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2011/8/24 10:00 · 事業考察 · 10 comments

携帯電話各社のインフラ力が一体どの程度なのか、と言うのを、私の独断と偏見で分析してみるという回。一応、2011年8月現在基準で、と断っておきますが。

まぁ、「インフラ力」とか言って、「女子力」並みに基準のはっきりしない言葉を持ってきてしまった時点でグダグダになるのは分かっているんですが、大雑把に言って、「現時点のインフラの広く/厚く充実しているさま」「インフラへのダメージへの耐性の強さ」「将来的な新機能への対応力」と言う辺りが、一応インフラ力の判断基準と思ってください。

まずはドコモ。常々インフラ力最強!!と褒めまくってはいますが、まぁ、実際、強いですよね。FOMAのエリアは非常に充実していて、しかも、実効スループットでも他社を圧倒しています。これは、相当厚くエリアを整備していること、基地局間で細やかに負荷分散できる仕組みを備えていること、大きな余裕度を持つバックホールとコアを持つこと、と言った辺りが、その強さを支えているといえます。

また、無線ネットワークを構成する機器をほぼ全部にわたってその内容を把握し、自ら開発しているというところも、その強みです。くわえて、世界的な技術トレンドを把握し、あるいは先導し、常に数歩先を読んだ技術開発を行っていること、これがドコモのインフラを強くしています。

たとえば、新しい機能をネットワークに取り入れるとき、無線ネットワーク機器のソフトウェアを事実上自社所有しているドコモは、ほぼ完璧に理想の機能を実現できます。これに比べれば、同じ自社開発のKDDIでも完全さには及ばず、基本他社丸投げのソフトバンクでは同じベンダが世界のほかのところで誰か向けに実現済みの機能しか取り入れられない、と言う強い制約が出てきます(緊急地震速報/エリアメールの対応状況などがまさにこれを示しています)。

また、自社で独自に光回線を引き回し、さらには、自社開発の超強力な集中基地局による「無線基地局」と「基地局処理部」の分離により、都心でも非常に細やかなエリア補填を行い、なおかつ、エリア同士の干渉も、集中基地局による自律的な制御によって防いでいける仕組みを持っています。これ一つをとっても、単にありもののマイクロセルをばら撒くソフトバンクとは大きな差があると言えます。この光を使った集中型の基地局と言う考え方は最近になってようやく世界中のベンダ・事業者が注目し始めていますが、これだけ古くからここまで大規模に運用してきた事業者は世界広しといえどドコモだけでしょう。

もちろん郊外や山間でもしっかりと光回線を引き、直接制御可能な基地局を並べることで、干渉なく厚みのあるエリアを実現しています。このため、郊外を含めて、何らかの災害が起こったときにその被害範囲を限定し、他の装置でカバーできるようになっているわけです。それが圧倒的な資本力によるものであろうとも、実際にそれが出来ている、と言うことがドコモのインフラの強さです。

ただ、ドコモに関しては弱い部分も時折見られて、と言うのが、需要の急増に対する弱さが、結構な頻度で見られることがあります。これは、予測していなかった無線区間の需要急増に対して、無線回線の拡充に時間がかかったり、あるいは、有線区間の設備に関して、軽い障害によるせき止め→開放→鉄砲水と言う需要増加に対して容易に設備障害にまで達してしまうこと。ここ最近のドコモの接続困難になるタイプの障害はすべてこのタイプの障害です。特に有線区間の大需要に対しては弱く、「有線区間設備」がドコモにとっての弱点といえそうです。

次にKDDI。実は隠れたインフラ力トップ事業者。携帯電話ネットワークを比べたとき、基地局数では他社よりかなり少なくなっていますが、しかしこれは実は大きな誤解が含まれています。と言うのが、KDDIのCDMA2000ネットワークは、搬送波数で4倍だからです。

もちろん同じ帯域幅なので搬送波数がいくつだろうと究極的な容量は同じです(逆に分割損があるくらい)。しかし、実際には、それぞれの搬送波が、音声用、データ用、と言うように用途がわかれ、それぞれが別々のアクセスネットワークに収容されている、と言う事実があります。これが、同じ基地局内に異なるドメインが共存し同じ搬送波内に異なるドメインのチャネルが混在するWCDMAと、搬送波の観点から既に別ネットワーク化されている(同じ基地局内にありながら別の基地局装置として独立して稼動している)CDMA2000の大きな違いです。

もし、ある搬送波を担当する基地局装置が壊れた場合、その影響はその搬送波内に閉じます。他の搬送波は元気に動作しているわけです。と言うことは、それだけで、何らかの障害への耐性は大幅に向上します。たとえば同じ5MHzだけで考えると、WCDMAでは1搬送波だけですが、CDMA2000では4搬送波に分割されます。ある1搬送波用装置が壊れた場合、WCDMAではその時点で全滅ですが、CDMA2000では他の3搬送波は生きているので、サービスを続けられます。つまり、「基地局」と言う単位では非常に小さく見えても、その中にはたくさんの「独立した基地局装置」が群れているため、それだけで、耐障害性が高い、といえるわけです。

もちろん方式的な強さだけでなく、KDDIとして「大容量地上網を持つ」と言う強みもあります。その大容量地上網を長らく一社体制で運用してきた実績は、地上網起因の障害をほとんど出さないという点で際立った成績を残しています。また、可能性の問題として、同期ネットワークのノウハウ、衛星運用のノウハウ、海底ケーブル運用のノウハウ、マイクロ波網運用のノウハウ、さらにはFTTHとCATVの市内リーチとハブ局舎も持つ、と、通信事業者としてはほぼパーフェクトな潜在能力を持っています。

近頃に限れば、CDMAの旧800MHz停波→新800MHz整備とLTEの新規整備のために、なかなか新しいエリアの拡大や思い切った拡張が余りなく、インフラ的にも元気がないように言われていますが、それでも潜在能力ではおそらくトップ。LTEエリア整備計画が3社中突出していたことも、こういったKDDIが持つあらゆる通信技術に対するノウハウが裏付けているといえそうです。

ソフトバンクについては、えー、失礼ながら「インフラ力ってなに?おいしいの?」ってレベル(苦笑)。もちろん、ソフトバンクにも美点はあり、「なにがなんでもやる」と言うところ。技術がない、ノウハウがないのなら、金で、数で、解決しよう、と言うのがソフトバンクのインフラ。

基本的にソフトバンクの携帯電話ネットワークは、ほとんどすべてが、ベンダによる設計・工事によるものです。機器の選定や工事業者の選定でさえほとんどベンダに任せているのに近い状態。こうやってソフトバンク自身は全く技術やノウハウを持たず、お抱えベンダに技術やノウハウを蓄積していくというやり方です。

