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2012/2/28 10:00 · 事業考察 · 1 comment

「スマートフォンなどで容量がひっ迫するなどの問題が出ていますが、これを抑制するために定額を廃止する流れなどに今後なっていくでしょうか」というような質問を数件いただいています。

障害が多発するのも一因はスマートフォンによる通信量の増大といわれていますし、もちろん、その通信量をさばくために多大な投資を強いられる各社としては、定額料金で使い放題というのがその一因となっていることに当然気が付いています。そこにメスを入れようとする動きが起こることが予想されます。

「予想されます」なんて言っちゃいましたが、実際には、実質の定額廃止がすでに行われていますよね。ドコモのXi定額は5985円で通信量制限が月間7GB、7GBと言えば結構多い量ではありますが、それでも、「完全定額使い放題」ではなくなっていますし、ソフトバンクLTEは同じく5985円でドコモより厳しい5GBまでの制限が付きます。それ以上はいずれも128kbpsで通信できるとしていますが、実際には、128kbpsでは動画一つも満足に再生できないわけで、実質の従量料金制度に移行したわけです。

結局、結構前から各社ともに従量制への移行は課題だったわけです。たとえば米国の事業者のように、「今日からiPhoneの定額制の受け付けはやめます」なんて言うことをやってもよかったんでしょうが、おそらくそれは日本では受け入れられないのではないかと考えたのでしょう(というかAT&TとVerizonの定額廃止チキンレースを見ていれば、定額廃止が営業に莫大なダメージを与えることは明らかですし)。そうなると、なにか別の理由をつけて従量制に移行しなければなりません。

で、折よく同時期にスタートしたのが、次世代の通信方式「LTE」ということになります。LTE向けの新プランということにして、LTEを新しく利用するにはこのプランしかありません、という形で従量プランを用意すれば、比較的スムーズに従量への移行が可能になるわけです。

実際問題として、たとえばWCDMAとLTE、どちらの方が大量のデータに弱いか、と言えば、もちろんWCDMAです。無線としても容量が小さく効率が低いうえに、有線ネットワークにおいてもWCDMAの方が拡張がしにくく、拡張するにしてもコストの高い方式とならざるを得ないため、実は、WCDMAをこそ従量にしたいくらいのはずなんですよ。それでも、LTE向けプランを従量にするのは、やはり「新サービスにかこつけて従量化したい」という強い意志があるからだと思うわけです。

実際、ソフトバンクやイーモバイルがすさまじく勇み足気味でLTEを開始した理由は、この辺じゃないかと思っています。とにかく現行ネットワークで定額制をやっていくのはほぼ限界が近い、とはいえ、同じネットワーク同じサービスでいきなり従量です、というのは他社がやらないうちは無理、という状況にあって、一番厳しい状況にあったドコモが「新サービスでーす」と言って従量をはじめちゃった。こうなると、従来サービスのまま従量移行を、というのは無理で、ドコモと同じ方式での従量化を狙うしかなく、そのために大急ぎでLTEを仕上げた、というような気がします(妄想です)。

料金検討中のイーモバイルが半従量の料金になったりしたら、上の妄想が結構正しいのかも、なんて思います。もちろん、最後発KDDIも、「ドコモがやったなら」という形で同じように従量化するはずで、最初の目的はどうあれ、「LTE化」という節目を「定額料廃止」としてうまく利用する、というのが各社の思惑ではないでしょうか。むしろ、この大きな節目は最後のチャンスに近く、ここで手を付けないとずっと完全定額を提供せざるを得なくなると思います(もちろんそのぶん料金競争力は強いわけですが)。

ということで、「定額廃止の流れ」はすでに起きている、というのが私の見方。今年中に各社(ひょっとするとイーモバイルだけは除く、かもしれないですが)が、LTE系新サービスでは従量制プランだけを提供し、新サービス対応端末を販売主軸に据えて旧サービスを巻き取っていくことで、徐々に従量制に移行していく、という形でしょう。7GBや5GBは高い閾値ですが、「上限がある」という心理的キャップだけで相当通信量は抑制されるような気がします。ということで、各社の定額廃止についてでした。

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2012/2/28 10:00 · 事業考察 · 1 comment
2012/2/21 10:00 · 事業考察 · (No comments)

