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ちょっと古いネタですが、auの障害の時に音声もつながらなくなったのはどうしてでしょうか、という質問をいただいています。というのも、CDMA2000はデータと音声が独立したシステムなので仮にデータが輻輳しても音声には影響は出ないのではないか、ということからです。

普通に考えれば確かにその通りなのですが、そもそもLTEと旧システムが連携しているということを考えるとちょっと問題が複雑になってきます。

LTEが障害で全く使えない、完全にゼロ、という状態であれば、すべての端末は3Gに落ちてしまい、あとは3Gの輻輳だけが問題になってきます。CDMA2000であればシステムが独立しているので影響は出にくいかもしれません。もちろん、データ(EVDO)側が完全に輻輳でつながらないと、音声系(1x)のデータ回線に切り替わるということも起きるので(iPhoneの○印が出るアレ)、これが原因で輻輳ということは考えられますが、それでもデータ用チャネルよりは音声用チャネルを優先制御するくらいのことはやっているはずなので、この状況での影響は出にくいでしょう。

しかし、先ほどの記事の音声連携の仕組みを見るとわかるのですが、音声着信の信号(ページング)はLTE上で送信され、LTE上でそれに応答するのが連携システムの基本です。もしLTEが障害で信号がほとんど通らない状況だとすると、このページングが端末まで届かないため、音声着信ができないということになります。また、発信でも最初のネゴ(どの周波数が利用可能か、など)はLTE網を経由して他網と通信します。このため、LTE障害で信号が通らないとこれもアウトです。

上記の「ページング」や「ネゴのための信号」、実はどちらもLTEにおける特定装置を経由します。すなわち「MME」なんですね。ってことは、MMEが落ちるとどちらもダメになってしまうんです。先日のau障害はまさしくMMEの障害だったため、音声通話ができないというユーザが出てくる可能性が確かにあったわけです。当初、障害箇所はMMEっぽいという発表、それでも音声に影響ありませんと書いてあったのを見て私は「そんなわけないんだけどなぁ」と思ったくらいです。

もちろん、完全に全端末を3Gに落とせればこのタイプの通話不良は回避できるんですが、そもそもそういったこと(たとえば端末を強制Detachさせること)を制御できるMMEが死んじゃってるので、MMEが落ちたことに気づかずに在圏したままの端末はほどほど残ってしまうことになります(通信をしようとしてMMEからの応答がなくて3Gに落ちる、というような契機がないと普通はMMEが落ちていることに端末は気づかない)。いっそ全基地局の電波を止めるくらいのことをすればよかったんでしょうがそこまでやる大胆さをKDDIは持ち合わせず、半端にLTEに残ってしまった端末が音声不可になっていたものを思われます。実は私の端末もしばらくの間、LTEの電波つかんでました。

ということで、LTE障害なのに音声影響はなぜの話でした。あ、上の推測は全部憶測ですよ、念のため。

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さて長いことサボってちょっと質問が溜まり気味の今日この頃。ってことで、古い話題ですが、iPhone5発表&KDDIとSBMがLTE始めますに関連した質問を山のようにいただいてる中で一番多い質問、「eCSFBってなんですか?」っていうものを取り上げてみます。

これは、ちょっと前に書いた、LTEと旧システムの連携方式の一つです。で、そんな中でも、KDDIが「超速いよ」と自慢しているとかで、質問がたくさん来ているようで。

仕様書もあんまり細かく読むとめんどくさいので簡単に、3GPPのStage2部分のみを読んでみた感じ。

WCDMAのCSFBでは、LTE上で発信を開始したり、着信(ページング)を受けたりすると、LTE上で「PSハンドオーバしますよ」と言うメッセージを投げた後、WCDMAに遷移し、制御チャネルを張って発信手順を踏みなさい、と書いてあります。これが、ふつーのCSFB。

で、e (Enhanced)のついてないCDMA2000のCSFBも大体同じことが書いてあります。PSのハンドオーバと言う手順を経ないだけで、基本的にはLTEを手放してCDMA2000の通常の音声発信手順でつなげばー、って感じ。