また、品質を気にせず安く済ませられる、数が確保できるなら何でも使うという方針でもあります。工事・運用業者についても自身で選定することなくベンダ丸投げ、もちろんそれで問題が出なければオールOKですが、以前に免許交付前に電波を発射した電波法違反事件のようなことが起こってしまうのは、やはりコンプライアンス的なインフラ工事の品質の低さが原因といえそうです。

また、有線区間の弱さも突出していて、同じソフトバンクグループのYahooBBではリンク速度に対して非常に速度が遅く、なおかつパケット損失率もきわめて高いようで、本来必要なレベル以下にまで有線区間の帯域を絞っている(過剰に集線を行っている)ことがうかがわれます。このような状態なので、一箇所でも障害を起こせば溢れたトラフィックが他のノードに津波となって押し寄せ連鎖的に地域的大規模障害を引き起こすことになるわけで、ソフトバンクでは「○○県で繋がらなくなった」と言うような地域限定で致命的な障害を起こす確率が非常に高いように思われます。

もちろん現実の物理的インフラも非常に脆弱で、たとえばバックホールは数珠繋ぎで一箇所の破断で下位局が全滅するような構成だったり、サイトダイバシティが不完全で局地的な災害に対してエリア全域が不通になったり、と言うことが度々起きているようです。10万以上の基地局をばら撒いても、それを達成した後の満足度調査でも「圏外の少なさ」が圧倒的最下位から抜け出せず、数ばかりで実体がいかに非効率であるかを物語っています。

こんなわけで、ソフトバンク化した当初2年間ほどは、総務省からきついお叱りを受けるほど大量の障害を頻発させたわけですが、今ではようやくベンダ側に事業者的ノウハウがたまり、そういった障害がさほど頻繁には起こらなくなってきているようですね。ただ、そうやって外のベンダに事業者的ノウハウを丸投げしてしまっている以上、何らかの原因でそのベンダを使えなくなったり、そのベンダが扱えない機器を導入したくなったというような場合に、行き詰まります。ソフトバンクのインフラは、ノウハウの面からも非常に脆弱な基盤の上に成り立っているといえます。

さて、イーモバイル(イーアクセス)。開業時にエリア・無線回路設計の技術者を他社からガンガン引き抜いていたというウワサも聞きましたが、その甲斐(?)あって、実はエリアの設計はそんなに悪くない。基地局数競争なんていう不毛な土俵にも上がらないし、都心で不用意にセルを割って圏外を増やすようなヘマも実はあまりしていない、隠れた優良事業者だったりします。

とはいえ、それはあくまで「無線ブロードバンド事業者」と言う特定の用途にほぼ限定されたものだからですね。なんとなく、欧州の小国でほぼインターネット専業でHSDPAを始めるような独立系事業者とイメージが被っています。遅延プロファイルや耐障害性などをあえてスポイルして安価なIPネットワークで下り偏重のインターネットトラフィックに注力した感じ。また、有線区間はソフトバンクと似た過剰な集線をかけているようです。つまり、地域的なトラフィック集中に弱い傾向。イーアクセスと言う会社としてそういう方針のようで、私も元ACCAのADSLを使っていますが、イーアクセスに買われて半年後から極端に通信速度が低下するようになりました。

そういう意味では、バックボーンは怪しげな冒険をしているけど、無線インフラに関しては、セオリーどおり冒険しない標準的な構築と運用にとどまっているというイメージ。ただ、その「セオリー」を崩さずにしっかりと守っている部分こそが評価できる部分とも言えそう。どこかで失注して大量に余った基地局を1000単位で買い付けて在庫し構築に充てた、と言う話もありましたが、そういうのも、あくまでエリア設計がセオリーどおりだからこそ出来たとも言えそうです。ドコモみたいなキ○ガイじみたエリアではありもの基地局なんて絶対使えません。

ここしばらくエリアへの投資は止まっているようで、ちょうどその止まった前後から、期中の完全子会社化や合併などなどでイーモバイル単体の財務情報が外に出てこなくなっています。タイミング的には当初の資本が尽きる頃で、その先の投資のための調達に苦しんでいる状況かもしれません。経済状況さえ好転すれば、イーモバイルのインフラはまた成長基調に戻るかもしれませんが、当面は、足踏みを続けそうな予感です。

最後にウィルコム。個別技術に関してはアホみたいに高い技術力を持っている反面、全体のインフラ力と言う意味では、やはり力不足を感じざるを得ないのがこの事業者。その最も大きな原因は、なんだかだで資本的な弱さと言うところに帰結するのですが、一方、PHSと言う設計フリーに近いシステムであったことが逆にエリア設計へのノウハウの蓄積を妨げていた面も無きにしも非ず。

と言うより、PHSは携帯電話的なエリア設計が非常にしにくいシステムです。すべてが運任せ。在圏やハンドオーバも、端末がその瞬間にたまたま見えたものを選ぶシステムなので、エリアを打つ側としては予想不可能な挙動も織り込んだ上で、かなり安全側にオーバーラップさせていく方向になります。逆にそういうことが出来る方式だからこそ、電波伝播という自然現象で自動的に重み付けされる方向の(ソフト上の擬似乱数ではなく)本当に偶発的な乱数要素により自然にトラフィックが分散されることになり、トラフィックの急増に対して非常に強いという特性を持つことになります。

つまり、無線に関しては案外楽をしているんですね、ウィルコム。ただ、その楽をした分を、同期システムや動的アレイアンテナ技術などに注ぎ込んでいるため、ヘンテコな個別技術を鍛え上げることが出来たといえるでしょう。なので、実はインフラ全体のインテグレーションと言う意味でのインフラ力は意外と低い、と私は見ています。

と言うことで今の私のイメージを大雑把にまとめて見ました。1年おきくらいに再検証してみたいですね。それでわ。

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2011/8/24 10:00 · 事業考察 · 10 comments

衛星についていろいろ書いていたら、衛星についての質問をいくつか頂いたので、今日は衛星のお話。と言っても、専門家ではないので、いろいろ間違っていたらご容赦を。

まず、具体的にどんな方式を使っているのか?と言うお話。これはもちろん衛星によっていろんな方式があり、もうほとんど「1衛星システムに1方式」と言ってもいいくらいに、みんな方式が違っています。もちろんそもそも衛星システムに乗り出せるほどの事業者となると相当限られるわけで、世界的に使われている衛星通信システムはそれほど多くはありません。

