上し、どうやらいろんな仮想ネットワーク要素を同時に動かしても何とかなるレベルになってきたところでNFVという話題が盛り上がって、主要なネットワークベンダもNFV製品をどんどんとリリースし始めた、というのが昨今の状況なんですね。

でね、私が懐疑的なのは、「そこまで計算性能上がってないだろ」ってことなんです。もう少し具体的に言うと、「1コア単位の性能」でみると、ハイエンドのスイッチやルータをエミュレートするにはまるで足元にも及ばないってことなんです。仮想化すると、最終的にはパケットバイパケットで「どのCPUコアが処理するか」が決まってきます。つまり、一つのパケットを同時に1コアしか処理できないんです。そんなもん瞬時の話やん、って思うかもしれませんが、例えば一般的なハイエンドのスイッチ製品、基本的にパケット転送を専用のハードウェアで処理していますが、何らかの理由で(スイッチ内部に搭載している)CPUのコアで処理しなければならなくなると、その処理性能は百分の一以下に落ちるんです。別にスイッチ製品だからと言ってボロCPUを使っているわけはなくて、1コアあたりの性能でいえば最新サーバ製品にさほど劣るものではありません。仮想化しているオーバーヘッドを無視したとしても、CPUでのパケット処理ってのは、ちょっと無理があるんじゃね、ってのが私の印象なんです。

いや、実のところ、ごくごく普通の企業向け製品であれば、全然問題ないと思うんです。そもそもから言えば、そういう「ハイエンドのスイッチ製品」なんて企業向けで使うわけないですもん。じゃあ、ハイエンドのスイッチ製品を使うのってどんな人? ・・・はい、ご名答。通信キャリアやデータセンター屋さんです。そういう人たちは、NFVをちょっとかじっては去っていきます。彼らの求める処理性能を一ミリも満たせませんから。もちろん、DHCPやDNSやFWなどの「もともとCPUで処理していた機能」に関してはガンガンNFV化しているようですが、それを言ったらデータセンター屋さんなんて「マシンを仮想化してナンボ」のプロですからね、やって当たり前のところをやってるだけ、NFVなんていう大層なお題目を掲げたりなんてしてないわけです。

ということで、楽天の言う「オールNFV化」みたいなのに、すごく疑問を持ってしまうんですね。そもそもeNB/EPC関連ノードなんて仮想ノード以外の製品をいまさら探すほうが難しいくらいですし、じゃあそんな大層なお題目を掲げてNFV化するのはまさかネットワークインフラ部分? えー、いくらなんでもそんなん無理やろ、なんて思っちゃうわけです。

何はともあれ、NFVと一言で言っても、「NFV化に適していない部分」ってのはまだまだ残っていて、不適部分を無理にNFV化するとコスパすっごい悪いよ、っていうお話なのでした。

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2019/9/4 10:00 · 技術動向, 技術解説 · 1 comment

T-Mobile deploys LTE for offshore workers in Gulf of Mexico
海カバーが熱い! T-Mobileがメキシコ湾をLTEでがっつりカバーする計画を発表しました。油田掘削施設とかを活用するみたいです。海は障害物がなくてどこまでも電波が届くからとてもカバーしやすい……なんてことはなくて、海面反射が結構めんどくさいらしいですよ。凪の日と荒れた日で伝播プロファイルがコロッと変わるし、もちろん潮の満ち引きで超長周期のフェージングも起こる。これをまともに使えるレベルできっちりカバーするのは相当に高度な技術が必要です。まあ、実際はまともに使えるレベルできっちり、とまではやらずに、何となく電波が届いていて「無いよりマシ」程度になればいいなあ、というところで手を打つんでしょうけど。ただ、今回の発表した計画のすごいところは、そのカバーエリア。六万平方マイル以上ですって。なじみの単位に変換すると15.5万平方キロメートル。日本の国土が38万平方キロメートルですから、日本国土の半分に近い面積。おそらく日本の携帯電話カバーエリア全体を上回るはずです。それだけの巨大なエリアがポンと出現するというのは、世界の携帯電話史でもちょっとしたマイルストンになるんじゃないでしょうか。まあ、本当に実現すれば、ですけど。記事中でT-Mobileの人が、T-Mobileは今後はこんな感じでちょっとマニアックなエリアカバーを作っていきたい、みたいなことを言っています。いや、本当のインフラ競争って、そういうもんですよね。みんながみんな同じエリアを同じ厚みでカバーしたら、そりゃ単なる料金競争だのキャッシュバック競争だのになりますよ。お役所も一枚噛んでるらしい『僻地エリアの鉄塔共用』なんてのは、競争の観点では愚策も愚策。単なるインフラ屋土管屋に落ちぶれることが決定しているキャリアが目指さなきゃならないのは「多少高コストでもうちにしかないエリア」のはずなんです。そうじゃなきゃ、競争キャリアにほぼ平等に周波数を割り振る意味がないですもん。みんなが同じエリアをカバーするんなら、幹事キャリア一社に全周波数割り当ててほかのキャリアが局単位MVNOとして借り受けすればいいわけですから。ってことで、例えば日本の主要フェリー航路を完全カバー! なんていう面白キャリアが今後出てきてくれるといいなあなんて言うお話。

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KDDIとソフトバンク、地方での5G基地局を共有へ
いや実際、KDDI、ソフトバンク、楽天が生き残る道はこれしかないでしょ。5Gだと基地局自体がセンターノードと分散ノードに分割可能で、その間のインターフェースが標準化されている上、多対多の接続も考慮に入っているわけで、現地にばら撒く分散ノードが各社のセンターノードとリンクしてそれぞれの事業者の周波数で電波を出す、っていうことが可能なんですよね。つまり、各社が各社の都合でロケーションを確保して分散ノードを置き、契約に従って他社センターノードとリンクして電波を出す、ってことが可能。5Gの割当周波数は一部を除いて全社共通バンドなので、バンド内でのシフトだけで対応可能だし、最近の無線機は出力可能なベースバンド幅の合計も格段に上がっているので、三社分のベースバンドを受け取って全部RFに吹くくらいのことはできそうな気がします。なので実現性はかなり高いし、楽天辺りが独りで大法螺を吹くならまだしも、比較的お堅いKDDIが中心的に回しているのなら、「non NTTインフラ連合」が本当に成立するんじゃないかなー、なんて思います。まあもっと言うと、今は上のレイヤ、googleやappleなどのOTTがほぼインフラただ乗り状態でキャリアの市場を食い荒らしている状態なので、東西、Nコム、ドコモも加えた「ローレイヤインフラ連合」でも作らないと、GAFA辺りに対抗して生き残ることはできないんじゃないかなー、なんて思ってますが。

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