で、問題のeがついているタイプのCSFBですが、UEはLTE上で発信手順を済ませてCDMA2000の通話チャネルの情報をもらい、CDMA2000に遷移した後、UEはCDMA2000通話チャネルを「レジュームする」と書いてあります。ってことは、あたかもそれまでCDMA2000通話チャネルがあったかのようにふるまえ、ってことみたいです(電波悪くて瞬断したとかハンドオーバした直後みたいに)。つまり、端末も基地局もあたかも通話チャネルが前からありましたよーって感じで送受信を先に始めちゃうってことですね。そりゃ速いわな。

WCDMAにももう少し速いタイプのCSFBがあるようですが、UEがWCDMAに遷移した後にいろいろやんなきゃいけない手続き(たとえば位置登録エリア情報を見て最適な交換機を選ぶとか)をLTE上で出来るけど、基本的には制御チャネルを張って発信手順を開始する、ってところは同じみたいなので、「レジューム」しちゃうタイプのCSFBをするCDMA2000には速さでは到底かなわないでしょうね。

ただ、普通に考えると、たとえば単純に通話用の個別トラフィックチャネルを割り当てるとしても、フレームのオフセット位置?みたいな、タイミングに依存した情報を一致させることが不可欠で、ってことは、そのタイミング情報を非常に高精度でやり取りしなきゃならん、ってことになります。となると、非同期のWCDMAは、こういった処理とは相性がよろしくない。同期のCDMA2000だからこそできる芸当なのかもしれません。

まぁそんな感じみたいです。単にLTE上で信号やり取り済ませてちょっと早いよ、ってだけかと思ったら意外とアクロバティックなことをしているみたいです。あれですね、こないだの新機種発表で言ってたOptimized Handoverもこれと同じ感じなんでしょうね。仕様書読んでないけど。まぁ、そもそもKDDIはとっととCDMA2000をやめたい空気バリバリに出してるんで、この機能も短命に終わるんじゃないかと思いますけど。でわ。

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うわーしばらくニュース見てないうちに大変なことに。

ソフトバンクとイー・アクセスが経営統合ですって。まぁ実質、ソフトバンクによる買収なんでしょうけど。やっぱりオーナーが安定株主の会社は強いですね。どんなにギリギリまで余力を吐き出しても絶対に買収されたりしないっていう安心感から常時全力勝負ができるという強みがあります。

んなことはどうでもよくて、この影響です。正直、イーモバの加入者状況はあまりよろしいものではなさそうで、加入者速報をしなくなった辺りからちょっと経営的にも怪しげな感じがしていたくらい。なので、そもそもの顧客基盤吸収と言う効果は限定的かもしれません。

インフラでいうと、イーモバのインフラは、結構良いんですよ。前にもどこかで書きましたが。無用な基地局数競争なんていう土俵に乗らなかった分、セオリー通りにきれいなインフラが作られています。ただ、やっぱり地方で弱いのは相変わらずですし、面的な拡大はあるころから急減速していることを考えると、ソフトバンクのエリアを面的に補完するという意味はそれほど強くなさそうです。

やっぱり重要なのは、厚み、つまり周波数でしょうね。イーモバが持っている周波数を全部ソフトバンクが使えるようになる、と。この件で、ソフトバンクは900MHzも700MHzもまんまとゲットできたことになります。いや正直、700MHz事業者選定の時点ではこの辺の話の大枠はほぼ決まってたんじゃないかなーなんておもうわけで、なかなかうまいことやったもんです。

で、「そもそも700の割り当ては900割当にならなかった事業者に限ると言う決まりはどうなんだ」、と言うご質問もいただいているのですが、これはもう過去の事例を見ればわかる通り、割り当て時のルールそのものは、割り当て後の再編にはほぼ適用されないという慣例が出来上がっています。また、経営統合とはいえ事業者は違うんですと言い張ればこれまた遡上適用すべきと言うことになったとしても問題なし。どっちにしろ、この辺のルールは適用されないし、適用されないことをとっくに行政との間でも調整・確認済みだろう、と言うのが私の考え。その程度の調整もせずに認定事業者同士の合併をするなんてことは考えられないので。

あとは、1.7G帯域の話ですね。iPhoneで使えるとか使えないとかそういう話。一応、理屈上は使えるはずです。ただし、日本の1.7Gのバンド9そのものには対応していないので、米国のバンド3対応で、って形(つまりイーモバのLTE基地局で「この電波はバンド3ですよー」と報知する)。ただ、もしこのやり方だとうすると、ちょっと気になる点が二つ。