で、具体的な方式については、ほとんどは非開示なんですが、基本としてほとんどの衛星システムでは伝送重畳方式としてTDMを使っているようです。やはり、衛星システムと言うのはほとんどの場合非常に少数同士を結ぶもので、ぶっちゃけほとんどのシステムは1対1であることが多く、衛星は通信を中継するだけ、つまり「空にでかい鏡が置いてある」と言うくらい単純化されていて、ほとんどの制御を交換局が主導して行います。この中で、衛星として複数のリンクに対応している場合でも、それは、端末側に複数リンク、交換局側に複数リンク、それぞれをFDMとTDMで重畳している、と言う感じです。

で、そのTDMを実現する方式には大きく二つの方式があるように思われます。それは、「地上の有線通信方式の拡張」と「地上の無線方式の拡張」によるものです。

まず、有線通信方式の拡張。たとえば、伝送部分は独自TDMでも、SONET/SDHやSTM、普及しているATMのフレーム/セルをアドレッシング用カプセルとして使います。都市間の大規模ネットワークを結ぶ目的で用いられることが多いATMやSDHなどは、長距離を結び複数リンクを重畳、と言うことで、小さなヘッダとシンプルなアドレスによる小さなパケットを使うことで、長距離伝送時のパケットロスの被害最小化やスイッチでの処理負荷低減などが考えられていますが、これらはそのまま衛星通信でも求められるプロファイルです。と言っても、地上ではせいぜい数百kmのところ、静止衛星なら3万6千kmですからまさに桁違い。そのために、いろいろな工夫や拡張を施していることが多いようです。

またもう一つの、地上の無線方式を拡張するやり方。GSMやCDMA2000(のEVDO)を衛星通信向けに拡張した方式と言うのがあります(今のところ商用になっているのはGSMの拡張だけ)。この場合、元々が無線上での衝突を避けるように作られた方式であるので制御の仕組み上はそのまま使えて便利なのですが、一方、そういった方式は地上での短い距離(せいぜい数kmから十数km程度)の伝送しか想定していませんので、伝送プロファイルを大きく変更しなければなりません。もちろん、衛星通信ではまず不要なはずのハンドオーバや位置登録など無駄な制御もたくさん持っていますし、低遅延を前提とした無線区間での訂正や再送、少数の固定リンクが基本の衛星には不要な可変ペイロードなど、有効なペイロードを減らす無駄なオーバーヘッドが多いため、そういった機能のために用意されたさまざまな無駄な情報を削っていく方向での「拡張」も必要です。一般的なイメージの「衛星通信」ではこのタイプが用いられることはありません。持ち歩きができるタイプの「衛星ケータイ」がこのタイプのインターフェースを採用するようです。

あとハイブリッドとも言うべき方式もあり、有名なインマルサットなどは、伝送部分は独自のTDM、制御方式(メッセージ定義など)はUMTSを使う、と言うようなことをやっているようです。

さてこういった方式なのですが、では具体的にどのくらいの速度が出たりするのか、と言うことになると、これもまた衛星システムにより多種多様です。大雑把に言って、同じ時代の地上の携帯電話システムと比べると、周波数ビット効率が10分の1になるくらい、と言うのが私のイメージ。WCDMAで5MHz占有で2Mbps程度と言われている時代なら、衛星なら5MHzで200kbpsくらいかなぁ、と言う感じ。LTEで10MHzで100Mbpsと言う時代なら衛星で10MHzで10Mbpsとか。「遠さ」と「遅延の補償」が、その効率低下の原因といえます。

もう少し具体的な話で言うと、たとえば、いくつかの衛星インターネットサービスでは、128kbpsから上は数Mbpsくらいまでのサービスメニューがあるようです。昔は16kbpsの衛星回線でも「はやーい!」と言われるくらいだったので、衛星も相当進歩したようです。もちろん、衛星なのでダイナミック割当は苦手、ほとんどの場合は固定速度メニューとなっています(長周期でのダイナミックな割当幅増減を行うようなシステムはあるようです)。また、IPベースで多重化した完全なベストエフォートと言うパターンもあるようです(この場合は別々のIP宛パケットを含んだ同一ビームを全端末で受信しているっぽい)。

さて通信諸元はこんなところですが、一方、「空を飛んでいるので保守が大変では」「宇宙ゴミで破壊されるリスクが高いのでは」といったコメントも頂いています。

まさにそのとおりで、衛星が高額なのはそういった部分が一番大きいといえます。最近は衛星自体はコンパクトになってきたので、複数を一つのロケットで打ち上げるくらいは出来るのですが、一度打ち上げると手が届きません。なので、基本的に「寿命を延ばす保守」は不可能。設計上の寿命きっかりで衛星は終了です。もちろん、寿命の日になってみたら、意外とまだ姿勢制御用推進剤が残ってた、なんてことになれば、その時点で寿命を延長することも多々あります。ただ、それを最初から勘定に入れて償却費を積むわけには行きませんので、やはり単年で黒字を出していくには、衛星の利用料は高額にならざるを得ません。

また、宇宙への打ち上げは、なんだかだで不安定です。宇宙運送事業がまだ不安定な業界なので、打ち上げ費用は変動しますし、便が少ないので、一時期に集中的に「打ち上げ工事」を行うのも難しく(それをやるともちろん打ち上げ費用は跳ね上がる)、大量の衛星を必要とするシステムだと安定するまでの費用のかかる時期をどうやって乗り切るかと言う資本上の問題も出てきます。

衛星が不慮の事故で失われる可能性もゼロではありません。もちろん、衛星通信事業者はそういった事故に備えて、同じ程度のスペックの衛星を複数使って事業を行うのが普通です。もちろんそれぞれ別のサービスを平時は提供しつつ不慮の事故の際は残った衛星で失われた衛星の仕事を代替する、といった運用が必要です。また、イリジウムのように、あらかじめ事故で失われる分を補充できるように休眠衛星を余分に飛ばしておくということをやる事業者もあったりします。

ただ実際に、宇宙ゴミで衛星が失われる可能性と言うのは、非常に低い確率です。衛星はとにかく小さな標的なので、相当運が悪くないと衛星を破壊するほどのゴミは当たりません。イリジウム衛星がロシアの衛星に衝突したという非常に面白い痛ましい事故が起こった事例もありますが、それこそ何百年に一度くらいのレアな出来事です。