さて、スマートフォンの過大なトラフィックに起因したトラブルなどが報告され、報告されないまでも実際にスループットが極端に落ちて時間と場所によってはまともに使い物にならないような状況さえ出てきているような現状、それでも各社がスマートフォンを主力に据えて拡販するのはどういうことでしょうか。

これはもう答えはわかりきっていて、「スマートフォンの方が儲かる」からです。ではなぜスマートフォンは儲かるのか。ちょっと考えてみると、意外な状況が浮かび上がってきているように思います。

まず、単純に、スマートフォンの方が原価が安い、という指摘があります。実際、フィーチャーフォンと比べた場合に一番高額な部材とも言える広画面高精細なディスプレイはスマートフォンの爆発的なヒットでかなり安くなっていて、下手をするとフィーチャーフォン向けの小さなディスプレイと価格が逆転しているかもしれません。それ以外の通信関係部品の価格は変わらないか、あるいは普及品のアプリケーションプロセッサ一体型を使うことによりフィーチャーフォンよりも実質価格は安くなっているかもしれません。

また、フィーチャーフォンはとにかく機械部品が多く、一体成型できてしまうスマートフォンより確実に部材費用は高額になり、加えて、各可動部すべてに対して物理的なテストを施すテスト工数も馬鹿になりません。こう見ると、スマートフォンはほとんど動く部分がなく、さらに、メニューボタンなどもタッチ化することで削るような例さえも数多く出てきました。とにかく動く部分を削れば簡単にコストは落とせるわけです。

そして、フィーチャーフォンは多くの場合、ライセンス関係のめんどくさい独自のOSを使っていることが多いようです。OS自体がOSSベースであるAndroidや、自社OSオンリーのiPhoneとはソフト(OS)にかかるライセンス費用も桁違いになっているはずです。テストも同じく自分で開発するものと出来あいを持ってくるものとではだいぶ違うと想像できます。もちろんスマートフォンとはいえOSのテストもきちんとやってはいるでしょうが、OSの個別モジュールのテストまでは必要のないであろうAndroidなどは、この辺も相当省力化できているかもしれません。

さて、ここまではおまけ。ここからが重要。事業者の中の人っぽい人に聞くと、スマートフォンが「儲かる」最大の仕組みは、端末販売ではなく、本業、つまり通信費用の方にあると言います。つまり、スマートフォンの方が、ARPUが高くなるということなんですね。

実際に、パケット定額の料金を比べても、スマートフォンの方がやや高く設定されています。これが「ARPUが上がる」原因の一つと言えますが、もう一つ重要なのが、そもそもの定額セット率が非常に高い、おそらくほぼ100%が定額セット回線になっている、というところです。

パケット定額になったからと言って、事業者の取り分がキャップされてしまうことでより多くデータを使わせるモチベーションは下がる、というわけではありません。何百万回線と言う回線数をバルクで見ると、やっぱり「データをたくさん使わせる=高収益」なんですよね。それは、パケット定額がONかOFFかできっちり分かれるマイクロ視点な考え方ではなく、定額ONとOFFが一定確率で重ね合わせ状態になっているように見るマクロ的視点。パケット定額セット率という隠れたパラメータがありつつも、表にはきっちりと「データ使用量増→パケット料金増」というきれいな関係がまだ出ているようなんですね。

つまり、「パケットをたくさん使わせる」という、非定額時代の営業モチベーションは相変わらず強いんです。そうなると、スマートフォンは強い。何しろ、ユーザが意識した通信の何倍もの通信を発生させる。全く意識しない状態でも勝手にさまざまな通信を発生させる。この仕組み、なんだろうと思った時に気づいたんですよ。

ちょっと前、携帯電話の普及率が100%になった後、それ以上「人間のユーザ」を増やすことには限界があるし、もちろん「人間が携帯電話を使う時間=人間リソース」を物理的に増やすことも困難、であれば、次に向かうブルーオーシャンは必ずマシン・トゥー・マシン(M2M)になるはずだ、という議論が盛んにされていました。M2Mなら、人間が睡眠する時間さえも勝手にトラフィック=売上を発生させてくれるからです。