一つは、PHS共存規定。バンド3は、PHS共存規定がありません。つまり、バンド3のみ対応の移動機はPHS共存規定である送信特性試験を通していません。一方、バンド9はもちろんこの規定が適用されていて、ちゃんと試験されています。つまり、バンド3に対応した、と言う宣言だけでは、日本の電波法規定に合格していることが確定できていないということです。これは現状まだクリアできていない問題だと私は思っています。[追記]ゴメン嘘書いた。Release11からバンド3にもPHS共存規定が追加されてましたね。一応この問題はクリアされてます。[追記2]無線特性に関する規定はRelease番号関係なしに最新版適用、っていう3GPPルールがあるので、仮にiPhoneがRelease9/10ベースだとしても無線規定だけはその時点での最新版仕様書が適用対象となります。ので、iPhoneのバンド3は多分PHS共存規定をクリアしているはず。

もう一つは、バンド3が、バンド9よりも2dB程受信感度が低いということ。要するに、電波の飛びが悪くなるってことです。ざっくりいうと、バンド9の受信感度を100%とすると、電波の受信感度が6割ほどに落ちます。それに伴ってエリアも狭まることになります。イーモバは、受信感度100%を前提にエリア設計していますから、それを、6割程に落ちたiPhoneが使うと、あちこちが穴ぼこだらけになる恐れがあります。

しかしまぁ、なかなかどうして、思い切りがいいですね。ってことで、次の買収の仕掛け先は、KDDIってことになるんでしょうけど。おそらくその辺が一つの区切りで、歩調を合わせて電波行政に大きな見直しが入る、みたいな感じで裏では進んでいるような気がします。

と言うことでお久しぶりでした。もうしばらく忙しそうです。でわ。

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先日、VoLTEの音質の話を書いたところ、その直後?にSamsungとLGがVoLTE端末を作りました、と言うニュースがありました。で、これに関して、「どういう方式なのでしょうか、OTTでしょうか」というようなご質問がありましたので、タイムリーなうちに記事にしておきます。

ちなみに、「OTT」というのは「Over The Top」のことで、一般的には、キャリアが提供しているインターネット接続サービスよりも上のレイヤでいろいろやるような人やサービスのことです。たとえば、NTTcomの050plusなんてのは典型的なOTT IP電話サービスです。要するに、「The インターネット」の相互接続性を頼りにしたサービス一般ですね。

一方、そうではない、「非OTT」なのは、たとえばキャリアのインターネット接続サービスそのものだったり、普通の電話サービスだったりです。キャリアが独自に相互接続性を保証することでEnd-Endの通信が成り立つようなもの。インターネット接続サービスは、キャリアがIXか一次プロバイダかに直接接続することで接続性を保証しますし、電話は、キャリア内の交換網で電話同士を接続し、キャリア外に向けては、相手キャリアとの直接相互接続で接続性を保証します。もちろんキャリアがOTTを提供してもいいわけで、特にドコモなんぞは「土管化を避ける!」みたいな旗を掲げていろんなOTT的サービスに参入していますね。

さて、本来の意味でのVoLTEは、「非OTT」です。基本的な仕組みはVoIPなので、IPルートさえ通ればどこにでもつながる、と言うのが本来の形のように思えますが、VoLTEの基本は、VoLTE音声トラフィックは「The インターネット」には直接出ていくことはなく、キャリア内で交換され、他キャリアには相互接続点でのみ出ていく、と言うのが形になります。「The インターネット」は、原則論としてどこの誰のノードを経由するかを送信側が限定することはできません。だから、潜在的にありとあらゆる品質劣化を受ける可能性を持っています。VoLTEはキャリアグレードの電話サービスとして、そういう危険エリアにトラフィックをさらすことなく交換を完結させることになっています(そういう意味では、ソフトバンクの「The インターネット」経由のフェムトなんてのは、キャリアグレード品質を保証できないOTTに近いサービスと言えます)。

ってことで、「ちゃんと標準化されたVoLTE」なら、非OTTのはず。です。で、今回の発表を見ると、まずは韓国LGU+に供給し、ついで米国MetroPCSにも提供する、となっているので、これはおそらく各キャリア独自のOTTではなく同じ標準に従ったVoLTE、つまり非OTTのVoLTEではないかなぁ、と思います。あくまで私の推測ではありますが。