などなどのもろもろを勘定すると衛星システムは確かに高額になります。とはいえ、それは単に「高額」であるだけで、衛星だから特別にリスクが高いということではありません。むしろ、そのリスクさえも結局はコストに換算できている、と言うこと。地上の無線局でも、壊れたものは交換だし、交換のための装置を近くの倉庫にストックしておくというのは、予備の衛星を上げておく、と言うのと同じ。ただ単に、地上のものより「全損」になる確率が高く、予備の輸送料が非常に高額と言うだけで、根本的に何か構造が違うというわけではありません。逆に、1基上げれば非常に広範囲に一斉にサービスを開始できるため、潜在的なサービス加入者当たりのコストで見れば桁が違うほどコストが高いわけでもない、安いことさえあるくらいです。

地上と衛星だからと言って、大きな違いはないということなんですよ。ビルの屋上に置いた基地局、高い鉄柱の上においた基地局、広陵の上に置いた基地局、高い山の上に置いた基地局、成層圏に飛ばした気球においた基地局、宇宙に置いた基地局、これは、単にパフォーマンスと装置価格と輸送費と全損率などなどと言うパラメータが違うだけで、連続したものとして考えることが出来るはずなんですね。地上インフラだって、輸送費も予備費もかかっている(ただ割合が小さく目立たないだけ)わけですから。

と言うわけで、先の大震災で再び通信システムの多重化に感心が集まっている中、おそらく衛星も再び脚光を浴びるのではないか、と期待しているのですが、そこでやはり「衛星は特別!」と思ってほしくなくて、あくまで地上インフラの延長線上として「耐災害性の極端な高さ」と「極端な高コスト」が適度にビジネスベースで比較されると将来の発展にも繋がるので良い塩梅ではないかと思います。と行ったところで本日はこれにて。

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以前、ドコモが日中パケット規制をしているっぽい、と言うお話を書きましたが、その続報。

続報というか、もうミもフタもないのですが、最近、パケット規制をみなくなりました。7月からは全然当たってないです。

要するに、私が昼間いる辺りで、何らかのネットワーク改善が行われた、と言うことですね。5月ごろに問題が起こり始めて、改善が7月。かなりのハイスピードです。

もちろん、実際には、規制に到達する前からチャネル利用率がある上限値を超えて、早急な増強が求められている状況ではあったでしょうから、「2ヶ月で対処された」と言うのとは違うでしょうね。もっと早くからアラームが点っていて、そこから対処を始めたけど自動規制が発動する前に対処が完了せず、2ヶ月ほどは規制が発動してしまった、と言う状況でしょう。本来は、規制が発動する前に対処を完了し、混雑している様なんて見せてはいけない、くらいのはずが、予想以上にトラフィックが伸びて規制発動となってしまった、恥ずかしい事例といえるかもしれません。

都心部で他の場所でもちらほらとこういうセル単位規制が行われているっぽいと言う情報をお寄せいただいていますが、他の場所ではどうなのか気になります。同じくらいから一斉に対処を始めたのであれば、同じように規制が解消しているかもしれないですし、にもかかわらず新たな集中スポットは生まれ続けていますから、新たな規制エリアも生じているかもしれません。

と言うことで、とりあえず私のところでは規制はなくなりましたの一言でした。

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あれっ、そういえば、auの新しい機種、IS11PT、WCDMA(HSDPA)に対応しちゃってるんですよね。いや、これでふと思いついて。

いや、SIMロック解除議論があるじゃないですか。今のところ、イーモバイルがSIMロックなし販売を開始、ドコモが正式にSIMロック解除を受け付ける体制。ソフトバンクは緊急地震速報のときと同じく例によってアリバイ作りのために1機種だけ受け付けるとか言っている状況で。

この中で、auだけ仲間はずれなんですよ。通信方式が違うから、SIMロック解除しても意味がないよね、ってことで。

でも、IS11PT、SIMロック解除の意味あるよね。WCDMA対応しちゃってるんですもん。グローバルバンドに対応しているってことは、ドコモ・ソフトバンクの2GHz帯に対応しているはずなんですよ。ってことは、IS11PTのSIMロック解除すれば、ドコモ・ソフトバンクのネットワークで使えます。理屈上は。

いや、USIMスロットがCDMA2000加入者情報にしか対応していなくて、GSM/WCDMAはローミングオンリー、なんていうすごくめんどくさい作りにしてある可能性もゼロではないですけど、普通はそんな作りはしないはず。逆に、ローミング対応のSIMにGSM/WCDMAのローミング用のUMTS互換加入者情報を書き込んであり、GSM/WCDMAが直接それを読む形のはず。ってことは、そこにドコモ加入者情報が書かれているUSIMが刺さっていれば、それを直接読んでドコモネットワークにアタッチできるはず。

auもSIMロック解除に参加していくべきなんじゃね?なんて思うんですけど、どうでしょう。まぁ、auとしては、「出て行く側」はあっても「入ってくる側」がないので仮に解除しても不公平極まる状態なんですけど。だけど、公平な競争が出来るはずのソフトバンクがごちゃごちゃ言って解除しない構えを崩さない状況で、auは不公平だけど解除しますよ、って大々的に発表すれば、企業イメージはかなり上がるんじゃないかなぁ、なんて。ホンネは、「言い訳ばかりのあの会社を追い込んで欲しい」(笑)。

そうそう、孫先生が度々言ってる「SIMロック解除はコストアップになる」っての、あれ、技術的には嘘ですから。あの意味は、「SIMロック解除したら、うちの網を使う前提で売って販売店に払ったインセンティブ(奨励金)が4万ほど無駄になる」って言う意味。元々、どこの端末でも、SIMロック解除機能は搭載されています(私の知る限りは)。そもそもSIMフリーにして行わなきゃならないテストってのがあるし。専用ジグ使えば簡単にSIMフリーに出来ますから。その対ジグ用のソフトウェアの受け口を、キャリアショップ用に普通のシリアル接続にも開放してあげるだけでOK。あるいは、専用ジグを全キャリアショップに配備すれば端末対応さえ不要。つまり、単にキャリアが方針としてやるかやらないか、ってだけの問題。だから、方針として「やる」と決めれば、どこのキャリアでもどの端末でもすぐにSIM解除は出来ます。

と言うくだらない一言でした。

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2011/8/1 10:00 · 事業考察, 技術解説 · 1 comment

携帯電話会社の「オペレーションセンター」って言うと、NASAのミッションルームみたいなおっきなディスプレイパネルが並んでてたくさんのコンソールがあってみんなが同じ方向に向いてヘッドホンつけて、なんてシーンを想像しちゃうわけですが、とりあえず、私がいろんな人から聞いた感じの「オペレーションセンターのイメージ」をまとめてみるのが今回のお話。携帯電話会社のオペレーションって何やってんの?ってことで。