本来的には、何かの機械(マシン)に通信モジュールを取り付け、それが別のサーバなど(マシン)と自律的に定期的にコミュニケーションする、そういうものを想定していましたが、今、スマートフォンで起こっていることは、まさにこれです。スマートフォン自身が勝手に別のマシンと通信してトラフィックを発生させる。ユーザが仕事中でも寝ていてもお構いなしに。本来のM2Mに打開を期待されていた「人間リソースの壁」を、スマートフォンという端末が易々と乗り越えている、という状況なんです。

しかも、M2Mのユースケースは本当に小さなトラフィックを発生させるモジュールをたくさん、というもので、結果的にモジュール一つ当たりの料金は相当安く(せいぜい数百円に)設定しなければ普及は見込めませんが、スマートフォンであれば、人間向けのかなり高額な料金をM2M通信に適用させられるわけで、なんというか、これに気づいたときは「すごい抜け道だなこれ」と思ったものです。

スマートフォンって、ユーザが意識しない(だけど了承している)通信によって大量のトラフィック=マクロ的売上を発生させる、打ち出の小づち的存在。比較的通信を抑制気味のiPhoneよりもAndroidを、特にドコモが強く推しているのもこの辺が理由な気がします。まぁそのせいでネットワークが落ちてりゃ世話ないですが、それと引き換えに大きな収益が見込めるのなら、それでもスマートフォンを推す流れは変わらないのでしょう。

ということで、スマートフォンは実は人間料金が適用されたM2Mである、というお話でした。

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2012/2/21 10:00 · 事業考察 · (No comments)
2012/1/30 10:00 · 事業考察 · (No comments)

このまえKDDIが発表した移動・固定コンバージョン戦略について、改めてちょっと書いてみたいと思います。いや個人的には自宅がauひかりだし、借り物じゃない移動と固定(アクセス線)を持っている唯一の事業者という意味で、本当のFMCに一番近い事業者だと思っているので、ちょっと興味はあるんです。

発表されたことをおさらいすると、まず一番上に「スマートパスポート構想」というのがあり、移動、準移動、固定などなどが共通のIDで共通のコンテンツやサービスを利用できる、というところを目指しているような感じ。で、その構想を実現するための個々のサービスとして、割引サービス「スマートバリュー」、コンテンツパック「スマートパス」、共通ID「au ID」という三本柱がある、という感じ。

一言で言ってしまうとたったこれだけのことなんですが、ここから発展してどんなことが起きることを想定しているのか、ということを考えてみます。

まず、アクセスサービス事業者として最終的に目指している(っぽい)ところは、「1契約だけで家庭の固定ネットワーク(インターネット+電話)と家族全員分の携帯電話(スマートフォン)とそれらが対応したすべてのアクセスサービスを利用できるようにする」という感じかと思います。

正直、FTTHや提携CATVを引っ張ったからと言ってスマホをいきなり1500円近くも割り引いちゃうのはでかすぎる。これは逆に、「スマホが割り引かれる」から一歩進めて、「1家族契約に○○円のオプション料金でスマホが持てるよ」というところに向かおうとしているのかな、という感じ。

もちろんその「1家族契約」には、FTTHまたはCATV接続権と公衆Wi-Fi接続権が基本的についてきている。そこにスマホ(=3G/4G接続権)をオプションで足す、という考え方になるのかな、と。いや、まだそこまで踏み込んだ説明はない気がしますが、固定・移動を統合していく、かつ、家族を1単位と考える、という発表内容から考えれば、将来はこの方向に行くのだろうな、と思います。

以前に某所で「今FMCと言っている事業者は単なる料金割引でしかFMCを実現できていない、つまらない」と発言したことがありますが、上のような考え方なのであれば、別契約をそれぞれ割り引くという考え方から単一契約のオプション化という形で、契約上の変化は感じられる気がします。まぁそこはあくまで契約書/請求書の上だけの話で、請求書だけで実現してきた従来のFMCからさほど変わるところではないのですが。

しかし、これに加えて出てきている話が、マルチデバイス、つまり同じコンテンツを異なる機器、異なるネットワーク経由で利用できるようにする、という構想。たとえばスマホで買った動画がFTTH経由でも見られるとか、親が買ったアプリを子供が別のスマホから使う、そういうことを想定しているようです。