ちなみに、3GPPでのVoLTEの仕様自体は相当前に固まっていて、2010年時点で端末への実装のガイドライン的なものもいろいろとできていたりするので、今年のこのくらいの時期に本物のVoLTE端末が出てきても全然不思議ではないです。どっちかと言うとインフラの対応の方がずっと遅れることが予想されていたので、LGU+やMetroPCSのような割と小規模でチャレンジングなキャリアが先行してようやくインフラ導入にこぎつけた、というような感じではないでしょうか。

ということで、簡単ですが私なりの所感を書かせていただきました。

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アイサットフォンと電波天文の干渉という問題について、結論として「電波望遠鏡の近くで使わないように」ということに落ち着いていますが、衛星って広く電波が降ってきているものなのに近くで使わないだけでOKなんですか、と言う質問をいただいていました。ちょっと回答が遅くなってしまいましたが、今日は簡単に。

アイサットフォンはインマルサットを使った電話サービスの一つ。なので、基本的に従来のインマルサットの周波数帯を使います。

で、もともとインマルサットは、地上局は固定や船舶がメイン、また、移動局でも指向性が高いアンテナを持ち、非常に限られた使用者しかいないようなものなので問題視されていませんでしたが、アイサットフォンのように指向性の低いアンテナで個人が自由に持ち歩けるようなタイプとなってしまうと、電波望遠鏡の近くでの干渉が問題になってきたのではないかと思われます。

ここで、なぜ「近くだけ」問題になるのか、と言うと、周波数配置がポイント。インマルサットの周波数は、地上→衛星の周波数バンドと衛星→地上の周波数バンドのうち、地上→衛星のバンドが電波天文学用バンドに非常に近いんです。逆に、衛星→地上は非常に広い範囲に強い電波をばらまくことになってしまうので、電波天文学用バンドから離れた方のバンドを使う様にした、と言うのが真相だったかもしれません(情報不明瞭)。

となると、地上→衛星バンドが電波天文学に干渉することになります。つまり、地上移動局が発する電波。もちろん地上移動局だって不要発射を十分に抑えるようにフィルターを持っていますが、それでも(電波天文学的には)結構大きなレベルの不要発射を出してしまいます。

電波望遠鏡は言ってみれば巨大なパラボラアンテナなんですが(なので古い衛星通信用アンテナを流用したりもする)、いくらパラボラと言っても、周辺からの漏れ込みをゼロにするということはできません。パラボラ面の横から受信素子に直接入っていくような電波もあるでしょうし、ななめ方向にも割と強いゲインを持つサイドローブを持っていたりもします。そういうところにアイサットフォン端末がいて、これが衛星に向かって電波を発射すると、電波望遠鏡にも影響を与えてしまうことになります。具体的には、背景ノイズレベルが上がってしまい、観測解像度が下がってしまうわけです。

ってことで、アイサットフォンは電波望遠鏡の近くで使っちゃだめですよ、ってことになります。日本で大きな電波天文台と言うと、まず何を置いても野辺山ですね。あと、確か山口と茨城に割と大きいやつ、岩手水沢+小笠原父島+鹿児島薩摩川内+石垣島のVLBIあたりが大きな観測所です。ってことで、この近くに行くときは、出来ればアイサットフォンは電源OFFでよろしく。

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ウィルコムのALL ITX化が済んだという情報。なんだか公式発表されないのが腑に落ちないのですが(NTTへの配慮とか?)、転送時の発信元電話番号が通知されるようになったことを確認できました。これで結構便利になります。

今、メインの回線はウィルコム定額プランGに誰とでも定額をつけてあるので、転送先をドコモのメイン回線にしても転送通話料はかかりません(のはず)。誰定でも通話料かかるようです。しょっく。まぁ、そこまで電話がかかってくることはないので誰定は外してしまった方が安くなるとは思うのですが、気分的な問題で。

で、少なくとも転送番号表示が可能になったということは、ALL ITXが完了したということのはず。というのは、ITX化局と非ITX局が混在すると、番号通知の際にインターフェースの不整合が起こってしまうので、そういう状況が起こりえない、ということが確定するまではサービスできないからです。