携帯電話事業者というのは、基本的な事業者としての機能で言えば、「インフラを建設する」「インフラ接続役務を提供する」「インフラを運用する」「インフラを保全する」「インフラを撤去(原状回復)する」と言うあたりになるかと思います。もちろん、付帯的に、インフラ機器開発、通信端末の開発・販売、上位サービス開発運用、などなど何でもやっていますが、純粋な事業者としては上記だけで十分に成り立つものです。

で、実際に物理的に基地局やバックホールケーブルを引っ張りまわしたり張り替えたりなんてことをやっている建設・保全あたりはイメージし易いと思いますが、「運用」に関しては結構ブラックボックスになっています。とはいえ、ネットワーク障害のニュースなどではまさにこの「運用」が主役。障害を発見し分析し回復するのは、運用の機能です。

まずは前提的な話。携帯電話事業者が運用しているのは、無線基地局を制御する制御局、加入者管理サーバや回線交換機、パケットセッション制御機能などが含まれる「呼制御系ネットワーク」、回線交換機、パケットゲートウェイ、コア交換機/ゲートウェイなどが含まれる「ユーザトラフィックネットワーク」、そしてそれらの機器を監視・管理するための「監視系ネットワーク」、大体この三つに分かれているといえます。もちろん無線基地局はそのどれにも属しています。

基本的に、すべての運用対象となる機器は監視系ネットワークに繋がっています(機器の種類やベンダによってネットワークが分かれている場合もあるようです)。この監視系ネットワークにより機器は「運用」されているわけです。

続けて、時系列的に運用の役割を並べてみたいと思います。

ある通信用機器を購入し、設置し、必要な配線を済ませ、電源を入れてLANケーブルがアクティブになった後、最終的に「サービスを開始しなさい」と命令するのは、運用です。そのために、運用オペレータが監視系ネットワークから対象機器にログインし、「サービス開始」とか言うコマンドを入力しなければなりません。

サービスが開始されると、そのログを収集・保管しなければなりませんが、これもも運用の役割。このログデータも監視系ネットワークを経由して運用センターに収集され、運用オペレータにより保管されます。この辺は大抵は自動化されているので、オペレータの手間はほとんどないと思います。

で、このままほっとけばすべて自動的にサービスが提供され続けるのかと言うと、そうは問屋が卸してくれません。なんだかだで、この流れのどこかに必ず問題が起こります。それがいわゆる「障害」です。このとき、各機器から監視ネットワークを通じてアラームが飛んでいきます。このアラームはオペレーションセンターのアラーム端末に通知され、そこに表示されます。運用オペレータがやることは、そのアラームが出たら、それに対処すること。

アラームが出たからと言ってサービスが止まっている、と言うことはまずありません。普通は、「この系統に障害が出たので別系統に切り替えました」なんてアラーム。で、大抵はすぐに「メイン系統が復活したので切り戻します」なんてアラームが飛んできておしまい。ただし、オペレータはそれが最後まできちんと動いていることを目視で確認しなきゃなりません。

さらに、自動的に復帰しないことも多々あります。この場合は、とりあえず機器に直接ログインしてリセットコマンドをぶち込んでみたりします。リセットが出来ないとかログインできないとなると、今度は何が原因かを推定しつつ、いろいろな手段でのアクセスを試みたりします。こういうのが、運用オペレータのノウハウ・スキルと言うものです。

また、障害を起こした機器が自分でアラームを出してくれれば良いのですが、アラームを出す間もなく落ちちゃうなんてこともしばしば。そういう時は、そこに繋がっている前段後段の機器が、「あいつとの間のリンクが切れちゃったんすけど」と言うアラームを上げてきて、その機器自身の問題かどうか調べ、そうでなければ相手側が落ちちゃってる、みたいな対応をします。

多分、こういうレベルの小さなサービス影響のない障害が毎日何十と起こっているのが、携帯電話事業者の運用です。こういうのは元々織り込み済みでそのために多重化してあったりするので、ほっといてもただちに(笑)影響はないのですが、復旧しないでおくと次の次の障害でアウトになっちゃう、程度のモノ。ただ、こういうレベルで運用が続いている限りは、担当者が淡々と処理していれば済む問題。オペレーションセンターのイメージにあるでっかいディスプレイパネルとかは必要ないですね。

実際には、やはりもっと重大な、サービス影響のあるような障害や災害が起こります。大きなディスプレイパネルなどは大体そういうものへの対処用。一つは、重大障害があったら画面に情報を出して担当者全員の注意を喚起。やはりいくつかの機器は、それ一つが落ちるだけでサービス影響を起こすようなものです。あるいは、ある機器が落ちることで連鎖的にさまざまな機器で動作不良を起こすようなものもあります。そういった重要な機器の障害に関する注意喚起はやはり大きなディスプレイなどでみんなに伝え、防護策を講じたり二次対処の準備を促したりするわけです。こういった重大障害のために、巨大ディスプレイ以外にも回転灯とサイレン(ブザー)なんかもあったりするみたいです。

また、災害への即座の対応のために、大きなパネルのいくつかには各TV局の放送を流していたりもするらしいですね。なんだかだでTVは速報性が一番高いメディアなので、地震や台風や豪雨などの情報はTVが情報源として役に立つようです。大規模な避難が行われるときなども、避難先の回線確保などの必要がないかの確認などが必要になるかもしれません。

また、障害ではないけど必要な運転中の運用作業としては、状況に応じた設定変更などがあります。一番分かり易いのは、何かのイベントで急に音声発呼が増えたときに発呼規制をかけるような場合。大抵は呼量がある閾値を超えるごとにアラームが出るので、それにより注意を向け、それまでの呼量の推移やその対象となる地域でどんなイベントをやっているのか(事前に準備しておく)などの情報を合わせて今後の呼量の動きを推定し、必要であれば必要な量の規制をかける、と言うことをしていきます。

もちろん、混雑が解消したときに規制を解除するのも運用のお仕事。ただ、普通は規制をかけると呼量そのものが減ってしまうため(呼が端末内で止まるので)、減ったからと言って即座に解除して良いわけではなく、やはり呼量の推移から実際の需要を推定しつつどこで解除するのかを都度判断する、と言う難しいことをやっているはずです。下手に早く解除すると突然呼量が増えてパンクなんてこともありますし、一方解除が遅いと後々重要顧客からのきつーいクレームが入ったりするわけで、この辺は相当神経を使う作業になるだろうなぁ、と思います。