こうなると、「契約が一つにまとまる」効果が出てくるような気がします。つまり、基本的にコンテンツやサービスのオプション契約は基本契約(家族契約)にひも付き、あとはそのライセンシングの問題として処理できるわけです。たとえばあるサービスは家族につき1契約で全員が利用できるし、あるコンテンツは○台分ライセンスが含まれててそれを超えたら使うスマホの台数分のライセンスが必要ですよ、というような形で、家族単位ですっきり整理できる。従来のように「個別契約&割引」でこのようなことを実現しようとすると、家族割引相手の誰かがこのコンテンツを買っていてなおかつそれ以外でそのコンテンツを無料利用している契約が○個以下なら自分はそのコンテンツの代金を割り引いてもらえます、なんていう超めんどくさい形態になってしまいます。しかもそれがコンテンツ・サービスごとに。

また、私が昔言ったような「機能的なネットワークの統合」というところはまだあまり感じられないのですが、それを間接的に実現できるのが「au ID」という考え方だと思うわけで、これは、ネットワークが認証するIDを使って、デバイスのアプリ経由で連携を持たせる、というある意味逆転の発想。ネットワークノード同士がID連携するのではなく、ネットワークノードは真面目に端末の相手だけして、端末がそれぞれのネットワークノード上の自分のIDを一つの統一IDで統合する、というアイデアだと思います(違ってたらゴメン)。

このアイデアが成立するのなら、実は、こういった考え方は何もKDDIだけに実現できるものでもないんですよね。ぶっちゃけ、資本関係さえなくてもいい。何しろノード同士が会話する必要はなく、その上位のID管理アプリケーションサーバさえ統一したものが置いておけるなら何でもいいんです。いや、今回の話の中で、全く資本関係のないケイ・オプティコムやその他CATVが入っているのが不思議だったんですが、このように考えれば、それら提携先は単に土管に徹し、その上を「勝手にau IDが飛び交っている」という状態であっても統合サービスとして成立しうるわけです。

たとえば、今、OCNが独自のスマホ向けIP電話サービスを始めていますが、これはOCN管理のIDがどのスマホでも利用できる、という形。考え方は同じですよね。OCNがハブとなって統一IDと利用アプリを準備し、それをドコモやNTT東西に配ることで同じような統合サービスを行うことは不可能ではないはずです。あるは、OCNがVNO、MVNOとなって統合してもいい。東西とドコモが「うちは単なる土管です」と言い張れば、NTT法もバイパスできるかも(※先日ドコモMVNOの日本通信がそういうコンセプトを発表しちゃいましたね)。あるいはソフトバンクが、FTTHのアクセスに使っているNTT東西と組み、こういったサービスを行っていくことも可能でしょう。もちろん、接続料やアプリライセンス料などの「売り上げの取り分」でもめることは容易に想像でき(笑)、そういった「社間のもめごとが起こらない」という点が1社体制であるKDDIがこういったサービスで一歩先を行ける最大の根拠となるのかなぁ、と個人的には考察します。M&Aで会社コレクションしていただけじゃなかったのね、と。

ということで、KDDIの統合サービスについての考察でした。

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2012/1/30 10:00 · 事業考察 · (No comments)

そういえばお正月にもう一つあったんだった。

近所の神社に初もうでに行ったとき、その近所に元々建っていたウィルコムの8本アンテナ、あれ、なんか様子が違うぞ、と思ってよく見たら。

TD-LTE局がくっついていました。

元々、ウィルコムの8本アンテナPHS基地局で、一体型で割と小型の基地局がついていて、要するに(電源とかを除けば)1個だけしか箱がないタイプだったんですが、見たら、箱が三つになっていました。

一つは元々あったPHS基地局で、これは変わらずに8アンテナにケーブルが伸びています。もう二つのうち一つは4本のケーブルが出ていて、ぐちゃっとまとまったケーブルの束に消えている感じ。もう一つの箱は、4本が入って4本が出て行って、それがアンテナ4本(1つ飛ばし)に入っています。

元々XGPの基地局もアンテナは4本で、8本アンテナのうち4本が2.5GHz対応、なんていう話だったと思うのですが、おそらくその分がその謎の新しい箱二つに変わっている感じです。

まぁ要するにTD-LTEなんでしょうけどね。どちらの箱も、PHS一体型よりも結構大きい箱で、割と武骨で、ウィルコムロゴとかもないような感じ。たぶんZTEのTD-LTE基地局をそのまま持ってきてそのまま置いたものです。一つがBBU(信号処理担当)で一つがRRH(無線処理担当)だろうと推測。