さて、ALL ITXが達成すると、ほかにも(潜在的に)できることがいろいろと出てきます。まず、ぶっちゃけMNPには相当近づきます。というか、070もMNPに参加しましょうという総務省のお達しはたぶんウィルコムからの申し入れで、それを実現する大前提は、1局の漏れもなくITX化することです(1局でも非ITX局があるとその局配下の通話は誤った通話先につながってしまう)。これができるようになることがおそらく直近の効果。

あとは私の妄想レベルの話になりますが、ライトメールとSMSの相互互換が可能になる可能性が出てきます。後は細かい点だと、現在はできない「発信中(呼び出し中)」のハンドオーバができるようになり、今までよりも移動中の発着呼に強くなるかもしれません。これができないのは、もう本当に単純にNTT交換機の機能制限のせいだと聞いたことがあるので。それと、PHSのPS-IDをたくさん持たせた端末でたくさんのセッションを同時に張る、なんてこともできるようになるかも(無線機は一台で)。要するに、音声とパケットの同時接続とか。

また、ITXからの光ファイバの足を直接貸し出すサービスも考えられます。というか、すでに自治体向けにそれに近いサービスをしていますが、すべてのPHS収容局舎がITX化しているということは、おそらく日本でも有数の広さのIP網を持っているということです。下手するとNTT東西のフレッツよりも広いところさえあるかも、くらいの話。NTT東西が変な品質規定のために光もADSLも足を出せないような田舎にも、光か銅線の足を出してIP系サービスを提供できるかもしれません。まぁユーザには直接恩恵はありませんが。

ってことで、ウィルコムのALL ITX化についての簡単なコメントでした。

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ちょっと前に、とある近郊の小さな駅に用事があっていくことがあったんです。その駅の出口からすぐ目の前には、小さな個人商店がたくさん並んだ商店街っぽい感じの道があるんです。大体、すべてのお店が、間口3m~5m程度の。

そこで見た驚くべき光景とは。

隣り合ったお店ことごとくに、ソフトバンクのWi-Fiステッカーが貼ってあるんですよ。駅に一番近い定食屋みたいなところから、その商店の並びの果てまで、全部のお店に「Wi-Fi使えます(犬)」のステッカーが貼ってあるんです。

さすがに全部のお店をチェックするわけにもいきませんが、原則として、あのステッカーって、Wi-Fi APを設置してあるお店に張るものですよね。なので、駅前から全部のお店に、まさにローラー作戦でWi-Fi APを設置して回ってるんです。だからこそ、「24万AP!圧倒的!」なんていう数を稼げるわけですけど。

さすがに背筋が凍りましたよ。無線のお仕事をしている身としては。

2000年代前半、企業へのWi-Fi導入が盛んだったころ、ネットワーク系の専門誌は一時期どこも「これからは構内Wi-Fiで低コストLANを」という論調一色だったんですが、その1~2年後から一斉に「企業を悩ます構内Wi-Fi」という話題があふれたんです。

その理由は言わずもがな、無線LANの干渉問題。少し前に、無線LAN、というかWi-Fi(802.11系)の干渉についての解説を書かせていただきましたが、Wi-Fiは基本的に自律的にタイミングをずらすことで電波が潰れることを防ぐ方式です。ただし、電波がつぶれない代わりに、他のAPや端末が出した電波をよけるために、それを避けるのに必要な時間以上を自発的に止めるということが必要になるため、他のAPや端末が増えれば増えるほど加速的に効率が悪くなる方式です。

このため、一つのフロアに複数台を設置したり、またその配下に多くの端末を収容したり、あるいは、近隣に多くの他社APがあるような場所では、無線LANの通信効率が非常識なほど落ちてしまい、たとえば、Wi-FiとVoIPを活用した構内電話システムを作ってはみたけれどほどなくまともに通話できなくなってしまった、などという問題を起こしています。このため企業では、AP同士の配置を綿密に設計し、さらに隠れ端末問題の排除のためにWi-Fiの電波を遮断するパーティションを設けるなど四苦八苦していたんです。

さて、ここで最初の話に戻ります。ソフトバンクのAPが、要するに、3m~5mというすごいせまい間隔で大量に設置されている、という話になるんです。隠れ端末云々なんて言うまでもなく、これだけの密度となると、ビーコン信号だけで大変なものです。しかもほとんどが木造に近い商店なので、遮蔽効果は低く、50m、100mほど電波が飛んでしまう可能性が高くなります。