その他、もちろんもっと細かい設定変更は常にやっているはずで、トラフィックのパターンによりユーザトラフィック用のスイッチ群の振り分け比率を変えるとか(あくまでイメージです)、そういうことも毎日やってるんだろうなぁ、と言う感じ。ネットワークは毎日何か新しく建設されるし利用者傾向も毎日変わるので、自動化するのは難しいでしょうね、こういう運用は。

そして最後に、ある機器が古くなった、入れ替える、などのときに「サービス終了」のコマンドを入れるまで、が、機器の生涯における運用の範囲です。サービスを終了し、後は主電源を切ってケーブルを引っこ抜いてと言うことができる段階までが、運用のお仕事。実際、毎日大量の基地局が建設されているってことは同じ頻度で基地局の寿命も来ているわけで、基地局と言っても一基に何十もの内部モジュールがあってそれぞれを運用するわけで、もちろん基地局以外の機器も常に入れ替わっているわけで、ひたすらサービス終了コマンドを打ちまくっている担当者とかもいるんじゃないかなんて思ったりします。もちろん、その機器が繋がっている相手側にも「あいつはいなくなりますよ」と言う設定変更作業が必要です。

ということで、具体的に何をやるのか、と言う点を、思いつく限りでずらずらと列挙してみました。携帯電話ネットワークの運用って大変なんだよ、ってのが少しでも伝われば幸いです。多分、私が人づてに聞いた程度の話では抜けだらけだとは思いますが、そこはそれ、本物の事業者の「中の人っぽい人」がメールとかでいろいろ教えてくれるはずです(ガビーン)。と言うことで、今日は運用のお仕事についてでした。でわ~。

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2011/8/1 10:00 · 事業考察, 技術解説 · 1 comment
2011/7/26 10:00 · 事業考察 · (No comments)

ケータイニュース.netのほうで、mpwさんのデータの集計グラフを表示しているのですが、まずは昨日時点のスナップショットを。

一番上の点線が各日に記録された最大速度、そして太い線が平均速度、一番下の点線(ほとんど見えません)が最低速度、と言う表示にしています。

今回は長期傾向を360日グラフでご紹介。全体の順位傾向には全く変化がありませんが、ドコモがゆっくりと、KDDIが比較的ハイペースで、平均速度を増しています。これは結構面白い傾向です。ただでさえスマートフォン販売数が増えて容量枯渇が課題となっている中で、ゆっくりとは言え平均速度を増しているわけですから。

一方のソフトバンクはほぼ横ばい。とはいえ、6月ごろに平均速度が大きく落ちた時期があり、そこから急激に復活しての横ばいなので、何らかの改善施策があった可能性もあります。何より、その時期に最大速度がかなり大きな伸びを見せています。とはいえ残念ながら3位定着は変わらないのですけど。

ちょっと困ったことに、特にソフトバンクで、計測uid数が少ない日が多くなりつつあります。計測uid数が少ないと、平均値の振れ幅が大きくなるので、余り正しくネットワークの現状を反映できないんだけどなぁ、と言うこと。そういう意味で「時間毎中央値の最繁時間値」なんてのをとり始めてみたんですが、これも安定しない(苦笑)。とり方のアルゴリズムをもうちょっといじくってみる予定です。

と言うことで、実効品質チェック7月号でした。

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2011/7/26 10:00 · 事業考察 · (No comments)
2011/7/21 10:00 · 事業考察, 技術動向 · (No comments)

災害に強い携帯電話網と言うフレーズをTVで聞きましたが、技術的に面白い話題にはならないでしょうか?と言うお便りをいただきました。と言うことで今日は携帯電話網の耐災害性について。

災害が起こったとき、携帯電話網のどこが具体的に被害を受けるのか、と言う点を考えていけば、災害に強い携帯電話網とはどんなものかが見えてきそうですね。と言うことで、まずは災害による被災ポイントを挙げていきましょう。

まずは、携帯電話基地局や交換局の装置や躯体が、地震や浸水で直接破壊されるようなケースが考えられます。装置が壊れてしまえば電波は出せなくなりますし、躯体が損傷してアンテナの角度が変わってしまったりした場合もエリアに大きな影響が出ます。ただ、こういった直接的な破壊と言うケースはめったに起こらないと思います。先の大津波のように設置したビルごと流されたというケースはありますが、揺れ程度で壊れるような装置はまず使わないはずです。

次に、電源断。いくら装置が無事でも電源が切れてしまっては電波を出すことが出来ません。電源が落ちる条件は、まず第一に電力網が停電してしまうこと、そして、交換局や基地局に付帯しているバックアップ電源が落ちることです。これもそうそう簡単には起こらないだろうと言われてはいても、やはり先の大震災では想定をはるかに越える長時間停電でこの事態に陥るケースが多かったようです。

そして最後に、バックホール・バックボーンの破壊。バックホールとは基地局と交換局あるいは交換局とコアネットワークを結ぶ通信線、バックボーンはコアネットワークを構成する通信線のこと。どちらかが寸断すると、携帯電話の発着信のための信号が制御センターまで届かなくなるため、仮に電波が出ていても通信が出来なくなります。また、制御できない状態で電波を出し続けることは場合によっては電波法にも抵触することとなるため、制御センターと通信できなくなった段階で基地局は電波を停めるという動作をすることが多いようです。

大体携帯電話網が不通になるのは、この三つのケース、ハードウェア破壊、電源喪失、信号線途絶です。言ってみれば、ハードとソフトと電源の三つが必須と言う意味で、システム全体として一般的な情報機器と同じようなものだということも出来そうです。

さてでは、実際に災害に強い網にするにはどうすればよいのか。

ハードウェアに関しては、場所が決まっているならとにかく頑丈に作り丈夫な装置を使うしか解決策はありません。もちろん、災害で壊れにくい建物や土地を選ぶということも重要ですが、携帯電話の場合はエリア設計のために余り土地の選り好みを出来ないという事情もあります。ただ、別の強固な地盤の土地に躯体を建て、指向性の強いアンテナを使って遠くにセルを構成する、と言うやり方も考えられます。被害を受けにくい場所から遠くを狙い打ちにするという考え方。またこれをメインにするのではなくメインは従来どおり保守し易くカバーもしやすい場所を選び、遠くからのカバーをバックアップとできるようにしておく、つまり、「サイトダイバシティ」、同じ場所を複数の場所の別のハードウェアによりカバー出来る設計にしておくという考え方もできます。