そんなわけで、ドコモのLTE(Xi)は半年先になってもエリア化予定なしのうちが、先にTD-LTEでカバーされることになりそうです。もともと、WCPのTD-LTEは小型局PHS併設を大前提としているため、元々PHSが置けている場所なら単に追加設置するだけでほとんどそのままどんどん置けちゃう、そういうものなので、いや本当に、あっという間にドコモLTEを追い抜く勢いでエリアが拡大するかもしれません。

ただ、やっぱりPHS用のオムニアンテナ共用でお茶を濁しているので、容量とカバー半径には不安が残りそうですね。設置位置もかなり低いし。うちの近所の局とはいえ、たぶんうちまでは絶対に届きません。至近にもPHS局があるのですが、そちらは古い4本アンテナのままなのでTD-LTE対応は当分先。エリアマップ上は全国がかなりのレベルでべったりと塗られるだろうけど、実際は穴だらけになるかもなぁ、と思います。まぁそういう前提なので、「ソフトバンク3Gとのデュアル機専用のMVNO専業」というサービスの仕方なんでしょうけどね。単体ではたぶん売り物にならないかなぁ、という感じ。

ということで、TD-LTEきたーのお話でした。

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2012/1/6 10:00 · 事業考察, 品質動向 · 4 comments

ちょっと前のドコモのSPモードメール障害の話、その他、スマートフォンの小さな不具合の数々を見るにつけ、障害、不具合に関する考え方、というものについて考えさせられてしまうわけで、今日はそんなお話。

最近、ドコモが障害や不具合を多発しているイメージが強く、一方、障害・不具合に関しては横綱級のソフトバンクについてはあまりそういう話を聞かない、この辺について、ちょっと思うところがあるんですよね。それは、両者の障害に対する考え方、ポリシーの違い。

ドコモの障害に対する考え方というのは、これこそ日本の通信事業者に特有の考え方なのかもしれませんが、まず最優先することが、「万一を起こさない」という予防絶対主義です。万一のことを起こしてしまったら負けであり、まず何をおいても万一を起こさないように鉄壁の運用をする、というのがドコモの考え方。

一方、ソフトバンクは、ボーダフォン時代の昔こそ万一を起こさないことを前提のポリシーでしたが、最近はむしろ「万一は起こるものである」「起こってからの対策が重要である」と考えているようです。対策至上主義。

どちらがいいのかというと、これまたどちらも善し悪しがあるのですが、複雑化・高度化するシステムに対しては、どうやら予防主義より対策主義の方が有効に働いていることが徐々に分かってきたようです。

古いシステムでは、起こりうる事象の組み合わせもシンプルで、障害を絶対に起こさないようにする、という運用も可能でした。予防絶対主義の原典にはこうあります。「たとえ1ミリ秒でも何らかの形でユーザに不都合を与えてはならない」と。つまり、ユーザにサービス断という形の影響をそもそも与えてはならない、というのが予防絶対主義の考え方で、この考え方は長らく主流でした。

対する対策至上主義は、ユーザに不都合を与えることは許容する代わり、その不都合の継続時間を閾値以下に抑えればよい、ということになります。

ドコモの予防絶対主義は、とにかくシステムの設計自体を鉄壁にしようとします。考えられるあらゆる不具合事象に対してあらかじめその起こる可能性を排除しようとします。障害の想定が思いつく中にすべて網羅されるならこれが最も良い考え方ですが、複雑化するシステムにおいては、「想定漏れ」の起こる確率が高まります。むしろ、最近の3G以降のシステムでは想定漏れが起こらない方が不思議なくらいです。

この場合、もしその「想定漏れ」の障害が起こると。そもそも、「想定できなかった」事象なので、当然ながら対策できません。何が起こっているのかわからないままずるずると時間がたち、結局、影響を与えるユーザ数が莫大な数に上ってしまうことになります。

一方、ソフトバンクは、とりあえずありもので海外などでよく運用された技術を使います。障害を起こさないように鉄壁にすべくシステムを作りこむ、ということも行いません。一方で、起こりうる障害の「結果」に対して、その対策(海外で有効に働いたもの)を網羅します。「障害の結果」というのは、システムが複雑化しても案外シンプルにまとまるものです。「つながらない」「切れる」「過課金」などなど、ということであれば、大体起こりうることはまとめられます。