さらに、どこかのAPの下に端末が一台入るだけで、その干渉影響範囲は最大で倍にまで増えます。端末も同じチャネルで電波を出すからです。しかもその電波がビーコンや他のパケット送信に影響を与え、それらがどこかで輻輳的な状態になると、しばらくの間、周辺は再送パケットや遅延ビーコンであふれかえることになります。もし一台のスマートフォンがWi-FiをONにしたままその商店街を通り抜けると、周辺の2.4Gはすさまじい汚染を受けることになります。

間違いなく、ローラー作戦を行った営業担当は無線の知識はゼロです。無線の技術的な知識がないだけでなく、ほんの数年前に一般に手に入るレベルの情報誌にも乗っていたような無線LANによる干渉の問題提起さえ目を通していないようなずぶの素人です。こういう人たちが、単に上から「とにかく数を稼げ」と命令されて片っ端からAPを置いている状況です。その結果が「圧倒的な24万AP」です。

そりゃね、ソフトバンクが、適していないかもしれないロケーションにアホみたいに携帯基地局を立てて「基地局数No.1」とか言ってその実、実際の品質はもちろん干渉で落ちている、なんていう状況なら、ソフトバンクユーザは宣伝のために品質落とされてかわいそうだな、っていう、対岸の火事で済んでいたんですけど、残念ながら、今のAP乱造だけは、そうじゃありません。みんなの共有帯域で運用されるWi-Fiを無計画にばらまいて莫大な干渉を日々増やし続けているんです。

無計画のバカ、というだけならかわいいものですが、残念ながら、今ソフトバンクがやっていることは、2.4Gに対するテロリズムです。宣伝のためのAP数稼ぎと引き換えに他人を巻き込んだ環境汚染を進めているんです。

私の家の近所にも、お互い結構距離の近い個人商店などに無計画にAPが設置されているところがあったりして、その魔の手が私の家の至近にまで迫らないか、冷や汗ものです。ただでさえ、私の家は近所の2.4G利用者が多くてかなりパフォーマンスが落ちているのに、ここでソフトバンクのAPばらまきまで加わっては、さすがにお手上げです。

もうこれは切実な問題として、ソフトバンク様にお願いしたいんです。どうか、無用なAPばらまきをやめてください。無駄に密度の高いAPを間引きしてください。AP同士は最低でも100m以上離すように、技術を持ったベンダを使ってきちんと設計してください。設置店舗から路上に漏れて隠れ端末問題を起こさないよう、店舗の電波遮蔽の対策をきちんと講じてください。ソフトバンク様が自分の責任帯域で勝手にやっている分は看過できましたが、みんなの帯域を使うWi-Fiでは、どうか、それを環境問題として考えてください。伏してお願い申し上げます。

補足記事

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PHS制御周波数移行に関する質問をいくつかいただいたので、まとめて。

まず、「周波数移行できる端末とできない端末があるのはなぜ?」というご質問から。

その前に、PHSの制御周波数移行とはなんぞや、ということを簡単に。PHSでは、事業者ごとに「制御用周波数」というのが割り当てられています。すべての端末はこの周波数を見てネットワークの有無や着信の有無を知り、発信時はこの周波数にある制御チャネルで自分用の通話チャネルをもらう、というような役割を持っています。つまりPHSシステムのすべてのスタート地点。これがないとPHSはシステムとして成立しません。

これが「移行」、つまり、どこか別の場所に行ってしまう、ということはどういうことか。詳しいいきさつは省きますが、PHS周波数は3Gの周波数とあまりに近いため、お互いが干渉波になるという困った関係があります。日本の電波行政の原則は「先行者保護」なんですが、そうはいっても、PHSの周波数のほんの一部のために3G用の周波数が5MHzも無駄になってしまうことはあまりにもったいない、ということで、PHS周波数の縮退が提案されました。そもそもPHSというのは、端末が制御チャネル上で割り当てられた周波数にアホみたいに合わせるだけのシステムなので、3Gに近い方を割り当てることを基地局側がやめてしまえば、事実上その周波数帯は縮退したものとみなせる便利なシステムなんです。