電源は、やはり長時間のバックアップ電源を確保するしかやり方はないですね。これも同じく電源の途絶しにくい土地を選ぶということも考えられますが、線が切れるかどうかはなかなか分からないもの。あるいは、基地局自身が太陽光など尽きにくいエネルギーである程度動けるようになるということも解決策の一つになりうるかもしれません。天候関係なく昼夜無しに太陽光があたる場所なんてのがあれば太陽光だけで動かせるわけです。もちろん宇宙空間でもない限り超微力な太陽光発電だけで動く基地局なんてありえないわけですけど。その他、いずれにせよ電力会社に全依存するのではなく、自社通信線路に自社局舎からの電源線を通しておくとか自家発電装置を備えておくとか、さまざまな方法での対策を重ねがけしておくのが最善の対策といえます。

そして通信線。こちらは、一見、電源と同じ条件に思えますが、弱い破壊でも通信途絶が起こりやすく重要なノードも集中し易いという弱点があり、一方で、通信を維持するだけなら無線で構成することが出来ると言う利点もあります。つまり、物理的破壊に比較的強いものを選ぶことが可能といえます。もちろん無線では容量が足りないので、通常は光ファイバなどを使わなければなりませんが、この場合も、経路の異なる二つの線で目的装置同士を結ぶだけで飛躍的に耐災害性を向上できます。一番良いのは、二重化した有線を通常時は充てて高速通信を賄い、一方でバックアップ用の無線リンクも用意しておく。そして災害で有線が切れたときに無線リンクにより最低限の通話やメールだけを救済する、と言うやり方。コストはかかりますが、耐災害性は有線を二重化するだけよりもさらにさらに向上するはずです。

とか何とか言いつつ、要するに、衛星使え衛星、ってことです(笑)。私は昔から衛星通信が一押しで、むしろ衛星通信やりたくて宇宙工学の修士出て無線屋業界に入ったのに気がついたらケータイ業界にどっぷりと言うアレでして、とにかく、衛星通信こそが最後の砦であり最後のフロンティアだと思うんです。地上の災害で破壊されることはありえないし、電源も事実上無尽蔵。地上局のダイバシティも何千kmと言う距離でとれますから通信線が途絶える可能性も低くなります。地上で災害が起こり、北海道と九州に置いた地上局が同時に停止する可能性、地上の災害と同時に衛星ハードウェアが偶然破壊されるあるいは偶然動作障害を起こす可能性、いずれも非常に小さな確率。耐災害用バックアップとしては衛星が最終解といえるはずです。

先日の大震災でも、被災地の通信復旧の初動は衛星を使ったものでした。ドコモはワイドスター、KDDIとSBMはタイのIP中継衛星を使って簡易基地局を設置し、復旧につなげています。ここ数年、日本は通信衛星を非常に軽視しており(ので衛星出来ますといって入社した私がなぜかケータイ屋に)、こういった大災害に際して外国の衛星を利用せざるを得なかったのは非常に残念なことですが、この災害で少しは見直されても良いのではないかと考えています。「日本みたいにぎっしりと有線無線網が張り巡らされた国で衛星なんてナンセンス」と言うのが震災前までの識者諸氏の共通した認識だったわけですが、これからはまた変わっていくかもですね。

衛星に限らず、特に災害に対して弱いバックホールなどの通信路に関しては、特性の異なる複数のメディアをミックスして使うことが重要だと私は考えます。ファイバ、銅線、電力線、固定マイクロ無線、移動無線、宇宙無線、小電力マルチホップ無線、etc.etc.というさまざまなメディアを利用したバックアップの可能性を持つこと、そして当然それらが平常時にも自由な競争をしながら互いを淘汰し尽くすことなく共存できること、そういったことが可能な社会であることが重要だと考えるわけです。国策で全個宅を光化して銅線全廃なんてもってのほか。仮にも国内主要通信事業者の一角がそんなことを言い出すなんてとんでもない話だと思ったものです。

と言うことで、「災害に強い携帯電話網」と言うのを一言で表すと、それは「最初から丈夫に作る」のではなく、「壊れたときも継続できるいこと」が重要で、さらにそのためには、土地も電力も通信メディアも「多様性」を持たせることが重要だ、と言うことです。コスト削減の視点とは逆行しますが、そういった一見無駄なコストこそが通信事業者の信頼性を支えている、と言うこと。

以上災害に強い携帯電話網についてでした。

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2011/7/21 10:00 · 事業考察, 技術動向 · (No comments)
2011/7/11 10:00 · 事業考察 · (No comments)

通信インフラを作る、と言うとき、それを作るための最も大きなネックは一体なんなのでしょうか、と言う話。と言うのは過去に何度か書いてきたのを改めてまとめてみる意味で。

通信インフラを作ることをイメージしてみると、たとえば、携帯電話基地局であれば、鉄塔を立てて装置を持ってきてネジ止めしてケーブルを接続して、なんてことが思いつきます。では、そんなインフラを作れるかどうかを決める「ボトルネック」つまり「コスト」は、その作業の工賃でしょうか、あるいは装置の代金でしょうか、運賃でしょうか、あるいは鉄塔建設費用でしょうか、と言うことになると思うのですが、個人的には、通信インフラを作るうえで一番のネックは別のところにあると考えています。

それは、「地権者との交渉」です。通信インフラ、特に個人向けの通信インフラは、非常に細かく張り巡らせる必要がありますので、その線を通したり、電波のアクセスポイントを設置するために、とにかくたくさんの場所を必要とします。その場所をどのように確保するのか、と言うのが、実は通信インフラ建設における最大のネックになっている、と言うお話です。

間違ったイメージの一つとして、通信インフラ事業者はみんなあちこちにインフラ設備設置用の不動産を持っていて、その土地に設備を設置している、と言うものがあります。もしこのようなイメージどおりに通信インフラが構築されているのだとすると、新しく設備を置こうと思ったとき、まず起きたい場所を決め、その土地の所有者を探し、所有者に土地を売ってくれと頼み、移転登記をして、などなど大変な手間がかかります。もちろん、その土地自体が必要最小限の広さとは限りません。周囲の不必要な土地まで取得せざるを得なくなれば、それは丸々無駄な投資です。

と言うことで一般的には、通信インフラ装置を設置する場合、99%は賃借で済ませています。自前で大量の不動産を持っているのはNTT東西くらいで、ドコモやKDDIと言った大事業者でも、自前の不動産はなるべく持たないようにして、NTT東西の局舎を間借りし、鉄塔用地も賃借で、と言うことをしています。