そうして、それぞれの事象に対して対策を施します。「つながらない」ならとりあえずアクティブ系を全断して全シリーズをスタンバイ系に切り替えてみる、とか、過課金なら原因究明の前に返金処理システムを動かす、などなど、聞けば乱暴に思えるようなことを思い切ってやっちゃうわけです。

総務省などへの報告義務の基準などでもそうですが、結局、障害は影響人数と継続時間です。予防絶対主義はこれらをゼロとすることを目的とし、対策至上主義はゼロにはしないが最小化するという考え方。そして、複雑化するシステムで障害の発生をゼロにできないことが顕著になれば、当然後者の考え方の方が、障害影響を最小化するという目的には最適となっていくのは当然です。「障害ゼロは不可能」ということを受け入れられる思考・組織の柔軟性があるかどうかがポイントです。

ソフトバンクがボーダフォンから事業を継承してから2年くらい、あほみたいに影響の大きな障害が多発しましたが、最近それをあまり聞かないのは、障害が起こらなくなったからではなく、障害の影響が最小化されて総務省報告が必要ないレベルだったり報道されないレベルに抑え込めているから、ということです。障害に対するポリシーの転換が行われ、起こったことを最小化する(うやむやにする)、という仕組みがうまく回り始めたことを意味しています。

スマホの不具合に関してもそうで、とりあえずドコモは起こった不具合を完璧に潰そうとするし、完璧でなければ大仰にアナウンスしなければならない、というポリシーのため、外に見える不具合が非常に多いように見えますが、一方、ソフトバンクは兄弟機でおそらく同じ不具合が出ているはずのところを、不具合アナウンスをする前にサクサクとアップデートしちゃう。不具合があったのかどうかもわからないレベルの段階でさっさと対策を先にばらまく。これが結局、スマホの顕現した不具合件数の差として世間に認識されるわけです。

ユーザ体感としても、実際にソフトバンクの対策の方が理にかなっています。一部の声の大きなユーザこそ「不具合を認めて謝罪なりアップデートなりをしろ」と叫びますが、大半のユーザにとっては、あれ、ちょっと動きおかしかったかな?と思っても、アップデートで自然に現象が出なくなることですぐに忘れるような内容なんですよね。

で、このドコモ型の予防絶対主義、私の知るところでは、ドコモに加えてKDDIとウィルコム(旧)がこのタイプで、ソフトバンクは完全に対策主義、イーモバイルも対策主義に近い考え方です。ウィルコムもソフトバンク傘下になってだいぶ変わってきている感じがします。とにかく予防絶対主義を採用している事業者は、何しろ動きが遅いのが特徴。予防が完璧になるまでリリースしないし、障害が起こってからも、それに対する対策が「次の予防」に対して完璧であることを確認できるまで動けないイメージ。これはもう組織の作りの欠陥、お役所主義の弊害というしかないですね。

ここから原発云々の話に展開してもいいのですが、原発関連は宗教論争に発展するので触れません(苦笑)。ということで、障害に対する事業者の考え方についてのお話でした。

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2012/1/6 10:00 · 事業考察, 品質動向 · 4 comments

てことで今日から始動します。ことよろ。

今日は何となく年末年始のネットワーク状況について。毎年、携帯電話各社では規制だ輻輳だと大騒ぎしていたりするわけですが、不思議と今年はただの一回も規制や輻輳に当たりませんでした。年明け、午前0時直後くらいも。

たまたま運が良かっただけなのかもしれませんが、私の持つドコモ・auともに規制なし、パケットもサクサクで、家族のドコモも同じく年明け直後からパケットはサクサクでした。なんだこれ。

ドコモでふたたびspモードメールがらみのごちゃごちゃが多少起こっていたようですが、それ以外もほとんどニュースはなく、なんというか、少なくとも私の近辺では混乱のかけらもないような状況。あれ、年末年始ってこんなに静かだっけ?(ケータイギョーカイ的に)っていう感じでした。

去年ですよね、一応。いや、スマートフォンが異常に伸びたのって。ソフトバンクはiPhoneでだいぶ先取りしていたわけですが、ドコモもauも去年中に契約台数で何十倍、トラフィックではたぶん何百倍にもなっているはずなんですけど、それがみじんも感じられない年末年始でした。