ところが、その「縮退させたい周波数域」の中に、制御周波数があったんですね。非常に面倒なことに。なので、長い時限措置を経て、その制御周波数を別のところに動かしてしまおう、と。その間に端末もおおむね一巡してしまうだろう、と。そういうわけで、2012年5月24日の制御周波数移行が決定されました。

その後出てきた端末は、新しい制御周波数に何らかの形で対応できるように作られているため、こういった端末は何らかの措置を施せば、インフラ側の移行の意思に従って何の問題もなく周波数移行を終えることができます。

で、これで一つ目の疑問が片付きました。つまり、「できない端末」というのは、その「周波数移行の決定が行われる前に開発されていた端末」です。もちろん、仕様検討段階から含めれば開発期間は結構長いですから、同じ時期に出たものでも対応できない端末が入り混じったりするみたいですね。ただ、基本的には2001年ごろ以降に出てきた端末は基本的に対応しているはずです。

さてここでもう一つ、「周波数移行はどういう仕組みで行うのですか」という質問が出てきます。今まで通りの制御周波数を、端末は普通にサーチしてしまう仕組みですから、ある日、「移行しまーす」と言って古い制御周波数を止めてしまうと端末は途方に暮れてしまいます。

これは又聞きレベルなので信憑性に期待しないでほしいのですが、その辺の仕組みの一つとして、あらかじめ端末に作りこんである仕組みがあったりするようです。簡単にいうと、起動時には新制御周波数に一旦チューンしてサーチし、見つからなかったら旧周波数での動作になる、という感じ。また、一度新周波数での起動と位置登録に成功したら、旧周波数動作を止めてしまう、というような仕掛けを施して、毎回サーチに時間がかかるような状況を防ぐこともやっていたりするようです。

あと、ちょっと正しくはわからないのですが、後述する推測がらみでいうと、「制御周波数が移行しますよ」という小さな信号を旧周波数に埋め込むようなこともするのではないかと考えられます。これを受けた端末は、旧周波数に位置登録したままの状態であっても、一度新周波数をサーチしにいく、というような動作をするものと考えられます。

こんな感じの仕組みを、結構早い時期から端末に作りこんで移行に備えていたようです。

さて最後に、「3月1日に使えなくなる端末と5月1日に使えなくなる端末など時期ズレがあるのはなぜ」というご質問。先ほどの推測にたどり着いた答えもここにあります。

まず推測結果を書いておくと、3月1日は、「新周波数で発射開始する日」、5月1日は「旧周波数の送信を停止する日」です。

加えて、3月1日から、旧周波数の報知情報チャネル上で、何らかの「新周波数に移行せよ」という信号が送信され始めます。通常、端末は電源をONにした時にしか制御周波数のサーチをしないため、放っておくといつまでも旧周波数をつかんだままです。それを防ぐために、端末に「新しいのがあるぞ」と教えてあげます。

しかし、PHSの標準規格にはこんな信号は定義されていません。おそらくウィルコムの独自信号となります。となると、標準規格通りに作った端末は、この信号を受けると、「報知情報データが壊れている」と判断して動作しなくなるでしょう。これが「3月1日から動作しなくなる端末」。これは、ファームのアップデートをかけることで件の信号を最低限無視し、出来れば内容を解釈して新周波数に移行する、というような対策を行います。

これに比べれば5月1日動作停止の端末は簡単ですね。単に、ファーム書き換えをしないと新周波数に移行できない端末。上で書いたような自動移行の仕組みを備えず、「その時が来ればソフト的に無理やり書き替えちゃえばいいや」というポリシーで作っちゃった端末です。もちろん、そもそも新周波数に対応できない古い端末も5月1日に停止します。

こんな感じで整理をすると、3月~5月の間に「電源を入れ直せ」という端末の存在もすっきりします。報知情報に含まれる「移行せよ」の意味は理解できないけど無視はできる、加えて、電源ONサーチ時には新周波数をサーチする機能も持っている、そういう半端に古い端末は「電源入れ直し」が必要。「一度でも通話すべし」という端末も、通話をして制御周波数に戻るときに、ついでに新周波数もサーチするように作ってあるようなものでしょうね。

ということで、PHS周波数移行に関する疑問あれこれでした。

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