しかしこうだとしても、やはり、設置場所の確保は大変な問題です。なぜなら、相手がすべて別々の人間だからです。あなたの家に突然スーツ男がやってきて、「月1万円あげるので屋根の上にうんこっぽい飾りを付けさせてください」とか言ってきたら、まずは「えぇ~!?」となりますよね。うんこっぽさを我慢できるにしても、じゃぁ取り付けで開いた穴はどうするのかとか、その重さで構造が痛むことはあるのかないのか調べなきゃとか、台風や地震で構造物落ちたら近所への補償はとか、電気をとるときメータは一緒なのか別なのか、なんて心配も次々に出てくるはずです。そういった疑問や心配を一つ一つ納得させてもらって、それに見合う金額も折り合って、ようやくあなたの家の上にうんこが付くわけです。

普通は、1000箇所の場所がほしければ1000人の地権者とこれと同じ交渉をしなきゃならない。交渉と言っても、末端の交渉窓口社員がその場で回答したり何らかの補償を約束したりなんてことは出来ないので、疑問や要望を受けるたびに会社との間を往復することになるわけですから、ひとりを納得させるのにおそらく1ヶ月かそこらは通わなければならないはずです。同時に何人も相手にするにしても、通信事業者がこの交渉のために大部隊を用意して当たらなければならないことは容易に想像がつきます。

NTT東西のように良い感じの場所にたくさんの局舎を持っている相手なら話は早くて、「全部の局舎に1ラックずつ場所を借りたいんすけど」で済むわけですが、携帯電話の基地局を建てるとかだと、まずは「エリア設計」ありきで、それにあう場所を後付で選んでいくわけですから、そういう恵まれた相手に一括でぶち当たるなんてまずありえない、建てた数だけ相手がいる、ということになります。

さらに厄介なのが、建てた後でもその相手がてんでばらばらに個別の事情を抱えているってことです。外壁が老朽化してきたのでリフォームしたい、で足場を組もうとしたら携帯の基地局が邪魔だ、あの時は置いて良いよって言ったけど、ちょっとどかしてもらえない?とマンションのオーナーが言ってきたら。そりゃ、どかすしかないんです。借りてる身分だし。そうすると、そのマンションに置いた基地局がカバーしている範囲を損なわないような条件の不動産を近隣で探さなきゃならない。最初にそのマンションに置いたのは、当然そのマンションがベストな条件だったからで、それ以外を探すとなると必ず条件は悪化します。何とか見つけても、またその大家さんとめんどくさい交渉です。

そう考えると、ソフトバンクがウィルコム救済で16万ヶ所のロケーションを手に入れたことが、大変な価値のあることだとわかりますよね。実際、ウィルコムロケーションを入手した翌年ですからね、常識はずれのスピードでの基地局大量建設を敢行したのは。通信インフラの建設スピードはとにもかくにも「ロケーションの確保」が最大のネックだということがこの一件からも良く分かります。また、あんな小さな身なりで16万ものロケーションを確保・維持していたウィルコムと言う会社は、そういったロケーション確保のノウハウでは国内でも飛びぬけた存在だといえるかもしれません。

閑話休題。そんなわけで、「鉄塔を建てる」とか「装置を買う」とか「工事をする」なんてのは、カネさえ出せばなんとでもなる世界。しかし、それぞれに個別の事情を抱えた(多くは)個人を相手にする「ロケーションの確保」だけは、おいそれとは解決できない、通信インフラ最大のネックだと考えるわけです。

携帯電話の基地局の話ばかりになってしまいましたが、固定通信でも大体同じ。むしろ、局舎と言う「アクセスポイント」のロケーションを確保した上で、そこから各個宅までの間を有線でつながなければならず、つまり、その線を通すために一本の線で連続した空間の利用権が必要となる、と言う意味では、本来的には無線通信よりも条件は厳しいものとなります。

幸い、日本ではNTT東西が各地に持つ交換局舎と市内に張り巡らせた電話柱網、電力会社が各地に持つ変電所と市内に張り巡らせた電力柱網、ガス・水道などの共同溝などがかなり格安で利用でき、またそれぞれが大体ほとんどの個宅をカバーできているためいずれか一社と交渉すれば済むという非常に恵まれた条件であるため、アクセスポイントそのものを設置してまわらなければならない無線基地局よりもロケーション利用交渉の難度は下がっています。

と言うことで、インフラ建設は何を置いても「ロケーションの確保のための交渉」が一番のネックです。たとえば、KDDIなんぞが10万局のWiFiを1年以内に、なんて言っていますが、私はあれ、無理だと思います。いくらWiFi装置が小さくて安く話がとんとん拍子に進んだとしても、訪問して説明して質問疑問の解決をして契約書作ってハンコ押して、って言う事業者と地権者の間の往復だけで1ヶ月2ヶ月かかりますもん。WiFiだから安いし工事も小一時間で済むしだったら10万くらい余裕だよね、ってのは間違い。一番時間がかかる工程は「地権者交渉」である以上、10万のWiFi APを置くのは、10万の携帯電話基地局を置くのと同じくらいの覚悟でかからなきゃならないはずなんですよね。大丈夫ですかね、アレ。妙なプライド張ってウィルコム救済蹴って一番おいしいところをソフトバンクに持ってかれて苦労してるんじゃ世話ないですね(笑)。

以上、インフラ建設にはロケーションが大事、のお話でした。でわ~。

[追記]KDDIのWiFiはWiMAXを使ってるんですよ!(だから設置スピードは速いんですよ!)と言う趣旨のツッコミを頂いたんですが、こういうご意見が一般的と言うことから、やっぱり「ロケーションの重要さ」は余り知られていないのかなぁと実感しました。バックホール回線なんてのは、せいぜいNTTかUQか、どっちでも良いけど、1社か2社が相手。交渉の手間なんてゼロに等しいんですよね。でも、場所の交渉、つまり、「この装置を置ける棚ありますか?」「壁掛けならここに穴あけちゃっていいですか?」「ここのコンセント1口使っちゃって大丈夫ですか?」「店内からアンテナ見えちゃいますけど困りますか?」、こういう交渉が一番面倒で時間がかかる、ってことが知られていないってことです。仮にコーヒーチェーン店丸ごと「全店に置かせてください」「オッケー」で設置交渉がまとまったとしても、やっぱり各店舗ごとに店長を交えて上のような交渉はしなくちゃならない。ロケーションの確保ってのは、こういう非常に瑣末なことだけどそれを抜きにしては最終的に装置を置いて電源を入れることが出来ないっていう重要なことなんですよ。なめちゃだめ、ってこと。

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2011/7/11 10:00 · 事業考察 · (No comments)