ただ、たぶん、トラフィックの性質が違ってきているんでしょうね。フィーチャーフォンの場合は、トラフィックよりもトランザクションが激しい。つまり、パケットの論理接続が張られたり切られたり、っていう遷移が非常に多いため、交換・認証系への負荷がめちゃくちゃ大きくなるわけですが、スマートフォンは基本的にIP-Always-Onなので、交換・認証への負荷がほとんどなく、無線の切り張りによるRANへの影響とIPパケット処理のためのゲートウェイへの負荷に限定されることになります。これでもしスマートフォンがフィーチャーフォンみたいにこまめにIPセッションの切り張りをしていたら相当大変なことになっているはずです。

ゲートウェイなんてのは結局はパケット一つのライフタイムごとに全部忘れてもいいようなものなので、ぶっちゃけたくさん並べれば何とかなる、という方向のもの。もちろんRANについては端末の位置により(分布の偏りはあるものの)分散されざるを得ないものなので、その二つに影響が集中する限りは混乱は起きにくく、むしろ、IPセッションのライフタイムのスケールで動く交換系と認証系は、一度に覚えておかなければならない相手が積みあがりやすいし、それを他の分散先に放り出すのも基本的に無理なので偏りが解消しにくいわけで、そういう意味では、年末年始のトラフィック(トランザクション)には、スマートフォンは意外と優しいのかも知れません。

というのはもちろん妄想レベルの話なんですが、ともかくも、今年もよろしくお願いします。

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あーそういえばちょっと前に書いた、「Xiトーク24」のひみつに関していろいろと情報をお寄せいただいていて、その中でも特に多かったのが、「FOMA端末のままXi契約に移行できるらしいですよ」と言うものでした。

これは、もうその当日ぐらいからお寄せいただいていた情報で、実際、最近では全然モバイルに興味のない田舎の家族でさえ知っているレベルの話になっていて(笑)、もはや常識に近い話なのかもしれません。

となると、Xiトーク24が、Xiに移行させるためのエサだという前提が崩れるのでは、と考える向きもあるかもしれませんが、私の考えは、ドコモが狙っているのはXiそのものへの移行ではなく、「従量制への移行」、なんです。つまり、料金プランをXiプランに変えること=7GB制限による「実質の従量制への移行」なんです。もちろん、FOMA端末であっても、この従量制の罠から逃れられるわけではありません。

つまり、FOMA端末のままでプラン変更できるということは、「これまでどおり無制限のデータを使いたいか」「音声定額の代わりにデータを従量制にするか」と言う選択肢が出てきた、それだけの話なんですよね。で、「データ従量制」と言う部分が大きくアナウンスされていない現状、多くの人が音声定額に釣られてXiプランに変更し、実質従量制へ移行していっている、と言うことになるわけです。

ドコモはユーザがXiを使おうがどうしようが気にしていない、むしろ、バンドも狭いし局も少ない現状のXi=LTEを見るに、その利用はまだほどほどにしておいて欲しいと思っているくらいだと私は思ったりします。何しろ、無線部分が大幅に拡張されたLTEにおいては、今度は地上網(コア=EPC)がかなり厳しいボトルネックになるからです。実際、ドコモくらいの力があれば、あっという間に全国みっちりカバーするくらいはすぐに出来ると思うんです。それがなぜ現状、飛び飛びスカスカで水玉模様のエリアになっているのかと言うと、まだコア側の回線容量の手当てが追いつかない、と言う状況だからではないかと睨んでいます。

だから、LTEを使わずに従量制プランに変えてくれる人は、ドコモ的には大歓迎ではないでしょうか。ついでに無料通話分も消えて、他社通話分は丸々収益になるようになれば、収益的にもプラスになるかもしれません。案外、今回の施策、Xiそのものよりも、逼迫した3G容量をどうにかしようと言う目的で打たれたものかもしれません(ちょっと言いすぎ)。

まぁそれでも7GBはさすがにFOMAで到達するのは厳しいラインですから、通話をほとんどしない、なおかつ特にテザリングなどを多用する向きには、Xiプランへの移行は十分にお得な選択肢となりうるわけで、考えてもいいのかもなぁ、とも思います。でわ。

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2011/11/14 10:00 · 事業考察 · (No comments)

ちょっと人づてに聞いた話で確かな情報じゃないことを断っておきますが、ほら、お店で携帯電話を買うと、一緒にこの端末もどうですか、とか勧められるじゃないですか。特に、基本料も端末代も0円にしますから持っていってください、とかってやる、アレ。

どうも、ドコモとauは、こうやって勧められて実際にもう1回線契約して持っていく比率は、全購入者の5%にも満たないらしいんですが、ソフトバンクは3割以上もあるらしいんです。これ買ってくれた人にはもう料金も代金も0円にしちゃうからとりあえずサインして、で実際にサインしちゃった人数で3割超と言う高率を達成。

この「購入」ってのが曲者で、「加入」じゃないんです。機種変更も含めて購入行動全ての3割以上。

以下、2011年9月末のデータを下に計算をおこないます(10月分はiPhoneがらみでデータがずれていると思うので)。

ソフトバンクが公開している販売台数、2011年Q1が約250万台。1ヶ月あたりだと約83万台(これは9月の純増+解約率+機種変更率から計算した値ともほぼ一致するので間違いないと思います)。

しかしこの83万台の中に、「タダだから持って行って」と言うのが含まれている。本来の購入者のうちの3割以上がおまけで新規契約して持って行っている分が含まれている。ざっと計算すると、店舗に赴いた購入者が約60万人強いて、そのうち約3割20万がオマケを新規契約したことになります。

さて。

ソフトバンクの回線数ベースの純増数27.5万、この中に、「タダだから」と持っていった新規契約回線数が20万は含まれているということです。つまり差し引きすると、7.5万だけが「契約者数ベースの純増数」になります。

ドコモとauの「オマケ獲得率」を5%と仮定して同じ計算をしてみると、(ドコモは純増20万端末販売数160万台/月、auは純増12.5万、解約率0.5%と機種変更率2.3%から計算すると端末販売数108万台/月)、それぞれ8万、5万が「オマケ」回線。純増数から差し引くと、ドコモ12万、auは7.5万。

実質、ソフトバンクはauと同数の純増しかないことになります。残念ながらイーモバイルについてはこの「オマケ率」が分からないのですが、もしイーモバがオマケ獲得率0だとすると、ソフトバンクは携帯4社中最下位タイに転落してしまうことになります。

勢いがあるように見せるという戦略は実際重要で、どんなに良いものでも誰も買っていないものは誰も買いませんし、相当ヘボいものでも「売れてる!」と言う事実があればアホみたいに売れます(ソフトバンクの携帯電話がヘボいと言っているわけではありませんけど)。そういう意味で、契約者数ベース純増で言えば実質最下位クラスの勢いしかないのに、このタダ配り戦術で「勢いはダントツの1位!」と言う雰囲気を醸成している、これはすごいことだと思います。いや、純粋に、経営・営業の戦術として、ここまで大成功させている例は他に無いんじゃないかと思うくらい。

実際には、このオマケ回線はメインを解約されるとほぼ自動的に解約されちゃう回線でしょうから、メイン回線の満足度を上げて解約されないようにしつつ、巧妙なキャンペーン切りなどで回線ベースでの収益化を図っていく必要が強いため(そうしないと重要な経営指標=ARPUが極端に下がってしまう)、よほど販売ノウハウに自信がないと取れない戦術だと思います。ドコモ・auは、「インチキしたくない」という良心からこういうことをやらないのではなく、やりたくてもノウハウが無くて出来ない、と言うのが事実でしょう。ソフトバンク傘下に入ったウィルコムも、その直後からオマケ回線販売を大幅に強化しています。これは、ソフトバンクの高度なオマケ販売ノウハウが移入した結果だと思うのです。

オマケでも何でもいいから回線数を増やし収益化していく、このノウハウの差が、「オマケ獲得率5%対30%」と言う結果になっているわけで、「ソフトバンクの純増の大半はニセモノだ」と胡坐をかいている風のあるドコモなどは、相当危機感を持つべきです。

3割以上と言う数字がどこまで本当の情報なのか分からないので、上述したことは基本的に「たわごと」と思っていただくのが安全かと思いますが、それがもたらしている数字上の効果は相当なものだというお話。でした。

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2011/11/14 10:00 · 事業考察 · (No comments)